34 旅立ち前の朝風景
――出発の朝は早い。あのまだ名も知らない山から日が少し指す頃に起こされた。
「起きなさいリリア。今日は早いんだから……」
「ん……」
まだ、眠い目を擦りながらゆっくりと起き上がる。そんなに朝は強く無いんです。
「はわぁ〜〜っ……」
大きくあくびをして、半目状態で瞬きを繰り返す。
「早く起きなさいっ! そんなんで王都で生活していけるの!!」
「は、はいいっ!!」
母親の怒鳴り声で意識は一気に覚醒。母は偉大なりとはよく言ったものだ。
ぱたぱたと手早く着替えを済ませ、短い間――たった二日、世話になった部屋を離れようとする。だが、不思議と寂しさが込み上げてきた。
「たった二日だったのにな……」
ずっとここで過ごしていたような感覚を覚える。身体が覚えているとでも言うのだろうか。ぽつりと呟くと部屋を後にした。
リビングへ行くとそこにはいつも通りに朝ご飯の準備を進める母親といつも以上にソワソワする父親の姿があった。チラチラと激しくこちらを見る父。
挙動不審過ぎる。これが本来の娘なら気持ち悪いっ! の一言二言あってもいいものだが、まぁ男親なんてこんなもんだろうと決め込んだ。
「ほらリリア、早く座りなさい。待たせる訳にはいかないんだから」
「はーい」
いつもの席へ座る。いつもと違うのは父親の行動だけでは無い。朝ご飯も少し豪華だ。
朝は軽く取るのがこの家でのルール。パンによるがジャムを塗りたり、具材を挟んだり軽く済ます。だが今日は、主食にはパンは変わらないが、ハムサラダに太めのソーセージ、暖かいスープもあった。
「今日はどうしたの?」
何となくわかりはするものの、一応聞いてみる。家族との会話を弾ませる意味でも。
「今日はリリアの旅立ちの日でしょ。力つけてもらう為に用意したのよ」
「そっか、ありがとう」
「…………」
母親は娘の旅立ちを応援する中、父親はやっぱり寂しさが抑えきれないようで、食事が進んでいないようだ。
ここは可愛い娘の出番だよな。
「パパ……」
心配そうな声で父親へ話しかける。それを火蓋に父親は涙腺が破裂。
「うおおぉぉーーんっ!! リリアあぁあ!! やっぱり行かないでぇーー!!」
「ちょっ……パパっ!」
ガタンと椅子から跳ね飛び、抱きついてこようとするが……、
「――ふんっ!」
その父親のお腹へ思いっきりグーパンチ。母親の容赦無いツッコミがクリーンヒット!
「ぐへえぇ……リ、リリアぁ……」
「あ…………」
思わず引いてしまう。可愛そうに。
「このバカはしっかり私が見ておくから、気にせず行っといで」
ニコッと楽しそうに笑う。
「あー……うん」
旅立ち前に中々壮絶な朝風景であった。




