01 こちらも多難な旅立ち
――私は大手を振って見送った。カーチェル劇団とリリア達の無事を祈って。
「……よし! 私も行くか」
心配しててもしょうがないと、ヘレンはリリアとの約束を守るために、集合場所へ向かう――。
――王城の広場前で、ハーメルトの騎士と魔術師団がざわざわと準備を進めている。
そこに合流したヘレンは、リリアとわかってもらうため、親しい関係にある今回の同行者、アルビオを探す。
「えっと……」
キョロキョロと人混みの中を探していると、騎士達から声をかけられる。
「これは黒炎の魔術師殿! 今回の任務、全力で当たらせて頂きます!」
「貴女にはいつもお世話になってますから、今回はお任せを!」
一気に囲まれたヘレンは、リリアだったらと考えふける。
「ありがとう、みんな。今回も頼りにさせてもらうね」
考えた結果、多少フランクな口調で話し、でも尊重を忘れない謙虚な感じが普段の彼女だと考察し対応。
特に怪しまれなかったが身動きが取れずにいると、その人混みに気付いたアルビオが現れる。
「あっ! リリアさん」
「あっ! 勇者……」
確か、呼び捨てだったよね。
「ア、アルビオ!」
リリアは割とすぐに呼び捨てで呼ぶ傾向があると思い出す。
自分の場合はお願いしたからだが、大体そうなのだろうかと疑問に抱く。
「見送りは済んだんですか?」
「うーん……下手に見送ると、ついて行きたくなっちゃうから……」
ヘレンは少し眉を顰めて語ると、アルビオも同様に表情を落とす。
「まあそうですよね。リュッカさん達にクルシアを任せるなんて……」
アルビオも内心では行きたい気持ちでいっぱいだが、西大陸の情勢が自分を受け入れないことは、ハイドラスより散々聞かされている。
その表情を見てヘレンは明るい笑顔を向ける。
「だから私達は私達のできることをしよ! ……テテュラを救うために!」
こっちも大事な使命があるんだよと、舵をこちらに向ける。
「そうだね。皆さん強いし、大丈夫ですよね」
不安は残るが信じようと少し元気が戻ったように感じる。
この人は、基本良い人なんだけど、自分の意見や行動が一歩出ない人なんだよねぇ。
勇者の末裔という肩書きに対し、控えめな性格だと分析する。
周りが言うにはこれでもかなり良くなったと言うが、ヘレンはもう少し男の子らしくいてもいいんじゃないかと考える。
すると、
「おい!」
ポンっとフィンが姿を現す。
「どうしたの?」
「アル。お前、勘違いしてるぞ」
「!!」
ヘレンはフィンが口を開いた瞬間、早速目論みが見破られる事態を察知する。
アルビオは精霊使いでもある。
属性を司る精霊は、人間である自分達と違って、道具や魔法を使わずとも属性を見破ることなど容易い。
というよりは精霊なのだ、誰がどんな属性持ちなのかは日常的に見ているはずだ。見破る以前の話。
「アルビオ!」
「!」
フィンを遮るように割り込み、アルビオに迫る。
「なんだかいつもいる人達がいないと変な感じだね」
意味深な言い方と上目遣いで、アルビオの冷静さを欠く作戦。
「え……」
変に意識したアルビオはボッと赤くなる。
「いや、えっと……そ、そうですね」
アドレナリンが効いて、汗が出てくる。
ヘレンの読み通り、女の子への免疫力があまりないアルビオにはこれだけでも効果が出た。
その隙に、フィンにウインクして合図を送ると、唇に人差し指を添えて、
「しぃー……」
アルビオに気付かれないように、黙っていてほしいと促すと、フィンは少し嫌そうな顔をしたが、
「へっ!」
わかったとそっぽを向いた。
「そ、そういえば僕が勘違いって?」
「さあな!」
鈍感だと言いたげな表情でフィンは消えていった。
「なんだったんだろ?」
「さ、さあね」
危なかったぁ。うっかりしてたよ。
他の顕現していなかった精霊達も、今ので察してくれればいいけど……。
「じゃあアライスさんのところに行こうか」
「あ、うん!」
疑うことなく、そう言ったアルビオに安堵すると、アライスのところへ向かった。
「――おおっ! リリア殿! アルビオ君!」
「今回はお世話になります、アライスさん」
アライス・ワヤリー氏。確か、カルディナさんのお父さんだったっけ?
ヘレンは密着取材の際に、リリアの交友関係は調べてある。だからカルディナとリリアに関する関係も無論調べてある。
「お久しぶりです、アライス様」
「ああ。久しぶりだな、リリア殿。しかし、そう固くなくていい」
ヘレンは、こんな隊長格の人にもフランクだったのかなと、疑問を抱くが、アライスは照れ臭そうな態度で、
「……前のようにおじ様で良いぞ」
変にその呼び方が心地良かっただけのようだ。
「前に会ったことが?」
「えっ!? あー……えっと……」
会ったことまでは知ってるけど、いつかまでは調べていなかったヘレンが言い澱む。
「なに! 以前、娘が我が家に招待したことがあってな。その時だ」
「あ、カルディナさんが?」
「そうだ」
アライスが我先にと言ってくれて良かったと安堵する。
ヘレンはこうしてリリアのフリをしていると、演劇のように他人を演じ、舞台で披露するのとは違う技量が必要なのだと痛感する。
どちらかと言えば、情報だろうか。
下手に引き受けちゃったけど、大丈夫かな? せめてリリアが西大陸に着くまではリリアで通したい。
「と、ところでおじ様が護衛を?」
「ああ、そうだ。天下の黒炎の魔術師殿からすれば、役不足やも知れぬがな」
「いえ! そんなことは。まだまだ若輩者ですから……」
「後はヴァートさん待ちですか?」
「うむ。今、部下に様子を見に行かせている」
ヴァート・ヤギュール氏。今回の旅の責任者であり、ハーメルト魔術師団、地属性の統率を行う人か。
他国民であるはずのヘレンですら、ヴァートの情報は結構入っている。
ヴァートは魔石の開発、採掘などは勿論、災害に対処できる地属性のオリジナル魔法の開発や詠唱の短縮など、若くしながらもこの国に数多くの功績を残している人。
リリアとヴァートは会ったことがなかったはずだと、ちょっと会うのを楽しみにしていると、深くフードを被り、騎士と一緒に歩いてくる魔術師が来た。
まるで連行でもされているかのように、俯いてやってきた。
「アライス隊長! ヴァート様をお連れしました!」
「あ、あの! その様付けはやめて! ぼ、僕なんか……全然なので……」
「お久しぶりです、ヴァートさん」
「や、やあ。久しぶりだね、アルビオ君。噂は聞いてるよ。リリアさんも……」
「あ、はい」
するとヴァートのテンションはどんどん落ちていく。
「どうしてこの面子で僕が責任者なんだ。年上のアライス様がすればいいじゃないか。殿下には散々言ったのに聞いちゃくれないし、いくらテテュラさんのことを一任されているとはいえ、こんな……。いやでも、しかし、こうして成果も挙げられず、北大陸に向かうしかない自分の責任を問い正すためか? それとも島流し? 僕は――」
わー……インテリ研究者さんでよくいる根暗さんだぁ。
ヘレンも北大陸の研究者の方を何人も見てきているため、このタイプかと苦笑いを浮かべる。
そんなぶつぶつとぼやくヴァートに、性格が正反対そうなアライスが強く背中を叩く。
「ようやく来られましたな! ヴァート殿!」
「――うぐっ!?」
「此度の任務は長旅になりますが、どうかよろしく!」
「ゲホッ、ケホッ……よ、よろしくお願いします」
そのやり取りを見て、二人を知るアルビオに耳打ちで尋ねる。
「お二人はこんな感じなの?」
「ええ。ヴァートさんはここ二、三年しか知りませんが、アライスさんは昔からあんな感じです」
ヘレンは職業柄上、よく人を観察する傾向がある。
アライスは礼節を重んじながらも、力強い貫禄で他を引っ張り抜く騎士道のようなものを感じるが、むさ苦しそうな顔立ちから、暑苦しい圧を感じる人もいるだろう。
ヴァートに対しては、あの若さに対し幅広い功績を上げながらも、自分に対する自己評価が低いことから、自己評価が上手く出来ない卑屈な人なのだと考える。
この二人の組み合わせは中々噛み合っていないと考えるヘレンであった。
責任者も到着したと言うことで、今回の任務の説明と、経路について話し始める。
――目的地は北大陸、地底都市アンバーガーデン。性格には第七区が目的地。
北大陸の地底都市は区域ごとに番号で都市部が分かれている。第七区は研究機関が入り組んだ区域で、ヘレンも足を運ぶことはほとんどない。
それでそこまでの道のりだが、タイオニア大森林を北西の方に抜けて、北大陸へ一番近い港町オルベルベルトへ向かう。
その後、魔船へと乗り込み、地底都市に向かうという予定。
「――えっと、魔船ってなんですか? 普通の船と違うのですか?」
「北大陸は常に吹雪に見舞われているところだから、それの対策が施された特別な船が必要なの。魔船に使われている材木は品種改良された魔法樹が使われていてね。寒さに強く、湿気にも強い。しかも魔法樹だから魔力の巡りもいいから、結界の効果も向上できるとその技術は……」
「く、詳しいですね、リリアさん……」
うんちくを語っている場合ではないと、ヘレンは思わず我に帰る。
「マ、ママやパパから聞いた話なの。ほら、うちのパパは採掘家だから色んなところに行くし、ママは元冒険者だから……」
「言われてみればそうですね」
一同は納得してくれた様子に安堵する。
中々心臓に悪い。
正直、罪悪感はあるが、リリアのことを思えば必要悪だと割り切る。
「まあですから危険なルートを通るわけではありませんから、今回はお二人とも、基本的にはテテュラさんと一緒にいてあげて下さい」
「そう! 護衛は我々が責任を持って行いますから、ご安心を!」
「はい……」
ヘレンからすれば助かることだ。
魔法を使えばさらりと正体がバレるわけだから、それを回避できるのは有り難い。
「その彼女は……?」
「今、馬車にいるよ。少し固定作業に時間がかかったが、まああれなら倒れることも落ちることもないだろう」
ヘレンとアルビオはテテュラの容体を知っている。
とてもじゃないが、人としての身体機能はほぼ失っている。
移動するにも寝たきりでの移動であり、扱いは人ではなく、割れ物扱いだ。
仕方ないとはいえ、少し鬱屈した気分になる。
「それではもう少し準備が整ったら、出発しましょう。お二人はテテュラさんの待つ馬車へ、僕と向かいましょうか?」
「あ、はい」
ヴァートの案内の元、テテュラの待つ馬車へと向かった。
用意された馬車は悪目立ちを避けた色合いの地味な移動用馬車。しかし、さすがは王家が用意しただけあってか、所々高そうな装飾は施されている。
「失礼します」
そんな馬車に乗り慣れたようにヴァートが先行して、馬車内に入ると、アルビオとヘレンも便乗して入る。
そこには、横長の椅子に寝転がっているテテュラの姿があった。
落ちないように、特別にしきりも用意されていた。
「テテュラさん、お加減はいかがですか?」
アルビオはそう言いながら向かえに座ると、ヘレンも隣へと座った。
テテュラの容体は、ヘレンが紹介された頃と変わらず、人肌の色はしていない。
「まあぼちぼちよ。特に変わったことはないわ」
「そうですか。では僕は準備の方に戻りますので、出発の時にまた声をかけます」
そう言うとヴァートは、馬車を降りた。
「貴女の魔石化の治療の手掛かり……見つかるといいですね」
「そうね。まあ見つからなくても、せいぜいこの国の為に、文字通り身を捧げるわ」
「そ、そんなの良くない!」
ヘレンはそんな自暴自棄な発言をするテテュラに注意する。
「冗談よ。でも、協力するのは本当。人の魔石化なんてそうそうある話じゃないんだから……」
それはヘレンも考えていた。
向こうの友達にも詳しい人間はいたが、人の魔石化なんて話は聞いたことがない。
北大陸の技術を持ってしても治療は難しいのではないかと考える。
「それより、ちゃんと見送ったの? リリア……」
「――! 勿論! あ、いや……ちょっとね」
テテュラは自分がリリアであるということは知っている。
アルビオに変な勘繰りを与えないための陽動と、リリアを見送ったかという質問だろう。
「貴方は行かなかったの?」
「う、うん。殿下が行くって言ってたし、それに……ちょっと怖くて……」
「……そんなに心配しなくても大丈夫よ。クルシアを倒せならともかく、魔石を奪えでしょ? あの男の性格を考えれば、下手すれば素直に渡してくれるかもよ」
「そ、それならいいんですが……」
それはあまりにも楽観的ではないかと二人は苦笑い。
「ここから長旅になるけど、大丈夫?」
「私は問題ないわ。疲労感が出ないから……」
「そ、そっか……」
寂しそうに俯くヘレンに、テテュラは少しため息を漏らす。
「でもまあ、話し相手は欲しいから、側にいてね」
「――! うん!」
アルビオはそんな彼女の様子を見て、少し違和感を感じた。
「リリアさん。やはり心配ですか?」
「え?」
「いや、いつもならもう少し余裕があるかなぁって……」
「あ、あー……うん。そうかも」
ヘレンが思う心配事は山ほどある。
テテュラのこともそうだし、西大陸へ行った彼女達もそうだ。
特にリリアに関しては闇属性であるが故に、万が一があり得る。
もし、自分がしっかり止めていればなんて話にはなりたくない。
でも、リリアは自分の意志で行きたいと言って、自分が背中を押した以上、落ち込んでいるようじゃダメだと考える。
「確かに心配だけど、思って落ち込んで解決するものでもないし、こっちはテテュラを元に戻すって勢いで頑張ろぉーっ!」
「お、おー……?」
すると馬車のノックがなり、どうぞと声をかけると、ハイドラスが入ってきた。
「失礼するよ」
「で、殿下!?」
「殿下。見送りに来てくれたんですね」
「ああ、まあな。お前は向こうの見送りはよかったのか?」
「ええ、まあはい。変に見送るとついて行きたくなりそうで……」
「まあ確かに。リリアさんならやっぱり行くとか言って、強引にでも行きそうです。懸命な判断かと」
ハーディス君だっけ? ごめんね、もう既に強引に行っちゃったよ。
でも殿下がこちらに来たってことはリリア、アリミアに向かったのか。
内心ハラハラしながらのハイドラス達との会話は続く。
「テテュラもすまなかったな。こちらの技術に限界があったようで……」
「構いません、殿下。元より死ぬはずだった身。存分にお調べ下さい」
「……ウィルク、そういう意味じゃないですよ」
鼻の下を伸ばしたウィルクには幻滅。
動けないテテュラ相手に何を思ったかは、想像に硬くない。
「ではこちらもそろそろなのだろう? 長居してもしょうがない。ここで失礼するよ」
「はい、殿下。テテュラさんのこと、任せて下さい」
「そんなに気負わなくても大丈夫だ。騎士一個小隊にヴァート率いる先鋭揃いの魔術師団御一行との遠征だ。行く道もテテュラへの負担を考え、安全な道を行かせるよう指示してある」
「は、はい」
「まあそれでも男だもんな、アルビオ。二人を頼んだぞ。特に……」
キッとこちらを向いた。
「オルヴェールは何をしでかすかわからん。目を光らせておいてくれよ」
「そんな心配しなくてもいいですよ、殿下」
うーん……もう既にしでかしてるんだよなぁ。
罪悪感が募るばかりのヘレンだが、今しばらくの辛抱だと考える。
そう忠告をしながら、ハイドラスは馬車を降りる。
「殿下!」
「ではヴァート、アライス。長期の任務となるが、頑張ってくれ」
「「はっ!」」
ハイドラスは部下に声をかけると、その場を後にした。
それをちょっと覗き見てたヘレンは、思わず感心する。
「ほえー……」
歳は全然変わらないはずなのに、堂々たる気品を感じる振る舞いでありながら、決して気取ったものではなく、親しみやすさも感じる雰囲気に改めて感心を覚えた。
「どうされました? リリア殿」
「いや、立派な王子様だなぁと思って……」
「そうだな。あのような殿下だからこそ、お仕えするのだ」
まるで父親であるかのような視線でこちらを後にするハイドラス達を見送る。
アライスも幼少の頃から見ているせいか、感情がこもる。
「で、では向かいましょうか?」
これから私達は北大陸へと向かう。
ヘレンにとっては懐かしい故郷への帰郷だが、目的を考えると中々複雑だがヘレン自身、力になりたいと漠然とは考えている。
テテュラの状態は誰が見ても異質にして異妙。
ヘレン自身も初対面では驚かされた。人をこんな風に変えてしまえる技術があるのだと。
「アルビオ……手掛かりでもいい。必ず成果を持って帰ろう」
「……はい!」
そう決意を新たにし、馬車の中へ戻った。
***
騎士達が今回の長旅用の荷物のチェックを行なっていた最中のお話。
「今回は護衛の任務。しかもあのリリアちゃんと一緒だ。有り難いねぇ」
「これは任務なのよ! 鼻の下なんて伸ばしてる暇なんてないの!」
「ま、まあまあ何事もモチベーションは大切だよ」
そんな雑談を交えながら荷物を積んでいると、その荷物の山を見てふと疑問に感じた。
「どうした?」
「いや、気のせいかな? 予定よりも多い気がする」
魔術師団の一人が頭をペンでポリポリとかきながら、リストと既に積み終えた荷物に対し、交互に見て確認を取るが、わからなくなってきた。
「……」
「全部出します?」
「いえ、一応チェックは入れてあるので、ちゃんと必要な物はあるはずです」
魔術師の男性は女性騎士にリストを見せると、納得した。
「では次の準備に取り掛かりましょうか」
荷馬車のマントは閉じられ、荷馬車内は薄暗くなる中、一つの荷物がガタゴトと動き出す。
「いやぁ、助かりましたねぇ。お陰で潜入成功です」
「で、でも大丈夫なの? こんなことして……」
「いいの! ミルアはいい子ちゃん過ぎるんだから。ね? シド」
「……」
「シド?」
シドニエは密閉された箱の中に四人、ぎゅうぎゅう詰め状態で自分以外は女の子。
甘ったるい匂いが充満し、とてもじゃないが正常な状態ではいられないシドニエは真っ赤になり、できる限り丸くなる。
「ははーん。私達に当てられたな?」
「まあそれは仕方ないです。私達は魅力的なレディですから……」
「そう……だね」
「うん……」
「――何ですか!? その間の抜けた返事は!?」
幼児体型のルイスのセリフじゃないと言いたげな生返事をすると、機嫌を損ねたルイスは外へ出ようと木箱を上に押すが、
「あ、あれ?」
「どうかした?」
「お、重いです」
「は? もしかして……」
「上に荷物を置かれたんじゃ……」
三人がかりで押すもびくともしない。
「ちょっとシド! 手伝って!」
「えっ!? あ、うん」
シドニエも力を貸すも、狭い木箱の中では上手く体勢が取れず力が入らないし、こんなに密集しているのだ、変に緊張して余計に力が入らない。
「このままじゃマズイですよ。予定ではやり過ごしたら、とりあえずここから出て荷物の影に隠れ、リリアさんとアルビオさんのデートを邪魔しようって作戦だったのに〜っ!!」
「面白そうだったのに〜」
「付いて来なきゃ良かった……」
「僕も……」
「と、とにかく脱出を考えましょう。このままでは暑さと空気の薄さでどうにかなってしまいます」
ドンドンと木箱を叩くも荷物が密集しているせいか、音の振動が殺される。
そのことから叫ぶのも無理だと考えた。
「よし、じゃあ破壊する?」
「そ、それはダメだよ、ユファ。周りにある荷物次第じゃ大怪我するよ」
そう、ここは荷物をまとめて置くと決めた荷馬車の中。
荷物は何も食料だけではない。
野営の準備の道具や魔物を避けるための道具。日常的に使用する魔石など、可燃物も含まれる。
下手な刺激は与えられない。
「もう! 何でマジックボックスを使わないかなぁ?」
「高価だからでしょ? それに騎士達の管理能力を上げるものでもあるんじゃないかな?」
「どうでもいいわよ、そんなの。はあ……」
「――誰か助けて下さーい!!」
自分達で潜入しておきながら、脱出が出来なくなった彼女らは懇願しながら反省するのだった。




