30 普通の幼馴染みのはずだった
朝の日差しに誘われて、慣れないベッドの上からふと目を覚ます。
「ん〜〜……」
両手を上げて背筋を伸ばしていると、コンコンとノックがされる。扉の向こうから丁寧な男性の声が聞こえてくる。
「失礼致します。リリア・オルヴェール殿、起床されておられるでしょうか?」
「あーあ、はい」
堅苦しい質問に思わず、動揺気味に返答すると、
「閣下との面談が御座います。支度が整い次第、お迎えに上がります。支度の準備に使用人をお呼びしましょう」
「――ああっ!! いい! いい! 要らないから……」
――あの事件から一週間が過ぎた。
ここはナジルスタ大統領閣下の計らいで、情報漏れを起こさないよう、厳重な警備の元、ナジルスタでも最高級の宿を手配してもらっていた。
ここはその一室のベッドの上。
身体を心地良く沈めるベッドに、そっと優しく撫で添えるような軽やかな毛布と掛け布団。
本来なら寝心地最高なのだが、案内された当初は、明らかな高級品臭が漂ってか変な緊張感の元、あまり眠れなかったことを覚えている。
結局、俺達の怪我は酷いもので、ようやく万全に近い状態まで回復した。
手早く支度を済ませると、俺は皆が集まっているであろう、ロビーへと向かう。
「おはよー」
「あっ! おはよう、リリィ」
「おはよう、リリアちゃん」
なんだかやっと安心して朝の挨拶をしたような気がする。
こういう日常風景が懐かしい。この場所はさすがにあの寮とは別次元だが。
俺は最近の日課のネネの健康診断を受ける。
「――はい。魔力回路にも異常はほとんど見られません。怪我も痛くないですか?」
「もう大丈夫だって言ってるよ」
「それでもです!」
責任を持って治療するのが、私の仕事だとフスフスと鼻息荒く話す。
「アリアの様子は?」
「は、はい! 大丈夫です!」
おっとりとお辞儀をするアリアの瞳は、俺が変装用につけていたコンタクトをあげた。
アリアの状態はとりあえず近くにギルヴァがいれば、正常でいられる状態であり、眼の色は半魔物化の影響か、魔物のような真っ赤な色をしていた。
かなり不安定な状態ではあるが、これだけみんなが見ているのだ、たとえ問題が起きても収束は難しくないだろう。
すると男性陣も起きてきたようで、眠そうな顔をで起きてくる。
「おはよぅ……はあ〜」
「もう! だらしないですよ。シャンとして下さい。今日は大統領様とお話でしょ?」
大統領閣下との面談の日なのだが、ある程度の話はミナールとテルミナが進めていて、大方の事情の説明も終えている。
公的な呼び出しではないので、個人的に頼みたいこととかあるのだろう。
すると、高級感漂う扉が勢いよく開く。
「おらぁーっ! 起きてるか? 野郎共っ! アタシが直々に迎えに来たぞぉーっ!」
「ぞー」
元気いっぱいのリンスと遊びに来た感覚でこちらを覗くヒューイの姿があった。
その扉の開け方にスタッフは――リンス様、おやめ下さいとへこへこした態度で言うが無視。
「朝なんだから、もう少し静かにしようよ。客は私達だけじゃないんだよ」
「悪かったな。だがまあいいじゃないか!」
良かないよ。注目の的だよ。
「申し訳ないっスね〜」
「まったくだ! ヒューイ様のようにおしとやかであるべきだろう!」
「いや、割とヒューイ様もやんちゃっスよ?」
「なっ!? 貴様、何と言ったか!!」
すっかり俺達とも打ち解けてくれたようで有り難いが、
「とりあえず迷惑になるから落ち着こうか?」
圧を込めた満面の笑みを向けると、一気に静かになった。
「それで? 何でわざわざ二人が? 今忙しいんでしょ?」
「忙しいのはミナールとメルと、ナジルスタの騎士隊とか重役連中だ。アタシ達はその辺、わっかんねぇし……」
確かにリンスとヒューイに至っては、まだ十五未満だったか。
この二人こそお飾りのリーダーだよ。
「公表されちゃいないっスが、五星教の幹部が二人もあの状態じゃ事実上、壊滅みたいなもんっスからね。戦闘力だけではどうにも……」
「うっせぇ!」
「あだっス!?」
「それでも一応、一緒なんだな」
「お目付役っスよ。役得ってヤツ?」
下手に面倒な仕事をせずに済み、挙句、美少女と戯れてればいいって話だ。
まあ役得だろう。
そんな話もそろそろに、ギルヴァは心配そうに尋ねる。
「メルの様子はどうなんだ?」
リンスは訊くなよみたいな拗ねた表情をする。
「仕事はこなしちゃいるが、ありゃダメだ。目が死んでる」
あの後、俺達はメルトアの姿を見ていない。
テルミナがたまにこちらの様子を見に来るついでに、状態を話してくれるが、生気を感じないようだと話している。
「無理もねえさ。アタシ達にも否はあるが、リアンの首を斬ったのはメルだ。相当応えてるぜ」
「挙句、その元凶はトンズラ」
「あのガキィ……」
この二人も最近までは塞ぎ込んでいたというが、この様子なら大丈夫だろう。
しかし、思っている以上にメルトアの心の傷は深いようだ。
「あのよ、ギルヴァ」
「なんだ?」
「お前達の関係ってどんなだよ?」
ギルヴァは隣にいるアリアと見合わせて、少し呆れたように笑った。
「どんなって、前にも言った通りだ。特別珍しい関係でもない。どこにでもいるような幼馴染みの関係だったよ」
「それがわっかんねぇって言ってんだよ!」
ヒューイもリンスの意見には、コクコクと同意。
幼馴染みって言えば、ある程度は伝わるだろうにと皆が思っていたのだが、
「すんませんっス。お二人も幼くして五星教にいましたので、そう言った友人関係はあまり……」
「ああっ! ヒューイ様っ! おいたわしい!!」
「そ、そうか……」
キョトンとする二人だが、存外この二人も中々過酷な人生を歩まれたようで、ギルヴァは驚きながらも気の毒だと言う。
ならばと大統領閣下と会う時間まであるのでと、語り始める。
「今の君らと同じ関係と言えば分かりやすいだろう。子供の頃なんかは特にそうさ。親同士が知り合いとか、広場でたまたま一緒に遊んで楽しかったから、また遊んだとか……子供の人間関係なんてそんなものだろ?」
そうして馴染んでいくうちに、一緒にいることが当たり前になっていく。
そういうのを微笑ましい関係を幼馴染みと言うのだろう。
***
ギルヴァとアリアは元々お隣同士、交流があった。
噴水広場や公園などでよく一緒に遊んでいたのだが、ラルクやメルトアとはそこで一緒に遊ぶ機会があって仲良くなったのだという。
ラルクは自分の言いたいことを口にできない性格は変わらず、ギルヴァから声をかけ、逆にメルトアは今の性格とは全く違い、積極性のある明るい性格だったため、一緒に遊んだという。
そんな楽しそうに駆け回る子供達を、大人が遠巻きに見ていたらこう思うだろう――仲のいい子達だなぁと。
それが誰もが想像できるような光景であろう。
それが当たり前で、当然で……いつまでもこんな楽しく過ごしていけると思うものだろう。
ましてや物心がつき始める頃合いであれば、一緒に笑い合って遊ぶ友達というのは、嬉しいものだ。
小さい子供達は周りの影響に敏感であり、関心深く、そういったところから刺激を受けて、豊かな心が育まれるというもの。
だが、この無邪気に遊ぶ少年達に、あまりにも深く、残酷な現実が胸を貫き、耐え難い刺激を与えられることになる。
それは正に無慈悲なものであった。
その刃が最初に突き刺したのはメルトア。
『血染めの噴水』により、両親と兄を目の前で切断された状態で死亡。
その光景は彼女にとって、あまりにも現実とかけ離れたものだった。
だが非情にもそれを殺ったクルシアの笑みが、その現実を色濃いものへと染めていく。
その事件が起きて以降、メルトアが姿を見せることはなく、両親からは二度と噴水広場には行くなと口酸っぱく言われた。
そしてこのメルトアの不幸な悲劇を皮切りに、歯車が狂い始める。
――一年後、ギルヴァ達が恩恵の儀……こちらでは処刑日を迎える日。
「今年はここでやるの? 父さん」
「ああ……」
ギルヴァが父の手に引かれて連れて来られたのは、パルマナニタにある美術館前広場。
本来であれば、水の精霊の加護がありますようにという意味合いを込めて、噴水広場で行われるのが習わしなのだが、当時まだ事情を知らないギルヴァは首を傾げるだけだった。
そんな疑問はあったが、そんなことより気にかかっているのは、やはり友人達。
特にメルトアとは一年会っていない。
さすがにこの日は来るだろうと必死に辺りをキョロキョロと見渡す。
そんな何も知らずに無邪気な様子で辺りを見るギルヴァに、父は内心、不安でいっぱいであった。
この大陸に限った話ではないが、恩恵の儀を受ける前に属性を知ろうとする傾向がある。
貴族が特にその傾向がある。
家柄が自分の属性の歴史を継いでいるかと、家督に相応しい跡取りの選別など、属性という束縛は何も、西大陸の闇属性だけに限った話ではない。
だが勿論、西大陸でも我が子が闇属性ではないだろうかと調べたりする。
魔法を使わせてみたり、魔道具で調べてみたりなど、様々なやり方で知ろうとする反面、もしそうであったらと怖がって結局、当日を迎えるものも多い。
この父は後者ではあったが、妻が必死にギルヴァに魔法を使うよう言っていた。
一年前のあの事件から神経質になる親は少なからずいた。ギルヴァの母もその一人。
だがギルヴァほどの歳の人間に魔法を使うことなど、本来なら非常に稀なケース。
クルシアやリリアみたいな才覚を持つものならまだしも、一般的には七歳の少年少女が魔法を使えるということはない。
だが妻は、魔法が使えないイコール闇属性ではないかと考えたのだ。
闇属性の魔法技術はこの大陸にはほとんど精通していない。他属性の技術なら教え込んでいた母は使えないのなら闇属性だろうと思い込んだのだ。
父は焦燥感に駆られた妻から、ある一言を訊いている。
『もし、闇属性であれば……あの子はうちの子じゃないわ』
この時、父は悲しい気持ちになった。
この大陸に住んでいる限り、そんなセリフはよく訊く話だが、こう家族としてその言葉を投げつけられると、親としてあまりにも悲しく、寂しい気持ちになった。
そんな言葉を簡単に吐き出せるほど、ギルヴァは簡単な命なのかと。
腹を痛め、苦しい思いをして必死に産んだ子に願うことかよと。
父は落ち着かない様子のギルヴァの目線に合わせるように腰を落とすと、しっかりと自分を見るようにと促す。
「いいか、ギルヴァ。この国で闇属性がどれだけ嫌われているか、知ってるな?」
「ん? うん。人形使いがどうとかだろ? しつこいほど訊いたよ! 特に母さんから!」
耳にタコができるほど訊いたよと、ムッとした表情でごねるが、父はいいから訊きなさいと真剣な眼差しで語る。
「お前は今日、その審判が降る。俺も母さんもお前は闇属性持ちではないと信じている。だが、たとえお前がそう審判されても……俺は、俺だけはお前の味方でいてやるからな」
ギルヴァからすればまだ言葉の意図が難しく、小首を傾げるが、父の真剣な表情に大きく頷いた。
「おう! オレだって父さんの味方だぞ! 母さんもな!」
「ああ……そうだな」
「ギルーっ」
すると向こうから、アリアとラルクが姿を確認すると、ギルヴァは一目散に父を後にした。
「信じてるぞ……」
だがこの後、父の願いを神が叶えることはなかった――。
「遅いぞ。お前達」
「ご、ごめん。ママが行くのが怖いって……」
「ぼ、僕は緊張しちゃって……」
ギルヴァがむくれて遅れた理由を尋ねると、こう返答が返ってきた。
「何が怖いんだよ。意味わかんないって」
「だ、だって万が一、闇属性だって言われたら……」
「こ、殺されるんだよ」
「そんなことないって。闇属性になるなんて、そうそうないんだろ?」
「そ、そうだけど――」
「そんなことよりさ、メルだよ! メル! どっかにいないか、探そうぜ」
まだ時間はあるし、今日は属性の審判が降れば、魔法も解禁される。
ギルヴァの気持ちは、二人が抱える不安よりも昂る気持ちの方が強かった。
というより、闇属性に目覚めるのは元々レアケース。
自分に起こるわけがないと、どこかでタカを括っていたのだ。
「言ったよね? メルとはもう会えないって……」
「何でだって訊いても何にも答えてねぇのに、信用できるか!? きっと居るはず――」
「来ないって言ってるだろっ!!」
ラルクが珍しく声を張り上げたと驚く二人。
「な、何だよ、そんな怒鳴らなくたって……」
その怒鳴ったラルクは今にも泣き出しそうな表情に、ギルヴァはオロオロ。
「おいおい、悪かったよ。……でもさ、理由くらい話してくれよ。引越したのか? それとも父さんか母さんが病気なのか?」
「……」
当時のギルヴァもアリアも、メルトアに何があったのかは聞かされていない。
当然だろう。七歳の少女が目の前で家族を殺されたなんて話を大人は口が裂けても言えない。
だがラルクは知っていた。
あの事件の時、遠くから噴水広場での騒ぎを観ていたからだ。
その時、見覚えのある少女がいつまでも枯れ果てない涙を流していたのが、胸に突き刺さったままだ。
親から口止めされているし、自分自身、どう口にすればいいかもわからず、黙るしかなかったのだ。
「……わかった! わかったよ。もう訊かない! ったく……」
「でも、やっぱり変だよね? お家に行ってもおばあちゃんが出てくるから、てっきり……」
ギルヴァとアリアもしばらくはメルトアの家へと足を運んだが、いつもおばあちゃんが出てきては、ごめんよと断られるばかりだった。
「だよな。ま、そのうちひょっこり出てくるだろ。な?」
「……だと……いいな」
「んだよ、その返事。ラルク、お前がメルのことが好きなの知ってんだからな!」
「なっ!? べ、別にそんなんじゃないよ!?」
元気に騒ぎ立てる二人を見て、思わずアリアも笑みが溢れる。
「大丈夫だよ。私達がこうして待っていれば、寂しくなって出てくるよ」
「お、良いこと言うな、アリア。おばあちゃんの話だと、中にはいるみたいだし、そのうち出てくるか」
そんなメルトアを信じる二人を見て、子供ながら罪悪感を覚える。
この二人はまた前のように、四人で遊べる日が来るのだと、確信を持って話す光景。
ラルクにとっても心を塞ぐには、十分な出来事であった。
「――それではこれより恩恵の儀を執り行う。名を呼ばれたものから前へ」
高圧的で業務的な話し方をするローブの女性の声が広場をピリッとした空気へと持ち込む。
ギルヴァも始まったと、父の元へと帰る。
そして――、
「――次、ギルヴァ・ヴェルマーク!」
「父さん!」
「あ、ああ……」
本人より父の方が緊張している。ギルヴァはボスンと軽く体当たり。
「何で、父さんの方が緊張してるんだよ。ほら行こうぜ」
「そうだな……」
ギルヴァと父は祭壇へと上り、ギルヴァは水晶の前へ。
「それではギルヴァ・ヴェルマーク。その水晶に念を送るようになさい」
「は、はい!」
子供に魔力を注げと説明してもわからないのでこの言い方で統一されている。
ギルヴァは言われた通り、手から水晶へ念を送るように、ムムムッと強く目を瞑っていると、ザワザワと辺りが騒がしくなっていく。
何だとふと目を開けると、目の前の水晶が真っ黒に染まっていた。
「は?」
今までの子供達では無かった色に思わず驚くと、父の方へと振り返る。
すると、自分以上に驚愕し、固まっている父の姿があった。
こんな父を見たのは初めてだと、胸の中が騒つく。
「――ギルヴァ・ヴェルマーク!!」
「は、はい!?」
大きく怒鳴ったのは、進行を務めている魔術師。
「こちらへ来なさい」
先程よりも敵意を向けた言い方に、不安と恐怖に駆られるギルヴァ。
辺りを見渡しても、まるで自分を魔物か何かだと見ているような冷めた嫌悪感のある視線を感じる。
「あ、ああ……」
「ギルヴァ・ヴェルマーク!! 来なさい!!」
「――父さん!?」
「あ、ああっ!!」
父は息子の助けを求める叫びにハッとなり、我に帰ると、息子を抱きかかえて走り去った。
「お、追いなさい!!」
勿論、これを許すはずもなく、魔術師や衛兵達も動く。
「と、父さん……」
「とにかく逃げるぞ!」
父はそう言うと自宅まで駆け込んだ――。
――バンッと勢いよく扉が開くと、ギルヴァの母は驚く。
「ちょっと何事?」
出て行った時とは、まるで別人のように血相を変えている二人に、
「まるで逃げ帰ってきたみたいじゃ……ない」
そう。その様子に母は察した。
「あなた……まさかギルヴァは!?」
「いいか!? お前は知らないし、見ていない! それでいいから見逃してくれ! 俺は……ギルヴァを殺すだなんて……」
そんな涙を流し、悲観する父を横目にギルヴァを睨む。
昨日まではちょっと煩いけど優しい母親の姿が、恐ろしいものに見えた。
「か、母さん……?」
「ギルヴァ……貴方、水晶はどんな色だったの?」
「おい! やめろ!」
ギルヴァはすっかり別人に見える母に恐怖し、後ずさる。
「どんな色だったかって、訊いてるのよーっ!!!!」
「や、やめ――」
父は酷く興奮した母に殴り飛ばされ、母はギルヴァに掴みかかる。
「ねえ? 黒かったんじゃない? ねえっ!!!!」
「や、やめてよ、母さん……」
「やめろっ!!」
ギルヴァを乱暴に扱う母を父は飛びかかって止めると、取っ組み合いになる。
「と、父さん……」
「逃げろ、ギルヴァ! 父さんも後で必ず行く! だから……があっ!?」
父は腹を思いっきり蹴られると、その場でうずくまる。
そして――、
「か、母さん……やめて。やめてくれよっ!!」
母の手に握られているのは、いつも料理に使っている包丁。
「貴方はうちの子じゃないわ。貴方さえ生まれなければ……この人と幸せに暮らせたはずなのにっ!!」
その勢いにギルヴァは腰を抜かし、その場に尻をつくとその隙を母は狙い、包丁を振り下ろす。
ギルヴァは思わずギュッと目を閉じる。
「あ……ああっ!?」
母から悲痛な声が聞こえる。
すると目の前には、
「父さん……? 父さんっ!?」
背中を刺された父の姿があった。
体重をかけて刺しに行こうとした包丁は、父に致命傷を与えると判断するのには難しくなかった。
「あ、あなた……何故?」
「お、お前こそ……いい加減にしろ。……ギルヴァは……闇属性だろうと、息子だぁ……」
「父さん!?」
「――お前は行けっ!!」
父の怒鳴り声に思わず畏縮する。
「母さんも父さんも少し具合が悪いみたいだから……早く、行け。そして無事に……生きるんだぞ」
「父さん……っ!」
自宅の窓から衛兵達の姿が見えた。
ギルヴァは少し迷ったが、父の約束を守ることを決めた。
「わかったよ、父さん。父さんも……元気で……」
いくら七歳の少年とはいえ、父の今の姿を見て、無事であると楽観した考えは持てなかった。
目の前の悲劇に涙が溢れそうになると、
「ああ……」
父はギルヴァの未来を支えるように、微笑みグットサインを送った。
ギルヴァも無理やり笑顔を取って、グットサインを送り、別れを告げ、外の衛兵に気付かれないように家を出た――。
「はあ、はあ、はあ……」
ギルヴァは必死に走る。今起きている現実を少しずつ実感しながら。
少し前まではこんなことになるなんて、思ってもみなかった。
属性を診断を受けた後、魔法を使い、父と母に今日の出来事を楽しく話し合う……そんな情景が自然と浮かんでいたのだが、その幻想は現実が壊しにやってくる。
通りの向こうから、こちらも必死に自分を探している声が聴こえてくると、危機感が募るばかり。
「何で……こんな……」
弱音を吐こうとすると、
「居たぞっ!!」
「!?」
ギルヴァに傷心に浸る時間は与えられない。
出入り口も衛兵や魔術師によって封鎖されており、逃げ道がない中、ある建物が目に入った。
その来た覚えがある建物の扉を激しくノックする。
「おい、ばあちゃん! 開けてくれ!」
その危機迫るノックに、ハイハイと返事をしながら扉が開いた。
すると、ギルヴァはヒュッと中へ入ると、すぐさま扉を閉めて鍵をかけた。
「ど、どうしたんだい? ギルヴァ君だったかねぇ?」
「お、おう、ばあちゃん。悪いな」
駆け込んだのは、メルトアの家。
だが、ここで更なる悲劇が幕を開ける。




