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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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22 奴隷商発見

 

「あ、お帰り」


「たっだいまぁーっ!」


 夜遅くに元気いっぱいで帰ってきたアイシアは満足げな笑顔をしているが、他のお客さんに迷惑になるからやめよう。


「いやー楽しかったぁ」


「ん? 目的は?」


「えっと……それがね。見つからなかったの」


「なのにどうしてそんな楽しそうだったの? まさかサボり?」


「まさか! ちょっとカジノとやらで情報――」


「「遊んでたんじゃない!」」

「遊んでたんじゃないか!」


 俺達、闇属性組みは一斉にツッコミ。


 こちとら、まるで刑事ドラマみたいにずっと店に張り込みして、そのデータを宿屋に帰ってきた早々、一生懸命処理していたというのに。


 するとユネイルが、まあまあと俺達を(さと)す。


「た、確かにカルディナちゃん達とは遭遇しなかったが、タダで帰ってきてないぜ」


「あのね。そういう問題じゃ――」


「これを見ろ!」


 そうズバッと差し出したのは、パンパンに膨らんだ茶色の袋を見せつける。


 カジノに行って上機嫌で帰ってきたとくれば、大体の想像はつく。


 ガシャンとわざと中身がわかるように机に置くと、その袋の入り口から大量の金貨が顔を覗かせる。


「大勝ちしてきたの?」


「そうなんだよ〜」


「でもユネイルが稼いだようには見えないな」


 そう言うギルヴァはちらりとアイシアを見る。


 そりゃそうだ。楽しそうに帰ってきた本人が一番稼いだと考えるのが自然だ。


 それにアイシアが運がいいのは知ってる。


「はいはい、アイシアがガッポリ稼いできたんでしょ?」


「うん! あの回るやつ、楽しかったよ! コインを置いたところに必ず入るんだもん」


 ルーレットのことかな?


「と、とんでもない強運……」


 カミュラやギルヴァもドン引きの神引き。知ってるはずの俺ですらちょっと引いてる。


「けど私だけじゃないよ」


 そう言って振り向くと、リュッカが恥ずかしそうにモジモジしている。


「えっ!?」


 思わず闇属性組み(おれたち)はアイシアと同様の勝ち方をしてきたのかと引くが、違うと強く否定する。


「わ、私はカードでね」


「カード?」


「うん。リュッカ、カードゲームは強いからね」


 そんなの初耳と首を傾げると、おずおずと気恥ずかしそうに答える。


「じ、実は冒険者の方と暇つぶしに相手をしてた時があってね。その時に覚えたの」


「へー……」


「どういうこと?」


「リュッカの実家は解体屋でね。そこに来てた冒険者達の時間潰しに付き合わされたってことかな?」


「うん、そういうこと」


 解体する量によっては店内で待っている客もいるだろう。


 実際、リュッカ達の村は言っちゃ悪いが何もない。


 この世界にも軽い娯楽くらいはあったし、時間潰しにゲームをやるというのは、まあある話だろう。


「そしたらいつの間にか負けなくなっちゃって……」


 負けなくなったという言葉は初めて聞いたかも……。


「そりゃあもうリュッカちゃん、めちゃくちゃ強かったんだぜ! ディーラーも真っ青さ!」


「アイシアさんのルーレットも凄かったですが、リュッカさんのカード捌きも凄かったですよ」


 アイシアはともかく、リュッカにまさかそんな才能があるとは。


 解体屋が上手くいかなくなったら、ギャンブラーでも勧めてみるか。


「その様子だと二人は早々に切り上げたみたいね」


「「――うぐっ!」」


「というか、この歳で賭博なんてして大丈夫なの?」


「貴女達の国は違うの? 十五からできるでしょ?」


 さすが異世界。もうなんでもこれで片付いちゃう。


「まあでもいいんじゃない? 軍資金って意味もそうだけど、これだけあればなんとかなるでしょ」


「ああ、幼馴染みさんの……」


「思うところはあるけど、はっきり言うと一番安全な救い方だよね。奴隷の刻印は私達で消せるし……」


 闇属性の魔術師が三人もいるんだ。そこに関しては問題ないと考えた。


「ま、そこはギルヴァの自由よね。買い付けた幼馴染みをそのまま奴隷にし、四つん這いで首輪でも付けてあげたいなら、すればいいし……」


「――俺にそんな趣味はないっ!!」


 とんでもブラックジョークをかますカミュラに、俺は笑顔でフォローする。


「わかってるよ。ギルヴァにそんな趣味がないことくらい。犬みたいに首輪つけられて四つん這いになりたい趣味を持ってるのは、死霊使い(ネクロマンサー)の方だろうし……」


「私にそんな趣味があるって……?」


「なきゃ、今の発想はないでしょお?」


 笑顔で火花を散らす俺達を見て、ユネイルはギルヴァに耳打ちする。


「……なんかお前のところも大変そうだったんだな」


「……ああ。胃に穴が空くかと思ったよ」


 そんな喧嘩ごしの会話を続けていた時、ふと思い立つ。


「あれ? 奴隷の刻印って基本、闇魔法だよね? 闇属性を毛嫌いしている大陸なのに……」


「ああ、他属性の刻印だよ。原理は闇属性のものと同じだから結局、解く方法はかけた本人か闇属性持ちが主流だよ」


 ちなみに闇属性の刻印であれば、光属性でも解けると補足を入れられた。


 闇は解錠なのも得意とするが、光はあくまで浄化なので、他属性の場合、解くことができないそうだ。


「付与魔法の応用でな。下手すりゃ闇属性よりたちの悪い刻印だ。火属性なら爆発とか、風属性なら首が飛ぶとか……」


 どっちが闇属性なんだかわかりゃしない。


 闇属性は拘束力があるが、他属性は物理的恐怖心を与えるものだそうだ。


 物騒過ぎるだろ。


「じゃあやっぱり私達が稼いできたお金は無駄にならないってことだね!」


「そうなるけど、探さない理由にはならないからね」


 シューンとする他属性一同。


 ちゃっかり観光しちゃってさ。俺だって遊べるなら遊びたかった。


「じゃ、じゃあそっちは成果があったんだよな?」


 負け惜しみのように、こっちにも非がないかあら探ししようと目論む発言をするが、真面目に探してきた俺達に非はない。


「勿論。これを見て」


 そう言うと俺は、あることをまとめたメモをテーブルに並べた。


「何々……」


 そこには、買い物の内容から色、値段、何着、おおよそ店内にいた時間まで、張り込んでいた時間の人数分がびっしりと書かれていた。


「これは……なんですか?」


 圧倒されながら尋ねるネネに、カミュラは呆れた物言いで吐き捨てる。


「奴隷商と思われる人物が経営してる店に出入りした客のリスト」


「ほえ〜……こんなこと調べてどうするの、リリィ?」


 俺はギルヴァやカミュラに説明したことをみんなにも話した――。


「――つまり、この中に奴隷オークションの参加者がいるってことか」


「そういうこと」


 調べた方法はギルヴァの次元魔法で袋の中身を確認。張り込んでいるのがバレたくないので、ギルヴァ達が元々身を隠すように手配していた魔道具を起用。


 商品の値段は戻ってきて事情を理解したカミュラに、もう一度店に行かせ、確認を取ったもの。


 その結果、統一性があるものがいくつか現れていた。


「チェックが入ってるのを見て」


 俺はレ点チェックが入ったところを指差して、共通点があることを示す。


「チェックが入ってる客の金額が一致してる」


「うん。他に共通してるところを照らし合わせてみたけど、これ以外はないかな」


「しっかし……これだけの金額をはたかないと参加させてもらえないなんてなぁ……」


 ユネイルはこんなに出せるかよと、愚痴を(こぼ)すが、俺は適切なやり方であると分析する。


「これだけの金額も出せないようじゃ、奴隷を買う価値もないって言ってるもんだよ。それに客からすれば高い入場料を支払う以上、下手に口外もできないし、奴隷商からしても、信用料みたいなもんだよ」


「どゆこと?」


「……客からすれば高い入場料を出した挙句、奴隷を買った場合、奴隷商に何かあれば違法で奴隷にしたと足がつくでしょ?」


「あーあ」


「万が一があっても困るのは客になってるのよ。その後ろめたさを利用してね」


「ふーん」


「……理解できてるのよね?」


 説明するカミュラは、さっきから生返事のアイシアを疑いの眼差しを向ける。


「大体?」


「……」


 説明し(ぞん)だと、呆れ果てる。


「まあつまりは奴隷商と同罪になる覚悟を示せってことだよ。財産でね」


「……なるほど〜」


「……貴女、絶対理解してないよね?」


「でも確たる証拠は欲しいよね」


 無視するのとカミュラは俺の方に向くが、アイシアの理解を待っている場合ではないので、相変わらず置いていきます。


 というかアイシアの場合、あまり理解してなくても状況の把握能力や適合能力は高いから、無理に理解してもらわなくてもいい。


死霊使い(ネクロマンサー)。例の服」


「ん」


 カミュラは買ってきた服をテーブルの上に置いた。


 するとユネイルは同類じゃないかと安心した表情を浮かべながら、文句を言う。


「人のこと言えないなぁ。ちゃっかりオシャレ服買ってきちゃって……」


「人の話聞いてた? これ、奴隷商の店から買ってきたんだよ」


「えっと、参加条件を満たしたってこと?」


「いや、これは適当に買ってきてもらったものだよ」


 意図が理解できないと首を傾げる。


「あの奴隷商のおじさんは私に目をつけていた。商品としてね。ここまで言えばわかるでしょ?」


「つまりこの服には二人の居場所がわかるように、魔法がかけられてる」


「そ。実際……」


「つけられてた。二着ともね」


 カミュラは買ってきた洋服を広げてそう言うと、俺に一着渡してきた。


「今から着替えて、私と死霊使い(ネクロマンサー)(さら)い屋を誘い出すから、ここの守りはよろしく」


「えっ!? リリアちゃん、危ないよ。私も……」


 リュッカもアイシアも心配そうにしてくれているが、俺の内心は申し訳ない気持ちでいっぱいである。


「いや、危険なのはここも一緒だよ」


「え?」


「……さっき言わなかった? これ、感知できる魔法が施されてるって」


「……なるほど。だから、二人で分かれるわけだ」


 奴隷商は大概、贔屓(ひいき)にしている(さら)い屋がいるはずだ。


 オークションの客ではなく、一般客からも商品にしたい人が来た時に(さら)うためだろう。


 あんな店を構える理由も、オークションの参加者の選定。商品の仕入れ目的となれば説明もつく。


 しかも(さら)い屋が厄介なのは、真実の羽根(トゥルー・フェザー)で把握済みだ。


 戦力を分散できるなら、それに越したことはない。


 勿論、一点集中されることも考慮して、個人対多数ができる俺達二人が囮りになるわけだ。


「でもリリアちゃん、魔法は……」


「この指輪のおかげで大丈夫だよ。それにあたりはもうこんなに暗いんだ。多少の闇魔法も許容範囲内だよ」


 そう言うと、着替えのため俺とカミュラは別室に移動。


「作戦は簡単。(さら)い屋が訪問してきたら、丁重にお相手して情報を吐かせる。じゃ!」


「待ってリリアちゃん。どうしてそんなに急いでるの? 今日は見つからなかったけど、カルディナさん達と合流してからでも……」


 見つけられなかったことに負い目を感じているリュッカは、もっと慎重に行動しようと尋ねる。


「それじゃあ遅いんだよ。鉱山洞であったろ? 五星教のトップの一人……」


「リアンって人だっけ?」


「そ。あの人はもう報告してるはずだ。私がファニピオン(ここ)にいるって……」


「いくら五星教は入りづらいとはいえ、近い内に来るだろう」


「それに奴隷商の雇ってる(さら)い屋も手ぐすね引いて待ってるだろうしね」


 罠と知りつつ、その洋服に身を包んで約束もしていない待ち合わせ場所へと、各々向かった――。


「――さてと……」


 このあたりでいいかなと、路地を出てもしばらく人気の無い死角へと移動してきた。


「あれぇ? 私のとった宿屋はどこかなぁ?」


 わざとらしくうわ言を呟いていると、


「へへ、こんな夜道にてめぇみたいな女が一人で歩くもんじゃねぇよ」


「なんだったら、俺達と夜のデートと洒落込まないか?」


 どこからともなくヘラヘラと笑いながら、素行の悪そうな男が二人、声をかけてくる。


 下手なナンパだ。


 まだキザったいウィルクやユネイルのナンパの方が惹かれそうだ。


 (さら)い屋かどうかはまだ不明だが、明らかに親切心でそう言ったのでは無いと言うことだけはわかる。


 俺の姿を上から下へと品定めする見方は、奴隷商やマルファロイみたいなゲスな気配を感じる。


 だが、


「あら素敵! 是非ともお願いします!」


 俺はあざとく了承すると、二人の男は逃げ道を塞ぐように寄ってくると、俺はあっさりと後ろを取らせる。


「へへ、悪いなぁ嬢ちゃん。これもお仕事でな」


「なあ。引き渡す前に味見くらいしないか?」


「馬鹿言え。傷なんかつけたら、値段が落ちるだろうが!」


 もう仕事が上手くいったと判断したのか、ベラベラと暴露を始める。


 どうやら二流、いや三流の(さら)い屋のようだ。


 もしかしたら、あの奴隷商の差し向けた(さら)い屋ではないのかと、不安を覚えてきた。


 それともそもそもあの店長は(さら)い屋ではないのか。


 まあどちらにしても、この状況は打破しなければいけないわけで。


「えっ!? もしかして(さら)い屋!? いやぁ! 離して――」


 男は俺の両手を押さえながら、抵抗する様を楽しそうにニヤニヤとしているが、


「……なんて言うと思った?」


「なに? ――おごぉっ!?」


 俺を掴んでいた男は、ビュッと連れ去られたかのように、横へと飛んでいく。


「な、なに!? このガ――うおおっ!!」


 もう一人の男も同様に何かに(さら)われるように、俺の前から姿を消す。


 すると俺は上を見上げながら尋ねる。


「ねえ? 私に差し向けられた人達って貴方達だけ?」


 そこには壁に貼り付けられた男達の姿があった。


「て、てめぇ! 何しやがった!?」


「くそっ! 離せ!」


「――いいから質問に答えて」


 俺はこいつらを捕らえた正体を突きつける。


「ひぃっ!? な、なんだ、この黒い物体は……?」


「影だよ。知らない?」


「か、影だぁ!?」


「そう。シャドー・ストーカーっていう闇属性の影魔法なんだけどね。歩いてる間、ずっと術を発動してたの。だから、いつでも貴方達を捕まえることができたってわけ」


 種明かしを終えると、わざとらしくあざとく嫌味を口にする。


「ごめんね。か弱く捕まってあげられなくて。いっぱい私とイイコトしたかったんでしょ?」


「こ、このガキぃ……」


「ていうかちょっと待て。銀髪に影魔法……ま、まさか……」


 あれ? 俺の情報を持ってるってことは、あながち三流でもないようだ。


「私の正体は知らぬが仏だよ。それより……とっとと情報を教えてくれる?」


 俺の正体に気付いて震える男共を無視して、情報を吐かせた。


 ***


「みんな無事だったんだね」


「おう。そんな強敵でもなかったな、こいつら」


 捕まってきた(さら)い屋のグループは、宿屋の店主の相談の上、一部屋丸々、こいつらの確保部屋と借りた。


 解けだのなんだのごねる奴らがいる中で、一部は俺やカミュラを見て怯えている様子も見せる奴もいる。


「で? 貴女は何したの?」


「別に。ちょっと影魔法で脅しただけ。そっちは?」


「大量の死霊共を使って(あぶ)るように、生気を吸い取った。ここは欲望が渦巻く娯楽郷……さぞ無念に散った魂達はこいつらを羨んだでしょうね……」


 ネネとリュッカは無言で互いに身を寄せ合い、酷く震えて怯える。


 カミュラを狙った(さら)い屋には同情する。


 こんな夜中に死霊達の怨念の声を聴きながら、恐怖心を駆り立てるように、生気を吸い取られながら大量の死霊を目の当たりにするのは、背筋が凍り付くお話だ。


 だがギルヴァとユネイルは苦笑い。どうやらいつも通りの光景のようだ。


「それで? やっぱりそっちもあそこの店から頼まれてたのか?」


「みたいだね。でも、実際会わせてみると色んなところに声をかけてたみたいだね」


 というのも今はひとまとめに縛り付けたが、二人から四人までの小物(さら)い屋だということがわかった。


 おそらくは人件費の削減だろう。


 如何に奴隷商は他の商売より巨額で取引できるとはいえ、維持費や仕入れコストを考えると厳しいところがあるのだろう。


 (さら)い屋だって優秀であれば、金も高つくだろうし。


 こいつらにも情報のレベルの差はあったが、あっさり捕まったところを見るに、安く取引できた(さら)い屋なのだろう。


 まあ違法商売の利益やコストなんて知ったこっちゃないが、俺達からすれば情報聞き出すには、丁度いい手頃な相手だ。


「さて、ここからどうする?」


 情報をあらかた聞き出したので、意見を(あお)がれた。


「……オークション会場には正規ルートで行く。死霊使い(ネクロマンサー)、またお願いね」


「……わかった」


「こいつらの話だと幸い、明日の夜にオークションが開始されるみたい。これなら五星教に見つからずにオークション会場で鉢合わせできるね」


「できるの? オークションの入り方……わからないんじゃ……」


「伝言役がいるでしょ?」


 俺は縛られている(さら)い屋を親指で指す。


「なるほどな。こいつらなら最悪、入り方を知らなくても奴隷商の店や取引場所くらい知ってるだろうしな」


「まあ念のため、メモも置いていくし、マーチェとの連絡もできるんでしょ?」


「はい」


 ネネは通信用の魔石を取り出して見せる。


 マーチェの情報によれば、五星教の女神騎士全員でこちらに向かってるとのことだそうだ。


 向こうからすれば、魔人を倒した闇の魔術師と自分達の入国を拒否する町だ。


 最悪、力尽くで侵入してくるかも。


 それにこの都市は五星教がいないことから、闇属性持ちの巣窟とも言われている。


 五星教が警戒しながらやって来るのは、必然だった。


「準備は万端! 後はクルシアを相手にするだけだね!」


「そうだね……」


 みんな想い想いの表情で沈黙する。


 思えば、クルシアの魔人の魔石の適合者探しを潰すために来た。


 本来ならカルディナ、ナタル、フェルサにカーチェル劇団の協力の元、阻止するつもりが、メンバーを変えてここにいる。


 カルディナ達も上手く合流できると今は信じよう。


 最悪、五星教がここを訪れても向こうはしらばっくれれば、カルディナ達に危害が及ぶことはない。


 みんなの協力を無駄にするわけにはいかない。


「……リュッカ、アイシア。そしてみんなも……クルシアとの因縁、ここでケリにしよう」


「ああっ!」


 ギルヴァもクルシアには思うところがある一人。


 俺達と同様に息巻いた真剣な表情をする。


「――行こう!」


 ***


 翌日、午前中に参加条件に合う金額の買い物をし、店長の前に現れたカミュラ。


 その時の一瞬曇った表情が面白かったそうだ。


 そして――、


「ごめんね、店長さん。商品として来れなくて」


「……何のことでしょう?」


 とぼけたことを言ってるが額には汗が滴り、表情が完全に引きつってる。


 まあ思うところはあるが、今はこれ以上に大切な用事があるため、これ以上は突っかからないようにする。


「まあいいよ。参加条件の招待状……人数は書かれてなかったからここにいる全員、案内してくれるよね?」


 カミュラは買い物を終えた後、レジにて無言で渡されたそうだ。


 そこには――今夜、お店へお越し下さい。素敵な出逢いをご用意致します――と書かれていた。


 徹底した対策だと考えた。


 これなら店で買い物した客にしか伝わらないし、万が一落としても娼館のメモ書きか何かだと思うくらいだろう。


 店長は観念したのか、諦めた態度を取る。


「……わかりました。まあ、お客様とあらばお通し致します。こちらへ……」


 案内されたのは試着室。


「は? ここには何もなかったけど?」


 調べたカミュラは不機嫌そうに文句を垂れると、店長はその試着室を開ける。


「では……オークションの開始までもうしばらくお時間があります。御了承下さいませ」


 その開いたカーテンの先には魔法陣が貼られていた。


「……なるほど。オークションの開催日にだけ、転移の魔法陣を設置しているわけか」


「どおりで……」


「一応訊くけど、この先は奴隷専用の独房とかじゃないよね?」


 すると店長は滅相も無いと強く否定するが、


「そんなことはしません。金を落としてくれる方とわかっていますから……」


 途中からゲスい表情へと変わった。


 まあこの店長からしても、刺客を看破されたわけだ。下手な手出しはしないだろう。


「もう一つ。ここのオークション会場って鳥籠(とりかご)みたいなセットなの?」


 一番重要なところだ。


 ここで違いますなんて言われた日には目も当てられない。


 だが正しかったようで、店長は丁寧なお辞儀をするとどんなお店なのか説明する。


「こちらで取り扱っておりますのは、ただの労働奴隷や愛玩奴隷ではありません。金の成る奴隷を取り扱って御座います。鳥籠(とりかご)のようなセットは、さながらまだ見ぬ主人に愛想を振りまくためのようなもの。あ、勿論、通常の奴隷のように扱って頂いても結構。お買い求められた方々のご自由に……」


 何とも胡散臭く、胸くそ悪い紹介である。


 その説明に頭にきたのか、ギルヴァが店長の胸ぐらを掴む。


「――それがどこにでもいる町娘でもかっ!」


 こんな客は珍しくないのか、俺達の時のような動揺は見られない。


「おや? もしや知人が奴隷にされた経験がお有りで? しかし、わたくしが知るようなことは――」


「この……」


 殴りかかろうとするギルヴァの腕を、ユネイルがガシッと力強く止めた。


「よせ、ギルヴァ」


「離せ! 一発殴らないと気が済まない」


「気持ちはわかる。俺にも可愛い子ちゃんの幼馴染が奴隷にされたなんて言われたら、このおっさんを亀甲縛りにでもして、豚ロースにでもしてやるところだ」


「は?」


 うーん。どっかで似たようなことを聞いたなぁ……あ、俺がマルファロイに絡まれた時にウィルクが言ってたやつだ。


 流行ってんのか? 肥満体質の男を亀甲縛りにするの。


 その発言に思わずギルヴァも拍子抜け。


「何言ってんだ、お前は」


「バーカ。冗談だよ、冗談。こんなキモいおっさんの亀甲縛りなんて見たかねえよ」


「そうだね。見るなら黒炎の魔術師の方がいいんじゃない」


「――おおっ!!」

「――何言ってんの! この変態死霊使い(ネクロマンサー)!! お前もおおっじゃないっ!!」


「いったぁー!? (すね)ぇ……」


 昨日の仕返しとばかりに言い返すカミュラに、俺に(すね)を蹴られてぷるぷると(すね)を押さえるユネイルを見て、怒っている自分が馬鹿馬鹿しくなったようだ。


「……まったく、興が削がれた」


「はは、冷静になったかよ。馬鹿野郎」


「涙目で(すね)を押さえてる馬鹿野郎よりはマシだ」


 張り詰めた緊張感は解けたようだ。


 これなら落ち着いて対応できるだろう。


「ごめんね」


「いえ、このような騒ぎはよくあること。気にしません」


「じゃあ案内を頼むよ。少しくらいなら店を空けても構わないんでしょ?」


「かしこまりました。ではついてきて下さい」


 俺達は店長を先に行かせ、安全なのを確認すると魔法陣の中へと入っていく。


 人の欲望の闇に呑まれていくように……。

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