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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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20 龍の神子

 

 ――状況は意外と早く進んでいた。


 黒炎の魔術師らしき人物の目撃例が、入国審査を行なった港町ガルニマ、クルシアの情報を得るためにうろついてた影響なのか彫刻の町パルマナニタ、そして帝都ナジルスタと情報が錯綜(さくそう)としていた。


 まあ銀髪の女の子というのは、西大陸でも珍しいらしく、北大陸近くの町や村でなければ目撃情報は少ない。


 とはいえ、五星教ならびに騎士団は混乱に陥ってもいる。


 闇属性なのに、結界の影響を受けずに目撃情報があるのかとか、入国審査をどう抜けてきたとか、そもそも目撃情報の根拠が無いため、どうとも言えないなど、様々だ。


 実際、俺自身はヘレンで通しているし、ヘレン本人も西大陸で過ごした経歴もあるので、一概に黒炎の魔術師と断定もできない状況。


 マーチェもかなり情報操作したようで、慌ただしく情報が駆け回っているそうだ。


 だが、そんな中でもメルトアはほぼ確信を得たような物言いで動いてもいるため、目撃情報があった場所にはとてもじゃないが、姿を見せられない。


「――元々、そんなに表立って移動できるわけじゃなかったが、面白くない状況ではあるな」


「す、すみません」


「これからどうするんですか?」


「こうなってはやむを得ません。飛竜を貸して頂けるところへ直接赴き、ファニピオンへ向かいましょう」


 俺達はこうして真実の羽根(トゥルー・フェザー)のアジトを後にした。


 俺達は元鉱山洞の道をひたすら歩いて向かうことに。


 転移石でも移動可能だと言うが、数は少ないし、緊急時の逃走手段として取っておきたいのが本音。


 こんな薄暗い洞窟みたいな道をひたすら歩くのは、リュッカを救出に向かった迷宮(ダンジョン)以来である。


 荷物はマジックボックスにまとめてあるとはいえ、長い道のりを歩くのは中々疲労が溜まる。


 しかも途方もないほど長い道は、壁にも無数の横穴があり、選択肢も(まば)らだ。


 そんな疲労を紛らわすためか、今後の予定について話す。


「目指すはドドニアだ。そこでなら龍も借りられるし、あそこは田舎だ。情報もまだ流れてないはずだ」


「ドドニアってどこにある町なんです?」


「この鉱山洞は帝都ナジルスタがくっついている山の山脈なんだが、帝都側とは反対側の中腹にある小さな村だ。龍神王がいたとされる伝説を残している町だ」


 龍神王……そういえばおっさんが、クルシアが探している原初の魔人の一体だと聞くが……。


「本当なら待ち合わせの場所まで飛んで来てくれるはずだったのに……」


「悪かったね!」


 嫌味口を吐くカミュラに、お前には言われたくないと逆ギレした。


「でもギルヴァさん。どうしてファニピオンへ? 五星教は西大陸全土に広がっているのですよね?」


「ファニピオンには独自のルールがあり、奴隷の推進国でもある。だから五星教と言えど簡単には入ってこれない」


「避難するんですね!」


「皮肉だな〜」


 まさか目的地が五星教から逃げるための場所になるなんて……。


「だけど問題は……」


「ん?」


「私達の目的、忘れた? 五星教の勢力を削ぐこと」


「あ……」


「これじゃあ闇属性持ちでないユネイル達に情報を流させても足がつく。それはマズイ……」


 あくまで狙いをクルシアに定めてもらわないと困る。


 ギルヴァの言う通り俺達の足を取られては、例え五星教の勢力を削ぐことができても、同時に俺達の首も跳ね飛ぶことになる。


 いい方法はないものかと、移動しながら悩む一同だが、俺は閃く。


「……じゃあいっそバラす?」


「は?」


「どういうこと、リリアちゃん?」


「簡単だよ。奴らは闇属性持ちに目がないんだよね? 奴らにとってクルシアも私も同格として扱うはず。だったら、私がファニピオンへ向かったって情報を流せばいい」


「貴女ね……」


「いや、いい手かもしれない」


「は?」


 俺の提案を否定しようとするカミュラを、肯定で受け入れたギルヴァ。


 テルミナ達も悪くないと意見を述べる。


「確かに。どちらにしたってこの状況なら危険度は同じ。だったら情報を流して五星教をコントロールする方が利口ですね」


「そっか! 五星教が今色んなところにいるのがいけないんだ。集約すれば……って逃げ道なくなるっての!」


「逃げなくていいよ。クルシアに押し付ければいい」


「いや、でも……」


「もっと良く考えてよ。ファニピオンは娯楽の町だけど、それ以上に違法の塊みたいな国……なんでしょ?」


 俺は可愛いげのあるウインクを決めると、これはかなり得のある作戦だと説明する。


「五星教からすれば、侵入さえ出来れば取り締まることだってできるんじゃない? 伊達に西大陸に名を轟かせちゃいないんだ。それくらい強引な方法くらい取るだろう」


「つまり黒炎の言いたいことは、最初こそ囮役を買って出て、最終的にはクルシアや違法連中に五星教を押し付ける」


「そう! 五星教の勢力を落としつつ、奴隷商達を一網打尽にし、クルシアも取っちめられる。どう?」


「さっすがリリィ!」

「さすがリリアちゃん!」


 アイシアとユネイルは目を輝かせて俺の意見を前向きに捉えるが、否定的な意見も聞かれる。


「そんな都合の良くいく? 五星教は強いわ。……確かにクルシアは化け物よ。だけどそれは考えであって実力は……」


「アイツの実力は知らないんだっけ?」


 今思えば、西大陸でクルシアの事件を知る人達はクルシアの狂気に満ちた性格は知っていても、実力を知らないんだと考える。


 おそらくは闇の魔術師だから強い、程度でその尺度をわかっていないのだろう。


「バザガジールって知ってる?」


「――なっ!? なんであんな本物の化け物の名前が……」


「クルシアがスカウトしたんだよ、バザガジールを。バザガジール自身もクルシアの実力を認めている」


「……お、おいおい」


 バザガジールの実力に関しては、さすがに知っているようで、その事実を知らない真実の羽根(トゥルー・フェザー)の面々は青ざめる。


「……なるほど。だから五星教を削げると……」


「悔しいけど奴の実力は本物だ。向こうにいる勇者の末裔ですら、かすり傷一つ残せない」


「勇者の……末裔ですら……」


 勇者という肩書きを聞いただけでも、十分に説得できるだろう。


 みんなの反応を見れば一目瞭然だった。


「いくら五星教の女神騎士だっけ? 確かに強かったよ。けど……」


 ヒューイは強かった。


 あんな華奢な身体で振るう剣撃は見事と呼べるものだったが、クルシアやテテュラのような危機感は不思議と感じなかった。


 決して油断をしているわけでも、軽視しているわけでもない。


 それでも圧倒的に劣っていると感じた。


 それはクルシアやテテュラを目の当たりにし、当てられた影響からだろう。


「クルシアより明らかに劣ってるよ」


「だがそれじゃあ……」


「五星教の勢力を抑えるって話の前提には、闇属性(こちら)をわかってもらうことが含まれてるんでしょ? だから戦うの……クルシアがそれだけ強い奴だって知ってるから……」


 人間は大きな障害にぶち当たれば、立ち止まり、迷いだったり、諦めたりする。


 だけどそれを共に乗り越えること――俺達という闇属性を受け入れさせる大いなるきっかけとなるはずだ。


 クルシアにはせいぜい障害になってもらおう。そして、もう二度とあんなことはさせない。


 俺の一言で察したのか、静まり返る。


「……そうですね。ファニピオンやクルシアという悪事の限りを協力して叩ければ、考え方を見直すきっかけとなりましょう」


 俺の心を読んだのか、それとも察してなのかはわからないが、テルミナは俺の意見に賛同するようだ。


「よっしゃ! そうと決まれば……」


「今の話、詳しく訊いても?」


「「「「「!?」」」」」


 俺達が行く道の横道から声をかけられ、人の足音が連続して聴こえる。


 そして音の正体が顔を出す。


「あ、あんたは……」


 軽装な鎧に爽やかな黄緑色のポニーテールが軽やかに揺れる。その女性は大人の余裕を見せるように自信に満ちた優しい笑みを浮かべる。


「初めまして、でいいかな? 諸君。私の名前はリアン。リアン・ハイルだ。よろしく」


 優しく微笑みかけてくるが、彼女は勿論、後ろの部下達もがっつり武装している。


 俺達は臨戦態勢を取るも、リアンは眉を潜めて困った笑みを浮かべた。


「そんなに警戒しないで。何もとって食おうって気はないの」


「は? リアン様?」


 後ろの部下達は何を言い出すのかと動揺するが、スッと右手を軽く上げると部下は静まる。


 すると、かなり小柄な少年がぴょこっと部下達の群れから出てきた。


「リアン様、そこの銀髪娘はおそらくメルトア様の情報にあった……」


「黒炎の魔術師だろうね」


「わかっておいでなら……」


「わかっているからさ。ガオル」


 その敵意を見せず、意図がわからないように接する態度に痺れを切らす。


「何が目的なの?」


 カミュラは今にも噛みつきそうな攻撃的な話し方で尋ねると、リアンは落ち着くよう促す。


「まあ待って。ちゃんと話すから……。私としてはさっきの話は興味があってね。五星教(こちら)の勢力を落とす話……」


「……聞いてたの?」


「私は風属性でここは鉱山洞。この細い道からは風と共に貴女達の会話の一部も聞き取れたわ」


 てことは作戦が筒抜けになったってことか?


 確かめるようにテルミナをチラッと見るが、テルミナは軽く首を横に振った。


 どうやら全部を聞かれたわけではないらしい。


「それで温厚な態度を取る理由にはならないんじゃないかな? むしろ止める理由の方が濃厚になるんじゃない?」


「そうでもないわ。ここ最近、隙を(うかが)って私達が襲われる事件が各地で起きてる。原因はギルドに貼り出された匿名の依頼……あれ、帝都の騎士団……いえ、大統領閣下が出したものじゃない?」


「――!? そ、それはどういうことですか!? リアン様!!」


 リアンの発言に部下達は動揺するも、再び静止する。


「落ち着いて! おそらくはメルトアの改革を抑えるためのことよ」


「闇属性の即時抹殺……」


「ええ。闇属性を酷く恐怖する市民達の希望となったわ。手段は過激ではあったけど。でも彼女の背景のおかげで英雄視されるという異常を作った……この国は異常だらけなのよ」


 それは俺達が一番良くわかる。


 治安の良い国から来た以前の問題である。


「私が口酸っぱく、闇属性持ちのことを理解すべきだと言っているのは知っているでしょう?」


「ええ……」


「貴方達は理解してくれているけど、メルトア(あの娘)はそれを理解しようとしない。闇属性は悪としか考えていない。同じ人間なのに……」


「そうだよ!」


 リアンの良識ある考えに、アイシアが同意する。


「闇属性だとかそんなの関係ない! みんながみんな、笑顔で生きられる未来があるはずだよ!」


「……ええ。その通り。だから、これ以上の犠牲が出ないためにも情報が欲しい。その見返りにこの場を見逃すわ」


 ならば私の出番だと、テルミナは前へ出る。


「テルミナ……!」


 心配するカミュラ達だが、テルミナはニコッと微笑む。


「わかりました。貴女の知りたい全てを語りましょう」


 そしてテルミナから口にされたのは、匿名で出された依頼主の正体、そこから考察される狙いの全てを話した。


「――ご理解できましたか?」


「ええ、十分よ。ありがとう」


 ある程度は予想通りだったのか、特に取り乱す様子もなく受け入れているが、部下達はそうもいかないようで、怯えた表情をしている。


 無理もない、所属は違えど国は勿論、大陸全土を守るための機関がその国から裏切りとも取れる粛清をされると聞かされたのだ。


 冷静でいられる方がおかしい。


「そ、そんな我々はどうすれば? メルトア様を説得しますか?」


「私が散々言ってもダメだったのよ。無理に決まってるわ。だから、行かせるのよ。黒炎の魔術師を……」


「……なるほど。腹は同じだったってわけ」


「どうやらそうみたいね」


「同じ腹黒いってこと?」


「「それは違う!!」」


 アイシアの天然ボケに思わず、リアンと俺は同時にツッコんだ。


「と、とにかく私達はファニピオンへ向かう。……意味わかるよね?」


 察してくれよと促すと、リアンはこくりと頷いた。


 でも本当に理解しているのか不安だったため、テルミナを見ると、


「大丈夫です。行きましょう」


 その読心術からリアンが理解していることを悟ると、俺達は五星教達の横を素通りしていく。


 ――そして俺達の姿が見えなくなる。


「よ、よろしかったのですか? こんなことがバレたら……」


「大丈夫よ。この情報を持って帰ればいいんだから……」


「大統領閣下が私達を貶めようとしていることですか?」


「違う違う。聞いてなかったの? 大統領閣下はやり過ぎだから抑えよってだけよ。実際、実権を握ってるのは向こうなんだから……」


 その気になれば弾圧だってできるはずだが、大統領閣下がそれを行わない理由は人形使い(ドール・マスター)にある。


 もしわかりやすい暴力で支配すれば、メルトアや人形使い(ドール・マスター)と同じになってしまう。


 それでは歴史を繰り返すだけだ。


 本来なら穏便に済ませたいのが本音だろうが、メルトアはあの通り、頑固だから痛い目に遭ってもらおうというのが狙いだろう。


 だからその立役者にあの闇属性の組織のような人達に依頼した。


「……持ち帰る情報は一つ、黒炎の魔術師はファニピオンにいるってね」


 他の事は一切他言無用でと釘を刺し、リアン達も事を急ぐため、戻るのだった。


 ***


「おお……」


 俺達は洞窟を抜けると、そこには自然に溢れた緑色の山々が迎え入れてくれた。


 そこは心地よく寒気が肌を刺す空気が流れる崖道。


 そこを下ったところには小さな集落があった。


 目的地はあそこだと言うと、俺達はその集落へと向かった。


 辺りは既に真っ暗。良い子は夢の中のお時間に俺達は不気味に静かな集落へとたどり着く。


「こんな山のど真ん中に集落があるなんて……」


「ここはドラゴンを育てている集落の一つだ。特にここは見てわかる通り、四方が山に囲まれた集落だ。ドラゴンを自然なままに育てる環境として、これほどの環境はない」


 確かにドラゴンは性質上、普通の魔物とは違う。


 育ち方や環境によって凶暴になる者もいれば、穏やかな者にもなる。


 ポチがいい例だ。


 辺りが暗くてもわかるくらい美しい木々、雑音一つない洗礼されたこの山で育てられたドラゴンはさぞ、心穏やかなことだろう。


 目的地でとある三角屋根の丸太小屋にたどり着く。


 隙間風が寒そうなちょっと雑な造りの小屋の扉をコンコンとノックすると、奥の方から目を覚ましたばかりの眠そうな返事が聴こえる。


「ん〜……どちら様、ふわあ……ん?」


「夜分遅くに申し訳ありません」


「あれ? テルミナさん? どうしてこんな田舎に……」


 目蓋(まぶた)の落ちる目をごしごしと(こす)り、灯り用の魔石をつける少年はテルミナのことを知っている様子。


 警戒心なく話すが、後ろにいる俺含めた大人数で押し掛けられていることに驚くと、目を覚ましたようで。


「な、何かありました? オ、オレ達、何かしました?」


「いえ、完全にこちらの都合なのです。落ち着いて下さい」


「そ、そっか……それで?」


「実は今からでもファニピオンまで向かいたいのですが、龍の方の準備はどうでしょう?」


 すると少年は困ったように頭をかく。


「指定されてた数のドラゴンは用意できてるけど、こんな真夜中にドラゴンを起こすこと自体、危険なんですけど……」


「そこをなんとかできませんか?」


 訴えかける視線を送るテルミナに、尚困った表情になり、赤面していく少年。


 まあテルミナも清楚系美人ですからね。眼帯がなければ完璧。


「そ、そりゃあテルミナさんの頼みなら聞いてあげたいけど、危険なものは危険……」


 少年はどんな様子だろうと覗き込むように見るアイシアをふと見つけた。


 するとハッとなり、アイシアに駆け寄る。


「あ、あんた!」


「へうっ!? は、はい」


「そ、その宝石はどうした?」


「えっ? これ?」


 アイシアが首にかけていた、おそらくあの民族衣装の男性のものと(おぼ)しき宝石のことを指す。


「えっと、帝都でなんか……派手な格好した筋肉の凄いお兄さん……に貰った? じゃないな。拾った? あれ?」


 手に入った経緯をはっきりとできないアイシアを置き去りに、少年は激しく尋ねる。


「貰った!? これを!?」


「お、落ち着いて下さい、タンさん。その宝石はなんなのです」


「これは龍の涙と言われる秘宝です。千年以上生きているドラゴンの涙が宝石化したもので、とても希少な宝石なんです」


「へぇ〜……」


「ただ、こんなに美しい龍の涙は見たことない。もしかすると……」


 するとタンは慌てて、向こうで雑魚寝しているもう一人を起こし始める。


「おい! 爺ちゃん起きてくれ! 爺ちゃん!」


「……ん。おお……なんじゃあ、騒々しい。もう朝か……?」


「朝じゃねえけど、起きてくれ!」


「……年寄りには(こた)える……やんちゃしとる龍はお前さんがなんとか……」


「違えって言ってるだろ!」


 そう言うとお爺さんを無理やり引っ張りだし、アイシアの前へ。


「ほら爺ちゃん見てくれ!」


「ほほう……これは立派じゃのお……ふへへ」


 お爺さんはデレデレのスケベ顔で鼻の下を伸ばす。


 確かに指差した方向は胸であっているが、そこじゃないスケベジジイ。


「――そこじゃねえ!! この姉ちゃんがぶら下げてる宝石!」


 頭をスパーンっと叩くいい音が響くと、労らんかとぶつぶつ言いながらもアイシアがぶら下げている宝石を見ると、先程とは別の意味で目の色が変わる。


「ほお……これは。お嬢さん、ちょっとよいかな?」


「は、はい」


 アイシアは首から下げたその宝石のペンダントを渡すと、お爺さんは灯りの近くへ移動し、じっくり観察する。


「これは……」


「爺ちゃん。それ間違いなく龍の涙だよな?」


「そうじゃのぉ、間違いない。しかし、わしも長いこと生きちゃおるが、こんな最高級の龍の涙を見たのは初めてじゃ。お嬢さん、これをどこで……?」


 もう一度、お孫さんに説明した通りに話すと、お爺さんは震え始めた。


「お、おお……まさか、そのお方は龍神王様ではなかろうか」


「りゅ、龍神王!?」


 あの原初の魔人って呼ばれてる奴か。


 そんな風にみんなが驚く中、真っ先に否定するのはやはりこの女。


「馬鹿馬鹿しい。龍神王なんて御伽話の話。実在するわけない」


「いや、もしかしたら本当にそうかも……」


「なに? ご友人が龍の神子だとでも言い張りたいの?」


「そう言うわけじゃない……って龍の神子って何?」


 俺とリュッカ、そして一番の当事者であるアイシアはわからないと不思議そうな顔をするので、お爺さんが、カミュラの言っていた御伽話を説明してくれた。


 ――かつてこの集落は、一つの大きな町として栄えていた。


 人間達の戦争や自然破壊などで、今はバラバラに余儀なくされたのが、龍と人が仲良く暮らしていた聖域として存在していたそう。


 それを()べていたのが龍神王であった。


 龍神王はその名の通り、龍の頂点に立つ龍で、神龍と呼ばれる中でも特別な存在であった。


 魔人へと覚醒した際にも悟りを築いたように、元は魔物のはずだが争いを好まず、何よりも平穏、安寧を求めた。


 本来なら龍と言えど魔物。実際、この山の龍以外は魔物の本能をそのままにしていたのだが、この山の龍は豊かな自然と穏やかな人間と同類に囲まれて育ったせいか、魔物の本質を押さえ込まれた。


 結果、龍の聖地とまで呼ばれることになるのだが、それを人間サイドで開拓したのが、龍の神子と呼ばれている。


 その龍の神子はどんな者にも優しく思いやりに溢れ、龍からも人間からも慕われていた、と言うより愛されていたとされている。


 龍神王もまた、その龍の神子に特別な感情を抱いており、子を成したとか、互いに良きパートナーとして栄えたとか、龍の神子は龍のあるべき姿を教え伝えたとか、諸説ある。


 どれが真実かはわからないが、はっきりわかっていることは、龍神王が龍の神子を愛していたということ。


 どんな歴史書にもそう書き記されている。


「――へぇー……なんだか素敵ですね」


「うむ。例え異種族であっても心は繋がるのだと、教えてくれた。だが時代が進むに連れ、人間は龍を戦争の道具として使い始めてから、龍神王は姿を見せなくなったという」


「人間を見限った……」


「そこまではわからん。だが、良くは思っておらんじゃろう」


 愛した人の種族に利用され、奪われるというのは本当に辛いことではないかと考えるが、


「で? それとこの()は何か関係ある?」


 カミュラには人の心が無いのだろうか。


 同情心くらい湧けよ!


「……何か思うことがないの?」


「なきゃいけない?」


「ま、まあまあ……」


 俺とカミュラにまたギスギスした空気が作られるが、お爺さんは気にせず話を進める。


「おそらくこの娘は龍の神子の子孫だろう。この宝石が何よりの証拠じゃ」


「龍の神子……?」


「多分ですけど、龍神王は貴女から当時の神子の気配を感じ、その宝石をプレゼントしたのでは?」


 それって俗に言うプロポーズでは? という言葉は呑み込んだ。


 何せ根拠が無いし、何より数千年も年上の男の求愛とか、友達にあって欲しくない。


 だが、カミュラとアイシア以外の女子はちょっと嬉しそう。


「でも本人じゃないから、黙って渡したってことかな?」


「意図はわからん。だが、龍神王は何かしらをお主にやって欲しいものだと思うのう」


「ふーん……」


「ふ、ふーんって、シア……」


「だってピンと来ないもん」


 至極真っ当な意見、どうもありがとう。


 確かに急に龍の神子の子孫だと言われ、龍神王から求愛じみたプレゼントをされて、何かしらを期待されてると言われても困るだけだ。


「ま、そうだよな。急にそんな爺さんから愛のプレゼントされても困るわな」


「お前が急に道を歩いていく美人に告白するのと同じだな」


「そうそう……っておい!」


 ユネイルは恋だの愛だの、ギルヴァに教えを説くが、そんなことを無視して本題に入る。


「とりあえずアイシアの件は後。お爺さん、私達、今すぐにドラゴンに乗ってファニピオンまで行きたいの」


「だから、こんな夜中に起こしたら――」


「構わんよ」


「そうそう……って、えっ!? 爺ちゃん!?」


 孫は否定的だが、お爺さんはすんなりとオッケーを出した。


 というのも、


「丁度良い。お主が龍の神子か試させてもらおう」


 そう言うと、みんなドラゴン達が寝ぐらにしている場所へと案内された。


 そこには洞穴の中で、崖の上で、木々の下でと様々なところで寝息を立てている。


「どうすればいいの?」


「簡単じゃ。起こしてこい」


「わかった」


「えっ!? アイシア!」


 お爺さんの言葉にあっさりと従うアイシアは、止める間もなく、ピューとドラゴンの元へ。


 恐れ知らずにもほどがある。


 俺とリュッカも心配で、駆け寄ろうとするが、お爺さんに止められる。


「待て。ドラゴンのみならず、寝ておるところを起こされるのは、良くはなかろう」


「いや、そうだろうから止めに……」


 ドラゴンは確かに普通の魔物とは違う。


 賢く、誇り高い魔物であるが、中々人に懐かないでも有名。


 確かにアイシアはポチを始め、レオンやヤキンのドラゴンにも懐かれていた。


 とはいえ初対面の、しかも眠っているところを起こされるのは、さすがのアイシアと言えどタダでは済まない気がする。


 だがお爺さんは、真剣な眼差しでアイシアを見ている。


「まあ見ておれ」


 アイシアは一匹のドラゴンに話しかける。


「ドラゴンちゃん。起きて」


 その呼びかけにあっさりと目を覚ます一匹のドラゴン。


 アイシアを見るや顔を(しか)め、アイシアに向かって叫び出す。


「――グオオオオーーッ!!」


 アイシアはその吐息に当てられ、後ろへと可愛らしくコロコロと転がると、


「――あてっ!?」


 後ろの岩に頭をぶつけた。


「アイシア!? ほら、言わんこっちやない……」


 駆けつけようとした時、そのドラゴンが目を丸くしてアイシアをジッと見つめ始める。


「グルル……」


「ごめんね、急に起こして。でも、貴方の力が必要だから――って、きゃあ!?」


「グルル……」


 側に寄ったアイシアに頬ずりを始めたではないか。


 この光景には、悪態をつくカミュラも呆気にとられる。


「嘘……」


 すると、先程の叫び声の影響か、他のドラゴンも最初こそ機嫌を損ねたように起きるが、


「――きゃははっ! くすぐったいってばぁ! きゃあ!」


 あっという間にドラゴン達に囲まれ、最初に起こしたドラゴンの背中へと乗せられた。


 まるでアイシアを(まつ)り上げ、歓迎するように。


 その光景を見たお爺さんは、感涙する。


「お、おおおお……、神子じゃあ。神子様がお帰りになられたぞぉ……」


 お爺さんは感動しながら、アイシアに向かって(ひざまず)いた。


 そして――、


「神子様の頼みとあらば我らが一族、存分にお力添えさせて頂きますぞ」


 すっかりアイシアに対して、信仰心を示すお爺さんに、さすがのアイシアも困惑した表情。


「私、神子じゃないからぁ〜!!」


「と、とにかくドラゴンは借りていく。目的地へ着いたら、ドラゴンはすぐにでも返すよ」


「そう急かさずとも良いですよ。存分に神子様のお力になってくださいまし」


「だ〜か〜らぁ〜」


「ま、まあまあ、アイシア……」


「とりあえず、保留ってことにしよ、ね?」


 そんな変な呼ばれ方や今までにない扱われ方に不機嫌そうに困惑する。


 珍しいアイシアを見た。


 そんな俺達はドラゴンの背中に乗るのだが、何故かテルミナだけはお爺さん達の隣にいるだけだ。


「よし、じゃあ行くか」


「ま、待って、ギルヴァ。テルミナがまだ乗ってないよ」


「ああ、テルミナは置いてくわ」


「は?」


 そう言うと眉を潜めて困った笑顔を見せると、その理由をネネが説明してくれた。


「テルミナさんは、ファニピオンみたいな人の心がその……」


「欲望や我欲に塗れた心の表面のうちを聞くことで、精神的に持たないのよ」


 言いにくそうにしていたところを結局、カミュラが説明。


 心を読めるというのは、最強の力の一つだと思うが、想像以上に精神的にくる能力でもあるのだろう。


「そっか……」


「ごめんなさいね。でも、こちらからできるサポートはするつもり。情報操作等は私とマーチェに任せて」


「ああ。こっちはこっちで任せろ。行こう」


 俺達を乗せたドラゴン達は次々と飛び立つ。


 俺達の過酷な未来を暗示しているかのように、真夜中の闇を進む。

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