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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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10 旅の醍醐味

 

「……! 向こうから来る」


 ひくっとフェルサの鼻が魔物の臭いを嗅ぎつけて動く。


 俺達にも感知魔法で魔力を感じるが、まだ目視できない。


 だが、その方向を向いて待機。下手に馬車を走らせながら戦うよりも迎え撃つ方が適している。


 何せ、こちらの戦力はカーチェル劇団の男衆にカルディナ、フェルサも前衛に出る。


 後衛は俺を含めた魔術師達と、リュッカや一部の劇団員が護衛する形となっている万全なフォーメーション。


「来る魔物はわかる?」


 フェルサは再び鼻を動かすと、


「ウォーウルフだね。数は十匹前後」


 数までわかることに驚き。そっちは答えようと思ったのに、フェルサの鼻は優秀さんで……良い意味で困った話である。


「あっ! 来たよ!」


 ウォーウルフを目視で確認。


 片手斧やタルワール、長槍などを背中にくくり付け、四足歩行で素早く向かってくる。


 身体付きは胸筋が盛り上がっているので、中々の筋肉質。しかも大きさは通常のウルフよりも一回りほど大きく、十匹程度でも中々の迫力を見せる。


 あれと目の前で戦えというのは、中々勇気がいる。


 魔法使いで良かったと思う観点はここだろうか。


「よし、各個撃退していこう! 援護は任せた」


「了解です!」


 そんなウォーウルフに対し、ロイド達は勇敢に飛び出していった。


 あのポンコツ三人組とはえらい違いである。


 ウォーウルフとも交戦経験のある劇団員は一体に付き、二人一組での撃退、フェルサに関しては獣人の影響か、一対一でも問題がないようで、


「――ガアアッーー!!」


 爪と牙を剥き、威嚇をかけながら圧倒する。


 ウォーウルフのせっかくの武器も手に取らせる隙も見せずに、拳が腹筋をえぐる。


「……もっと品位よく戦えませんの?」


 そう語るカルディナは劇団員と混じって、戦闘を行なっていた。


「戦いに上品なんてあるか。女狐」


 そう言うと苦戦を強いるところの補助へ走ったが、


「「――エクス・プロード!!」」


 俺とアイシアの上級魔法で難なく撃退。


「やったね、リリィ!」


「うん!」


 パァンとハイタッチ。


 戦闘は割とさらりと終わり、辺りにはウォーウルフが散乱している状況がわずか数分で出来上がった。


「いやいやいやいや、凄いですねぇ〜。さすがは黒炎の魔術師! それに皆さんもとってもお強い!」


「はは……ありがと」


 (おだ)てるように言うキャンティアの手元にはメモ書きがビッシリ。


 出来れば身の安全の確保のため、手には武器を持つか、頭を守れるようにしておいて欲しかったものだ。


 だが、褒めてくれるのはキャンティアだけではなかった。


「いや、本当にすごいよ。的確な魔法での援護のおかげでこんなあっさりと倒せてしまった。いつもなら、もう少し時間がかかったりするものだよ」


 怪我人なども出るそうだが、今回はほとんどが軽傷で済んでいると褒められた。


 授業でのことを実践し、成果として褒められるのは素直に嬉しい。


「それに、リュッカちゃんのおかげで魔物も無駄なく処理できるのは、本当に有り難い」


 正直、こちらの方がいいトーンで話しているところを見るに、やはり魔物を的確に(さば)けるのは有り難いことのようで。


 劇団員の一部の方々も学び取るように、ふんふんと真剣な面持ちで見守る。


 この劇団にも魔物を処理できる人間はいるのだが、それでも参考にするほどの解体(さば)きのようだ。


「どこでこんな技術を?」


「えっと、実家が解体の仕事をしてまして……」


「ほえ〜。どおりで使ってるモノも本格的なわけだ」


 苦笑いするリュッカだが、おそらく、西大陸に向かうからと一番良いものを持たせられたのだろう。


 ウォーウルフは筋肉質なぶん硬く、解体が難しい。


 しかし、リュッカは切り落としやすい箇所がわかっているのか、他のところで処理をしている劇団員よりも手早い。


 それにしても……、


「……リリィは相変わらずだね」


「見慣れるわけないよ……うぷっ」


 どこに目をやってもバラバラになったウォーウルフが広がっているのだ。


 目のやり場に困る。


 何でこのセリフが女性に対してではないのは、お察し願いたい。


「大変そうね」


「まあ……私もさすがにこれだけ並ばれると……」


「旨そう……」


 何か一人、変な発言をしたケモ耳娘がいるぞ。野生の勘を働かせるのはやめて頂きたい。


 一通り解体、処理を終えると、また馬車は走り出す。


「中々順調ですわね」


「確かに魔物は向こうのより強いけど、私達自身も強くなってるからか、苦には感じないね」


「うん! 絶好調!」


「……最初の旅と比べるとえらい差だよね……」


 呆れた表情で苦笑いを浮かべる俺に、同情するようにリュッカも笑った。


「最初の旅って……ああっ!」


 ナタルが思い出したかのような反応に、そうと答えた。


 アソル、ラッセ、クリル、そしてザーディアスと共に旅をした話を愚痴を(こぼ)すように話している。


「まだ何ヶ月前だっけ?」


「約半年前くらいじゃないかな?」


「それなのに懐かしいね」


「懐かしいけど、あの時はドタバタしてたなぁ」


 俺は女の子(リリア)になったばかりで、リュッカやアイシアもまだまだ世間知らずなところもあった。


 お陰様でラッセ達に夜這いされそうになるし、そのラッセ達は役立たずだったし、おっさんは頼りにはなったけど、調子の良いことばかり言ってた気がする。


 まともだったのは、バトソンくらいだったろう。


「でも、あの旅はあれで良かったと思うよ。お陰でリリアちゃんと仲良くなれたし……」


「そうだね。それにああやって危険を潜り抜けていくっていうの……ワクワクした!」


「うん、楽しかった」


 今の実力なら、ラビットフットやゴブリン、ホワイトグリズリーも相手にならないだろうが、あの時の真剣に状況と向き合うってことが大切なんだと改めて気付かされた。


 そこには友達と乗り越えるという楽しさも確かにあったように考える。


 思い出として振り返ると、中々の思い出だった。


「旅はいいよ」


 俺達の話を横聞きしていたロイドが旅の良さを語る。


「そうやってみんなで困難に立ち向かうとかもあるけど、何より違う景色、風景を見て、知らない人達と出会って、自分の経験にしていくことはとても楽しいことだよ」


「素敵ですね」


 そういう意味では、多少の危険があってもこんなやり方で仕事をしている理由にも納得がいく。


 その地域によって文化の違いを学び、取り込むことで役者や脚本家としての技量を高めていけるというのは、最高の環境と言えよう。


「じゃあ私達もこの経験を活かせるといいね」


「うん!」


 出来れば、前回の旅の教訓――信用、実績の低い者との取引は慎重に。


 女である以上、一緒に旅をする男には警戒すること。


 旅の準備や各能力の把握はしておくこと。これらの教訓は活かすべきである。


 異世界での旅は向こうとは違う注意が必要。冒険者となら尚のことである。


 カーチェル劇団も男性が多いから注意はしているが、対応が紳士的、前回とは全く違う。


 とはいえ、最低限のガードはしつつ、不快に思われない程度に仲良く接していこう。


 親しき仲にも礼儀あり、である。


 何せ俺は中身が男だけに、他の彼女らより警戒が緩いように思うからね。


 ***


 その後も順調に旅は続く。


 ヒューの町を一泊し、翌日もラセルブ山脈(ふもと)を目指す。


 道中も思ったほど危険も少なく、途中に立ち寄った町や村なんかも変に警戒心を持たずに自然としているだけで、五星教が勘ぐることもなかった。


 正直、道中に盗賊みたいに(さら)い屋が襲ってくるなんて想像もしていたが、どうも拍子抜けである。


「――この先の町でラセルブ山脈の山道に向かうんですね」


「うん。ラセルブ山道はウォーウルフのような魔物が本領を発揮する。この山にはドラゴンがいないのが幸いだが、馬達のことも考えるとさすがに数日は覚悟してほしい」


 いくら人が通るために補強されている道を進むとはいえ、俺達が今まで歩いてきた道とは視界の広がり方が段違いである。


 危険度は一気に上がる。


「獣型の魔物は、風や木々の音や気配を敏感に読み取って攻めてくる。特に厄介なのはウォーウルフとグリーンエイプ。特に後者の群れに遭遇するとかなり厄介」


 戦闘経験のあるフェルサが淡々とだが警告。ウォーウルフはわかるが、グリーンエイプは初めて聞いた。


「わかっているよ。だから極力、匂い袋を使用するつもりだが、悪いんだけどリリアちゃん……」


「はい?」


「君の闇魔法も当てにさせてほしい」


「そんなに厄介なの?」


「うん。グリーンエイプにとってあの山は庭みたいなもの。木々をかい潜って簡単に距離を詰めてくる」


「それに長い腕で身体を勢いよく掴まれて、投げ飛ばされたり、(さら)われたりするみたい」


 リュッカのお客さんの中に、戦いたくないと口にした人がいたそうだ。


 実際、グリーンエイプの生息地はラセルブ山脈のような山か森や山の地形迷宮(ダンジョン)に生息するという。


 俺は影魔法が得意なだけあって、ステルス魔法を当てにされた。テテュラほどではないが危険を少しでも回避するなら協力を惜しむことはない。


「わかりました。とにかくそのグリーンエイプの遭遇は避けるべきだと……」


「他の魔物もそうだが、特に注意が必要なのはそれだ。頼むよ」


「はい」


 こっちはこれだけの大所帯で移動するわけだ。襲われればひとたまりもない。


 ここに来て、急に緊張感が走るが……、


「そろそろ良い焼けめがついてきたよぉ〜」


「食欲をそそりますなぁ〜」


 リュッカが綺麗に(さば)いてくれた魔物肉はこんがりと美味しそうな香りが漂うと同時に、その香ばしい匂いに駆られ、お預けを食らったようなアイシアとキャンティアがうるうると見つめてくる。


「……焦げてもしょうがないから食べよう」


「そうだね」


「「――やったぁーっ!!」」


 待ち兼ねたと焚き火を囲み座る二人。


 さっきの話を聞いていたのだろうか、呑気だなぁ。


「それにしてもわたくし、こんな風に食事を取るのは初めてですわ」


「まあ、私達は貴族ですしね……」


 カルディナとナタルは動揺しながらも、そっと串焼きにされた魔物肉を手にする。


「まあ、これも経験だよ」


「ふん。上品だけじゃ生きていけないよ」


 フェルサはがぶりとかぶりつき、豪快に食いちぎると、お前には出来ないだろうとカルディナに軽く視線を送りながらドヤる。


 そのかぶりつき方には元男として、ものすごーく気持ちがわかる。


 小学生の時の林間学校、バーベキューをした時が懐かしい。


 今のフェルサみたいな食いちぎり方はできなかったが、必死に噛みちぎろうと食いしばっていたのを思い出す。


 都会っ子だったから、変な憧れがあって興奮してた覚えがあるな。


 とはいえ、フェルサは相変わらずカルディナの敵視は変わらないようで。


 子供かよ。


 それをポカンと見ていた二人だが、


「こうですの!」


 カルディナは遠慮なく、がぶりっ!


 これには思わずフェルサもピンっと耳を立てて驚いた。


 それもそうだ。俺だって驚いた。


 騎士を志し、どちらかと言えば凛としたカッコイイ女の子のカルディナ。


 しかし品性があるが故に、魔物肉にかぶりつく姿は想像できなかった。


 横にいるナタルも真剣に魔物肉をガン見して悩むが、


「む、無理しなくていいよ、委員長。自分の食べやすい方法でいいからね」


「そ、そう?」


 だが横で口元が汚れることを気にせず食い進めるカルディナは、実に美味しそうである。


「なるほど、これはナイフやフォークで食べては感じられない美味しさですわね。切り分けていては、この旨味の効いた肉汁を口いっぱいに味わうことは困難ですわね」


 ぺろりと平らげると、口元を上品に拭き始めた。


 その余裕のある様子にフェルサは悔しそうである。


 その表情を見たカルディナは、ニヤリと嬉しいそうに嘲笑する。


(あ、あの顔……)


 貴女の想定通りにならなくて残念だったわねと、顔に書いてあるようだった。


 そのカルディナの表情にカチンときたのか、持っていた魔物肉をガツガツとやけ食い。


「まったく……ん?」


 呆れながら横を振り向くと、


「ほらシア、ここについてる」


「え〜、拭いて」


 アイシアの口元をリュッカが拭いている姿が目に入った。


 こっちはこっちでお母さんと子供みたいになっていた。


「リリアちゃん達は野宿は初めて?」


「え? ああ、いえ。実家から王都までの旅の時には、キャンプしてましたから……」


「そっか。でも彼女達にはいい経験になったみたいだね」


 ロイドもこの光景を微笑ましく見ていたようで、優しく微笑みながら語った。


「この先が大変だからこそ、こうリラックスできる時というのは大切だね」


「そうですね。英気を養わせてもらいます」


 そう言うと、俺も汚れることなど気にせずにかぶりつき、完食した。


 夕食を済ませ、星が一望できる場所で食休み。


 と言っても、(さえぎ)るものもなく、ただただ星空が広がるだけだが、実に綺麗だ。


「こう周りに何も無いと壮観ですわね」


「まったくね。これも旅の醍醐味(だいごみ)かしら?」


「ふん!」


 カルディナは、ちらっと視線をフェルサに送り同意を求めたが、振られてしまった。


「相変わらず、仲が良いですわね」


「どこがっ!!」


「あら? 違うの? 構って欲しいからわざとツンツンしてるのかと……」


「違うっ!!」


 フェルサが(いじ)られている姿は、中々微笑ましい。


 本人は敵意剥き出しで威嚇しているところが尚、可愛げがあるように見えてしまう。


 すると俺の隣に座ったアイシアが星空に手を伸ばす。


「なんだか手が届きそうだよね……綺麗」


「はは。聞いたことがあるセリフだ」


「そう?」


「まあね」


 ドラマやアニメなんかで聞いたことがあるセリフだ。決まって主人公とヒロインの重要なシーンのフラグだったように思う。


「まあ私達の故郷からの星空もこんな感じだからね」


 俺はそういう意味で言ったのではないが、確かにあの付近の夜空もこんな綺麗な星々が飾る景色だった。


「ねえ。あの星に届いた人っているのかな?」


「聞いたことありませんわ。ただアレに名前はあるそうだけど、知識がありませんわ」


「へー……名前があるんだぁ……」


 こちらの世界にも天文学があるのだろうか。


 しかし異世界で惑星外に興味を持つのも稀と考えた。


 何せ、向こうは月に降り立った人物が歴史に名を刻み、地球外の惑星があると知りながらも、興味を持って取り組む人間は圧倒的に少ない。


 異世界人があの真空の世界を宇宙と呼ぶ日は遠いのではないだろうか。


「あの暗闇の世界の先には何があると思いますぅ〜? 是非、議論して欲しいものです!」


「言い出しっぺのキャンティアはどう思う?」


「そうですねぇ〜、現実的な話をすると魔界が存在するのではと仮定を立てたことがあります。魔物は負のエネルギーと魔力によって形成されると言われてますが、実はこの世界に侵攻してきた侵略者だと考えています」


「めちゃくちゃですわね。魔物学ではちゃんと証明されているでしょう?」


「魔物が別世界から来たなんて話は仮説で、正直そこはどうでもいいんです! つまりはあの暗黒の世界の先にも我々みたいなのがいるかもと想像するところにロマンを感じません!?」


 同情を求めるが、イマイチ頭に入ってこない俺以外の一同。


 俺からすれば宇宙人説を信じるか、信じないかという話にしか聞こえてこない。


 想像力豊かなキャンティアにとっては、あの星の先の世界もインスピレーションを養う材料に他ならない。


 未知を探求するも、未知を想像するもその人次第。


 宇宙を目指した偉人達も、子供のように純粋な気持ちであの無限にも広がる世界に挑んだのだろうか。


 まさか異世界に来て、宇宙について考える日がくるとは思わなんだ。


「人の感性はそれぞれだからね。そうあってくれれば面白いけどね」


「わかりますの?」


「うーん、居たら面白いかなって」


「私はちょっと怖いわ。真っ黒な世界を行くって言うのは……」


 ナタルのその言葉にキャンティアはキョトンとした表情で答えた。


「そう? 人生もそんなもんじゃない?」


「!」


「一寸先の未来なんて誰もわからないし、知らない。それってあの暗黒の世界と一緒でしょ? 職業柄上、色んな人の話を聞くけど、人間の方がよっぽど恐ろしいよ」


 人間の悪意の先には、確かにロマンはないだろうな。


 それを考えれば、儚く光る星々の中を進むロマンの方が心躍るだろう。


「ね? 未知を考える方が楽しいよ!」


「……負けましたわ。お気持ちの理解は追いつきませんが、熱意は伝わりましたわ」


「でもそっか……」


 アイシアは星に届きますようにと、願いを込めるように再び手を伸ばす。


「誰かたどり着くのかな?」


「……たどり着くと思うよ。きっと」


 俺には確信がある。


 魔法が無い世界で、魔法みたいな成果を出し続けた世界があるんだ。魔法があるのにその成果が出ないなんてことはないだろう。


 まあキャンティアみたいな考えになる人間がいればの話だが……。


「夢を語るのはここまでにして、そろそろ休みましょうか」


 ***


「よし、今日はここで準備を整えようか」


 ラセルブ山脈が(そび)え立つ姿を眺めながら、彫刻の町とも言われるパルマナニタへとたどり着いた。

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