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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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07 出航! 西大陸へ

 

「はわぁあ……」


 大きなあくびと共に起床。目を擦り、覚醒を促すと横のベッドには、まだ夢の中にいるアイシアが気持ち良さそうに眠っている。


「アイシア……起きて」


「……ぅん、うぅん……」


 艶っぽい声を上げながら、もぞもぞと寝転がる。


「今日は出発日でしょ? 起きな」


「…………あっ!」


 思い立ったように起き上がるアイシア。


「へへぇ……おはよう」


「うん。おはよう」


 俺達は朝支度を済ませ、着替えることに。


 西大陸へ向かうため制服ではなく、目立ちにくく、違和感のない服装で向かうこととなる。


 その着替えと持ち物の準備の際に軽い雑談。


「いよいよだね」


「うん。アイシアは怖い?」


「……どうだろ。まだ実感がない」


「そっか」


 西大陸での話は、危険だ危険だと言われ続けているだけで、そもそもの実感はない。


 治安のいい国で育った、所謂(いわゆる)ゆとりだろうか、どこかに心の余裕がある。


 だけど、やはりクルシアのことが(よぎ)ることもあってか、慢心はない。


「でも止めなくちゃって、ちゃんとわかってるよ」


「そうだね」


 俺はバサッとローブを整える。


「止めよう。そして無事に帰ってこようね」


「うん!」


 準備を整えた俺達は食堂へ。


「あ、おはようございます」


「おはよう! テルサちゃん」


「もう……まあいいです」


 今日は下手にツッコむまいと、朝食を出してくれた。


 そしてそこには既に準備を終えて食事をするリュッカ達の姿もあった。


「おはようシア、リリアちゃん」


「おはよう。昨日は眠れた?」


「うん。大丈夫」


「みんな大袈裟。もっと肩の力、抜いていいよ」


 フェルサがいつも通り食事を取りながら、そう語る。


「はは、かもね。だから、委員長もさ……」


「……そうね。すぐにアイツとぶつかるわけでもないし……」


 一番緊張しているのはナタルだった。


 俺も内心はハラハラもんではあるが、ナタルは違った意味での緊張感を持ち合わせているよう。


 理由はわかるのだが……、


「そうだよ。それに、私はちょっと楽しみなとこもある」


「楽しみ?」


「そ。だって東大陸(ここ)を離れるなんて今までなかったから……」


 旅の目的や俺の立場を考えると、素直に観光気分で赴ける場所ではないが、暗い気持ちで冒険に勤しむよりはいいだろう。


「そうだね。嫌なことばかりに目を向けるのもね。せっかく遠出するわけだし、楽しむところがあれば、楽しもうか」


 向こうだって人は暮らしてる。


 みんながみんな後ろ向きに生活しているわけではないだろう。


 実際、俺達が行こうとしているのは娯楽都市と呼ばれている場所だ。少なくとも観光名所はある。


「そうそう! せっかく行くんだから楽しんできな! お土産、期待してる!」


「してる〜」


 意気揚々とグッとポーズを取るユーカとタールニアナに、他人事だと思ってとぼやきながらも、


「はいはい、わかりました」


 適当に返事をすると、首を傾げられる。


「……リリアちゃんは北だよね?」


 俺は思わずギクリと身体が(よぎ)る。


「まるで一緒に行くみたい……」


「ああっ! いや、えっと……」


 寮のみんなにはアイシア達は西大陸の方へテテュラの情報を集める、俺は北へ行き、テテュラの病気の治療法を探すという名目で説明している。


 西大陸に俺が行けないのは、世間的常識でみんな知っていることだが、俺がみんなと楽しげに語るところに違和感を持たれたよう。


 注意力が足りなかった。


「お互いにテテュラのことで思い詰めず、気軽にしてた方が物事が円滑に進むんじゃないって励ましあってたんだよ〜。ね?」


「う、うん」


「ふ〜ん……」


 ジッと疑り深く迫るユーカだったが、


「わかったよ。それで納得してあげる」


 深追いはせずに引いてくれたが、見透かされているような言い方に余談は許さない。


「まあ何にしても気をつけて下さいね。西大陸はここより治安が悪く、北大陸は極寒の地です。くれぐれもお気をつけて下さいね!」


「「はーい」」

「はい」


「――伸ばさない!」


 ちなみに先生方にはテテュラの魔石化については伏せた状態で、旅の目的を殿下から受けている。


 先生方もひどく心配していたが、頑張るよう励ましを貰っていた――。


 ***


「あっ、ヘレン。皆さん」


「来た。おーい……」


 俺は一足早くカーチェル劇団に合流。入れ替わるならここだ。


「じゃあ頼んだよ、ヘレン」


「そっちこそ準備は大丈夫?」


「うんと……」


 俺はマジックボックスの中身を確認し、首から偽装魔石もペンダント風にしてかけている。


「うん、大丈夫」


「その変わった武器も大丈夫なの? 使い慣れた杖の方がいいんじゃない?」


「それもちゃんと持ってるけど、最近はこっちも使えるの。心配しないで」


「そっか」


 するとヘレンは少し不安そうな表情を浮かべる。


「……私、大丈夫かな?」


「?」


「テテュラさんのこと……びっくりしちゃった」


 ヘレンはリリアとしてテテュラと同行する以上、知ってもらわないと辻褄(つじつま)が合わないため、出発日の前にテテュラと合わせていた。


 その時のヘレンの反応を今でも忘れられない。


 あの時の俺達と同じ、驚愕と絶望に満ちた表情。


 ヘレンの脳裏にも簡単に浮かんだだろう、テテュラを元に戻すのは不可能ではないかと。


 俺達が真実を語る中でも、言葉を失ったヘレンをよく覚えている。


 酷なことを頼んでしまったと、その時後悔した。


 だがヘレンはテテュラと別れた後、改めて引き受けると口にしてくれたことに、感謝しかなかった。


「ごめんね。でもヘレンに解決してほしいって話じゃ……」


「わかってるよ。ハーメルトの魔術師でもお手上げなんでしょ? 私みたいな素人が何かできるとは思ってないよ。……ただ、テテュラさんに寄り添えるかなって心配」


「それは大丈夫だと思ってる」


 悩みもせず、さらりと答えた発言に驚いた様子で見るヘレン。


「そうやって真剣に悩んでくれてるから、私は心配してないよ。むしろ重荷になってるみたいで何かごめんね」


「ううん! 私こそ……。ねえ、リリア……やっぱり行くの?」


「……? うん」


「行くの……やめない?」


「!」


「テテュラさんのあの状態を見て、話も聞いたけど……危険過ぎるよ」


「仮にやめたとして、ヘレンがそこに向かうことになるけど?」


「……私は戦うわけじゃないから……」


 意地悪な質問だったか、ちょっと申し訳ない。


「……心配してくれてありがと。でも、私がそうしたいから……巻き込んでごめんね」


「勝てる目算はあるの?」


「さあ? 何だかんだと出たとこ勝負で流してきてるから、今回も……かな?」


 特にテテュラの件に関しては、あのオリジナル魔法は本当に賭けだった。


 あのガントレットが出なければ、テテュラは取り返しがつかないことになっていただろう。


「リリア……」


「そうは言ったけど、準備を重ねた上でそうなってるって話だから。ちゃんと準備はしてるよ!」


 不安そうに見つめられてしまったので、狼狽(うろた)えながら答えた。


 予想外は付き物。


 その準備と今までの経験からくる瞬発的発想力が必要となるだろう。


「友達のため……だからか」


「それもあるけど、やっぱり自分のためかな?」


「自分の……?」


「うん。怖いんだよね。失うかもってだけでこう……苦しくなる。信用してないのかって怒られちゃった」


「……」


「信じてないわけじゃないよ。みんな、強いから。でもさ、それでもわかるんだよ……クルシアの強さは異常だって……。だから失うことが怖い、臆病な私は戦いたいんだよ」


 するとヘレンは俺の両手を掴み、ふるふると首を横に振る。


「違うよ。大切な人を心配して怖がることは臆病じゃないよ」


「そうかな?」


「そうだよ!」


 そっと握った手を離し、ヘレンは吹っ切れた表情で語る。


「私の方がごめんだよ。覚悟を決めて向かう貴女に弱音なんて吐いてられない。しっかり送り出してあげることが、今の私がするのこと……だよね」


 スッと握手を求めてきたので、それに応じた。


「頑張って! 私も出来る限り、頑張るから……」


「ありがと、ヘレン!」


 だがさらにダメ押ししておこうと、俺は小指を立てる。


「ヘレン、約束を交わそう」


「約束?」


「そ。私の故郷の約束のおまじない。また会おうって約束するの。小指をこう、立てて」


 ヘレンに小指を立てている自分の手を見せて、指示する。


「こ、こう?」


「そして、お互いの小指を組んでからこう言うの。ゆ〜び切りゲンマン、嘘ついたら針千本呑〜ます。指切った、てね」


 一連の指切りの流れを説明すると、ふふと微笑んだヘレンの一声。


「指切るって怖いね。針千本も」


「約束を破ると恐ろしい目に合うから守ろうねってこと。本当にはやらないよ」


「わかってるって。さすがに……」


 改めてそう言われると、昔の人のおまじないは中々猟奇的である。


 指を切ると針千本もそうだが、生贄やら供物やら。


「じゃあ約束」


「いいよ、やろう。そのおまじない」


 俺達は小指を組んで、約束の契りを交わす。


「「ゆ〜び切りゲンマン、嘘ついたら針千本呑〜ます! 指切った!」」


 お互いに指を離し、約束を交わした。


 古臭いと思ったのはご愛嬌。時代劇モノの子供役の子がやっていたのをふと思い出してのことだが、ヘレンにはわからない話だろう。


「テテュラのことは任せた」


「うん。お互い、無事でまた会おう」


 話がひと段落ついたところに声がかかる。


「そろそろ出るよ。リリアちゃん、乗って」


「あ、はい。それじゃ……」


「うん。気をつけてね」


 ヘレンと俺は姿が見えなくなるまで手を振った。


 互いの無事を祈るように。


 ***


「見送りに来て下さり、感謝致します。殿下」


「当然だろう。こちらは無理なお願いをしているのだから……」


 俺達はこれからカーチェル劇団の馬車でアリミアへと向かい、そこから出ている船で西大陸へと向かう。


「ロイド殿も。道中、大変かと思いますが、よろしくお願いします」


「そうかしこまらないで下さい、殿下。前金まで頂いています、しっかり仕事させてもらいますので……」


 アイシア達も出発前に殿下へ挨拶。


「では殿下。行ってきます!」


「ああ。頑張ってきてくれ。しかし……」


 ハイドラスはキョロキョロと辺りを見渡すが、その行動に皆が疑問を抱く。


「オルヴェールの姿がないな。見送りに来ると思っていたのだが……」


「「「「!!」」」」


 フェルサ以外のみんなと、馬車の中で身を潜めている俺もビックリ。


 言われてみれば、アイシア達の見送りに来ないのは不自然だった。


 同じ日に出発とはいえ時間帯はズレていて、アイシア達の方が先に出るのだ。見送りがないのはおかしい。


「えー……えっとですねぇ」


「彼女は彼女なりにテテュラさんの力になれないかと、考え込んでいました。集中していて気付いていないのでは?」


 少し苦しい言い訳にも聞こえてきたが、アイシアの酷い動揺からきそうな答えよりは幾分マシだろう。


 ナイスカルディナさん!


「でしたら、声をかけてきましょうか?」


 ハーディスめ、余計なことをと思ったのも束の間。


「それには及ばない。西行きの船に間に合わなくなる」


 そう吐き捨てるとフェルサはヒョイっと馬車に乗り込んだ。


 フェルサの言う通り、規制の厳しい西大陸へは本数が少なくなっている。


 これもテテュラが起こした事件の影響だ。


「フェルサさん! ……まったく、すみません殿下」


「構わないさ。だが、フェルサの言う通りだな。あちらにも赴くつもりだ、その時に伝えておこう」


 ハイドラスの前で失礼な態度を取ったフェルサを叱るナタルはさながらオカンのよう。


 だがナイスフォロー、フェルサ。


「みんな、改めて……今回の目的は、魔人の魔石の奪還、クルシアの陰謀の阻止だが、無理はするな。必ず、無事に帰って来てくれ。頼むぞ」


「「は!」」

「「はい!」」


 貴族陣と平民陣で返事の仕方は違ったが、どちらも覚悟がこもった返事だった。


 ――そしてみんなが馬車に乗り、出発。


「――行ってきまぁーす!」


「ああ! 気をつけて行って来い!」


 元気いっぱい手を振るアイシアに、ハイドラスもしっかり応えた。


 ザラメキアの森へと向かう馬車を見ながら、ハイドラスは呟く。


「頼むぞ。さて……」


 ハイドラスは馬車に背を向け、歩き出す。


「我々も成すべきことをするぞ。ついて来い」


「「は!」」


 彼らは彼らで、この国を守るというやるべきことへと歩き出すのだった――。



 ――ザラメキアの森へと入り、もう大丈夫かなと俺はひょっこりと馬車から顔を出す。


「……」


「もう大丈夫ですわよ、リリアさん」


「はは。ありがと」


「まあでも油断しないで下さいませ。アリミアでは顔が割れていますし、王都の騎士もいます。しっかりコンタクトをしてくださいな」


「してるよ。ほら」


 俺の瞳の色がヘレンの瞳の色へと変わる。


「バッチリだね、リリィ!」


「うん。偽装魔石もかけてるし、万全だよ」


 すると馬車を引いているカーチェル劇団の人が声をかけてくる。


「闇属性持ち対策は万全って感じだな。だが、入国審査も厳しくなってるから、気をつけなよ」


 顔のいい兄ちゃんが忠告。


「どんな審査がされるとか、わかります?」


「いや、荷物検査や属性の水晶石を使って調べたり……くらいかな?」


 それくらいなら大丈夫だろうと、ほっと一息。


 俺は変わった武器を持っているが、西大陸へ行く以上、武器の所持は認められるだろう。あまり見かけない武器だとは言われそうだが、問題ないだろう。


 偽装魔石だって、他の人工魔石と色合いは変わらない。首に下げることくらい許してくれるだろう。コンタクトは目についてるからバレないだろうし。


 素っ裸にされて水晶石に魔力を流せと言われない限りは大丈夫だろう。


「まあ行くと決めた以上、腹(くく)らないとね」


 ――そうこう話しているうちに、アリミアへ到着。


 ここへは魔人事件以来。苦い思い出もある街だが、ナタルの故郷だ。今日は通るだけだが、いつかいい思い出も作りたいものだ。


 俺達は港へ到着。


 そこには、豪華客船のような大きな船があった。


 船に乗るため、馬車を降りたアイシア達は思わず呆気に取られる。


「スッゴイ大きな船だね、ナッちゃん! リリィ! リュッカ!」


「あー……はいはい、落ち着いて」


 俺はこの街の人に顔が割れているので、馬車内から手を振ってツッコミ。


「西大陸行きは基本、物資を運ぶためのものですもの。これほど大きくもなりますわ」


「ほえー……」


 西大陸と東大陸は仲が悪そうな印象を持っていたので、貿易していることに驚くが、思えば向こうだって犬猿の仲でも貿易交流はあったわけだしと脳裏に浮かんだ。


「てことは、西からも?」


「ええ。西大陸はこちらとは違い、多くの山々が連なっています。確か……ファニピオンへも山道を行くのでしたよね?」


「そうだよ。ファニピオンはラセルブ山脈の向こうにある国だからね」


「ほうほう」


 そのあたりの話は船の中か、向こうについてから話すそうで、話題が戻る。


「向こうでは上質な魔石や魔物の肉、皮、爪、牙など食材や素材などを輸入しているの」


「へ〜……」


 向こうは強い魔物も多いと聞くし、こちらより上質な物が揃うのだろう。


「あと有名なのはドラゴン関係ね」


「そうですね。西大陸はドラゴンの聖地ですから……」


 そういえばそんな話もしてたなぁ。


「じゃあポチの家族や友達とかいるかな?」


「はは。申し訳ないけど、そっち方面には行かないよ。それにドラゴンの生息域に行くなら、もっと準備をしなくちゃ、危険だからね」


「うん。逆方向」


「そうなの!? 残念……」


 ロイドとフェルサがそう断ると、アイシアは残念そうに落ち込むが、内心、俺もがっくり。


 ドラゴンと言えばファンタジーの象徴。


 危険な旅路とはいえ、一目はポチ以外の野生み溢れるドラゴンを観たかったものである。


 だがロイドの言う通り、ドラゴンも魔物である以上、それも呑気な話である。


「じゃあそろそろ船に向かおうか」


 今回の旅の同行者であるカーチェル劇団は劇団長であるロイドを含めた少数。


 西大陸の入国審査の際には、少人数での劇団活動という名目で通るのだそう。


 俺達はその劇団員として同行する。


 とはいえ、人数や荷物を考えると馬車は三台。中々の大所帯である。


 船で行けるのかなぁと思っていたが、船の中に馬車を収容できるところを見て、馬車で行けるという理由には納得がいった。


 そんな船に乗り込もうとすると、叫んで呼び止める声が聞こえた。


「――ナタルっ!」


「――! お父様! お母様!」


 そこにはナタルの両親、ジェイルとナルビア。執事であるレイゼンの姿があった。


「見送りに来てくれたの?」


「当たり前だろ。な?」


「ええ」


 するとナルビアは優しく抱擁(ほうよう)する。


「本当はね、行って欲しくないのよ。本当は……」


「……お母様」


「大事な娘だからな。私だってそうだ、行って欲しくない。いくら陛下の頼みであっても……だが、行きたいという気持ちも……理解できる」


 悔しそうに語るジェイルの握り拳は震えていた。


「あの男は当事者であるにも関わらず、我々のすぐ近くで嘲笑(あざわら)っていたのだ。さぞ愉快だっただろうな……!」


 自分の無力さ。(もてあそ)ばれていたという悔しさと怒り。そして娘を奪った憎悪と憤怒……その感情の全てが握られているように感じた。


「本来なら私も行きたいと思うが、私には守らなければならないものがある。いつまでも奴に対する怒りに染まっているわけにもいかない」


 ジェイルはアリミアの街を観ながらそう語ると、ナタルの頭を優しく撫で始めた。


「お前もしっかりと自分を貫け。憎しみだけに囚われるな、いいな」


「……はい! お父様」


「大丈夫ですよ。我々もいますから」


 無粋だとは思ったがと前置きを入れて、カルディナが横槍を入れる。


「……皆さんも大変でしょうが、どうか娘をよろしくお願いします」


 深々と頭を下げられリュッカは動揺するが、他のメンバーは……、


「任せて下さい!」


「任せろ」


「お任せ下さいな」


 中々頼もしい方々である。


 聞き耳を立てながら、荷馬車に揺られる俺は苦笑い。


「……では行ってきます」


「必ず、無事に帰ってくるのよ」


 旅の真の目的を知るナタルの両親は涙ながらに手を振って見送ってくれた。


 レイゼンは弁えてか、優しい眼差しで今までを見守っていた。


 俺達が乗り込み、少し経ったあと、ピィーと出航の笛が鳴る。


「――出航ぉ!!」


 乗務員が大きな掛け声を上げ、遂に出航――。


「いよいよだね」


「あ、リリィ」


 もう大丈夫だろうと俺もアイシア達のいる甲板まで出てきた。


 馬車が置かれている場所は臭いがキツくて堪らん。


 パタパタと手であおぎながら出て来る。


「お疲れ様。あとは向こうでの難所を乗り越えればひと段落ですかね?」


「まあね」


 俺からすれば向こうの入国審査が鬼門。


 だが、それも通過点でしかない。


「何とかなるように準備したから大丈夫だよ。それより、クルシアだ」


 みんなその人物名を聞き、真剣な表情に変わる。俺達の今回の旅の目的だ、否応にでも気合が入る。


「奴の好きにはさせない……そうでしょ?」


 各々肯定した返事をして目的を改めて確認する。


「よし! 行こう!」


 そんな俺達を乗せた船はゆっくりと西大陸へと向かう。


 俺達の運命も乗せて。

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