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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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06 押し通したいエゴ

 

「あ! 久しぶりだね、リリア」


「うん、久しぶり」


 俺は早速交渉しようとヘレン、もといカーチェル劇団が下宿している場所へと赴いた。


「どうでしたかぁ? リリアさん! 素晴らしい舞台だったでしょぉ?」


「はは。まあ……」


 キャンティアは相変わらずのテンションの高さ。自分の脚本に絶対的な自信があるよう。


 個人的にはもう二度とやって欲しくない舞台です。


「ほら、キャンティア、落ち着きなよ。困ってるだろ?」


「はーい」


「それで……ここに来たのは例の件かな?」


 ロイドは陛下のお願いを聞き入れたはずだ。その事件の中心人物だった俺が訪ねにくれば、そのあたりの予想をつけるのも難しくはない。


「はい。殿下からお伺いしてると思いますが、西大陸へ向かうとか……」


「それ自体は問題ないと思う」


 思うというのが引っかかったが、


「西大陸も行動範囲内だからね。君達の話も聞かせてもらったよ」


「クルシアでしたっけ? いやぁけしからん! けしからんですなぁ!」


 カーチェル劇団は協力してもらう以上、危険なお願いであることを説明していたようで、真剣に捉えてくれているよう。


 キャンティアは楽しそうなのも見え隠れしているが。またネタになりそうとか図太いことでも考えてそうだ。


「リリア、大丈夫。私達がしっかりと道中、サポートするから……」


「そのことなんだけど……」


「ん?」


「私は行かないっていうのは知ってるよね?」


「勿論。君は闇属性持ちだからね。行かない方がいいだろう」


「それを承知でお願いしたいことがあるの。……私も連れてって欲しい」


「「「!!」」」


 話を聞いている三人は驚くと、ロイドが忠告する。


「……事情を聞いたからある程度は言いたいこともわかる。そのクルシアって男をなんとかしたいとか、友達の力になりたいとか、そんなあたりだろう」


「はい」


「けどね、建国祭での事件をきっかけに西大陸は入国が厳しくなっていると聞く。僕らも陛下からのお願いがなければ、当分こちらで活動するつもりだった。僕らですら躊躇(ちゅうちょ)しているのに、闇属性持ちの君が行くのは危険過ぎる」


 優しい口調ではあるが、本気で心配してくれていることがわかる。


 闇属性持ちというだけでという、テテュラの言葉が頭を(よぎ)る。


「わかってます。わがままなことを言ってるってことも自覚がありますし、迷惑だってかけることも……」


「それをわかっているなら、やめた方がいい」


 俺はそれでもと無言で真剣な眼差しを送る。


「ロイドさん、とりあえず聞くだけ聞きません? 対策無しにこの提案をするなら却下ですけど、真剣みたいですし……」


「ヘレン!?」


 聞いてくれるのは有り難い。


 しかもヘレン自体に結構お願いすることから、ヘレンからそういう言葉をもらえるのも心強い。


「結論から言うと、ヘレンと私を入れ替わって欲しいんです」


「おおっ!!」


「おおっ、じゃないキャンティア。……確かにヘレンと君はとてもそっくりだが、それだけでは対策にはならないよ」


 確かに、人物を偽れば上手く事を運べるわけではない。


 そう言われたので、偽装魔石をテーブルの上に転がす。


「それは……」


「人工魔石……偽装魔石ですかね?」


「知ってるんですか?」


「うん。確か、向こうの闇属性の組織さんがよく持ってるやつだよ」


「なんでそんな物を……」


「ちょっとした伝手でね」


 マリエール兄妹のことだ、学校での授業で作ったか、裏ルートで入手したあたりだろう。


 あの兄妹は貴族だし。


「なるほど、これを使えば属性を偽装できるわけですなぁ〜」


「いや、だがこれだけでは……」


「後はこれ」


 俺は自分の眼を指差して、見るよう促す。ジッと見つめられ、照れ臭い。


 だが、


「おおっ!?」


 すると瞳の色がヘレンそっくりの赤茶色に変わっていく。


「これは……?」


「カラーコンタクトですね!! 最近、皆さんの間でも芝居の役作りやオシャレにと重宝されてます!!」


「何でも知ってますね」


「情報というのは、いくらあっても腐りません。ましてや脚本家の私は特に!!」


「つまり、これらを使って私になりすまして西大陸に行こうってわけ?」


「うん。それにこのコンタクトなんだけど、擬似魔眼としても機能する優れ物でね。属性を調べる水晶石に干渉できるみたい」


 眼鏡売りのお兄さんから、お礼にと渡してくれたものだ。


 偽装魔石はあくまで探知系の魔法から逃れるための物。


 つまりは恩恵の儀などで使用される属性判別の水晶石を入国審査などで使われれば一目瞭然、闇属性持ちだとバレてしまう。


 だが、このコンタクトに施された術式はその水晶石の魔力回路を(いじ)るもの。


 その水晶石は流れた魔力を介して属性を判別する。


 つまりその判別するはずの回路を少しばかり(いじ)れば、そこも誤魔化せるのだ。


 本来の目的は相手の魔法発動の妨害や治療などに用いられるものだが、水晶石のような探知系に使えば偽装が可能とのこと。


 これだけの性能の物だ、本来は買うつもりだったのだが、これだけ利益を上げてくれた俺に恩を返しておくのも悪くないと言われた。


 個人的にはフェアなやり取りのつもりだったのだが、向こうは俺が思っている以上に感謝していたようだ。


「擬似魔眼ですか……」


「このレンズに術式が施されていて、自在に使えるようです。魔眼とは違い、魔力を使いますが、相手に悟られにくいのは間違いないです」


「なるほど、潜入できる装備は万全だと」


「うん」


 俺の提案を聞いて頭を悩ませるロイド。


 確かに準備を万全にしても、絶対ということはない。


 俺としては了承して欲しいが、安全面を考えるロイドの意見も尊重すべきことだろう。


「……君が行くということを彼女達には?」


「まだ話してません。でも、同行を許してもらえるなら、ちゃんと話します」


「だろうね。うーん……」


 再び腕を組んで悩む。


「わかった、君の同行は認めよう。だが、入れ替わると言ったね? どういうことだい?」


「あ、言われてみれば……」


「私も別に陛下からお願いをされています。それは、テテュラを元に戻すための手掛かり探しです」


 その話をすると、三人は不思議そうに首を傾げる。


「元に戻す? なんの話だい?」


「!」


 そっか。テテュラのことはさすがに最重要機密になるのか。


 あそこにいたみんなは当事者だから知っているが、カーチェル劇団の人達は、あくまでクルシアの話しか聞いていないのか。


 その証拠にキャンティアの目が好奇心を隠せない期待の眼差しを向ける。


 カーチェル劇団の人達は魔人事件をモチーフにする際にも、敬意を忘れなかった人達だ。


 信頼に値する、思いやりある人達だと考えるが、テテュラの魔石化はさすがに話すことを躊躇(ためら)ってしまう。


 人物の魔石化の情報の漏洩は極力避けるべきだろう。


 話すにしても大きく関わるであろう、ヘレンだけだ。


「知らないならいいんです……」


「いやいやいやっ! 頼むんだったら、情報の開示を――あだっ!?」


「キャンティアさん」


 ヘレンは落ち着くよう、キャンティアにチョップ。


「あのクルシアって人の話だけでも物騒なのに、これ以上、何に首を突っ込むつもりですか?」


「いやぁ〜……だぁってぇ〜」


「だってじゃない!!」


「……何か、ごめんね」


「いや、こちらこそ紛らわしい話をしてごめんなさい。とにかく、私に依頼された方も何とかしたくて……」


「確か……一人、大人びたクールな人がいたけど、その人じゃなかった?」


 ヘレンは俺に密着していた記憶の中から、テテュラのことを思い出す。


「うん。彼女がちょっとね……。北大陸に行けば、彼女を治療する手掛かりが見つかると思うの」


「北って……」


「おおっ!! ヘレンちゃんの故郷じゃないですか!」


「うん。ヘレンなら北大陸にも詳しいと思うし、下手に私が行くよりはって……どうかな?」


「なるほど。だから入れ替わりね……」


 俺の言いたいことを呑み込んだのか、少し悩むと、


「わかった。私も里帰りしたかったし、いいよ」


「……! ありがとう!」


 ヘレンは了承してくれた。


 その後は今後の方針について話し合い、ヘレンには後日、テテュラの状況を説明する形となり、カーチェル劇団への説得に成功したのだった――。


 ***


 その数日後、着々と極秘任務の準備が進む中、カルディナ達がカーチェル劇団と最終確認前に時間をもらい、俺が同行することを説明する。


「――なるほど……わたくしは反対ですわね」


「……」


「カルディナちゃん……」


 バレない対策等を説明したが、カルディナは少し怖い表情で睨み、同行を拒否した。


 拒否理由については自覚がある。


 俺自身の存在を向こうでバレてしまった場合のハーメルトに対する損失があまりにも大きいことだ。


 だから俺も無言でその意見を聞き入る。


「貴女、わかっていますの? 万が一でも貴女の存在が公になれば、五星教がハーメルトを攻める口実を作ってしまうことを……」


「それもわかった上でお願いしてるんだよ」


「お話になりませんわね」


 俺の同行に賛同っぽい三人は、このピリついた空気にオロオロ。


 テテュラとフェルサに関しては互いのペースで見守る。


「確かにカルディナさんの言う通り、絶対ではないよ。だけど、あのクルシアが相手だ。魔石を奪うか、適合者になってしまった者の奪還、保護だとしても困難なことなんだよ」


「貴女が味方であれば、確実に(こな)せるというものでもありませんわ。黒炎の魔術師と言われ、(おご)りましたか?」


「そんなことはないよ。私だってまだまだ未熟だよ。だからこそわかるんだ……どれだけ険しいことなのかって……」


「わたくし達のことを信用してないと?」


「――そんなことも言ってない!」


 激しくなる口論だが、俺達は割と冷静だ。


 色んなしがらみがある中で、互いに最善の答えを探そうとしている。


 俺はクルシアを止めて、みんなが無事に帰れるように力になりたい。


 カルディナはこの国の安全を確保しつつ、クルシアの謀略を止め、みんなの無事の確保。


 そのためには、闇殺しの大陸と呼ばれている西大陸にはどうしても行かせたくない様子。


 普段なら浴びせないような言葉で攻めてくる。


「貴女のそれはエゴですわ。一緒に行くことで、寂しさや恐怖心を抑えたいだけですわ」


「……そうだよ」


「……!」


「アイシアもリュッカもフェルサも委員長もカルディナさんだって失いたくない。本当なら行かないで欲しい。……だけどテテュラを見て、こんな悲しい未来があっていいわけもない。だからみんなが行くって気持ちも痛いほど理解もできる。でもやっぱり、それを見送るだけなんて……私にはできないっ!」


 本当にわがままだと思う。


 本当ならハーメルトに迷惑をかけないためにも、俺は北大陸へと向かうべきなんだ。


 でもそんな子供みたいなわがままを通してでも一緒に行きたいのは、力になりたいも勿論あるが、やはり恐怖心の方が強い。


 クルシアだけの話じゃない。西大陸自体、危ないところなのだ、もしもなんて想像もしたくない。


 それに異世界で出来た俺の居場所を失いたくない。


 守れるなら守りたい。でも、そのためには手の届く距離にいないとダメだ、だから側に居たい……そういうわがままなんだ。


「リリィ……」


「……カルディナさん。私はリリアちゃんと一緒に行きたいです」


「リュッカ……」


「カルディナさんの言いたいこともわかります。ハーメルトだけじゃない、リリアちゃん自身も危険に晒さないために言っているということも……。でもリリアちゃん、言ってました。友達を想う迷惑はかけてもいいんだって。それを許し合えるのが友達なんだって気付かせてくれた」


 勿論、尺度はあるが、覚えててくれたんだと嬉しくなってしまう。


「リリアちゃんと……みんなと一緒なら、どんな困難だって乗り越えていけます!」


「……根拠のない理屈を貴女が言うなんてね」


「理屈じゃないんです。きっと……」


 俺はリュッカの言葉に応えるように、再び説得する。


「自分のわがままだってわかってる。でも、一緒に止めたいし、守りたいし、戦いたい。苦難も喜びも全部……人間ってのはわがままで欲張りなんだよ。私は全部、叶えたい」


 共に戦い、悩み、苦しんで、その先にある勝利をみんなと分かち合いたい。


 理想は理想、現実は現実。


 一緒に行ったからといって、必ずしも望む結果にはならないかもしれない。


 でも、寄り添いあい助け合うことが出来る出来ないの選択すら与えられないのは悲しすぎる。


 クルシアは強敵で、人の心を(もてあそ)ぶ奴だ。きっと精神的に苦しむ場面はあるだろう。


 お互いの任務が終えた時、彼女達が押し潰されて帰ってくるのを見たくない。


 本当に自分のエゴで俺は弱いとつくづく考えるが、純粋に一緒に戦いたいのだ。


「足手まといになる気なんてない。そんな不安があるなら、そもそもこんな提案もしない」


 準備や方法を思いついたのはつい最近ではあるが、闇属性持ちであるデメリットは考えていない。


 クルシアが行けるのに自分が行けないことはないと、また変な根拠が頭の中に浮かんでいる。


「だからお願い、カルディナさん。私も一緒に戦わせて欲しい」


 俺は誠心誠意を伝えるために、ピシッと頭を下げた。


「私からもお願いしますっ!」


 するとアイシアも一緒に頭を下げてくれた。続くようにリュッカも下げてくれた。


 すると、


「フフ……」


 微笑する声がシンとした部屋に響いた。


「わかりましたわ。一緒に行きましょう」


「――やったぁーっ!!」


 俺達がぴょんぴょんと跳ねて喜んでいると、カルディナから意外なセリフが出てくる。


「まあ、そうは言いましたが鼻から否定するつもりはありませんでしたわ」


「「「へ?」」」


 あれだけ(あお)っておいて、何を言うかと俺達はカルディナに視線を向ける。


 そのカルディナは悪戯げな笑みを浮かべたまま、事情を話す。


「貴女のことですもの、みんなが来るなと言っても船に潜入するんじゃないかと思ってましたもの……」


 さすがにそこまでやんちゃな性格はしてないと思うが、まあ気概としてはそれくらいはしたかもしれない。


「じょあ何であんなことを……?」


「誰かが言わなければならないことだと思ったまでよ。全員が受け入れると気が緩むでしょ?」


 言われてみれば俺が話を持ちかけた時、みんなも少し安心したような表情をしていたように思う。


 カルディナは緊張感を持つよう、促してくれたのだ。


「……ありがとう」


 カルディナは意図を気付いたと判断したのか、優しい笑みを(こぼ)す。


「いいえ、どういたしまして」


「……話はまとまったようね」


 この中で傍観者になっていたテテュラが割って入る。


「リリア、ついていくなら以前忠告したことには注意することね」


「テテュラは反対しないんだね」


「全力で反対したいわ。だけど、覚悟があるようだから、下手に止めないだけよ」


 テテュラは事情を知っているが故に強い言葉を使うが、俺の意志を尊重してくれるようだ。


 だがテテュラがそれを言うと嫌に説得力がある。


 伊達にあんなテロを起こしたわけではない。


「それと貴女は向こうの闇属性の組織に狙われる可能性もあるわ。理由はわかるわね」


「五星教を倒すための戦力……とか?」


「そうね。西大陸では殿下も言っていたでしょうが、危険人物とされているそうだけど、闇属性持ちの連中からすれば、こちらの住民以上に英雄視している可能性がある。……過激派から温厚派まで色々いるわ、警戒することね」


 覚悟はしていたが、想像以上に危険が多そうだ。


 向こうには(さら)い屋なんて連中がいるんだ、十二分に警戒すべきだろう。


「貴女達も他人事ではないわよ。女である以上、(さら)い屋に狙われるわ。常に気を張ることね」


「う、うん。わかった」


 俺の場合、中身は男ですって言えばワンチャン助かるかなぁ、なんてくだらないことを考えたのは内緒だ。


 ちょっと浮かんだだけなんです、はい。


「テテュラが思う、五星教以外に特に注意すべき組織とかある?」


「……ごめんなさいね。そこの情報については詳しくないわ。クルシアに拾われてからは、鍛錬ばかりだったし、五星教ばかりが目についたからね」


 この話を聞くにあたってテテュラの青春は中々灰色だったようだ。


 改めて友達でいようと思う反面、


「本当ならテテュラを救う手段を探しに行くの……放ってごめんね」


 アイシア達と行くことに、少なからず罪悪感が残る。


「まったくね。ずっと一緒に居てくれると言った手前からこれよ」


 アイシア達もシュンと落ち込むが、すぐにテテュラは微笑む。


「そんな顔しないで。ちょっと意地悪をしてみたかっただけよ。……私がこうなってしまったことは自業自得よ。むしろ生きるチャンスをくれたのは貴女達よ。感謝こそすれ、恨み言なんて言わないわ」


「そうだね。もっと感謝すべし」


 まったく遠慮のないフェルサにみんな苦笑い。


「貴女が一緒に来て、元に戻ることが可能というわけではないもの。本来ならドクターにしかわからないことよ、これは。だったら、クルシアを止めてきて。私みたいな人を作りたくないのでしょう?」


 強く反対したいと言っていたテテュラだったが、俺の背中を押すことにも強さを感じた。


 テテュラだって、ほぼ魔石化の身体に不安がないなんてことはないはずだ。


 気が気ではないはずだ。実例のない自体に異例の出来事は付き物。


 魔石化の進行が起こるかもしれないし、もっと想定外の出来事が起こるかもしれない。


 俺達にその恐怖心を理解することは難しいだろう。


 だがそれでも、背中を押してくれた。


「うん、ありがとう。テテュラ」


「テテュラちゃんも。元に戻る方法、絶対見つかるよ!」


「絶対なんてないわよ」


「あるよ! テテュラちゃんが元に戻るのは絶対なんだから!」


 アイシアの根拠のない絶対。


 だけど、テテュラにはそれが希望の言葉に聞こえたようで、嬉しそうに微笑むと、


「そうね……わかったわ。信じてみる」


 柔らかい物言いでアイシアを信じると答えた。


「さて、貴女とヘレンさんが入れ替わること、さすがに殿下、ましてや陛下のお耳には――」


「入れない入れない! 絶対、ダメって言われて拒否される。そのためのヘレンなんだから……」


「なるほど。確かに彼女は貴女を演じていたものね。長い旅にはなるでしょうから、途中でバレるでしょうが、最初さえバレなければ問題ありませんわね」


「問題はありますが、まあ……戻ったらこっぴどく怒られて下さいな。お願いで良かったですわね。王命だったら首が飛んでますわ」


「ぶ、物騒なこと言わないでよ、委員長」


 あっちでもこっちでも首が飛ぶなんて言われると、中々物騒なお話である。


 勘弁してほしい。


「あ、リリアちゃん」


「ん?」


「テテュラちゃんに取り憑いてる使い魔さんはどうするの?」


「それについては……大丈夫だよね? インフェル」


「ええ。問題ありません」


 テテュラの表情が一気に鉄面皮顔に変わる。


 基本、顔のパーツが目だけのインフェルに、表情を作れというのは無理な相談である。


「この者の魔力回路は我と同じ、闇属性の魔力が流れている。主人(マスター)より適合する魔力ではありませんが、持続という意味では可能です」


 皮肉な話だが、ほとんど魔石のテテュラには大量の魔力が流れ込んでいる。


 人間が本来巡らせる魔力の比ではないだろう。


 インフェル、テテュラの持続維持や防衛など(まかな)うには十分な魔力を供給し続けられるだろう。


「くれぐれもテテュラをお願いね」


「かしこまりました、主人(マスター)主人(マスター)も十分気をつけますよう……」


「ありがと。……てなことだから、テテュラも安心して」


「ええ、ありがとう。ただ問題なのは、貴女のデーモンに簡単に主導権を握られるのが一番の不安だわ」


「は、はは。元の身体に戻るか、インフェルの憑依無しで問題ないって言われれば、ちゃんと回収するよ」


 これに関する不安、不満は付き(まと)うようで、こっちが本人的には一番嫌そうだ。


「じゃあそろそろ行こうか。テテュラ、出発までもう少し日にちもあるし、また顔出すよ」


「テテュラちゃん、お休み」


「ええ」


 俺達がテテュラの部屋を出ようとした時、ナタルは、


「ちょっと先に出ててくれるかしら」


「え? ナッちゃん?」


 すると察したカルディナは、足を止めたアイシアの肩をグッと押して、先に行くよう促す。


 俺もナタルが残る理由には察しがつくため、その場を後にした。


 二人きりとなったテテュラとナタル。


 正確にはインフェルもいるのだが、先に口を開いたのはテテュラ。


「何かしら……と聞くのは野暮ね」


 こくりとナタルは静かに頷く。


「……確かにクルシアは私の初恋よ。あんなに酷い男だったのにね」


「ドクターといい、クルシアといい……あまり男運には恵まれてませんのね」


「そうね。それを言うなら、計画を潰す誤算となったアルビオや中々やられてくれなかった殿下もそうかしら?」


 もっと言えば、中身が男のリリアも該当するところを考えると、中々男運には恵まれないテテュラ。


 そんな世間話をそこそこに、本題を口にする。


「クルシアは……殺してもいいのよね?」


 その言葉に特に動揺はしないテテュラは呆れたため息を吐き捨てる。


「できるならどうぞ。もう以前のように止めないわ。クルシアは恩人で初恋だけど、私の人生を(もてあそ)んだ本人でもあるもの……好きにすればいいわ」


 その言葉を聞いて安心したのか、ナタルも部屋を後にしようとする。


「ありがとう」


 一言、お礼を述べて。

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