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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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50 生きたいと望む意志

 

「テテュラちゃん!!」


 みんなが心配そうに見守る中、アイシアは揺さぶり呼びかけようとすると、


「――待てっ!! マルキス!!」


「――!?」


 ビタっとアイシアは動きを止めた。


「どんな状態か、わからないのだ。下手に触るなっ! ……ウィルク」


 ここは治癒魔法に長けたウィルクに調べるよう促す。


 先ずは身体全身をじっくりと観察し始める。


 どうやら治癒魔法の勉強がてら、医師としての技術も多少身につけているようで。今までで一番ハイドラスの側近らしさが垣間見える。


 俺達が見た感じでもこの青白さは異常だ。


「テテュラちゃん、ちょっと触るよ」


 次に脈を確認するようで、か細い腕を持ったウィルクは、触った瞬間、驚愕する。


「――なっ!?」


「どうした?」


「……身体が冷たいです」


「!?」


 ウィルクの手から感じるのは、ひんやりとした感覚。とてもじゃないが、人間の体温ではないと考える。


 だが脈の部分は微かに鼓動が鳴っているのを指で感じる。


「――ですが、生きてもいるみたいです」


 テテュラの状態一つ一つに一朝一夕になってしまうが、状態が状態故、仕方ないと考えてしまう。


 だが、絶望的な状況の方が多く、ウィルクが持っているテテュラの腕から亀裂が入った。


「な……ヒビ?」


「ヒビだと!?」


 ハイドラスも確認すると、ウィルクの持っている部分から、ビシビシと少しずつ亀裂が入っていく。


「すぐに離せ、ウィルク」


「了解です! 治癒魔法をかけますか?」


「……可能性が少しでもあるなら、試すべきか」


 頭を悩ませながら、渋々と言った言い方で許可した。


「殿下。やっぱりこんなこと前例には……」


「あるわけないだろ。……完全に手探りの状態だ。こんな前例があってたまるか!」


 人の魔石化などと口ずさみながら、悔しそうに頭をガシガシとかき回す。


 そんな中、ウィルクの治癒魔法がかけられているが、


「――止めなさい! ウィルク!」


「は、はい!」


 そのかけた先から亀裂が走っていく。


「くそっ! 何もできないのか……」


「テテュラちゃん……」


 震える涙声で名を呼ぶアイシアに、まだ召喚されているポチも心配そうに見守る。


 すると、階段を駆け上がる無数の音が聞こえてきた。


「で、殿下ぁ〜。ご、ご無事ですか〜?」


「ヴァートか!?」


 駆けつけたのは、ヴァートを含めた魔術師団。同じ師団長を務めるティナンと共に駆けつけたのだ。


「殿下。遅れてしまい、申し――」


「ヴァートっ!! いいところに来てくれた!!」


「は、はひ!?」


 治癒魔法術師であるティナンの部隊を無視し、ヴァートに飛び付いた。


 その反応にティナンは固まる。


 当然の反応だろう。本来ならこのような非常時、治癒魔法術師の方が優先度が高いのは必至。


 ヴァートの地属性の魔術師が最優先されることは滅多にないこと。


「あ、あの……殿下?」


「ん? ああ、すまない。我々の治療は後でいい。倒れている者達を優先してくれ」


「し、しかし、殿下のお怪我――」


「ヴァート来い! ニルスとファーメルもいるな、お前達もだ!」


「は、はい……」


 名前を呼ばれた二人はポカンとしながらも、急かしながらヴァートに呼びかけるハイドラスの後を追い、軽く指示されて置いてけぼりにされたティナンも、


「よ、よし。では倒れている者達の治療をします。お願い」


 どことなく覇気のない指示を部下に送り、仕事を開始する。


「ヴァート、彼女を診てくれないか?」


「こ、これは……えっと、人種とのハーフでしょうか? 僕が専門とするところとは……違うような……」


 呼び出された二人も同じ反応。


 半透明の青白い身体の人型をパッと見で判断すると、その答えが返ってきたが、ハイドラスの説明を聞いた瞬間、驚愕する。


「それならお前ではなく、ティナンだろ? ……彼女は魔石化している」


「「「!!?」」」


「……彼女? ま、ま、魔石……化?」


「だから、お前なのだ。診てくれ」


 その発言に頭が混乱する中、半信半疑の返事をしたあと、テテュラに寄り添い、状態を確認する。


「ほ、本当だ……で、殿下! これは一体……?」


 ハーメルトでも一番の魔石精通者でも初めて見たような反応に、落胆する様子を見せる。


「やはりお前でも初めてか。お前達はどうだ?」


「い、いえ。我々も初めてです……」


「ていうか人が魔石化だなんて……」


 副団長のファーメルもヴァートほどではないが、人工魔石に精通がある右腕的存在のニルスも初めてのようだ。


 状態を診ながらヴァート達は、こうなってしまった経緯を説明された――。


「人工魔石による、人間の魔物化……」


「常人の考えることではないですね」


「そ、そうだね。でも似たような話なら聞いたことがある」


 そのヴァートの発言に心当たりがあるのか、ファミアが口を挟む。


「擬似心臓のお話ですわね?」


「ぎ、擬似心臓?」


「ええ。北大陸は魔石の採掘だけでなく、研究も進んでいるのですが、そこでそのようなことも行われていたそうで……」


「は、はい。姫殿下様の仰る通りで……。ですが、実現させるには非常に難しい話であり、実験するにも……その、あの……」


 言い淀むヴァートだったが、それをさらりと、


「死んで間もない人間の用意が難しかったのです」


「さ、さいですか……」


 この話の表面化だけを聞くあたり、人間の擬似心臓の開発を進めていて、おそらくではあるが、ネズミのような動物では成功したのだろうが、いざ人間にとなると、人体実験ということだ、中々許可が下りないのと、そもそもの確保ができなかったのだろう。


 あとファミアの発言を聞くあたり、死んでからしばらくの人体には行っていた記録があるように聞こえた。


 そんな話でも背筋が凍るのに、目の前で起きている事象はさらにそれを超える。


「それで? どうなんですか? テテュラちゃん……助かりますよね?」


「えっと……う〜ん……」


「アイシア、あんまり困らせちゃダメだよ。ね?」


「う、うん……」


 魔石に精通していると聞いて、期待の言葉が欲しいアイシアだが、ヴァートの反応はイマイチ。


 そのヴァートは今一度、状態の説明を復唱する。


「例の人工魔石によって彼女が魔物化した、で間違いないですね?」


「正確には半がつくがな。おそらくは自我を保てる状態にするためだろう」


「なるほど……」


 するとヴァートはテテュラを眺めながら、ぶつぶつと呟き始める。


「仮にその人工魔石が魔物化できる技術だとして、その魔力に干渉したのか? 殿下の説明を聞くあたりはその見解だろうが、あくまで魔力の塊に過ぎない魔石にここまで……? いや、術式を施した? それも違う。それならばその技術は既に広まっているはず。それに彼女の状態を診るに魔物の細胞体は体内に残ったままの可能性がある。でなければ、その人工魔石を抜き取った際に、魔石化するデメリットはおかしい。やはり魔力による干渉が濃厚か? でもたかたが魔力くらいで魔物化するというのも考えものだ。そうなればこの世界に魔力を循環している魔物達からの魔力は激薬ということになる。矛盾している。せめて……その魔石があれば、もっと具体的な仮説を――」


「ヴァートっ!!!!」


「――は、はい!?」


 考えに集中し、早口で独り言を呟くヴァートの意識をこちらに戻す。


 解決のために考えを巡らせてくれるのは有り難いが、意見をあおげないではお話にならない。


「研究気質なのは知っているが、時間もないようなのだ。情報が欲しい」


「あわわっ!? す、すみません。えっと……とりあえず彼女の身体を診ましたが、魔石の魔力の流れに似ていますとしか、こちらとしては結論が出せません。ただ、やはり人間としての部分も生きているように思います」


「本当かっ!?」


「は、はい。ですが、そこの専門は……」


 ヴァートはちらりとティナンを見ると、ハイドラスが大きな声で呼びかける。


「――ティナン!! 至急こちらへ来い!」


「は、はい!」


 治療中の者を任せ、駆けつけたティナンは意気揚々と治療を行おうとする。


「重症者は?」


「いや、まあ皆重症だが、それどころではない。彼女を診てくれ」


 ティナンも彼女を見て、特異体質なのかと尋ねるが、ヴァート同様に説明すると、同じく驚愕。


 その後、テテュラの身体に影響を与えない程度に魔法で調べた。


「――結論から言うと、汚染されている状態かと……」


「汚染か……」


 見るからにと言わんばかりの状態に納得する一同に、深刻な表情で続きを語る。


「今尚、魔石化が進行しています。おそらく、もう数刻の内に彼女は魔石化します」


「な、なんで!? 魔物から引き剥がしたのに、なんで魔石化が進んでるの?」


「先程、汚染と言いましたよね? 簡単に彼女を構成しているものを説明すると、人と魔物の細胞と魔石化の進行部分です」


「そ、そんな……」


「待って下さい、ティナンさん! 魔物の細胞があっても少ないんじゃ……魔石化が進行する要因は……」


「言いたいことはわかります、ウィルク。ですが、明らかに彼女を構成する部分の中で弱いのは人間の細胞。しかもこの世界の生物は全て魔力を必要とし、供給されます」


「つまりは、生きている以上、彼女の魔石化は止まらないと?」


「……はい。そのように結論付けられます」


 その結論を聞き、静まり返る一同。


 無情に横たわるテテュラは、希望を与えるために目覚めてはくれない。ただ静かにそこにいるだけ。


 するとそのテテュラの亀裂の入った部分に水が落ちる。


「こんなの……ないよぉ……」


 震えた涙声で絶望を口にするアイシアの目からは、涙が止まらず、零れ落ちる。


 そっと傷つけないように、優しくテテュラのひび割れた手を取り、涙する。


「やっと……やっと、見つけられたはず……なのに。どうして……こんなぁ……」


 テテュラのしたことは、許されることではない。だが、今までのテテュラを知る俺達としては、思いやりのない()ではないことを知っている。


 あれだけ思いの丈をぶつけた彼女の覚悟やその先にある彼女の弱さの結果が、クルシアに嘲笑(あざわら)われながら終わっていい人生でもない。


 きっとどこかに幸せになれる人生があったはずなんだと、ピクリとも反応しないテテュラを見ると、俺も涙が頬を伝う。


「テテュラ……」


 みんなが悲しみに暮れ、落ち込んでいると、小さくパキッという音がテテュラの方から聞こえた。


 手を触っていたアイシアのところからなのかと、目をやると、そのアイシアは驚いた表情で顔の方を見ている。


 すると、


「……アイ……シ……ア」


「――!? テ、テテュラちゃんっ!!」


 みんな一斉に注目すると、微かに瞳が動き、口元あたりにひび割れが走るのが確認できる。


 必死に語りかけられるよう、テテュラは口をパクパクとさせようとする。


 口が動くたびにひび割れは進行する。


「テテュラ。もういい、喋るな! 何とかしてやるから……」


「殿……下。気遣い、感謝……するわ。でもね……自分の身体が……限界……なのは、私が一番良く……知っている」


 こちらの心配など他所に、口元は完全にひび割れた酷い状態となる。


 だがその分、喋りやすくはなったようで、


「……今、身体の感覚が……ほぼないわ」


「!」


 自分に起きた状態を説明した。


 こちらから見ても、動いているのは目と口のみ。考えて喋り、生きていることから、脳と心臓も機能しているように考えるが、ティナンの説明通りならそれも長くはないだろう。


 おそらく生物として重要な部分は抵抗力もあるのだろうと考えられる。


「これは私にとっての……罰です。自分勝手な理由で、この国を(おびや)かし、殺してしまった騎士、殿下方の命を……奪おうとしたこと……そのツケです」


「テテュラちゃん、そんなことはない! あのクソガキが……君を――」


「だとしても、やろうと決めたのは私です」


 するとアイシアの方へ目線をやると、目元が緩む。


「ごめんなさいね、アイシア。せっかくの最終日をめちゃくちゃにして……貴女……あんなに楽しみにしてたのに……お誘いも断って、ごめんなさい」


「そんな……こと、どうだっていいよ。また、五年後、一緒に観ればいい!! だから……だからぁ……」


 そんな死を悟ったようなことは言って欲しくないと、その言葉は出てこなかった。


 そんなことは口にしたくなかった。その代わりか、涙が止まらない。


「う……ううぅ……」


「リリア……」


「なに?」


「どうしようもない私の最後のお願いを聞いてくれないかしら?」


「……嫌だね」


「……」


 俺は心底嫌だった。


 ここまでになっても、未だにテテュラに何があったのか知らない。クルシアの言う、テテュラの過去とは何だったのか。


 でも、こんなことがあっていいわけがない。テテュラは『最後』と言った。この状態から何を頼もうとするのかも察しがつく。


「リリィ……」


「どうせ、殺してくれでしょ? 嫌でもわかるよ。まだ人である内に死にたいってことだろうけど、違う?」


「……お見通しね、さすがだわ」


「……私がテテュラから今聞ける望みは一つ、生きたいから助けて、だよ」


「……」


「逃げるなんて許さない。死んで罪を償うとかよく聞くけど、それってただの逃げだ。生きてこそ、罪ってものはよく理解できるもんだよ」


「厳しいのね……」


「そうだよ」


 偉そうなことを口にできるほど、俺だって立派な人間じゃない。


 俺だって隠し事(おとこ)であることを黙って生きているし、多少の想像力を働かせるくらいで、努力したリリアの力を使っている後ろめたさもある。


 最近はリリアでの生活にも充実しており、その意識も希薄化してるけど、人に厳しくすると嫌でも頭に(よぎ)ることがある。


 俺は未だにどこにいるのか、どうありたいのか、まだまだ手探りなのだ。


 だから、偉そうなことは言えないし、できれば言いたくない。けど……、


「友達をこんなに悲しませることや、友達に心の傷(トラウマ)を作ろうとすることなんて、もっと認めない」


「貴女に心の傷なんて出来るの?」


「あのさ、私も普通の女の子……だよ。傷くらいつきます」


 ちょっと気になる間はあったがと、小さく微笑んだ。


「ならいいわ。もう……放っておいて。殿下、魔石になった暁には、是非この国のために――」


「違うだろっ!!」


「!」


 俺の今、聞きたい言葉は違うと俺は怒り混じりに叫ぶ。


「どうして助けても言えないんだ? どうして甘えてくれないんだ! 私達はあの狂ったあの男とは違う。ちゃんと求められれば助けるよ!」


「……助かる手段があると?」


 ないだろと言いたげな寂しそうなトーン。


 正直、否定できない。


 から、


「ないよ! 今からすぐに見つけるから、生きる希望を捨てるな」


 テテュラの質問に対して肯定はするが、諦める気はないと明言した。


「みんなもお願い! テテュラが助かる方法を考えて欲しい!」


 すると、みんな真剣な表情で考えたり、話し合ったりしてくれた。


 俺も今までのテテュラのことからヒントがないか、考えを巡らせる。


 ――そんな中、テテュラは茫然と真剣に自分のことを考えてくれるみんなを見る。


 目の前で寄り添ってくれるアイシアやティナン、ヴァートも考えてくれている。


 その時、後悔と懺悔(ざんげ)の気持ちで(あふ)れかえる。


 こんなにも自分のことを考えてくれたのは、クルシアを除けば、久しぶりだった。


 クルシアは結局、自分の好奇心を満たすためにかけた言葉だったのだからと、自分の愚かさに呆れている。


 まだ、恩恵の儀――処刑日を迎える前の両親や使用人が最後だったと覚えている。


 自分が欲しかったのは、あの時の温もりだったのだと、改めて痛感する、誰かに心配されたかったのだ。


 そして、今、後悔している。


 そして気付いた。後悔しているということは、自分は生きたいのだと。


「……生きたい」


 小さく呟いたその一言は、口にすることも恐ろしかった。本当に望んでいいことなのかと。


「い、生きたい」


 また小さく呟く。信じていいものなのかを。またクルシアみたいに捨てられるのではないかと。


 そんなことをリリアやアイシア達がしないとわかっていても、恐怖心が勝ってしまう。


「――い、生きたい!」


「!!」


 でも、ここで踏み込まなければきっと、もっと後悔する。だから、届くように叫んだ。


「反省して、償って……貴女達と生きていたい……!」


 見捨てないで欲しいと、孤独から生まれる寂しさも辛さも絶望も嫌だと、わがままに叫んでみた。


 するとアイシアは頭を撫でてくれた。


「うん……生きていこう!」


 感覚は無かったはずなのに、何故か撫でられているところに暖かみを感じた。


 まるで心に優しく触れられたかのように、嬉しい気持ちが湧き出てきた。


 もう一人ではないのだと。


「うん……私、生きたいわぁ……」


 俺はそんな光景を目にしながらも、内心はテテュラのあの気持ちに応えられるかプレッシャーもあった。


 今までに前例のない出来事の解決を数刻の内に見つけ出すことは、容易ではない。


 何か取っ掛かりがないと話にならない。


 今までの情報を総動員する。


 テテュラの魔石化の原因は、クルシアが抜き取ったことによる魔物の細胞の活性化と維持装置の欠落。


 その人工魔石も今はクルシアに持ち去られている以上、埋め込んでというのは不可能。クルシアの話を信じるなら、持っていたとしても不可能。


 だからと言って代用が効くものではないし、そもそも代用が浮かばない。


(だあ〜〜っ!! どうすればいい)


 ちらっと生きたいと希望に(すが)るテテュラを見る。


 やっと本性が垣間見れた光景だというのに、裏切りたくはないと、焦燥(しょうそう)感が走る。


 すると、


(――待てよ)


 俺は展望広場の(ふち)まで行き、城下町を見下ろす。


「……」


「リリアちゃん……?」


 俺の行動に何かあるのではとリュッカが尋ねる。


「リュッカ、魔物でも属性によって魔力の流れとか、質とか関係ないのかな?」


「え、えっと……よくわからないけど、魔石はそもそも属性によって魔力の質が違うから、テテュラちゃんの場合は闇属性になるはずだよ。答えになってる?」


 俺の意図がわからず、ニュアンスだけで答えてくれたが、俺には十分な答えになってくれた。


「ありがとう! それだけでも十分だよ!」


 俺は直ぐにテテュラの元へ駆けつけ、


「助けられる方法があったよ」


「本当か!? オルヴェール!?」


「正確には元には戻りませんが……」


「どういう――」


「いつ魔石化が完了するかもわかりません。軽い説明をしたら、直ぐに実行します。テテュラ、聞きたいことがある」


「……なにかしら?」


「確実な方法ではないと思う。だから聞く……私に命を預けられる?」


 その質問に対し、ふっと軽く笑う。


「ええ。大丈夫よ」


 信頼していると和らいだ表情をして見せた。俺もその信頼に応えたい。


 すると、俺は少しばかりテテュラから離れ、最後のマジックポーションを飲み干すと、解決に導ける者を呼び出す。


「――召喚(サモン)! インフェル!」


 召喚陣が展開し、その中から爆発と共に迫力のあるご登場をかます。


「お久しぶりです、主人(マスター)。今度の呼び出しは……」


 インフェルは周りを見渡すと、もう既に戦場が終わった後なのだと気付くと、またかと目だけの顔の表情筋が歪む。


「……」


「そんな嫌そうな顔しないでよ。仕方ないでしょ? テテュラの召喚陣の影響で呼ばなかったんだから……」


今はテテュラの用意したものが消えているため、召喚を可能にした。


「オルヴェール、悪魔殿を呼び出して何をするつもりだ?」


 初めて見るメルティアナやファミア達は少々驚いた表情をする中、意図が読めない一同は俺に驚いた表情を見せる。


「それはあと。インフェル、いくつか聞きたいことがある」


「……なんでしょう?」


 面倒臭そうに返答をするが、しっかり召喚魔をしてくれているようなので良しとしよう。


「インフェルって憑依とかできる?」


「……何を言い出すかと思えば。舐めておられるのですか? 我は悪魔です。憑依など造作もない」


「ならその憑依した対象の魔力の操作とか身体に対する干渉とかはできるの?」


「……我に何をさせたいので?」


 意図をわかりかねるのは、呼び出されたばかりのこの悪魔も同じ。


 俺はちらりとテテュラを見る。


「彼女を助けて欲しい。お前の力で」


 するとインフェルは少し不思議そうな表情をする。


「? この魔石を救うとは一体……」


「――ま、魔石じゃないもん!」


 アイシアはインフェルを思わず叱り付けると、機嫌を損ねる。


「何だと人間。貴様、いくら主人(マスター)の友人だからとて……」


「インフェル。事実だ。彼女は魔石じゃない」


「……」


 だが魔物(インフェル)からすれば、テテュラは魔石に見えるというわけだ。悲しいがそんなことも言ってられない。


「人間に戻せとまでは言わない。正直、出来るならして欲しいけど、魔物であるインフェルには無理だと思う。だけど、魔石の進行化や魔物の細胞はなんとか出来るんじゃないの?」


 先程の質問やテテュラの状態から、色々と察したインフェルは、ため息を漏らす。


「やったことがありません。そもそも、そんなことをするような機会もありませんでね。アーク・デーモンの奴なら手慣れているでしょうが……」


 一緒に封印されていたという悪魔の一体のことだろうか。インフェルは属性や今までの性格を考えると、憑依したりなんて繊細(せんさい)なことはしてこなかったろう。


「ならインフェルにも出来るね?」


「……まあ」


 俺はニッコリと笑顔をしてみせる。インフェルに出来るだろと無理くり。


 だが、それだけ切羽詰まっている状況だ、手段を選んではいられない。


「ま、待てオルヴェール。仮に出来るものだとしても――」


「出来るならいいの。もう一度確認するけど……」


 俺はハイドラスの心配を無視し、インフェルにして欲しいことを説明する。


「――わかった?」


「おい! オルヴェール!」


「お願い」


「……かしこまりました」


 するとインフェルはスッと半透明になり、シュバっとテテュラへと憑依した。


「……」


 テテュラの身体に異変がないことに一同驚く。


 当然だろう。インフェルは最上位の魔物。そんな魔物の憑依なんてすれば、テテュラの身体が砕け散ってもおかしくはない。


「殿下の心配もわかります。私だって賭けでした」


「黒炎の魔術師、説明をお願いしても?」


「……いいですけど、その呼び名はやめてもらえます?」


「わかったわ。黒炎の魔術師殿」


 こうやって(いじ)り倒されるのかと、呆れた表情で察すると、俺の意図を説明。


「とりあえず応急処置を行おうと考えたんです。今、解決すべきは魔石化の進行と人間の細胞を守ること。この二つを同時に行うには現時点では人の手では不可能。ですよね?」


「はい……」


「情けない限りで……」


「ああっ! いえ! 責めてるわけじゃないんですよ!」


 こほんと咳き込むと説明を続ける。


「でもインフェルなら可能だと思ったんです」


「根拠は?」


「テテュラが半魔物化していたのは明らかに悪魔でした。そしてテテュラは闇属性……」


「そっか。だからテテュラちゃん、あんなことを……」


「うん。当てはまる部分が多いインフェルなら、影響が少ない状態でテテュラを診れると考えたんだ。それに悪魔なら憑依できると思ったしね」


 悪魔は人に害を成す化身。物理的ではなく、精神的に人間を苦しませるのが、本来の悪魔の姿だろう。


 魔法が当たり前の世界で、魔物が存在する世界だからこの考えは希薄していたが、サキュバスみたいに洗脳する系の悪魔を考えると、その考えに行きつく。


「つまり貴女は、この()と共通点の多い魔物である貴女の使い魔に、それらを阻止してもらおうってわけね」


「はい。とはいえ、インフェルも言ってた通り、やったことはないって言ってます。確実とは言いませんし、元に戻す手段でもない。けど……希望には繋げられると思います。だから……」


 俺は真剣な表情でテテュラに訴える。


「あとはテテュラ次第だ」


「……」


「私ができるのはここまで。と言ってもインフェル任せだけど……それでも道は作った。あとはテテュラの意思次第だよ」


 アイシアは優しくテテュラの手を握る。


「……!」


 その表情はニコリと微笑んだ。


 大丈夫だと、信じて欲しいと語りかけるような微笑み。


「生きたいって意志表示は必要だよ。心の中でもいい、願うんだ。……望みは願わなければ叶わない。行動しなければ叶わない。行動はできないテテュラに代わって私がした。一番、願うのは自分だよ……テテュラ」


 病は気からと言うが規模が違う。


 だからと言って、絶望してちゃ叶えられるものも叶えられない。


 精神論だろうとなんだろうと、(すが)れるものには何でも(すが)るのが人間だ。


 受験生が猛勉強して、合格率最高判定をもらおうと神社へと足を運び、神頼みするように、人間は不安を持ち続ける生き物だ。


 だから俺だって願う。


 正直、他に方法が思いつかない。だから、この方法で上手くいってくれと。


「……そうね。ちゃんと生きたいって願うわ。ちゃんと謝らないとね」


「うん! いっぱい謝ろう。私も一緒に謝ってあげるから……」


「子供じゃないのよ。まったく……」


 するとテテュラはか細い息を吸うと、思いの丈を口にする。


「生きたい。生きて……しなくちゃいけないことが、沢山あるの。だから……生きたい……!」


 テテュラの感情的な叫びに共感するように、俺達も良い方向に向かうよう願う。


(頼む! テテュラが人として生きる未来を照らしてくれ!!)


 ――すると、


主人(マスター)


「――おおっ!?」


 先程から生きたいと懸命な表情をしていたテテュラの表情が一転、ひどく冷静な表情と声に変わり、驚く。


「え? もしかしてインフェル?」


「はい」


「で!? どうなったの?」


主人(マスター)の望み通りになりましたよ。この娘の中にある魔物の要素は我が喰らい、魔石の進行化は我を介することで抑えることに成功しました。我を憑依させ続ければ、魔石化が進行することはないでしょう」


「えっと、テテュラは?」


「我が出てくる場合は奥に引っ込んでいてもらってます。でなければ主人(マスター)に報告が出来ませんので。とりあえず今は寝かせています」


「じゃ、じゃあ無事なんだね!?」


「……」


 アイシアの質問には答えたくないようで黙り込む。


 まったく、この悪魔は……。


「テテュラは無事なんだね?」


「はい」


 改めて俺が尋ねると、すんなりと肯定した。


「「「「「――やったあーーっ!!」」」」」


 ここにいるみんなが喜んだり、安堵(あんど)の表情を浮かべ、歓喜に湧く。


「やったあっ!! 良かった――」


「待って! アイシア!」


「――えぐっ!?」


 テテュラに飛びつこうとしたアイシアの首袖を掴んで止める。


「テテュラは完全に治ってるわけじゃないってか、まだこれでもギリギリの状態なんだから、触っちゃダメ! 抱きつくなんて論外!」


「は、はい」


「そうだな。首の皮一枚繋がっただけの状況だ。予断を許さない状況には違いない。ヴァート、ティナン、彼女の頼む。くれぐれも丁重にな」


「「は!」」


「というわけだ、オルヴェール。彼女が落ち着くまでは……」


「わかってますよ。インフェル、悪いけどしばらくそのままテテュラを守ってね」


「わかりました。まあ、この娘の中は居心地がいいので構いませんよ」


 ほとんどが魔石のままの身体だからだろうか、魔力の流れがいいのだろう。


 それを考えれば、こちらから魔力を与える必要もなくなりそうだ。


「リリィ、インフェルちゃん、ありがとう」


 ぺこりとアイシアが深々とお辞儀した。


「お礼なんていいよ。私だってテテュラの友達なんだから……」


「その、ちゃんというのは何だ人間。前もそうだったな」


「え〜? 可愛いと思うけど〜?」


「冗談ですよね? 主人(マスター)……」


 テテュラの魔石化についてはまだまだ解決の糸口はないけれど、人として生きていける希望の道に繋がった。


 今はそんな小さな一歩でも歓喜したい。


 孤独を生きる一人の少女が、かけがえのない友を得て、罪を知り、生きていくことを改めて考える時間を得た物語はこうして幕を閉じた――。


 ***


「――いやぁー、まさか助け出しちゃうとはねぇ〜」


 リリア達からは気付かれない場所から、歓喜に湧く光景を眺めるクルシアの表情は実に楽しそうだ。


「ふふ、これはドクターに良い土産話ができたなぁ」


 クルシアは転移石を手に取ると、砕きながら呟く。


「――次の舞台も楽しみだなぁ♩」

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