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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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44 強者の余裕

 

「――かはっ!? ごほ、ごほっ……」


 我に帰るとそこは、瓦礫(がれき)の山の上。ふと上を見上げると、崩れた展望広場が見える。


 そこから小さな光がこちらに向かって突っ込んでくる。


「おい! 無事か、アル!」


「うん、何とか……」


 身体に痛みは走るが、幸い、フィンを顕現(けんげん)していた影響と魔力障壁を帯びていたおかげか、軽傷で済んだ。


「おっ、丈夫だねぇ」


「クルシア……」


 ふわりと瓦礫(がれき)の上に降り立つこの男についての情報を整理する。


 先ず状況についてだが、クルシアの目的はあくまで足止め。確かに精霊を使える自分は大きな戦力になる。


 つまりこちらの目的としては、何とかしてクルシアの妨害を潜り抜け、戻らなければならない。


 だが、それに関してはかなり絶望的である。


 フィンの指摘する通りなら、クルシアはバザガジールと匹敵する強さの持ち主。


 現に一切の気配なく背後を取り、一撃で展望広場を破壊するほどだ。魔力の扱いも並ではない。


 挙句、この嵐の結界を作ったことから、魔法も得意とするよう。しかも厄介なことに属性は風、上級魔法も、最悪を想定するならそれ以上の魔法も無詠唱と考えた方がいい。


 魔法使いとしての戦い方のみを行うならまだしも、肉弾戦も得意とするオールラウンダー。


 バザガジールの時もそうだったが、明らかにこちらを上回る動きをされることだろう。


 あの事件以来強くなったが、あの域に達するには時間がなさ過ぎる。


 どれだけ考えてもクルシアを出し抜ける気がしないと、表情が強張(こわば)る。


「そんなに緊張しないでよ。リラ〜ックス、リラ〜ックス」


「そういうわけにもいきませんよ。テテュラさんを止めに行かないと……」


「う〜ん、無理じゃない?」


「……貴方の悪ふざけで通してくれるなんてことは……」


「あっは! 面白いこというね!」


 ダメ元でクルシアの性格を考えての奇策を提案するが、さすがに通らないだろう。


「でもさ、ボクも君のことちょっと興味はあったからさ。遊んでよ、ね?」


「そうですよね……」


 アルビオはフィンに剣になるよう、右手を後ろへ差し出すと、その様子を見たクルシアは、


「そんなこっそり準備しなくてもいいよ。バザガジールの時みたいに、堂々と準備したらいいさ」


 隙を(うかが)うような動きを見抜かれた。


「やはり、あの時の戦いも見ていたんですね」


「まね。中々熱い展開にボクも思わず興奮しちゃったよ! バザガジールがあんなに楽しそうなのも久しぶり!」


「貴方のその身勝手な好奇心のために――」


「そういうの聞き飽きたから! いいかい? 人間ってのはやったもん勝ちなの! 善意も悪意も」


「そんな勝手な価値観がありますか!?」


 いつもなら温和なアルビオも狂った価値観を語るクルシアには苛立ちを覚える。


 まさにクルシアのペース。


「勝手な価値観? それは弱者や臆病者のセリフだよ。常に先へと進む人間には力がある。戦闘力、経済力、権力、包容力、カリスマ性……上げればキリがないほどに力は存在する。君だってそうだろ? 勇者の末裔という肩書きの強さを身を持って知っているはずさ」


 アルビオにとっては苦い思い出の方が多い勇者の力。それに振り回され、後悔したことは山ほどある。


「先導する力持つ者は、常に考え、行動を起こすもの。さっきのセリフが出てくるのは、力に胡座をかいてる奴か有象無象の脇役君のセリフさ」


 まるで昔の自分を指摘されているようで、罪悪感に(さいな)まれる。


 勇者の力に怯え、その立場を利用し、ハイドラスに頼りきっていた自分に。


「だからボクは好きなことをして生きているのさ。それを許されるほどの力と才はボクの手の中にある」


「力を持つ者はその責任を取らなければならない! ……僕はそれを痛感した」


「リュッカちゃんのことかい?」


 (ことごと)く、こちらの情報を知り尽くしているクルシア。そういえバザガジールもかなりの情報量を持っていたようだが、この男が手に入れたものなら説明がつく。


 バザガジールはクルシアの趣味は人生収集と言っていたことを思い出す。


「……ええ、ですから、そんな横暴に振り回していいものではないんです」


「それは君の価値観だろ? ボクの価値観は違う」


 自分が正しいと思う価値観をぶつけるが、クルシアには一切届かない。


「人の価値観はそれぞれ。みんながみんな君と同じ価値観で生きちゃいない。もし、君の価値観通りの世界なら、人はとっくに滅んでるよ」


「何を根拠に……」


「善意を知らなければ悪意を知ることはない。生を苦しみと知らなければ死に意味を見出すこともない、でしょ? 争いと死のない世界に未来は作れない。人は誤ちからでしか学ぶことをしない生き物。だから人の進化には常に屍が敷かれてるものなんだよ。……綺麗事だけで世界が回るほど、人間は上手に生きられないよ」


 歴史がそう語っているだろうと言われたことに、不本意ながらわかってしまった。


 (おご)った貴族達が暴君のように振る舞ったり、属性や人種の差別化によって尊い命をも奪われる世界があったりと、未だにそんな悲しい現実があることを知っている。


「だが、それは犯罪を行う理由にはならない!」


「そうだろうね」


「!!」


「でもそれはそっちが決めたルールだ。ボクはそんなつまらないレールに乗るつもりはない。ボク達を黙らせたいなら、ボクらのレールに乗りなよ」


 クルシアにはどんな言葉も届かないという感覚が喉元に残っているようだ。


 詰まって、もう口から何も出てこない。


 クルシアから感じるのは、あまりにも歪んだどす黒い信念。だが、その汚れた信念は純粋で真っ直ぐなようにも感じた。


 悪びれることも下卑た声でもない、さもそれが当然であるかのような当たり前という感覚。


 純粋だが残酷な感情。この子供の容姿からも連想されてしまうのか、バザガジールとは違う恐怖心さえ覚える。


「結局さ、力のある人間に主張する権利があるってことさ。止められてないってことは、君自身の力がまだまだ不足ってこと。身も心もね」


「くっ……」


 自分の力不足、経験不足はわかりきってはいるが、クルシアにだけは指摘されたくない。


 クルシアの言う通り、力こそがモノを言うのだと言うのも理解できるが、それを認めるわけにもいかない。


「確かに強さは必要だ。強くなくちゃ、自分を通せないのも理解できる……だけど、履き違えちゃいけないことはある。貴方の価値観を僕は否定する!」


「おーおー、カッコイイねぇ!! そうこなくっちゃ」


 はっきり言うと、クルシアを否定できるほどの力はない。


 それでも弱さを理由に、認めたり、妥協したくはなかった。口にすることで、それを強さへと変えたかった。


 だが、自分のするべきことを履き違えたりもしない。


 今すべきことは、ピンチのハイドラスを救うための行動。


 そのための一歩を踏み出す。


「ルイン!」


「ええ、アルビオ」


 クルシアは見覚えのある姿に(あお)るように興奮する。


「それって、バザガジールの時のヤツだよね? まあそうだよねぇ〜。速さで負けてるんだもん、少しでも抵抗しないとねぇ〜」


 そんな挑発など気にも止めるわけもない。性格は腹ただしいが、実力差があるのは百も承知。


 冷静に分析すべきだと精霊達に意見を仰ぐ。


「フィン、ルインどう?」


「あの狐目と一緒だ」


「ええ、かなりの魔力を保有していますが、これでも一部でしょう。そしてさらに悪いお知らせです」


「なに?」


 ルインが深刻な表情で言う情報は、本当に最悪の情報だった。


「この男、双属性(ツヴァイ・エレメント)……いや、ドライ……」


「なっ!? 多属性持ち!?」


「しかも魔力吸収をされていないところを見ると、上の彼女と同じ闇属性は確実に持っています」


 クルシアは目の前で、今も(うな)り続けている竜巻を起こしていることから、風属性だとはわかっていたが、闇属性という情報だけでもマズイのに、ルインはそれ以上の属性を持つと指摘しかけている。


「そうだぴょん! さぁてどうするどうするぅ〜?」


 多属性持ちだということを愉快そうに肯定する。


 考えれば考えるほど状況が悪くなるこちらからすれば、何も愉快ではないが、それをわかった上で、クルシアは(あお)ってるのだろう。


「ていうか、君はボク以上の持ち主でしょ? ねぇ、見せてよ見せてよ〜! 勇者の力ってやつをさぁ」


生憎(あいにく)ですが、僕は勇者ではないので……」


「あらあら、練習不足が否めないのかにゃ〜? あれだけバザガジールに鍛えられたのに……」


 クルシアは腰に刺した小太刀を抜き取ると、ヒュンヒュンとペン回しならぬ、剣回しをして遊ぶ。


「まあそろそろお預けも飽きてきたし、味見、していいよね?」


「……怒られませんか? バザガジールに……」


「うーん、殺したり、腕の一本や二本を落としたらそりゃね。でも……大丈夫だよ」


 ニタリと笑みを零すクルシアは、実力差があるから問題ないと言いたいようだ。


 舐めてかかられるのは、有り難いが前回(バザガジール)はそれで身の程知った。


(フィン、ルイン、殺す気でかかるよ)


 前回を教訓に甘い考えは捨てる。だが元より、この男のしたことを許せるはずもない。


 魔人マンドラゴラの被害はあの魔物の進軍だけでなく、攫われた子供達にも被害は出ている。


 それをこの男は、どうなるかなという好奇心だけであんな危ない存在を放った。しかも、悪びれる様子もない。


 本能が告げる、この男は放ってはおけない。下手をしたら、あのバザガジールよりもたちが悪い。


 初動動作もなく、ヒュッと姿を消したアルビオは背後を取るも、ガィンと鋼が弾く音を鳴らす。


 クルシアは体制を変えることなく、遊んでいた剣で防ぐが、アルビオもそれは想定内。果敢に動き回り、翻弄するように次々と剣撃を繰り出すが、


(くっ……(ことごと)く防がれる)


 クルシアは剣を持つ右手だけを器用に使い、アルビオの猛攻を捌く。


 しかもその視線は確実にこちらを捉えている。真後ろからでも一切の隙が見えない。


 おそらくは感知魔法を使っての把握能力も発揮しているのだろう。


 ならばと、


「――っ!!」


 真正面から瞬時に突き攻撃を繰り出すと、クルシアは横払いに弾こうとする。


 その初動動作を確認すると、アルビオはピタリと攻撃を止めると、


「おっ」


 瞬時に後ろからのバザガジールにもされたフェイントからの追撃。


 とはいえ、まだ未熟なアルビオでは精霊達の補助なしでは、ここまで機敏な動きはできない。


 とったと思った一撃だったが、


「おっし〜い!」


「くっ」


 あの初動動作からの空振りから防がれている。


 やはり並みの反射能力ではないと悔しさを(にじ)ませていると、くるっとこちらを振り向きながら弾かれる。


 一旦距離をと、離れるとクルシアは右手をかざす。


「ボク相手に離れていいのかにゃあ〜?」


「――フィン!」


「舐めんじゃねぇよっ!! クソガキっ!!」


「――ヘル・ツイスター!!」

「「――テンペスト・ウルフ!!」」


 距離を取れば魔法が飛んで来るのも承知。彼が使っていたと聞いていた魔法で対抗しようとするが、読まれたのか別の魔法で対抗される。


「くそっ!」


 クルシアの使ったヘル・ツイスターは、真っ直ぐにこちらへ飛んでくる風の竜巻。


 対してこちらは無数の狼の嵐。疎らに飛ぶこちらの魔法の一切を無視し、飛んでくるため、やむを得ず狼の嵐達に対応する。


 しかし、威力はあちらの方が上。中途半端に防御に徹したのが仇となり、打ち消されて向かってくる。


 だが、防いだおかげかタイムラグを解消に成功。


 クルシアの魔法攻撃を飛んで(かわ)すが、


「はぁい! また地面にご案な〜い!」


「――があっ!?」


 先回りされて迎撃を食らうが、すぐに受け身をとって体制を戻す。


「あれ? クルシアは?」


 すぐに体制を戻したため、クルシアを視認できるはずだったのだが姿がない。


「まさか――がっ!?」


「はーい。そのまさかでーす」


 上を見上げていた隙に思いっきり蹴飛ばされると、地面に転がった。


 それを見たクルシアは、眉を曲げて若干不満そうな表情で小さくため息を漏らす。


「ま、この程度か。金魚の糞だった頃を考えれば、マシになったのかな?」


 実力差があるのは承知だったが、それ以上にバザガジールとは違い、やりづらさを覚える。


 バザガジールのような強い殺気や闘争心、プレッシャーを感じない。


 戦闘外であれば、あまりの価値観に不気味さは感じたが、戦闘においてはここまで熱量を感じない相手というのも初めてだ。


 特訓等であっても友人達と剣を交える際、少なからず競争心からくる闘争心というものはあるはずだが、この男からは、まるで感じない。


 とはいえ決して感情を殺しているわけでもない。


 おそらくは舐めてかかっているのだ。態度からしてそうだったが、やられるわけがないと鷹をくくっているように感じられる。


 だがその(おご)りからくるであろう隙がまるでない。


 下手をすればバザガジールよりも難敵であると確信を持って言える相手だ。


 それをわかってか、クルシアからその点に関する指摘をする。


「どお? やりづらい? バザガジールみたいに殺気ムンムンじゃないから、どこから来るかわからないでしょ?」


「……ええ、まったくです」


 だが、それを言い訳に引き下がるわけにもいかないと、戦闘態勢は崩さない。


「感情のコントロールは重要さ。戦闘において感情は尤も優れた武器であり、防具なのだから」


「どういう意味で?」


「わからない? ボクがこうやって余裕を見せつけて(あお)りながら戦っているのは、君にストレスという武器を刺しているのさ。そしてボクの信念は自分という存在を確立する防具となる」


 揺るぎない絶対的な自信。


 自分にはまだそこまでの自信はない。最近、覚悟し始めたのだ、新芽もいいところだろう。


 思えばバザガジールの強さにも同様のことが言えるのではないか。


 殺し合うことを全力で楽しみたいからこその闘争心。身体はまるでその気持ちに応えるように、あれほどの身体能力を身につけることに成功していると言える。


「テテュラさんにも同じようなことを?」


「まね。でもテテュラちゃん自体、境遇上、感情は希薄してたからね。教えなくてもできてたけど……」


 テテュラの過去を知っているかのような口ぶりに、少しでも事件解決に繋がるであろうテテュラの情報を引き出したい。


「テテュラさんとの付き合いも長いので?」


「そうだねぇ、四、五年の付き合いにはなるかなぁ? 出会った当初はガリガリでね、色気ひとつもなかったよ」


「そもそも四、五年なら、色気よりも可愛げでは?」


「あっは! そうだね。でも、可愛げもなかったよ、死人みたいな顔してたし……」


 こんなことをクルシアに聞くのもおかしいと思ったが、悠長に喋るこの男ならテテュラの過去を教えてくれるかもしれない。


 今回の事件の動機だって、この男繋がりなら国がらみの動機ではないはず。


 勿論、クルシアの指示やクルシアにバックがいるとかの話ならそれまでだが、動機が彼女自身の何かなら、説得材料にはなるはずだ。


「テテュラさんに何が――」


「「!」」


 テテュラのことを尋ねようとした時、周りの嵐が消え去った。


 アルビオはクルシアが解いたものかと様子を見ると、嬉しそうに微笑みながら呟く。


「へぇ、やるねぇ」


 困った様子はなく、むしろこの状況を楽しんでいるかのような発言にも聞こえた。


 すると上から次々とローブの魔法使い達がゆらりゆらりと落ちてくる。


 その中に知り合いもいた。


「――アイナさん!?」


 よろめきながら立ち上がるアイナに駆け寄ると、大丈夫だと手で合図された。


「アルビオ様はどうしてこちらに?」


「それはこちらのセリフです。貴女達は何を――」


「つまりはアレでしょ? ボクの暴風結界を破るため、かな?」


 その問いにはクルシアが答えた。


 それを聞いたアルビオはアイナの消耗し切った表情を見て理解した。


 あれほどの強力な結界に対応すべく行動したは良かったが、魔法陣による魔力吸収が痛手となり、酷く消耗。


 落ちてくる姿がまるで、弱って飛ぶ蚊虫(かむし)のような感じだったことに説明がついた。


 するとアルビオはマジックボックスからマジックポーションを取り出し、飲んでもらおうとすると、後ろから楽しげな声が聞こえる。


「あのさぁ、やらせると思ってる?」


 クルシアの実力を考えれば、彼女一人ポーションを飲ませたくらい、どおってことないだろう。


 だが敢えて、そんなことを口にするのは、


「……楽しんでます?」


「そう。頑張ってみて」


 意図を理解してくれたようで何よりといった満足げな顔で、今度はクルシアが動く。相当のゲスさに、また冷静さを()(むし)られそうだ。


「ハハハハッ!! ほぉら、勇者君頑張って! ほらっ!!」


「――があっ!?」


 魔術師団を守りながら戦うアルビオに、痛ぶるように(なぶ)るクルシアは抵抗ができないアイナの首に刃を突きつける。


「ねぇ? このままだと死んじゃうかも」


「やめろぉっ!!」


 アルビオは渾身の叫びとともに攻めるが、ニタリと笑みを浮かべるクルシアを見て、フィンとルインが止める。


「罠だ! 馬鹿野郎!」


「くっ、アルビオ」


「はぁい」


「――なっ!?」


 突っ込んできたアルビオを蹴躓(けつまず)かせると、倒れ込むアルビオのお腹を(ひざ)で蹴り上げ、


「ぐうっ……があぁあっ!!」


 宙に浮いたアルビオに渾身の蹴りをお見舞いされ、瓦礫(がれき)の中を転がされる。


「アルビオ様っ! くっ……」


 灯火ほどしか魔力を持たないことを後悔しながらも、明らかな敵意を示すクルシアを睨み付ける。


「そんな睨まないでよ、おねぇさん。可愛いお顔が台無しだよ」


 すると座り込んでいるアイナの目線に合わせるよう(かが)む。


「せいぜいさ、か弱いヒロインでも演じてなよ。女の子はそうしてた方が男受けいいぞ♩」


「ふざけたことを……が、ああ……」


「クルシアっ!! 貴方、何を!?」


 急に何かを求めるように苦しみ始めたアイナに何かしたのはクルシアであろう。


 その視線もどこか遠く、だが生気を失ってはおらず、もがき苦しむ。


 その様子をクルシアはしたり顔で質問を質問で返す。


「ボクは何属性の持ち主?」


「それが――」


「馬鹿野郎、アル! あの女、呼吸ができてねぇ!」


「呼吸が!?」


「お、さすが風の精霊ちゃんだ、その通りさ。……持って数分じゃない?」


 クルシアはアイナの顔あたりを真空化したのだろう。風属性持ちだからできる芸当だろうが、それにしたって悪趣味だ。


「フィン、なんとかできる?」


「してぇのは山々だが、あのガキが邪魔すんだろ」


 すると彼女を無造作に持ち、こちらの神経に逆撫でする。


「ほぉら、早く助けないとぉ〜、死んじゃうぞ♩」


「貴方にとって命とはそんなに安いものなんですかっ!!」


「さあ? どうだろうねぇ」


 心底クルシアに(いきどお)りしか感じない。


 だが、今は一瞬でも無駄な行動を控えなければ助けられない。


 だがクルシアに対する怒りと迫る命の危機に、上手く考えがまとまらない。


 すると突然、クルシアの真下から槍のように岩が突き出る。


「!?」


「これは……?」


 あの魔法はロック・バインド。だが、ここには魔力を無くしてかけている風魔法使いしかいないと認識していたはずだが、


「――ウォーター・バインド!!」


 さらにそれを囲むように、水の渦が巻き起こり、クルシアとアイナを包んだ。


 すると、


「洒落臭いなぁ」


 面倒くさそうにそう言うと、二つの拘束魔法をいとも簡単に吹き飛ばす。


 するとクルシアは一つの影に気付く。その影から背後を取られたのがわかった。


 バッと振り向くと、シドニエが木刀片手に振りかぶっていた。


「やああああっーー!!」


 だがクルシアは軽く回避すると、カウンター越しに斬りかかるが、


「!?」


「――っ」


 かすりはしたものの、紙一重で(かわ)すと、囚われているアイナを突き放し、クルシアを突き飛ばす。


「おっ、ととっ」


 そのクルシアに大したダメージはないが、シドニエが気にするべきことはそこではない。


「だ、大丈夫ですか?」


「アイナさん! フィン!」


「わかってる!」


 フィンがアイナの状態に干渉すると、危機を脱したように息をする。


「――ぶはあっ!! げほ、けほっ……」


「ねぇ、言われるままにやったけど、大丈夫だったの?」


 ユニファーニとミルアが駆けつけた。


 あの時の拘束魔法はこの二人がしたものだと理解した。


「皆さん、どうしてここに?」


「いやさ、シドがさ……」


「リ、リリアさんのことだから、きっとここだろうって思って……」


 あの竜巻を見て、いてもたってもいられなかったのだと足が動いた。


 リリアの忠告を聞いて、魔力対策にマジックポーションを持参の末、駆けつけたのだが、


「あのリリアさんは……?」


「えっと……」


 リリアの近況を知らないアルビオが言い(よど)むと、ルインが気配から察知して説明する。


「おそらくは上です。闇の魔力を二つほど、展望広場より感じます」


「じゃあさっき上に見えたドラゴンは……アイシアさんの……」


「は、はい。私達は彼女の指示の元、風の結界を破りましたから……」


「ハハハハ……」


 さっきよりも上機嫌な笑い方をするクルシアが、テンションを上げて歓迎する。


「いやぁ、驚いちゃった。やるねぇ、シ〜ド〜君」


「えっと、あんなこと! し、しちゃいけないんでしゅよ」


 初対面だからだろうか、緊張から噛んでしまうと、クルシアは大笑い。


「あっははははっ!! 噛んじゃってるよぉ! ねぇ? 噛んじゃってる。かっわいい〜!!」


 茶化して笑うクルシアに、赤面して黙るしかないシドニエに更なる追い討ちが。


「馬鹿にしてんじゃないわよ! まだマシになった方なんだから」


「いやいや、マシになったって……あはははははは……それにしたって、でしゅはないでしょ? でしゅは。あっはははは……」


「あの……ユファ、いいから」


 笑い転げるクルシアは苦しそうにお腹を抱えて、ヒーヒー言いながら楽しそうに話を始める。


「なに? 実力じゃ叶わないから、笑い死にさせる気だったの? 確かに、面白い死に方かもね」


「そ、そんなちゅもりは……」


「ちゅもり……くははははっ!! ダメ、やっぱり笑い死にさせる気だっ、はははは……」


 笑いのツボにハマったのか、シドニエが噛むたびに大笑いのクルシア。


 それを隙と捉えたアルビオは、卑怯であると承知の上で、瞬時にクルシアの前に現れると斬りかかった。


「ア、アルビオさん!?」


 だが、パシッと精霊の剣を白刃取り。


「残念だけど、この程度を隙と見ちゃいけないなぁ〜、勇者君」


 先程の大笑いが演技であったかのように平静に戻ると、クルシアは振り払うように一凪払うと、アルビオは後退する。


「勇者君なんだから、正々堂々とやろうよ」


「貴方みたいな人相手に正々堂々もないでしょう」


 アルビオがそこまで言って睨む相手とはと考え、感知魔法を使う三人。


「「「――!!?」」」


 今までに感じたことのない魔力を感知。ユニファーニとミルアは思わず尻込みをついてしまう。


「あ、ああ……」


「な、なんなのよっ!! あんたっ!!」


「あれぇ? そんなに怯えないでよ! ボクちゃん、ショーック!!」


 ふざけて見せるが、シドニエも震えが治らない。


 これだけの魔力量を見るのは初めて。アルビオやリリアもかなり持っているが、それをも超える存在。


 さらには周りの状況、先程のアルビオのあしらい方を見るにあたって、とんでもない相手だと理解した。


 そのクルシアはこれまた楽しそうに微笑み、


「改めてさ、さっきのは見事だったよシド君。リリアちゃんの魔法でもかけてたのかな? ちょっと盲点だったよ」


 紙一重で(かわ)したカラクリをさらりと見破られるが、それはどうしようもない。


 現に瞳も紫色を帯びている。


「二度目はないけど、首を突っ込んできてるんだぁ……」


 不敵な笑みを浮かべるクルシアに、シドニエ達が恐怖するには十分な材料の一つとなった。


「――楽しませてくれるよね?」


 好物を目の前にされたような表情でそう語る少年。だけどここに並ぶ全ての情報がこの男の強さを物語っていた。

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