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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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02 こんな経験は心臓に悪い

 

 ――拝啓、お父さん、お母さん、友人諸君、お元気でしょうか?


 鬼塚改め、リリア・オルヴェールです。異世界に一人、転移して随分経ったように思います。


 というのも子供の誘拐事件から始まり、魔物の大進撃に魔人襲来、挙句、会ってはないが、とてつもない殺人鬼まで現れるという、正に王道バトルものの流れだろうか。


 向こうの世界じゃ、先ず経験しないことだろう。


 ――そしてここに来ることも、


「改めて見ると大きいね……」


 あの魔人の事件後、中々目まぐるしいスケジュールで行動している。


 事情聴取に、マーディに説教と反省文の提出。復興や解決を祝ってのパーティーに、学校では質問攻め。


そして陛下との謁見である。


 今回の功績を称えて、お話をしたいとのこと。お忙しい中、わざわざ時間を作ってくれたようだ。


 陛下や殿下は今現在、魔人事件の対処に大忙しだろうに。


「そうだね、僕は通い慣れてるから、慣れちゃったけど……」


 何度でも言おう、慣れとは全世界共通で恐ろしいことなのだ。


 そう言うと俺とアルビオは、門前で待機していたオリヴァーンという人の案内を受けて、玉座の間へ――。


 その道中、カチコチになっている俺に、緊張をほぐそうと、オリヴァーンが親しみやすく優しく話しかけてくる。


「そう固くならないで下さい。何も悪いことなどしていないのですから」


「は、はは……すみません」


「陛下はとてもお優しいお方ですよ」


 面識があるであろうアルビオも大丈夫だというが、そこの心配などしていない。


 俺が緊張しているのは、国のトップに会うこと自体とその人におそらく表彰みたいなことをされることだ。


 魔人事件は災害レベルの話であることは知ってのこと。それを解決に導いた俺やアルビオが呼び出しを食らうことは目に見えてはいたが、いざとなるとこの通りである。


 冒険者達には報奨金が渡され、アイシア達については報告されていない。


 されてたら、マーディ先生の説教も反省文も書いてるはずだからね。


 まあ殿下はその辺を踏まえて、報告はせずともパーティーには礼という意味で参加させたのだしね。


 俺もそうして欲しかったが、魔人を倒したのが黒炎だということが、簡単に広まったことから隠しきれなかった。


 向こうの世界にいた頃は、壇上に上がる機会なんて卒業式くらいだ。初めての表彰が陛下だなんて、限度を超えた緊張をするのも無理はないと思って欲しい。


 そんなこんなと王城でありがちなどこまでも続くレッドカーペットを歩きながら、玉座の間の扉前へと到着。


 命がけの戦いとは、違った緊張感が胸を叩く。本当に心臓に悪い。


 門の騎士へと会釈すると、俺達は玉座の間へ。


 そこには想像通りの光景が広がる。


 大きく開けた場には、先程から続くレッドカーペットの先には、玉座へ続く階段があり、その先に陛下の姿があった。


 ハイドラスを大人にしたような風貌だが、髪は伸ばされているよう。


 娘は母親似だろうか、もう一つの玉座は空である。


「陛下、此度の功績者を連れて参りました」


 オリヴァーンは忠誠を誓うように(ひざまず)いた。


 すっとアルビオも同じようにしたので、俺も辿々しく(ひざまず)いた。


「ふむ、ご苦労。……アルビオ・タナカ、リリア・オルヴェール……此度は大儀であった」


 国王に相応しい厳格な物言いで言葉をかけられた。


 お優しいとは聞いていたが、ちょっとイメージと違うぞぉ、と思いながら聞いていると、その陛下はふうと小さくため息をつくと、


「さて、堅苦しいのは嫌だろう、もう頭を上げ、楽にして良いぞ」


 急に(ほが)らかな物言いに変わる。


 オリヴァーンも陛下の性格を理解しているようで、優しい表情へ変わり、俺達の前から退いた。


 俺達はそう言われたので立ち上がり、楽な姿勢を取り、陛下を見上げる。


「陛下、お久しぶりで御座います」


「そうだな。しかし、随分と立派になったものだ……」


「いえ、そんなことは――」


 何やら世間話が始まった。


 まあアルビオは子供の頃から、出入りしているようだし、当然といえば当然の流れだろうか。


「おっと、すまないね。オルヴェール殿を放っておいて……」


「あ、いえ」


「そうですよ、お父様! レディを放っておくなんて失礼ですよ」


 フンとその横にはメルティアナ姫殿下の姿があった。


「コラ、父上だろ?」


「いいでしょ? お兄様。他の騎士や魔術師団もいないですから」


 なんとも王族としての英才教育からの不満が漏れでる。


 息抜きも必要だわな。


「構わんよ、ハイド。それより話をせねばな」


「話ですか?」


「今回、呼び出した件だ。君らは国を救ってくれた英雄だ……」


 英雄だなんて仰々しい言い方をされた。出来る事をやっただけなのに。


「見合うだけの報酬を渡そうと思ってな」


 顔を見るついでに、報酬の話をするという事だという。


 ということは相談かな?


「先ずは君達に貴族としての位を与えた上で――」


「あぁっ! あのっ!!」


 陛下は不思議そうに首を傾げる。


「どうした?」


「えっと……貴族の位って?」


「ん? 魔人を討伐したのだ、当然の計らいだろう」


 確かに魔人討伐は勇者がなし得たことだから、英雄視して、それだけの報酬を渡すのにも納得はいくのだが、荷が重く感じる。


「あの、陛下。お気持ちは嬉しいのですが、勇者の家系である自分は、丁重にお断り致します」


 それは日記に書かれていた。勇者はどれだけの功績を出しても、決して貴族にはなろうとしなかった。


 しきたりというやつなのだろうなぁ。


「ではオルヴェール殿だけに――」


「わ、私も結構です!」


 わたわたと慌てて止めた。


 貴族の位なんて、荷が重いやら面倒くさいやらで、きっとロクなことが無い。


「お主は確か、アルミリア山脈付近の村出身と聞いている。そこに貴族がいてくれれば……」


 どうやら力がある俺を貴族にして、管理させたかったようだ。


 アルミリア山脈には、沢山の迷宮(ダンジョン)が存在する。実際、ハーメルトが管理するには難しく、アルミリア山脈を越えた先の国とちらほらと利権の揉めあいがあるとか、ないとか。


 その為、現在は中立の立場にあるギルドが管理しているのだが、陛下からすれば、魔石の採掘源の獲得は喉から手が出るほどの話だろう。


 まあ、そう残念そうにされても断るが、


「だが断られるのも困る」


「と、いいますと?」


「これだけの功績を立てたにも関わらず、何の礼も出来んでは、王族の面子が立たん」


 まあ威厳を示すという意味では、必要なことだろう。


「陛下、我々は自分達の出来ることをしたまでです。お礼なんて……」


 貰いたくないわけではないのだが、王族からの報酬だ、規模的にも困る。


 だが、陛下も困った表情が解けない。


「えっと……これ以上、無下に断るのもアレだし、お互いの納得のいく報酬を貰おうよ」


「……うん。そうだね」


「そうして貰えると有り難い」


 とは言ったものの、どんな報酬を貰おうか。お互いが納得する条件。一番簡単な解決方法は――金だ。


 それなら向こうの都合に合わせつつ、俺達も納得がいく。


 同じ考え方のようで、ハイドラスが提案。


「無難に、金の方がいいだろう。それならお互いの立場に合うというものだ」


 正直、国の王子が金と言い切る解決方法に思うところはあるが、まあ腹黒いところもあるし、まあ納得。


 さらっと金と言った息子に思うところがあるのは、陛下も同じようで、苦笑いを浮かべた。


「二人もそれで良いか?」


「はい」


「ああ、それと許可証でも発行しようか」


「許可証……ですか?」


「うむ。今回の件で先生殿に大目玉を食らったと聞いている」


 多分、殿下から聞いたんだな。


「そういう時の為の許可証を用意しよう」


「あ、ありがとうございます」


「一応、色んなことに対応出来るだろうが、……悪用するなよ」


「わ、わかってます!」


 いわば王族の権利を一部使えるようなものだ、だがまあ、それなりに別の使い方はさせてもらおう。


「とは言うが、あのような事態に君らを駆り出させぬよう徹底はする。安心して過ごしてくれたまえ」


 俺達の本文は学生だ。魔人事件に駆り出されるようなことは、国を治める者としては不本意とするところだろう。


「それで、結局どうなってるんですか? 魔石については……」


 それでも当事者ではある為、尋ねると陛下と殿下は顔を見合わせ、解決の糸口が見つからないのだろう、困った表情を見せる。


「いや、彼についての動向は消えてしまっている」


「まだ調査は続けているが、おそらくは見つからないだろう。……見つかったとしても……」


 ……対応が難しいか。何せ殿下達があそこまで困惑した表情を見せるほどの殺人鬼。容易に対応は出来ないだろう。


 横にいるアルビオも落ち込んだ表情を見せる。


「すみません。力足らずで……」


「何を言ってるんだ、アルビオ。むしろあの化け物がおかしいだけだ。……言ったろ?」


「は、はい」


「アルビオ」


「は、はい。陛下」


「お主と彼の話は聞いている。できる限り関わらせたくはないが、やむを得ぬ状況になるかも知れん」


 すると、アルビオはキッと真剣な表情へと変わる。


「大丈夫です、陛下。……きっと強くなります」


 陛下の心境は複雑だ。


 陛下もまた、アルビオの気持ちを知っている。幼い頃から『勇者の末裔』と言われ、思い悩んでいたことを。


 それを押し付ける、このような事態はできれば避けたかったのが本音だが、どうもそうはいかなくなった。


 あの殺人鬼が目をつけてしまった。それとそのバックにいる輩にも。


 正直、アルビオに頼りたい気持ちはあるが、ここは大人としての意見を述べる。


「無理はするな。どうしてもという時に力を貸してほしいだけだ。我々は君の未来を妨げるようなことはしない」


 あくまで学生としての本文を貫いてほしいと伝えた。


 アルビオがどう思っているのかは別として……。


「……はい、わかりました」


 アルビオの心境もバザガジールの影響でだいぶ変わっただろう。


 自分がどれだけの強さでどれだけの立場にいるのか、明確になったのではないだろうか。


 勇者の末裔という肩書きだけが一人歩きをしていた頃とは違う。


 しかし、それでもまだ肩書きの方が先を歩いていることだろう。それにたどり着く為には、より一層の努力が必要だろう。


 だが、その肩書きにたどり着いたとしても、あの殺人鬼はさらに先を行く……そんなところだろうか。


 今まで、目標として立ちはだかる存在はおそらく、いなかったアルビオ。


 どちらかといえば尊敬の念の方が強い人達に囲まれて育っただろう。


 だからこそ、命を狙われる存在でありながら、目標として立ちはだかるバザガジールという存在は、皮肉ながら大きな存在だろう。


「でもお父様? あの魔石は何に使われるのですか?」


「む? そうだな、色んな運用ができるからな……」


 最高級品の魔石だ、使う用途は多々存在する。


 魔力のエネルギー源として使うは勿論、武器や兵器への運用、魔術儀式にての触媒、変な使い方をするなら、投石して爆発兵器としての運用も可能だろう。


 どの使い方もロクな事にはならない。


「まあ、あの男に渡っている時点で、ロクな使われ方はされない。あの男を倒せずとも、せめて魔石の回収だけでも……」


「うむ、そうだな」


 すると騎士が一人、前へ出てくると、そろそろ時間だと話す。


「そうか、わかった。……さて、アルビオ、オルヴェール」


「は、はい」


「今回の功績に相応しい金額を報酬として出しておこう。あと許可証もな」


「はい! ありがとうございます」


 ――この後、とんでもない金額を頂いたことに驚愕したのは言うまでもない。


 しかし、バザガジールの動向は気になるもので、


「何もないといいな」


 きっとそう都合よくはならないと思いつつも、平和であって欲しいと願うのであった。

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