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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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41 狂人が教える現実

 

「――ふざけんじゃねえ!!!!」


 一同が畏縮し怯える中、一人、その理不尽かつ意味不明な提案を強く否定して叫ぶ。


 バークだ。


「さっきから黙って聞いてたら、好き勝手言いやがって――」


 グラビイスやアルビオも抑えるように小声で諭すが、爆発したのか止まらない。


「――気に入らねえ奴しか居ないから、育ってるって自分勝手もいい加減にしろっ!! 人の人生何だと思ってやがるんだっ!!」


 だが、不思議とバークが洗礼を浴びない。バザガジールは表情を変えることなく、聞き続ける。


「勇者の末裔って肩書きだけでどれだけ苦労したか、コイツのことを全く知らない俺でも理解できるわ!! それなのにめちゃくちゃな思想を押し付けてんじゃねえ!!」


 ひと段落ついたのか、息を早くしていると、バザガジールからは笑みが溢れる。


「いやはや、その通りではあるのですが、自分の理想というのは大体押し付けるものですよ?」


 その言葉より、バークとの会話のキャッチボールをしたことに驚く。


 それを見たバザガジールは、そのような顔をなさらずとも、と続ける。


「貴方は他の蝿虫(はえむし)とは違い、理不尽に対して素直に怒り、意見を述べた。大体は意見などしないのですよ?」


 おそらくこの男が強すぎるが故に、誰もこの男に意見出来なかったのだろう。


 だからこそ、この男の言う『彼』と呼ぶ男の考えに賛同したのだと思う。


「私は殺人鬼と呼ばれるほど、強者を殺してきました。だからこそわかることがあります。その人の才能を見定めることがね」


 この男が何をして冒険者達を消したのか、わかっていないが、経験が豊富なのは言われずともわかること。


「貴方は末裔殿ほどではありませんが、まあそれなりにはなるでしょう。ま、私は眼中にもありませんが……」


「てめぇに評価されたくねぇ……」


 だが、その通りなんだろうと、悔しそうに歯軋りをたてる。


「これでも褒めてるんです。素直に受け止めましょうよ」


 見下すように、余裕のある言い方にまたカチンときた。


「とにかくっ! 俺の憧れの子孫をお前みたいなクソ野郎に汚させねぇよ!」


 そう言うと剣を構える。


 それを聞いたバザガジールは再び笑みを零す。


「ああ……貴方はこの国によくありがちな勇者に憧れて……というやつですか? 幼稚ですねぇ」


「――黙れっ!!」


「いや、別にいいのではありませんか? 彼のお陰でそのような目標やドラマがあると、人は予想以上の強さを身につけると知ってからは、楽しみが増えてとても充実しているのですよ」


 殺人鬼に肯定されたくないと、強くギッと睨みつける。


「ですが……そうですね。大人として、貴方の為になることをお教えしましょう」


「――ざけんなぁっ!! お前から教わることなんて何もねえ!!」


 すると、バザガジールは背筋を伸ばし、右手でくいくいとあおぐ。


 剣を構えるバークに対して行っていることから、これは明らかにかかってこいと挑発している。


「ダメだよっ!この人の強さは――」


「わかってるよ! えっと……」


 アルビオの呼び方に困っていると、アルビオから歩み寄る。


「アルビオです。でも――」


「逃げろ、アルビオ! 止められないことはわかってるが、やらないよりはマシな筈だ」


 格上だとわかっていても、理不尽なこの男の思い通りにはさせないと、強く剣を握り締める。


「そちらで勝手に決めないで頂きたい」


「人のこと言えんのかよ」


「強者の権限ですよ。それよりいいのですか? 止めるのでしょう?」


「ああ……」


 バークの剣に魔力が強く帯びて、斬りかかる構えを取る。


 自分は駆け引きが上手くないことを自覚している。


 間合いはある為、素早く斬りかかるのは困難と考えたバークは、力でゴリ押すことにしたようだ。


 幸い、バザガジールは(かわ)すそぶりを見せないことと、先程の挑発から受け止めにくると考えた。


「――いくぞっ! 殺人鬼!!」


 バザガジールまでの間合いを跳躍して迫り、体重をかけるように斬りかかる。


 正々堂々たる強さを感じる、真っ直ぐな一撃が振り下ろされるが――、



 パシッと右人差し指と中指で、軽く真剣白刃取り。


「――なっ!?」


 力を込めて押すも、びくともしない。


 全く歯が立たないと自覚させられているようで、悔しそうに、せめて気持ちだけは負けないと意地を張る。


「まあ予想通りの力でしたね」


「くうっ……!」


「逃げて下さいっ!!」


 この状況から嫌な予感しかしない。


 だが、バザガジールの実力をわかっていてか、誰も助けに行けず、すくんでしまう。


「さて、私は右利きです。……私はロクな人間でないことくらい理解していますが、それでも教えられることがあります……」


 そう言うと、左手で拳を作る。


「それは現実です。夢を持つのは大いに結構。――ですが現実を見なければ、叶えられるものでもありません。その現実を私がお教えしましょう」


 ニコリと笑顔で彼を見ると、わざとわかるようにぐっと拳に力を込める。


 アルビオが逃げろと叫ぶ中、頭に血が上っているように見えるバークは冷静だった。


 実力差があるからこそ、この男には油断という隙があるものと考えた。


 何せ、興味のない弱者を蝿虫(はえむし)と呼び捨てる男だ、下など見てもいないだろう。


 だからコイツは利き腕でもない左手で殴ろうとしている。


 確かにあの見えない攻撃は脅威だが、あれだけの距離があったから出来た技と判断した。


 これだけ近ければ使えないもしくは、その攻撃の反動は自分にも強い影響を生むのではないかと考えての無謀に見える斬り込み。


 駆け引きが上手くないだけで、出来ないことはないのだ。


 バークはその力を込めた瞬間に剣から手を離し、予備の小型のナイフで致命傷を与えようと考えていた。



(……え?)



 そう……考えていたのだ。確かにそう考えて、拳がこもった瞬間手を離し、拳を避けるつもりだったが、バークが今見ている景色は、少し高く見えていた夜空が遠くなっていく瞬間だと意識した。


 もう殴られていたのだ。気付くと口内から血の味がする。腹も何かとてつもなく重い質量でぶつかられたような鈍い痛みを感じる。


 そして――ズドーンっ! という音と共に身体が大きく揺さぶられる。建物にぶつかったようだ、ガレキが痛みを走らせるバークの身体に追い討ちをかける。


 瞬間的だったせいか、痛みはまだ酷くないが、身体はピクリとも動かない。


 その意識化の中、バークは雲が晴れた夜空から月が見える。


 先程まで目の前にいたイカれた狂人は一瞬で姿を消した。


(ああ……くそぉ……)


 痛みが増して身体が耐えられなくなり、悔しさを滲ませながら、現実という真実をその身と心に刻まれ、美しい月光の中、意識が暗闇へと溶けていった――。



 ――その光景を目の当たりにしたアルビオは言葉も出なかった。


「――バァークっ!!!!」


 グラビイスが涙を滲ませながら、飛んでいった方向へ急ぎ向かう。


 他の冒険者も息を呑み、硬直する。


「ふふ、彼はこのプレゼントは気に入ってもらえましたかね?」


 あまりに圧倒的な強さを披露するバザガジールに、冒険者達とそれを下で見ている騎士達も恐怖に震えるしかなかった。


「彼はこれをどう受け止めるのですかねぇ……」


 左手を見ながら微笑む。


「この悔しさをバネに強くなるのか、それとも恐怖にすくみ、さらなる弱者へと堕ちるのか、ねぇ?」


 冒険者達をニタリと微笑って尋ねるが、返答はしない。


「さて、蝿虫(はえむし)の方々、私と末裔殿の戦いの邪魔をなさらぬよう、去って頂けますか?」


 冒険者達は悲鳴を上げながら、一部は泣きながら、


「ごめんよ、勇者の末裔さん!」


 罪悪感に冴えなまれながら、屋根から降りていった。


 今宵の最終舞台は月明かりが照らす商業街の屋根の上。奇しくも最凶の殺人鬼と勇者の末裔という絵が出来上がった。


 だがアルビオは精霊達もそうだが、全細胞が訴える――この男とは戦ってはいけないと。


 それにバークからは逃げろとも言われている。彼の気持ちと犠牲を無駄にはしたくない。


 せめて無事でいることが、彼に対する償いに感じた。例えそれが、あの約束を破り、肩書きに合わずとも。


「僕が貴方と戦う理由はありませんよ」


 強くなったとはいえ、この男に対しては付け焼き刃にもならない。


 例え、育てると言っていても殺人鬼だ、気がいつ変わるかなんて知れたものではない。


 だが、バザガジールは提示する。


「ありますよ、こ・れ」


 美しく妖美な輝きを放つ魔石が、か弱い乙女のように淡く、助けを求めるよう。


「いいんですか? これを私の友人である彼に渡しても。きっと彼のことです……これを使って今回以上の騒動を起こすに違いありません」


 言う通りだろうと、苦虫を噛み潰したようにギッと歯を食いしばり、表情が歪む。


 だが、フィンは構わないとあっさりと言い返す。


「てめぇみたいな化け物を相手するくらいなら、また魔人とやり合う方がマシだ!! その頃には魔人を倒すなんざ、楽勝だね」


「ちょっと!? フィン」


 小さな身体でアルビオの顔面すれすれまで近付き、説教を垂れる。


「いいか、お前だって見ただろ? あの魔力を! あんなのもう人間じゃねえ! 逃げるのが得策だ! 迷う理由なんかねえ!」


 逃げることについては同意したいが、魔人の魔石をあのままにもしておけない。


 その彼もそうだが、この男自体に魔石を持たせることに危機感しか募らない。


 そんな返答を濁していると、まだ戦う理由が必要なのかと、胸ポケットから四つ折りのメモを取り出す。


「私は以前、貴方のことを調べていました。最初はその肩書きの重圧に耐えかね、卑屈な性格だったと伺っていますよ。しかし――」


 そのメモを開き、目を通しながら話を続ける。


「――この女の子を助けてから、変わられたようで……」


「――っ!?」


 その女の子にアルビオは勿論、覚えがある。わなわなと動揺しつつも隠すように、バザガジールを凝視する。


迷宮(ダンジョン)へと突き落とされた娘を勇敢に助けに行く……どこかの冒険譚に聞こえますねぇ」


「……そんなにカッコいいものではありませんよ」


「いいではありませんか。男子たるもの、女子の前で頼りになるところを見せたい……私にはあまりそのようなことはありませんでしたが、強くなる理由としては十分でしょう」


 強くなる理由など様々だろうが、この男のようなやり方だけは違うと心の中でツッコんだ。


「それで貴方を変えた女性の特徴ですが……赤毛のおさげで、そばかす、眼鏡のデコの広い娘……おっと最近は前髪を伸ばし始めたなどの補足情報までありますよ。女の子ですね〜、フフ」


 殺人鬼からは聞きたくもない(あお)りを言われた。


「それで……この()ですよね?」


 するとそのメモをこちらに見せた。似顔絵、上手ですよね〜、と言いながら見せるその似顔絵は、確かにリュッカだった。


 何とか表情を変えず、ポーカーフェイスを貫こうとするが、すぐに崩されることになる。


「彼女の首、もいでくればやる気になりますか?」


 冷たく(したた)り撫でるような悪寒と激しい衝動を感じた。


 瞬時に頭に浮かんだのは、バークのあの光景とリュッカの顔だった。


 あれ程の高速攻撃……ハセンの様子を見るに、加減はされているが、この男の発言から加減をしなければどうなるか――想像することは難しくなかった。


「アル! 挑発だ! 乗るなよ!」


 フィンはそう言うが、この男の性格上、そんな安易な考えなど浮かぶ訳がない。


 浮かんだのは――最悪の光景。


「……そんな訳ないよ」


「ああっ!? 挑発に――」


「そんな訳ないだろっ!! この人なら絶対に()るっ!!」


 精霊達は不思議そうに見るが、確信を持って言える。


 精霊達は人間とあまり関わりを持たず、この子達に関しては周りが優しい人だけだったから、理解が難しいようだ。


 この男の言動や口調から、この男がどうゆう人間なのか理解している。


 この人は手段を選ばない人だ。興味のない人を蝿虫(はえむし)と呼び捨て気にも止めず、自分の欲望に叶いそうな人には自分の価値観に無理やり当てはめる、素直な人。


 ある程度、友人の影響は受けている印象があるせいか、狡猾さもチラつくが、嘘がない人だと理解できる。


 だから僕の答えは、


「ふむ」


 精霊達は止めろと聞かないが、アルビオは鞘から刀身を抜き、構えて答えを示した。


「やる気になって頂けたようで何より」


「アルっ! お前……」


「どうせ逃げられないならね……」


 強がりを言いながら、精霊達に苦笑いして見せた。


「これでリュッカさんには手を出しませんよね?」


「この似顔絵の方ですよね? ええ。やる気にさえなって頂ければ、無闇に手を上げるようなことはしません」


 すると、バザガジールは何やら小瓶を投げ渡してきた。


 パシッと受け取ると、どうやらポーションとマジックポーションのようだ。


「これは……?」


「回復薬です。先程の戦闘の疲れがあるでしょうし、傷や魔力だけでも……」


 どうやら万全に近い状態で戦わせたいらしい。そこから本当に死の境地まで追い込み、鍛えるつもりのようだ。


「そんなもん捨てちまえ」


 フィンは敵の施しなんてと言うが、アルビオはあっさりと飲む。


「おい!」


「大丈夫だよ。毒なんて入ってない」


 バザガジールの性格からそれはないと確信を持って言えた。それに自分としても、今から戦うこの男相手には、万全の態勢でいたい。


「では、始めましょうか。……ですがその前に――」


 今度は小瓶を刺しておける腰巻きを渡された。ポーションとマジックポーションが二本ずつ、計四本刺さっている。


 アルビオは戦いを長引かせるつもりなのだと、腹をくくり、それを巻いた。


「さて、一応殺さないつもりではありますが、期待にそぐわないと判断した場合は……失望させた代償に死んで頂きますね」


 軽い口ぶりで話すが、アルビオにとっては生死の話だ。


 しかもそのリミットはおそらく渡されたこのポーションが尽きる時までと見た。


 じとりとした冷や汗が出てくる。


「あと、私と貴方では実力差がありすぎますし、加減もしますし、初手も譲りますよ」


「初手?」


「ええ、先手必勝というでしょう? 験担ぎをさせてあげようと言うのです」


 バザガジールは立っている場所をコツコツと靴で叩いて鳴らす。


「……貴方の初撃が来るまでここから一歩も動かないことを約束しましょう。但し、避けもしますし、防ぎもすると思っては下さいね」


 あくまでアルビオに勝たせる為の戦いではないのだと言っているのだろう。


 これは殺し合いというトレーニングなのだと。


「いくつか質問しても?」


 その問いにバザガジールは首を少し傾げて、どうぞと手を差し出した。


「準備の時間はくれるのですか?」


 初撃と言っても、単純に斬りかかるだけでは何の意味もない。


「ええ、構いませんが……先程の蝿虫(はえむし)が増援を呼ばれても面倒なので、手短な方が助かります」


 それならとアルビオは下で待機している騎士に向かって叫ぶ。


「そこの騎士の方! すぐに怪我人と冒険者達を連れて殿下の元へ! 事が済むまで待機していて欲しいとお伝え下さい!」


「き、君! いくら勇者の末裔だからって無茶だ! 我々も――」


「出来るんですか?」


 騎士達も下からとはいえ、会話も起きていることも知っている為、足元が震えているのが確認できる。


 騎士達はアルビオのその真剣な眼差しに、自分達が不甲斐ない、足手まといにしかなっていないことを自覚する。


「……わかりました。どうかご無事で! お前達、いくぞっ!」


 罪悪感を(まと)いながらも、足早にアルビオの指示に従う。


「私が言うのも難ですが、良いのですか?」


「僕も下手におられる方が戦いづらそうなので……」


 バザガジールの強さから、街の半壊まで覚悟しなければならないと考える。


 そしてもう一つの質問は、準備の際に起きる副産物で掠ったりするものを攻撃とは認めないかと尋ねると、そんなケチではないと返された。


 ――アルビオは落ち着ける為に深呼吸をした。


「フィン、風と雷の付与を……」


「――!? 両方のエンチャントをするのか!?」


 真っ直ぐにバザガジールを見るアルビオを見て――、


「ああっ!! わかった、わかったよ!! でも、どうするつもりだ?」


 半ばヤケクソな物言いでエンチャントをかけた。


 風と雷の暴風音が辺りを包むが、バザガジールに悟られぬよう、念話で話しつつ、ポーカーフェイスを貫く。


『フィン、あの人に考えが悟られないように表情には出さないでね』


 そう指摘されると、余計に意識して変な顔になる。


 アルビオはそれに苦笑いを浮かべ、癒されつつも続ける。


『フィンは余計なことはせずに、初撃を防がれた場合、援護して欲しい』


『どうするつもりなんだって聞いてんだが?』


『ごめん、それは言えない。でも、簡単にやられる気はないよ』


 相手は戦闘に関する全てにおいて格上だ。用心に越したことはない。


 だからこの初手は大事だ。


 正直、ほぼ防がれるとは思っているが、それでも少しでも倒せる確率を上げる為に考えを巡らせる。


 先ず、小細工は通用しないだろう。魔法陣等で準備を構えるのもいいが、目の前にいる以上、細工は難しい。


 とはいえ、バークのような力技が通用しないのは言うまでもない。


 ならば自分がよく使っている風魔法による高速攻撃が一番有効であると考える。


 だが、普通に風魔法だけでは不十分。何せバザガジール自体も高速攻撃を行なっている為、対処される。


 だから雷のエンチャントも施してもらった。これならいつも以上の高速移動が可能。


 だが、いつも以上の速度で移動することから、思考速度と反射速度が遅れるというデメリットも存在する――、


(なるほど……風と雷ですか。しかし、彼にはそれだけの速度を制御しつつ、身体が動くとは考えにくいが……)


 ――が、それを逆手に考えることにする。


 バザガジールは自分のことについて調べているように話していたことから、戦い方等も把握済み……つまりどれだけの速度までなら身体が動くのかも把握しているだろう。


 このように風と雷を(まと)えば、思考速度が追いつかない高速攻撃は単調なものだと判断がつくだろう。


 正直、そこはいいのだ。重要なのはここからである。


 超高速で突貫してくるとはいえ、どこを狙って攻撃してくるかによって対処は大きく変わる。


 そこを駆け引きとして考えるのだ。


(……彼は初撃で出来れば決めにいきたいでしょう。しかし、私との差や彼の性格から考えてとなると、致命傷は狙いにくいですかね……?)


 突貫していく自分にあの人の選択肢は――その攻撃箇所を予想して防ぎにいく。思考速度や反応速度が間に合わず、ランダムで攻撃するという予測不能な攻撃を対処する……この二択になると思う。


 だが、後者は無いと考えるだろう。性格を把握されているなら、考え無しに突っ込むという選択肢は捨てるだろう。


 敢えてと考えてくれれば儲け物程度でいいだろう。その為のエンチャントだ。


 問題は前者、攻撃箇所である――。


 アルビオは魔力とエンチャントを集中して(まと)い、態勢を低く、右からなぎ払うような態勢で構える。


(ふむ、あの態勢を見るに……そのまま胸に斬りかかるか、いや彼なら態勢を落として足を斬り、行動不能にすると考えますか……)


 この人は疑心暗鬼になったりはしないだろうが、それでも全部の選択肢を対処しようとは考えないはず。


 そして僕の性格、実力を考慮して、首や心臓といった致命傷は狙わないと考えることから、足や腕を狙うと考えるだろう。


 でも、僕は――首を狙う。


 アルビオはこの選択に正直、自分でも驚くくらい動揺していない。


 普段の自分なら、いくら敵意を向ける者とはいえ、そこまではしないと考える。


 しかし、この人はあまりにも異質だ。それに本能的に感じる――この人は仕留めないとマズイと。


 逃げるという選択肢を捨ててから感じるのは、そんな感覚だった――。



 お互いに見合い、タイミングを見計らう。これ以上の情報を出すと見破られる為、魔力とエンチャントの濃度を上げて、自分が出せる速度まで高める。


(さてさて、どうするか……楽しみにしましょうか)


 バザガジールは口元を緩める。


 それを見たアルビオはやはりと確信を得る。


 この人との間に実力差があるのは事実だ……鍛えるという辺り格下と考える、つまり油断、(おご)りがあるということだ。


 その隙を作れば可能性は生まれる。


 ――数分、この状況が続いた。バザガジールも、どう対処するか情報を出さない。


 ならばと動く。彼に悟られぬ程度に態勢を落とし、体重をかけるように足を前へ踏み込む。


 そして――、


(――いきますっ!)


 先程、プラントウッドに飛びかかったよりも速度がある勢いで雷が疾る。


 バザガジールの元へ行くのにコンマ単位の瞬間。


 その時の刹那の瞬間の間、アルビオはあまりに早過ぎて判断がつかない。


 だが、これでいい。この方が考えを読まれにくい。


 バザガジールは動けない自分が受けるであろう攻撃に無数の対処を迫られる反面、アルビオは狙った首元に斬り込むだけだ。



 ……だが――ビタリと勢いが止まった。その反動で身体が揺さぶられる。


 態勢を崩さないように、地を踏み締め止まるが信じられないと表情が固まる。


 その止まった刃の先を見ると、バザガジールがまたも白刃どり。


「いやぁ、見事なものでしたよ。並の相手なら……いや、Sランクくらいの輩でも今のを防ぐのは無理でしょう」


 褒めながらも、軽い口調で軽々と止めたこの男の実力に驚愕する。


 精霊の力と自分の今までの経験の全てを使った、彼の思考もある程度想定しての一撃。


 それが止められたのだ。


「貴方のことを調べていた私のことを考慮しての捨身に見せかけるエンチャント。実力差があるが故の突貫攻撃、首元への斬撃……貴方を知る人なら意表もつけたことでしょう」


「――!?」


 見透かされている!?


「しかし指摘もあります。先ず、攻撃を仕掛ける際に、身体を動かす素振りはもっと小さくするべきですね……」


 気を張ったはずなのに、あれでも不十分だったのか。


「瞳孔も(わず)かに動き、風の流れも変わった。あと速度に身体が動かないにしても爪先くらいのフェイントは入れるべきですねぇ」


 翔歩の基本技法のままで、実に読みやすいと言われてしまった。


 そこまで観察されたことに驚愕しつつも、納得するところもある。


 この男の経験値はそれこそ、桁違いだ。どうしてもっと気を配らなかったのか、後悔しつつ考える。


「ねぇ、末裔殿。どうして一騎討ちのような形を取り、私がここから動かないと言ったかわかりますか?」


 アルビオはそのまま考え続けると、一つのことにたどり着く――最初から仕組まれていた!?


「ふふ、気付きましたか? そうです。格上が相手なら小細工など無意味。ならば正面から速さで勝負することなど目に見えています。そこから私は動かないのですから、構えていればいいだけです。何せカウンターがないと貴方がどこかで安心しますからねぇ」


 全てこの人の言う通りだと、思い知らされる。


「そこまで考慮した上で、攻撃を仕掛けない限り、私に当てることなど無理な話です」


 そこまで見透かし考えているなら、ぐうの音も出ない。


「悲観することはありません。ここまで出来ればまぁ……及第点でしょう。……貴方の実力も測れたというものです。貴方はどうですか?」


 この人はお互いの実力をわからせる為に、この提案をして、僕には好機だと思わせた。


 完全に手の平の上だったことに恐怖心が一気に迫った。


「さて、験担ぎは出来ましたか? それでは――」


 左手で殴りかかってくるとわかる。それを回避しようとするが――右から重い一撃を貰う。


「――っか!?」


「始めましょうか?」


 どうやら右手で取っていた刃を離して、拳を撃ち込んできたのだと気付く。


 アルビオは勢いよく飛ばされ、屋根から屋根へと跳ねながらも受け身を取りながら思う……こんな一撃をハセンやバークという冒険者達は受けたのかと衝撃を受ける。


 風の防壁があってもこの威力……デタラメだっ!?


「……私、フェイントについては指摘しましたよ?」


「――っ!? なっ!?」


 声に気付き、瞬時に顔を上げるが、確認することもままならず、転がった先を見据えて、先回りされ殴られた。


「――があっ!!」


 今度は屋根ごと粉砕されて、回転しながら別の屋根へと転がり込む。


「ぐうぅ……」


 痛みに苦しみながら、ゆっくりと近付いてくるバザガジールを見ながら、刻まれるように思い知らされる。


「ふふ、ごちゃごちゃと色々考える人なのは理解出来ていますが、もっと本能的にいきましょう? 戦いとはその刹那の一瞬一瞬の駆け引きによって、成り立つのですから……」


 楽しげに悪意を含みながら笑みを零す。


 その表情と状況にかつて無い危機感を強く感じた。


「さあ、殺し合い(トレーニング)を始めましょうか?」

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