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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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40 黒幕

 

 一通り勝利の余韻に浸ると、殿下達は戦闘の後処理を始める。


 治癒魔法術師達が、先の戦闘の時以上に忙しなく動き回る。


 さすがにあれ程の魔物達の戦闘に騎士も冒険者もへとへとの様子。


 まあ俺もそうだが、


「殿下、私達は少しでも子供達の為に出来たかな?」


 まだ、目の前に処理されていない魔人の亡骸が転がっている。


 例え魔人を倒しても、子供達は帰って来ないし、自分の都合の良い風に解釈しただけなのかと考える。


「そんな顔をするな。確かに救えなかった命もあった。しかし、守れた命もまたあるのだ。胸を張れ」


 浮かない顔をする俺をそう励ましてくれた。


 誰かにこう言って欲しいってのは、甘えなのかな? なんて考えながら、困ったように微笑った。


「そうよ。倒したあんたがそんな顔してちゃダメでしょ?」


「そうだよ!」


「ありがと、アイシアもポチ貸してくれてありがと」


「さて、あんたはアレどうすんのよ?」


 サニラが顔を向ける先は魔人の亡骸。だが、質問の内容はおそらく、その側で転がっている魔石のことだろう。


 今までの魔石とは違い、凸凹しておらず、色合いにも淀みを一切感じない。遠巻きから見ても分かるほどの上質な、まるで宝玉だ。


「まあそうだな、ワシに捌かせたら、一生遊んで暮らせるほどの金額で取引させてやるがな。ワッハッハッ!」


 魔物を討伐し、そこから手に入れた魔石はその倒した者の物というのが、暗黙のルール。


 ギルドマスターがそういうなら間違いなく、ヤバイ代物。正直、手に余る物だと畏縮する。


「すまないがオルヴェール――」


「まさか、殿下だからって横取りしようとか思ってないでしょうね?」


 貧乏性を出すサニラ。言いたいことはわかるが、話は聞こうよ。


 おそらく調査や管理をしたいと切り出すのだろう。


「君の言いたいことはわかる。本来であれば、功労者であるオルヴェールのものだろう。だが、あれ程の魔石だ、個人が取り扱うのはどうにも容認出来ない」


 でしょうね。勇者の日記にも――献上したなんて書かれてたし。


「まあそうなるわな。下手な奴に渡ったら悪用されるこったろうぜ」


 わかっているなら、欲が出るような言い回しはやめてほしいと思う。


 とはいえ急に宝くじが当たった的な感覚。


 正直、欲は出なかった。そもそも魔人をそんな意図で倒した訳でもなかったし。


「私からもお願いします。殿下が管理してくれた方が、この国の為に使ってくれるでしょ?」


「ああ、勿論だ。この魔石から、また色々調べられそうだしな」


 またと言う辺り、前回(ワーウルフ)も魔人や魔物の調査の一環として調べていたのだろう。


 その辺は詳しく知らないが、殿下なら世の為、人の為に使ってくれるだろう。


 サニラが残念そうな顔をする中、ハイドラスが回収するよう、指示をしようとした時、ドサッと何かが地面に着地する音が鳴った。


 魔石から目を離していた一同が音のした方を振り向くと、


「あ……あぁ……?」


 見覚えのないゴブリンがそこにいた。生き残りなのか、逃げ遅れたのか、道にでも迷ったように辺りを見渡す。


「何だ? ゴブリン……?」


 だが、ゴブリンにしては異様な姿。


 見た目は腕だけが極端に長い、まるで手長猿のような姿。ゴブリンにしては肉付きはよく、ハゲてもいないロン毛に、目玉は出目金のように飛び出している。


 意識も希薄なようで、さっきから不思議そうな視線で「あ」としか喋らない。


 変異種だと見た目からはっきりわかるのだが、何やらそれとは別の異質な雰囲気に飲み込まれたように、見入ってしまう。


 その不気味な姿に、汚れ物でも見たようにサニラは処理しようとする。


「ゴブリンなんてロクなもんじゃないのよ!」


 まあ女の子にとっては、本当にロクな生き物でないことを、この世界へ来てから特に思う。


 俺も今は女の子だから、同意見だ。


 すると、ゴブリンは魔石に興味を示したのか、手に取ると、


「――あっ! おいっ!」


「……あ?」


 不思議そうに大きく首を傾げると、ダンッとラバの街の方へ跳躍して逃げていく。


 あの短い足からは想像もつかない脚力に唖然としていると、我に帰る。


「――お前達、直ぐに追え!」


 指示を受けた近場の騎士達はゴブリンを追いかける。


 ハセンはさっきのゴブリンが気にかかるのか、自分も追いかけると言う。


「ちょっくら、ワシも行ってくる」


「何かあるのか?」


「ん〜、どうにもあのゴブリンの様子がおかしいと思ってな。それに下手に衝撃なんて加えた何が起こるかわからん」


 ゴブリンは集団で行動する魔物。それは変異種でも変わらない。


 ハセンが感じた違和感とはそれだけではなく、ゴブリン特有の下劣さが見受けられなかった。


 不気味な笑みを浮かべていたのは変わらないが、方向性が違うのではないかと感じた。


 後、万が一、魔石に衝撃が加わり、爆発でも起きたら大惨事でもある。実際、ゴブリンが向かった先はラバの街。


 動ける冒険者数名もついていくことに。そこへ、


「僕も行きます」


 アルビオも立候補すると、ハセンはわしわしと頭を撫でるとついてこいと先導する。


 俺達も行こうと立とうとしたが、


「あれ……?」


 くらっと立ちくらみを起こすと、リュッカに支えられた。


「そんなに大勢で行かなくてもいいわよ。魔人の魔石を奪ったとはいえ、あれだけ行けば十分。あんたはあれだけ魔法も使ったし、休んでなさい」


「そうだよ、リリィ。それにみんな強いんだから大丈夫だよ」


 俺も特には心配はしていないのだが、何やら胸騒ぎがしている――。



 ――ゴブリンは無人となっているラバの街の屋根に軽い身のこなしで着地すると、器用に魔石を抱えたまま、ラバの街の三角や平らな屋根を飛び、逃走を続ける。


 下の方では騎士が見失わないように、顔を見上げながら追いかける。


 一方で冒険者達とアルビオは屋根から追いかける。


「ちっ、あのゴブリン速いな」


「中々の身のこなしだが……」


 ハセンが翔歩で近付こうとした時、ゴブリン行く先に人影があった。


 すると、パァンと破裂するような音が響くと、ゴブリンは空中で爆散する。


 そこから魔石が溢れるが、その人影は魔石をキャッチする。


 アルビオ達がその人影に近付く。


「あの……ありが――」


 顕現(けんげん)していたフィンが血相を変えた表情で、アルビオの顔の前で、行くなと遮る。


「どうしたの? フィン?」


 血相を変えたのはフィンだけではない。他の顕現(けんげん)していない精霊達も注意喚起する。


「アルビオ、あの男は危険です!」


「異質、異常、危険」


 アルビオはその暗転が晴れた夜空をバックに佇む男を見る。


 すらっとした長身に着崩した紳士服。どちらかと言えば借金取りのヤクザみたいにも見える。


 朱餡(しゅあん)のオールバックロングの髪と狐目が印象的な若い男。


 その姿を確認して血相を変えたのは精霊達に留まらなかった。


 あの襲撃事件にも関わらず、どこか余裕を持って魔物を蹴散らして見せていたハセンも、冷や汗をかいて、切迫した表情でその男を睨む。


「とりあえず、助か――」


「貴方が勇者の末裔……ですか?」


「あ、はい」


 バークがお礼を言おうとしたのを遮る。この口ぶりからアルビオに用がある様子。


 すると手に持つ楕円形の魔石を見せる。


「これ、どう思いますか?」


 質問の意味と意図がわからず、小首を傾げる。


「この魔石をどう見ますと言っているのですよ」


 物腰の落ち着いた紳士的な喋り方で尋ねてくる。とても精霊やハセンが血相を変えるほどの人物には見えない。


「えっと……魔人の魔石だから扱いが危険とか、ですか?」


「ふむ、なるほど……」


 何やら思うことがあるらしい口ぶりで呟いたが、納得した様子を見せる。


「えっと、何か?」


「ああ、いえ、貴方の返答は間違っていませんよ。その通りだと思います。これを『物』として認識するのは普通のことです」


 何か含みのある言い方に引っかかる。


「ですが、これを『物』として認識することは正しいことなのですか?」


 そう言うと、再び魔石を見えるように差し出す。


 言っている意味がわからず、返答に困り、黙っているとその男は話を続けた。


「魔石というのは、魔力だまりからできる自然的な物と、魔物から取れる物と二種類が存在します。魔物から取れる魔石は、質の良い物を育てる方法として前者のやり方に加え、人の負が関与します」


 学生さんですし、わかりますよね? と細目を少し丸く和らげた笑顔を見せる。


 アルビオはおかしな言動、精霊達の危険感知から、この人に対し、不信感を抱き始める。


 無言でだんまりを決め込むと、肯定と認識されたのか、話が続く。


「これは人を殺し、苦しめて作られた魔人から取れた魔石です。つまり、人の死と業を『物』に変換したものと捉えられるのですが……果たして、これを『物』と呼んでいいのですかねぇ」


 温和な喋り方とは裏腹に、魔石の恐ろしい解釈の説明に、喉元にまとわりつくような違和感のある感覚に襲われる。


 アルビオは自分の言った発言に、後悔の念が霞む。


 その発言の上で、男はこの魔石を褒める。


「美しいとは思いませんか? この凸凹一つ無い、丸みを帯びた艶やかな肌触り。吸い込まれそうなほどに透明感のある紫水晶。そして内包されている上質な魔力……」


 (あお)るように、罪悪感をえぐっていく。


「これは正に、死と業の宝玉。そして、人の死を物として扱うことを証明する品。くくっ……人もそうですが、そんな世界を作った神様も残酷ですねぇ」


 まるで人の死を……殺されることが正しいのだと、自分達が肯定したように聞こえる。


 人の死を楽しんでいるように聞こえる。しかもこの男は、特に罪悪感もなく、話を進める様子に、寒気を感じる。


「いや、あの――」


「殺人鬼が屁理屈こいてんじゃねえ!!」


 この男の詳細を知っているであろう、ハセンが声を荒げる。その様子に一同の視線がハセンに集まる。


 みんな驚いた様子で見るが、それも当然の反応。


 アルビオも出会ったのが、今日が初めてだが、どこか大人の余裕がある、ギルドマスターと呼ばれるにふさわしい貫禄を見せていた彼が、怒鳴り散らしたのだ。


 その表情は怒りは勿論なのだが、どこか恐れている様子にも見えた。


「あの、殺人鬼って……?」


 ハセンに尋ねたのだが、アルビオの発言に反応したのは目の前の男。失礼しましたと会釈をすると、自己紹介を始める。


「初めまして勇者の末裔、アルビオ・タナカ殿。私はバザガジールと申します。ある組織に身を置く、しがない殺人鬼で御座います」


 言い訳するどころか、あっさり殺人鬼であることを肯定するこの男に、背筋が凍りつく。


「殺人鬼って……グラビイスさん、知ってた?」


 グラビイスは、知らないと首をゆっくり横に振った。それを横聞きしていたハセンが口を挟む。


「知らねぇのも無理はねえ。コイツはブラックリスト入りしてる化け物だ」


 この世界にも犯罪者の指名手配書は存在するが、一般的に非公開の犯罪リストをそう呼ぶ。


 ここにリストされる人間は、危険度と戦闘能力がS以上越えは当たり前。国一つ滅ぼすことも容易な実力者が名を連ねる。


 このリストは国上層部やギルドマスターとSランク冒険者にしか、情報を提示されない。


 そして、今目の前にいる男は実質、最強にして最凶と言われている男だと説明する。


「な、なんでそんな奴が……」


 それを聞いた冒険者達は、わなわなと瞳と身体を震わせ、動揺する。


 だが、そんな彼らの様子などまったく気にすることなく、アルビオを称賛する。


「それにしても先程の戦い、見事でしたよ末裔殿。魔人には退かれたとはいえ、その後のプラントウッドとの戦いは中々でした」


 どうやら先程の戦いを見ていたようだが、まるで演劇を終えて、感想を述べるような口ぶり。


「正直、彼とは違い……こう劇的な展開……ですか? そのような人間ドラマには興味がなかったのですが、貴方のは見ていてとても有意義でしたよ」


 彼という言葉が些か気になったが、それよりも先程の戦いを見ていたという発言の方を問う。


「待って下さい。見ていたんですか?」


「ええ、そうですよ。おそらく彼も見ていたのではないですか? 自分が放った魔人がどんなドラマを作るのか、楽しみにしていたようですし……」


 簡単に喋るその言葉の中から、耳を疑う発言が出た。


「――おい、あんた魔人を放ったって……」


「……魔人を放った?」


 信じられないと、ポツリと呟いたアルビオの疑問に反応したように返答する。


「えっと、正確には少し違いますが、ことの元凶が我々にあるのは否定しませんよ」


 悪びれる様子もなく、さらりと答えるバザガジールに常識を疑った。


 他の冒険者もその理不尽な発言に憤りを隠せない。


「ことの次第を知りたいならお話しますが……聞きます?」


「吐いて頂けるなら、是非……」


 そう言うとバザガジールは淡々と説明を始める――。


 あの魔人は元々、この国にいた魔物ではあった。


 そこを彼が所属している組織の人間が回収、持ち帰り魔人にして研究をしていたそうだが、今回の元凶の『彼』と呼んでいる男が、悪戯でその魔人を拝借したと言う。


 その後、彼はその魔人が人間と同じ反応をするのか自分で試してみたいと、心の傷(トラウマ)が残るような(なぶ)り方をしたらしい。


 その事を知った別の組織の人間が、そんな扱いをするならその魔石をよこせという話になったらしい。


 そして彼は渋々魔人(おもちゃ)を手放そうと考えたのだが、ただ殺して回収するのも面白くないからと、この国に放置したとのこと。


「――それでここまでの事態に発展したという訳です。ご理解出来ました?」


 彼は個人情報は出さず、一連の事件の元凶を話した。


 その発言や行動、態度に憤りしか感じない一同。


「そんな勝手な理由で、あんな恐ろしい魔人を解き放ったというんですか? どれだけの人が苦しみ、亡くなったかご存知なんですかっ!?」


 さすがの温厚なアルビオも、動揺と困惑を隠しきれない様子で、反省はないのかと問うが、バザガジールは気にも止めない。


「ええ、存じてますが――さすがは勇者の末裔。貴方は蝿虫(はえむし)の生き死にすら気にするのですね?」


 話し方は穏やかなのに、冷たく重い感覚がずっしりとのしかかる。


 この表情一つ変えずに、死んでいった人達を蝿虫(はえむし)と吐き捨てる、バザガジールの神経を疑わざるを得ない。


 殺人鬼と呼ばれているのも、名乗るのも、まだ出会って数分しか経っていないのに、手に取るようにこの人が異常なのだと理解した。


蝿虫(はえむし)って……」


「――いい加減にしろっ!! クソガキがぁっ!! てめぇのせいでどれ――」


 憤りに耐えかねて吐き捨てたハセンだったが、急に言葉が消えた。


 アルビオ達も何で急に声が止まったのか、わからなかった。すると――、


「え……?」


 アルビオは隣にあったはずの大きな影が消えたことにやっと気付いた。そして――ズドーンと建物が崩れるような音が遠くから響く。


 音のした方を皆振り向くと、そこには、隣にいたはずのギルドマスターが頭から血を流し、ガレキに埋まっていた。


「――ごはっ!?」


「ギ、ギルマスっ!?」


 一部の冒険者達はハセンへ駆け寄り、グラビイスやバークを含めた残りの冒険者は、目の前の男を警戒する。


 アルビオは何が起きたのかわからず、酷く動揺した表情し、冒険者がピリついた緊迫感のある空気が漂う中、バザガジールはまるで何もなかったかのように話を続ける。


「ですが、そのような心構えだからこそ、勇者という肩書きが……」


「何をしたんですか?」


 ハセンに何かしたであろう男に問いかけると、凄く不思議そうな表情をされた。


「ギルドマスターさんに何をしたんですか!?」


「ギルドマスター……? ああ、先程叩き落とした蝿虫(はえむし)のことですか?」


 その発言を聞いた一同は茫然とする。


 冒険者達からすれば、頼りになるとても大きな存在。アルビオからしても、先の戦闘を見ていたし、助けてもらった頼もしい人だ。


 その人が突然消えたかと思うと、突き飛ばされて家を破壊し、血塗れで力尽きたように倒れている。


 それをしたのは間違いなくこの男。何をしたのか、モーションも気配も何も無かった。


 そして、トドメに蝿虫(はえむし)呼ばわりである。


蝿虫(はえむし)の叩き方を知らないという訳ではないでしょう?」


 虫の叩き方と同じだよという、軽い言い方をしたかと思うと、次は侮蔑(ぶべつ)するかのように吐き捨てる。


「さっきから私は勇者の末裔殿とお話しているというのに、鬱陶(うっとう)しい……」


 言われてみれば、アルビオ以外の人間の言葉には反応していなかったように思う。


「さっきから耳障りではありませんでしたか? 羽音がぷんぷんと……」


「あの……貴方、それは本気で言ってるんですか?」


「ええ。あ、大丈夫ですよ。私は彼とは違い、弱い者虐めは嫌いですから、殺してはいませんよ」


 弱い者には慈悲と侮蔑(ぶべつ)を与えるものだと言う。


 もはや会話が出来るのはアルビオだけと、周りの皆が黙り込み、アルビオが探りを入れるように話す。


「しかし、さすが蝿虫(はえむし)。大きいのを潰せば黙ると思いましたが、静かになりましたね。話を続けましょう」


 嫌味のようにそう話すが、誰も反論出来なかった。


 この男の実力は、ギルドマスターが言っていたブラックリスト入りという情報と、ギルドマスターを飛ばした強さで把握済み。


 誰も手が出せる訳がなかった。


 どこまで話しましたっけ? と悩んでいると、面倒になったのか、自分の目的を話すことにする。


「私はですね、ある目的の為、ここにいるのですよ。一つはこれ――」


 差し出したのは魔人の魔石。


「先程話したでしょう? その彼に回収を頼まれましてね、これが一つ目の用件。そして二つ目が――貴方ですよ、末裔殿」


「ぼ、僕……?」


「ええ。私は貴方と殺し合いをしに来たのです」


 それに素早く反論するのは、フィン。


「はあ!? ふざけんな! てめぇみたいな化け物とやらせられる訳ねぇだろ!?」


「消耗品は黙っていてもらえます?」


 頭にきたのか、横で怒鳴り散らす中、アルビオは精霊達の警戒する理由を探るべく、感知魔法を使用する。


 実力は把握済みだが、情報が欲しいと魔力を確認する。すると――今までに見たことも感じたこともない濃厚かつ膨大な魔力を感知する。


「――っはあっ!?」


 その禍々しい魔力にまるで意識を呑まれるような感覚が襲い、瞳孔が狭まり、心臓が強く叩かれ、冷や汗と呼吸が激しく止まない。


「……な……なんだ……この人」


「ん? もしかして魔力感知しました? その様子だと手遅れなようですけど、やめた方がいいですよ」


 だが、その忠告を聞かず、感知した者の叫び声があがる。


「――きゃああああああーーっ!!」


 冒険者の魔術師が感知魔法を使ったようだ。バザガジールの魔力に酷く怯えて震え上がる。


「おい、だい――」


 駆け寄った男の冒険者ごと消えていったかと思うと、また建物が崩れるような音が響く。


 もはや聞くまいと、アルビオは怯えながら問う。


「僕と殺し合う? こんなに実力差があるのにですか?」


 認めたくないが、このバザガジールという男の実力は本物だ。


 正直、殺し合いなど論外だが、この男の異質性から本当に目的はそれなのだとわかる。


 だが、彼もそれはわかっているようで、正確にはまだと説明する。


「……そうですね、理解をして頂いた方が進行しやすいでしょう。少々昔話にお付き合い下さい」


 そう言うと自分の身の上話を始めた。 


「私の趣味は人が容認出来るようなものでは無いんですよ。それは……戦いにおける殺し合いをすることが私の生き甲斐なんですよ」


 殺し屋と自称するくらいだ、ある程度おかしな理由で行っていることは把握出来ていた為、そこまで驚かない。


 すると、興奮したような、先走るように饒舌(じょうぜつ)な口調へと変わる。


「昔は良かった。私も当時はまだまだ未熟でしたから、実に楽しかったですよ。お互いの命を奪い合おうと躍起になって……」


 すると表情まで恍惚に歪む笑みを見せる。


「あの……生と死が一瞬一瞬の判断で決まる(せめ)ぎ合いのあの葛藤(かっとう)、殺し合いの中でしか味わえないあの戦慄、何より殺した瞬間でさえ、一瞬しか味わえない……あの渇きを潤す一瞬のひと時……ああ、堪らないっ!」


 まだまだ楽しみなことはあるんですけどねという、常識人には理解不能なことを口走る。


 この男は所謂(いわゆる)、スリルジャンキーなのだろう。少なくともアルビオの理解の範疇(はんちゅう)にないものだと悟った。


「ですがね、この趣味には大きく欠点があったのです」


 すん、と急に声のトーンが戻る。


 欠点と言われても、最初から常識人の理解にない趣味の時点でわかってあげられない。


「それは強くなってしまうことです……」


 しょんぼりとした沈んだ声で、何か変なことを言い出した。


 思わず拍子抜けし、ツッコんだ。


「えっと……それは良いことなのでは?」


「本来ならそうなのかも知れませんが、私は強くなりたいのではなく、戦いにおける殺し合いを楽しみたいだけなのです」


 言っていることに頭が痛くなる。


 人間、経験を積めば嫌でも成長する生き物だ。ましてや殺し合いなどという、通常味わうことのない刺激を浴び続ければ、戦いにおける筋力、技術、駆け引きなどが研ぎ澄まされていくのは、言うまでもない。


 だが、この男はあくまで殺し合いがしたいだけだと言う。


「なら、その相手に合わせれば……」


「それの何が楽しいのです? 全力でやってこそ楽しいのでは?」


 正論なのだが、この男が言うといまいち納得してはいけない気がした。


「まあ、その先に私の求める楽しみがあれば別ですが、大抵はただ雑魚なだけなので……」


「えっと、つまり今は……」


「そう、生き甲斐が取られ、絶望の淵に立たされていたのです」


 この話を聞いている一同は、それならさっさと居なくなってくれと、切実に願う。


「ですがそんな時、彼と出逢いました。彼もまた、私が求める程の相手だったのですが、当人が殺気一つ向けず、乗り気ではなかったのです」


 この口ぶりから、その彼はこの男と近しい実力の持ち主だと判断出来る。


「そんな彼は見透かしたようにこう言うのです……君の渇きを解消しようと。私は彼に全て語りました、すると楽しげにこう言ったのです……自分を殺し合える人間を何で待つの? 育てればいいじゃないと!」


 気分が高揚したのか、落ち着いた態度から一転、狂ったように興奮し始める。


「そう! そうなんです! 何故気付かなかったのか! 待つ必要などなかったのです。育てれば良かったのですよ」


 そう言いながらアルビオに、好物に目がない子供のような視線を浴びせる。


 その視線に今までに感じたことのない悪寒が走る。


 アルビオは理解した……その対象が勇者の末裔という肩書きを持つ自分なのだと。だから――。


「それは無理ですよ」


「ああ、師弟関係を築くと情に湧く、というお話ですか?」


 無理だと諭そうとするが、そこもわかっているようであっさりと否定する。


「それは私もそれは思って彼に投げかけましたが、それもあっさりと笑い飛ばされましたよ。君自身が経験済みじゃないかと……」


 アルビオはその言葉の意味を理解する。


 この人は殺し合いという、死地を経験し続けた故、ここまで強くなったと悩んでいた。


 その理解をした、信じられないとばかりの表情を見ると、冷たくも楽しげに言葉が這い寄る。


「……理解して頂けたようで何より。そうです! 師弟関係など作らずとも、私が貴方を死の境地に立たせ、強くしようと言うのです」


 つまりこの男は、いや提案した男は人間の性質を利用し、強敵として立ち塞がることでアルビオを強くしようと考えたのだ。


 有名な話だ。


 人間は全力を出せないようにリミッターが科せられている。最大でも七割が限界とされる。理由としては行動できるくらいの余力を残す為とされている。


 しかし、命の危機を感じるとそのリミッターが外れる。


 死なない為にその残りの三割を本能的に発揮し、生きる為にその力を燃やすのだ。


 例として、か弱いおばあちゃんが、車を持ち上げるほどの力を発揮するという話が有名だろうか。


 バザガジールはそのリミッターを解除し続けて、限界の更新をさせようと考えているのだ。


 アルビオには勇者と同等の才があるという話は、この国では有名だ。


 自分の境地までたどり着けるであろう才能の持ち主ならば、このイカれた男のお眼鏡にも叶うもいうもの。


「ですからご安心下さい。殺し合いとは言いましたが、()()殺しません――」


 財宝でも見つけたかのような欲にまみれた悪辣(あくらつ)な笑みを浮かべる。


「――せっかく見つけた黄金の果実がなる種を見つけたのです……芽吹く前に摘みとったりなどしませんから……」


 アルビオは今までに感じたことのない悪意を全身で感じるのだった。

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