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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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28 見えない犯人像

 

 ――屋敷へ戻った俺達はちょっと遅い昼食を頂いている。


「結局、こっちも手掛かりなしだ」


「そっちもダメだったんでしょ?」


「まあね」


 俺達は情報交換をしている。


 と言ってもお互いに成果のない話だったので割とあっさりと報告は終わった。


 サニラ達はさすがに一週間も経つと匂いの情報や魔力の違和感ある痕跡などないと、ぼやく。


「でもさ、本当にどこ行ったんだろうね、犯人と子供達……」


 フェルサは行儀悪く、フォークをくわえたままそう話す。


 いつもなら注意するナタルも、今日はそんな気も起きないように、ぼーっとしている。


「そうね、港の方も調べたけど、それらしき形跡もなかったし、そういう船が出たのかも聞いたけど、怪しい船はなかったっていってたしなぁ……」


 潜伏している犯人と攫われた子供達を含め百人はいるはず、それが人っ子一人見つからないのもおかしな話だ。


 どこかに見落としがあるようにしか思えないが、そもそも情報がない。


 なのでとりあえず今ある情報から犯人像を予想する。見えてくるものがあるかもしれない。


 俺達に今与えられている情報は、子供達を攫ったこと、攫った方法を隠蔽(いんぺい)出来ること、隠蔽(いんぺい)にこだわってるあまり、偽情報を用意することを(おろそ)かにしたこと。


「やっぱり犯人は複数人だよね?」


「まあそうでしょうね。この町の被害を考えればそうなるでしょ」


「その犯人達はどんな人物かな?」


「変態」


「クズ」


 サニラとフェルサは淡々と答えた。


 俺は聞き方を間違えたのだろうか。犯人の予想という意味で聞き始めたのに、その返答は検討違いだと思う。


「いや、そうじゃなくて……いや、そうかもしれないけど、ここまで見ると完璧主義者なんだねとか、もっとこう、その犯人の性格を予想出来れば、次に取る行動がわかるかもって話」


 そんな趣味的な話ではなく、もっと根本的な話をしたい。


「はは……まあそうだね。さっき言ってたけど、この犯人達は攫った方法は隠したのに、攫った事実は隠さなかった……」


「だけど、偽の細工を思いつかない抜けたところもある……」


「犯人は完璧主義者のちょっとお馬鹿な自信家さんか、完璧主義者のおっちょこちょいさん?」


「しかも集団」


「……おいおい」


 これだけ聞くとお馬鹿に振り回されているように聞こえるが、行方不明者が出ている以上、洒落では済まされない。


 ()に落ちない件はいくつかある。


 一つは攫った方法は隠したのに、攫った事実を残したこと。


 理由としては自信家か自慢がしたかった馬鹿。


 もしくは事件性を露わにし、騎士団やギルドの調査を難航させて、警備を手薄にして誘導し、別の行動を悟られないようにすることが目的か。


 姫殿下が攫われたと聞いている。もしかしてそれが狙いかとも思ったが、それならば犯行声明や何かしらの動きがあってもおかしくはない。


 現に姫殿下が攫われたと聞いて一日経つ。王城内はパニックだろうし、王城内の人間はほとんど知っていることだろう。


 王都に何かあればすぐに知らせもあるだろうが、ないことを考えると、その可能性も低いのではないかと考えられる。


 二つ目は偽装工作をしなかったこと。


 子供達を攫うこと自体が目的であるなら、極力バレないようにすればいい。


 まあしなかった理由は想像もつく。


 騎士団達の目を欺くことを前者がやってしまっているから必要ないと思った。


 だが犯行声明がない以上、それもないように思える。


 何せ子供を攫っているのは、明るみになっているものでも一週間以上前になる。


 子供を攫う以外の動きがなく、痕跡一つないのはおかしい。


 子供達を攫った理由に関しては、奴隷商に売るなり、変態趣味なりだろうけど、どこかに手掛かりがあればなぁ。


「ん?」


 ここで引っ掛かったのは、やはり痕跡がないこと。


「……犯人はいなかった」


「どういうこと?」


「いや、痕跡なく攫われたって印象が強くて忘れてたけど、痕跡を残さないって犯人が現場に行かなきゃ、痕跡は残らないよね」


「おおっ! リリィ、天才!」


「いや、普通の考えに戻しただけだから……」


 だが、この見落としから考えればとも思ったが、サニラは特に反応しなかった。


「だから、その方法がわからないって言ってるから、集団の犯行だって言ってるんでしょ」


 せっかく思い付いたことだからと、アイシアが意見を言う。


「それこそ……アレだよ、テテュラちゃんが言ってた――」


人形使い(ドールマスター)の仕業なら、そもそも手遅れだし、そんな術者は生まれにくいし、被害は子供だけにはならないし、勇者の末裔が気付くとも言わなかった?」


「で、でもよ、そこまでの術者じゃなくても、闇属性持ちなら――」


「確かに精神系の魔法は使えるけど、術自体が強力な分、魔力痕が残りやすいし、魔法陣の光とかはどうするのよ。魔法発動した際に起きる発光は? 全部対策出来るとして、子供だけ攫うなんて器用なことできるの?」


 サニラは(ことごと)くを否定する。


 その通りなんだが、勢いが凄いと一同、呆気にとられる。


 そんな中、幼馴染みのこの男は付き合いが長いせいか、はっきりと物申す。


「お前ってさぁ……」


「何よ」


「ほんっっっっっっっっとぉに可愛くねぇな」


 あ……今、サニラの頭の上にすっごい怒りマークがあるぞ、きっと。


 すると、テーブルがガタンと揺れて、テーブルの向こう側にいるバークが物凄く痛そうな顔をした。


「――いっでぇ!! この馬鹿!! (すね)は止めろ!! (すね)はっ!!」


 どうやらバークの(すね)を蹴ったらしい。器用な。


 サニラはツンとそっぽを向いた。


「んんっ、話を戻しますが、攫ったのではなく、誘導したというのは当たりな気がするのですが……」


 今までだんまりだったナタルが意見する。


 賑やかだったことで少しは気持ちに余裕が出来たのだろうか。


「さっきも言ったけど、魔力痕や術を発動する際の気配を気取られるわ。ジェイルさん、魔力痕はどこにもなかったんですよね?」


「え、ええ」


 ジェイルは娘を攫われたのだ、血眼になって探したはずだ。見落とすというのは考えにくい。


 各々思い思いに唸り、悩んでいると、バークは自分の目の前にあるスープの(かぐわ)しい匂いを嗅いで気付く。


「そうだ! 匂いだよ!」


「は?」


「ほら、匂いなら痕跡が残らないし、誘うようにふよふよ〜って……」


 サニラは怒りの表情へと変わっていく。


「目に見えるものだけが痕跡じゃないでしょうが!! 子供だけが都合良く誘える匂いって何よ!! 匂いなら誰でも気付くわよ!!」


 馬鹿に付ける薬はないと激怒し、燃え盛っているところに、天然が油を注ぎ始める。


「じゃあ声ならどうかな? 目に見えないし、匂いもしないし――」


「聞こえるでしょうがぁーーっ!!!!」


 バークとアイシアはお互いに手を組み合い、鬼の形相のサニラに恐怖する。


「この馬鹿と天然はぁ〜……」


「サ、サニラちゃん、怖いよ……」


「お、俺達だって真面目に――」


「考えてるってぇ……」


「ひいぃーーっ!!」


 ナタルとリュッカはどうどうと怒りを治めようとする中、フェルサは久しぶりの光景にしみじみした様子を見せる。


 かくいう俺はアイシアの声という意見に引っ掛かっていた。


「いや、できるよ。音なら」


「は?」


 コイツまで何言い出すのと言わんばかりの威圧的な一言。


「あのね、貴女まで天然かますつもり?」


「そうじゃないよ。音の周波数……だったかな? 大人になったら聞こえなくなる音があるんだよ」


「聞こえなくなる音?」


 人は年を取れば、一定の年齢を越えると身体は衰えていくもの。基本的には二十歳からとされている。


 聴力が低下することで、聞き取れなくなる音があると向こうのテレビで見た覚えがあり、思い付いたのだ。


 ちなみにモスキート音と呼ばれているようです。


「もしかして、龍笛みたいな?」


「そうそう……って龍笛!?」


 犬笛という同意が来るものだと思っていたのだが、斜め上の意見が飛んできた。


 さすがファンタジー、龍専門の笛があるとは。だが、おそらく同じ原理だろうと話を進める。


 サニラは落ち着きを取り戻し、椅子に座り直す。


「……なるほど、つまりその子供だけに聞こえる音を使って誘い出したと……」


「うん、その可能性は高いと思う。聞き込みの時に話していた、赤ちゃんや十歳くらいの子供の事から想像つくよ」


「――あっ。あの時の骨折の話?」


 聞き込みの際に聞いた雑談。


 赤ん坊は廊下まで行っていたと言っていた。おそらく足腰が立たないくらいの幼子は、音には気付いたが、そこまで行けなかったことやドアが開けられなかったりということから被害を受けなかった。


 足を骨折した彼は、ふと耳に入った呼びかけに応じようとしたあまり、足の怪我を気にせず、踏み入り、痛みから意識が覚醒して、難を逃れたと考えられる。


「そうですわね、メトリーの部屋に入った痕跡はなかった。けど掛け布団はめくれていた」


「つまり、メトリーちゃんはその音に反応して、半催眠状態で自分から向かったってこと?」


「でも、それは子供達だけにという条件をクリアしただけよ。周りに一切気付かれずに誘導されたということは説明できる?」


 サニラは根拠がないと疑問を投げかける。


 それに対してバークは空気読めよと言わんばかりの表情を浮かべ、


「そんなに否定すんなよ。状況的には当たってるだろ?」


 俺の意見を肯定するが、サニラはキッと睨む。


「あのね、子供達の命がかかってるのよ。的外れだったら、また被害者が出るのよ。疑問は追及すべきでしょ」


「うっ……そ、それは……」


 言い返され、気不味そうな表情を浮かべる。


 だがサニラの言う通り。子供達の安否に関わる問題である以上、少ない情報とはいえ、しっかりと犯人が行った犯行を固めなければならない。


「だからもう少し言わせてもらうけど、本当に子供だけ攫えるの? そんな音の調整こそ、難しいんじゃない?」


「それは……」


 確かにその話は、一般的に二十歳前後だったと、曖昧な記憶から思い出せる。


 つまり、攫われた年齢の子供達だけに聞こえるという訳ではないだろう。


「誘導だったら、一応説明できそうですが……」


「ホントっ!?」


 あくまで予想ですが、と補足を入れてナタルは説明する。


「狙われた子供達は六歳から十二歳くらい、魔力に敏感な年頃の子達が被害にあっていることから、微弱な魔力で誘い込むように……」


「釣り糸のようにってことかな?」


 少し言い回しがわからなくなってきたところをフォローすると、そうですわと返答すると説明を続ける。


「それに魔力を微弱に流すことで特定の人物のみ聞こえるようにするということは可能なのだと考えれば、遠くから監視すれば操れますし、これなら他の方に聞こえないという条件、子供達を誘導するという条件、魔力による痕跡も微弱なら気にかかるものではないと全部クリアできるのでは?」


「凄いよっ! リリィ、委員長!」


「うん。二人のお陰で犯人に近付いたんじゃないかな?」


「ああ……うん」


 だが、まだ腑に落ちない点がある。その点はサニラが言ってくれた。


「どうして二十一人なの?」


「え?」


「どうしてここだけこんなに被害が出たの? 王都では十数人だと聞いてるわ。向こうの方が人がいるのに、おかしい話じゃない」


 その人数が変わっていることに違和感を感じた俺は、サニラに確認をとる。


「あのさ、サニラ。被害者がどこで何人出たとかわかる?」


「ええ、必要だと思って地図に書き込んであるわ」


 テーブルの上の料理や皿を手早く片付けると、サニラは地図を広げた。


 そこには被害にあった場所に赤丸でマークがしてあり、被害人数と被害にあった日も書き込んである。


 人数だけでなく、日にちまで書かれているのは有り難い。


「これほどの被害とは……」


 この町のことで頭がいっぱいだったジェイルとレイゼンは驚愕の表情を浮かべる。


 確かにこうして図にして見せられると、かなり危機的状況だと窺える。


 だからこそと真剣にそのマークを目線で追いかけて確認をしていくと、あることに気付く。


「なるほど、そういうことか……」


「何かわかったの? リリィ!?」


「これを見て」


 俺は一番最初の被害にあった場所を指す。


 そこはタイオニア大森林近くの小さな村だった。


「この村は三人しか被害にあってないけど……」


 俺は被害にあった順を追いながら説明を続ける。


「どんどん被害者が増えてきてることから……」


 最初はタイオニア大森林近くを中心に被害が出ており、その後にここアリミア付近、王都と続いている。


 そこから推測するに、


「試したんじゃないかな?」


「試した……? まさか、上手くいくかどうかを!?」


「うん。それなら最初辺りが少ないのも頷ける。少しずつ少しずつ音量を上げたり、魔力を調整したと考えたら納得いくんじゃない。それだったら、ここもこの一帯以外に被害が出なかったのにも説明がつく」


 タイオニア大森林の周辺の被害は人数に上下の変動が激しいことからそう予想がついた。


 勿論、住んでいる場所、人数、環境によって状況が異なるが、それを考慮しても納得がいく数字が並んでいる。


「それで味をしめた犯人は……」


「もっと大きな場所で出来るか試した。それがここ」


 俺は無言で頷く。


「じゃあ王都は? こことは比較にならないほど大きいけど……」


「さすがに警戒したんじゃない?」


「となると後は犯人だけど、これだったら集団でも単独でも出来そうね」


 うーんと犯人像を皆考えるが、方法が推測できただけで容疑者らしい人が思い当たらない。


 それもそうだ、痕跡がないのだから。


「とりあえず犯人は後にしよう。それにこの手段が当たってるなら、待ち伏せできる」


「そうね。状況から見てもこのやり方が濃厚な気がするわ」


 今まで否定意見が多かったサニラも太鼓判を押す。


「ジェイルさん! この辺りでまだ被害のないところに警戒を促して下さい。私達はギルド支部へ行って、この事を説明、王都に伝えるよう言ってくるわ」


「――わかりました。レイゼン!」


「はっ! 早急に……」


「よしっ、じゃあ俺達も……ってわあっ!?」


「な、何?」


 意気揚々と報告に行こうとしたバークは窓を見て驚いた。


 そこには、不気味な悪魔の顔、もといインフェルがいた。


 俺は窓を開けて、外にいたインフェルに話しかける。


「インフェル、どうだった? 何かあった?」


「はい。ありましたよ」


「!?」


 インフェルは魔物故、この状況の緊迫感がわからないからこそ、さらっと答えたが、やっと尻尾が掴めそうな話が出てきた。

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