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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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100 現場検証2

 

 俺達は手掛かりを捜索する。ソフィスもやると言ったが、衰弱の酷い彼女にはやらせるわけにはいかないと、全員の意見が一致。


 ソフィスの側にはカルバスがついていることにして、俺達はリュッカがこのような事をしたと仮説を立てて、話しながら手掛かりを探す。


「リュッカがゴブリンをこんな風にする理由はなんだと思う?」


 リュッカは実家が解体屋ということもあって、魔物をあのようにすることはおそらく可能だろう。


 しかし魔物が食い漁った可能性も否定できない。手掛かりや理由があればリュッカがやったとも断定しやすい。


「考えられる可能性は普通に遭遇したとかかな?」


「それはどうでしょう……」


 ウィルクのいうバッタリと遭遇を簡単に否定したアルビオにアイシアは首を傾げた。


「どゆこと?」


「例えば、僕達が来たあの角を曲がって、バッタリと会ったなら、死体はそこにあるはずだよ」


 俺達が来た入り口を指す。


「それにあのゴブリンの死体は彼女が隠れていたと言っていた岩の側にある。向こうから来てバッタリというのもおかしいよ」


「……なるほど」


 アルビオの言い分に納得する。曲がり角からの遭遇なら不意をついてあの死体はできるだろう。だがその死体は向こうにある。


 向こうに続く道はしばらくは一直線だ。バッタリ遭遇はあり得ない。


 向こうから見つかった場合でもあの死体のでき方は難しい。何せ、苦戦を強いた迷宮(ダンジョン)のゴブリンだ、リュッカが一対一で対峙して真正面から目を狙うのは厳しい。


「じゃあここで死体ができた理由を探ると……この岩影から狙った?」


「その可能性はあるね……」


 俺達はそのゴブリンの死体前へ。この岩影からなら不意打ちで切り裂くことは可能ではないかと考えた。


「フェルサ!」


「何?」


「ここの岩影あたりの匂いを調べてくれる?」


 魔法で調べられればよかったのだが、そんな魔法は知らない。フェルサの嗅覚が頼りだ。


「わかった……あとこれ」


 そう言うと曲がり角の入り口の方から来たフェルサは何やら石を渡してきた。


「何これ?」


「その石、妙な匂いがする。女臭い?」


「は?」


 フェルサは岩の側で鼻をならし、痕跡を探す。俺はそのフェルサから受け取った石の匂いを嗅ぐ。


 すると、どこかで嗅いだ記憶がある匂いだと気付く。


 甘ったるい女の子の匂い。どこだろうと考えていると、


「……見つけたよ、証拠」


 フェルサが真剣な声で報告する。


「本当か!?」


「うん。彼女とゴブリンの匂いが混ざっていたけど、微かにリュッカの匂いがした」


「ではやはり、このゴブリンの死体は彼女が……」


「多分……」


 俺達は例のゴブリンの死体の前でリュッカの行動を予想する。


 そこからの行動を予測することできっとリュッカを見つけられる。


「多分だけど、この岩影から匂いがしたってことはそこから不意打ちしたってことだよね?」


「おそらくな。だがここに隠れていたらゴブリンが見えないのではないか?」


「はい。私もここに隠れていましたが、足音は聞こえましたが、姿までは確認できませんでした」


 隠れていたソフィスが言うなら間違いないだろう。だがゴブリン達もこの岩の後ろなら見えないはず、何故気付いたのか。


 俺は右手に持つ石を手のひらで転がしながら考えていると、


「……そうか! 匂いだ!」


「匂い?」


「そうだよ。ゴブリン達は女の匂いに敏感だから、ソフィスさんのことに気付いたんだ」


「なるほど。では彼女の時も同じ状況だったが、ゴブリンの数が違っていた為、対処できたと言うわけか……」


「先生、それじゃあここまでやった説明はつかないよ」


「確かにそうだな……」


 何故ここまでしなくてはいけなかったのか。その答えがわかれば、リュッカの行動基準が確実にわかる筈。


 リュッカを捜索する上で、きっと必要なことだ。


 するとフェルサが何か閃いたよう。ピンっと耳が立った。


「このゴブリン、私達がさっき倒したパーティーのゴブリンだったら?」


「えっ? このゴブリンがですか?」


 冒険者としての経験則からだろうか、確かにゴブリンは群れを為す魔物だから、その可能性は高い。


「なるほどな。このゴブリンは装備から見て、斥候の役割を担っていたようだ」


 カルバスは粉々になっている武器の破片からそう結論付けた。


「このゴブリンは彼女に気付いた。だが彼女も足音、何だったら見つからない範囲で姿を確認した彼女は近づいてくるゴブリンに合わせるように切りつけた。そしてこのゴブリンを倒し、直ぐにでも来るであろうゴブリン達をやり過ごす為にゴブリンの血の匂いで自分の匂いを消したんだ」


「……そして匂いの違和感を作らないように、わざとこの現場に血を撒き散らしたんだ。そして、この石……」


 俺はフェルサがくれた石をみんなに見せる。


「この石がどうかしたの?」


「妙な匂いがするの」


「私はこの匂いの正体を知ってるし、リュッカがこれを持っていることも知ってる。アイシアも知ってるはずだよ」


 アイシアにも確認の為と渡す。


 アイシアはその石についた匂いを嗅ぐと、ん〜っと悩んでいる。どうやら思い出せない様子だ。


「何かどこかで嗅いだような……」


「水色の髪の男……」


 俺が思い出させるように印象深い特徴を挙げる。


「ああーーっ!! クルシアさんのくれた香水だっ!」


 思い出したようで何よりだが、この洞窟みたいな迷宮(ダンジョン)で叫ぶのはやめてほしい。


「香水?」


「そう。王都に来る前に会った人からもらったの。ゴブリン狩りをするには、女の匂いをつける方が効率的だって言ってた」


「その石はどこに?」


 フェルサはすっと曲がり角の入り口を指差す。


「つまり、その香水の匂いを誘導に使ってやり過ごしたという訳か」


「そういうことですね。だから、リュッカはこっちへ行ったってことになる」


 俺は石を発見した反対の道を指差す。


「リュッカさん……すごい」


「これでリュッカさんが魔物の知識を生かして進んでいることが証明できましたね」


「すごいよっ! リュッカちゃん。なら、このままファナシアンシードを追いかければいいんじゃねえか?」


「ああ、それで大丈夫だろう。しかし、ここまでやれるとは……すごいな彼女は」


 みんなは感心するが、俺やアイシアからすればリュッカは魔物の知識が人より豊富だとわかっている。


 だが、こんな状況でここまで考えられるリュッカに感心する。


 俺だったら多分、パニクってここまでは出来ないかも。


「さすがリュッカだよ。これでリュッカが無事だってわかったねっ!!」


 アイシアは俺の手を握り、ぴょんぴょんと喜びを表現するが、


「それはどうかな?」


「えっ?」


 フェルサが深刻そうな表情で空気を変える。


「孤独な状態で緊迫感のあるこの状況に加えて、ここまで考えて行動していたら、精神的には限界が近いんじゃない?」


「――っ!!」


 一同の表情も凍りつく。


 確かにそうだ。張り詰めた糸のように、ギリギリの状態に違いない。


 何かの拍子で切れてしまったら、リュッカは無事じゃ済まない。


 ソフィスだってここまで衰弱していたんだ。リュッカはこれ以上ってことになる。


「フェルサの言う通りだな。彼女の状態が気がかりだっ! 急ぐとしよう。ソフィスには悪いが、このまま付いてきてもらう。今から戻って君を地上に帰す時間が惜しい」


 本来なら数人の護衛の下、ソフィスを外へと連れていくべきなのだろうが、先程のようなゴブリンパーティーのような、強い魔物が出てくる可能性がある以上、人員を減らせない。


 それに地上に連れていくにしても、外は夜だ。魔物は活発的に行動していることだろう。


 帰還用の匂い袋は一つしかないはず。リュッカのことも考えれば、不用意には使えない。


「大丈夫です。皆さんのおかげで、少しではありますが、体力も戻ってきたように思いますので……」


 ソフィスは状況を理解している。真剣な表情で答えた。


「すまないな。ウィルク、お前が側で見てやれ。お目付け役にはリリア、頼むぞ」


「はい」


「せ、先生……」


 こんな状況だから悪戯しないだろうが、普段の行いのせいか、警戒されているよう。


「よし、では先を急ぐぞ」


 俺達はこの場を後にして、先を急ぐことにする――。


 ――しばらく進むと、壁に何か刻んだ後を見つける。


「先生っ! これっ!」


 アルビオが珍しく大きな声で呼びかける。何か見つけたようだ。


「これは……!」


「矢印!」


 おそらくリュッカが刻んだであろう、印を見つけた。


 俺達が助けに来ることを信じての行動だろう。必死な思いが伝わってくる。


「――先生っ! 急ぎましょう!」


「ああっ!」


 俺達はリュッカの思いを受け取り、進むのであった。

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