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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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80 生きた心地がしない

 

「――いやぁ……まさか殿下が訪ねて来られるだなんて、何のご用意もできず、申し訳ありません」


「ははは、なに……私が連絡無しに来てしまったのが悪いのだ。気を使わなくてもいい」


 俺達は現在、アーミュのお屋敷にいる。カルディナの屋敷とは違った意味で豪華だ。


 煌びやかな部屋に、芸術品ともとれるような家具、出された紅茶や菓子も俺達が普段口にはしないような品だった。


 貴族商人ということだ、商売が上手くいっている証拠だろう。ただ真っ当にやったかどうかは別として。


 そう思ってしまうのは、あまりに豪華すぎる気がしたからである。


 カルディナの話だと、上級貴族のほとんどが貴族校へと入学したらしい。つまり、カルディナみたいな物好きや殿下のような事情でもない限り、勇者校に通う貴族の生徒は下級貴族である。


 つまりアーミュもまた下級貴族なのだが、それにしては内装も家具も食器も、貴族とはいえ豪華すぎる印象から、そう考えたのだ。


「勇者の末裔様もよくいらっしゃいました」


「い、いえ……」


 にこやかにアルビオに挨拶をするこの男性は、中年くらいに見える辺り、アーミュの父だろう。


 ピシッとしたアイロンでもかけたばかりのような新品にも見える仕事着でご挨拶。どこか胡散臭さを醸し出す。


「それでご用件はなんでしょう?」


 アーミュは紅茶を音を立てずに上品に飲みつつ、薄目でリリア達を見る。


 ――アーミュのお屋敷に来たのは、ハイドラス、リリア、アイシア、アルビオ、ウィルクの五人。


 ハイドラスを真ん中に両手に花束と右にリリア、左にアイシアである。ウィルクとアルビオはソファーを跨いで後ろに立っている。


 アーミュが嫌そうな表情をして、貴女達は立っていなさいみたいなジェスチャーをされたが、ハイドラスが俺達をエスコートした為、こうなった。


 中身男なのにレディファーストされてしまった。


「ちょっと心配な事件が起きてしまってな」


 一瞬だが、アーミュの眉がひくついた気がした。


「事件とは穏やかではないですね……」


「そうなのだよ。その為、彼女達もいる訳なのだよ――」


 何げなく会話を続けるハイドラスだが、平静を装いつつ話を聞いているアーミュの内心は、はらはらである。


(何故殿下とこの女共が一緒なのよ!! ……事件ってまさか、あの蛆虫のことを勘繰られたか!? それともこの女共が殿下に……!?)


 アーミュの耳にはハイドラスの他愛無い前振りの話など入ってこない。表情は自然なように見えるが、どこか固くなっている。


「――聞いているかい? ラサフル嬢」


 呼びかけられてはっとなると、焦るように返事をする。


「え、ええ……勿論ですわ」


「そうか。では本題だが、実は私は今日アルビオの家へと向かい、その途中でこの事件と関わることとなったのだ――」


 アーミュは思った。この二人がリュッカを探している最中にハイドラスと遭遇。相談を持ちかけ、現在に至るのではないかと。


 思わず息を気付かれない程度に呑む。アーミュは大丈夫と言い聞かせた。


(証拠も証人も隠滅した。ケダモノの対策もしてあった。証言者も作った。例え調べられても問題はないはず……)


「――実はな……」


 心臓が飛び出るほどの鼓動がアーミュを支配する。身体中に振動するかのように感じた。


 それと同時に身体も熱くなり、瞬きも多くなる。落ち着きがなくなっていく。


 ハイドラスが用件を言うだけの時間がこんなにも長く感じるとは思いもしなかったのだろう。


 言葉を発するハイドラスの口をじっと見た。出てくる単語によっては追い詰められる彼女は生きた心地がしない様子。


「ロバティエが行方不明なのだ……」


「――っ!! ……そうですの」


 予想していたのと違う名前が出て、落ち着いた状態へと自然に戻っていく。


 ロバティエとはソフィスのことだが、アーミュは抜かりないと思っている。


 というのもソフィスとはそこまで接点はなく、同じ貴族同士な為か特に仲が悪いわけでもない為、疑われる要素に心当たりがない。


 なので結びつかないと考えたのだ。その為、安堵の表情を浮かべたのだ。


 そこに不審に思いつつもハイドラスは彼女の行方を尋ねる。


「君は何か知らないか? 彼女の行方を……」


「いいえ、知りませんわ。お力になれず、申し訳ありません」


 丁寧に質問に答えたアーミュだったが、ハイドラスは首を傾げて、疑問をぶつける。


「おかしいな、君なら何か知っているものと思ったのに……」


「は? な、何故でしょう?」


 ここでハイドラスは俺達の情報を一部分だけ開示する。


「君達を見たという証言があってね。人数を確認したところ……四、五人の集団だったと聞いている」


「――なっ!?」


 アーミュは自分の記憶を確かめる。確かにあの二人を含めると五人になるが、門兵には三人の姿のみを確認させている。


 そんな証言が出るはずがない。だが、他の目撃者を見つけたか? いや、あれだけの人だかりにそんなはっきりと証言できる人間なんていやしないと内心、たかを括った。


「そ、そんな訳ありませんわ。わたくしを含めたいつもの三人でアクセサリー探しをしに行ったのですわ」


「なるほど。だがそれでは辻褄が合わないのだよ」


「は? 何故です?」


 アーミュの考え通りとはいかず、のらりくらりと攻めるハイドラス。


「君は先の合同授業の際、先生方から呼び出しを食らい、説教をされたとか。その内容は戦えないことを理由にサボっていたことが問題として挙げられたと聞いているよ」


 ハイドラスも情報はしっかりと集めていたよう。


「それなのにアクセサリー探しなどとても危険だ。何せアクセサリーは小さいだろう。屈みながら探すのは魔物に対処できない君達にはまず無理だ。さらに付け加えれば、最近は魔物が活発になっているからと注意喚起も出ているはずだ。そんな中、護衛もなしに探したというのかね?」


「そ、それは……」


 思わず言い淀む。ハイドラスの言うことは正論だ。あれからたったの三日、四日くらいで魔物に瞬時に対応できる能力を身につけるなんて不可能だ。


 とすれば、誰かを護衛に頼んだと考えるのが自然だ。ハイドラスは遠回りに護衛を付けたのではないかと疑ったのだ。


 すると言い訳をするようにあることを強調する。


「匂い袋ですよ! 匂い袋。あれを使えば安全に探せますわ」


「なるほど、匂い袋ね……」


 意味深な言い方をして、疑いの眼差しを送る。


「ほ、本当ですわよ。彼らが証言した通りですわ」


(彼ら……ねぇ)


 ハイドラスは彼女の勘違いを確認する。


「なら、私が手にした情報は嘘だったと?」


「そ、それは……きっと殿下の手前、緊張なされていたのでは?」


「使いの者が集めたのにか?」


「そ、それは……」


「それとも私はデタラメを言っていると?」


「ぐっ……」


 化けの皮が少しずつ剥がれていくように、表情が険しくなっている。


「……お前は何を隠している?」


「何も隠してなど――」


「なら私が持っている違和感を払拭する言い訳を聞きたいものだ……」


「――わたくしは本当の事しか言っておりません!!」


「本当かい?」


「本当ですわ!!」


「本当に本当かい?」


 煽るように繰り返し尋ねると、焦燥感に駆られたアーミュは――、


「本当だと言ってますわっ!! わたくしはソフィスの事もリュッカとかいう奴も知りませんわっ!!!!」


 ――カッとなってついにボロが出た。


「ほう……ナチュタルも知らないか」


「ええ…………――っ!?」


 我に帰り、口を塞いだ。だがもう遅い。俺達は無言で睨む。


 ハイドラスの狙いはこれだったのだろう。


 俺達を一緒に座らせて、行方不明の話をすれば、言われていなくても犯人なら連想してしまう。


 リュッカをどこかにやったのではないかと。

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