71 ペンダント捜索依頼
リュッカは二人を見送ると、寮の方へと向かう。
いつもならアイシアが色んな話をしたり、お互いの近況を話し合ったりと賑やかに帰るだけに、少し寂しさを感じる。
どこか寮までの道が遠く感じた。皆の有り難みを感じていると、突然後ろから大きな声で呼び止められる。
「あっ、あのっ!!」
ビクッとなり、素早く後ろを振り向くと、そこにいたのはリュッカがこの学校に来て初めて対人戦をした貴族嬢、ソフィスの姿があった。
「リュッカさん……あの……」
彼女はどこか怯えたような表情をしている彼女。ただ事ではないと尋ねる。
「どうかしましたか? ソフィスさん」
リュッカとは一応面識がある。彼女は俯き深呼吸をすると、意を決して話を始める。
「私のペンダントを知りませんか?」
「ペンダント……ですか?」
少し拍子抜けするリュッカ。深刻な顔をするものだからと肝を冷やしたが、とりあえず安堵するが、彼女にとっては大事なことなのだろうと彼女の話を聞くことに。
「小さな赤い宝石が埋め込まれたものなんですけど、見掛けませんでしたか?」
リュッカは記憶を辿るも心当たりがない。
「……すみません。お力になれず、見ていませんね」
「そ、そうですか……」
「落とし物として届けられては?」
「いませんでした……」
「他に心当たりは?」
そう尋ねると、顔色が悪くなっていく。ソフィスの橙色の瞳もワナワナと小刻みに震えているように見える。
そして彼女は言いづらそうに恐る恐る震えるような小声で話す。
「……ザラメキアの森に……落としたかも……」
うまく聞き取れなかったリュッカはもう一度尋ねる。
「ごめんなさい。よく聞こえなくて……」
彼女はもっと恐怖に支配されるような追い詰められた表情へと変わっていく。
「ザラメキアの森に落としたかもしれないの……」
「ザラメキアの森に?」
「今日、ザラメキアの森で野外授業があったでしょ?その時に失くしたのかも……」
リュッカは彼女の言いづらそうにしてた理由が、魔物が生息する場所だから中々言い出せずにいたのだと推理した。
「なら、明日はお休みだし、先生か冒険者の方にでも――」
「ダメなんですっ!!」
「――っ!!」
「あれは大切なペンダントなんです!! それを失くしたままなんて嫌なんです!!」
深刻に訴えかける。情に訴えかけるように言われたせいか、優しいリュッカだからか、何とかしてあげたい気持ちになっていった。
「だったら今から先生にでも……」
「危険だって止められました。……そこでお願いがあるんです。私と一緒にザラメキアの森に行ってくれませんか?」
「えっ? 今からですか?」
無理を承知してのお願いと懇願する。
「危険なのもわかってます。でも、どうしても探し出したいんです」
この様子だと学校内は探し尽くした感じだ。ソフィスからは汗もひどい。
よっぽど必死なのだなと感じとったリュッカはその気持ちを汲み取ることにした。
(きっとシアやリリアちゃんなら助けてあげるよね)
「わかりました。では、寮内の人にも声をかけてみて――」
良かれと思い、人員を増やそうと提案するも、
「あの、あまり大事にしたくないんですけど……」
「あっ! 先生に止められたんでしたっけ?」
「はい……」
リュッカは思った。本来なら人員を増やした方が効率がいい。何せ探し物はペンダントだ、あの森の中から小さなペンダントを探し出すことは容易ではない。
だが、先生に止められている以上、増員は難しい。かと言って彼女の気持ちも尊重したい。
考えた末の結果、
「わかりました、二人で行きましょう。但し何かあってはいけませんから、日が暮れる前には戻ることが条件です」
彼女の気持ちを尊重しつつ、安全優先に考えた。何かあってはいけない。
これには彼女も納得せざるを得ない。巻き込む側としては安全第一だろうと。
「……わかりました、それで行きましょう。では、この正門前ではあれなので、勇者展望広場で待ち合わせしましょう」
今から魔物が生息する場所へ向かうのだ、それなりの準備は必要と、後で待ち合わせすることに。
「わかりました。準備したらすぐ行きます」
そう言うとリュッカは寮へと走っていった。
リュッカはそろっと寮の入り口ドアを開けて入る。
寮長に気付かれるといけないと極力音を立てずに、自分の部屋へと向かう。
今なら同室のテテュラもいない。速やかに準備を整えて出ていけば、誰にも遭遇せずに行ける。今からザラメキアの森に向かう準備をするのだ、見つかれば危険だと止められるだろう。
そうなっては、ソフィスの穏便に済ませたいということにはならない。
リュッカは自室の扉もそっと開ける。キィと小さく軋む。
「ああ……おかえりなさい」
思わずな挨拶にビクッと身体を震わす。今日に限って、テテュラがいたのだ。
「あ、あれ? 今日はいたんだね」
「ええ。今日は特に用事はないの」
テテュラはベットに腰掛けて、読書をしているようだ。
リュッカは焦った。いないものとばかりに思っていた為、彼女に対する言い訳が思いつかない。
だからといって事情を話し、テテュラを心配や危険な目に合わせる訳にもいかない。
扉の前で黙って立ち止まり考えていると、不自然な様子を尋ねられた。
「何をしているの? 休んだら?」
「ああ、うん。そうだね……」
どこか目を泳がすリュッカを見て察したのか、本を畳む。
「何かあった?」
「そ、それは……」
口籠るリュッカ。テテュラも同室者だ、ある程度リュッカの性格を把握している。
彼女は嘘をつくのが下手だ。落ち着かない様子を見ると手に取るようにわかる。だがテテュラ自身に後ろめたいことを隠すような人だとも思わないことから、テテュラは自分と同じ立場だと考えた。
特に用事も言わず、自分の事を済ませたいのだと。
テテュラはリュッカにお願いして、寮長が来た際には誤魔化すようお願いしている。その事からこの考えに至った。
「……いいわ。止めないから行きなさい」
リュッカは、はっと驚くがすぐに嬉しそうな表情へと変わる。
「ありがとう! テテュラちゃん!」
「いいのよ、立場がいつも逆だから。たまにはね……」
リュッカは急いで準備する。その様子を横目に見ていたテテュラは思った。
(魔物でも退治しに行くのかしら。でも、それなら一声くらいかけるわよね……)
疑問を感じながらも、自分の時も詮索されなかったことから、自分もリュッカを詮索しないことにした。
「じゃあ、あのお願いしますね。ちゃんと今日中には帰ってきますから……」
準備を終えて向かおうとすると、テテュラが止める。
「――待って。その様子だと誰にも気付かれたくはないのでしょう?」
「えっ? ……うん」
「だったら……」
窓をガラッと開ける。
「ここから行きなさい。裏からなら気付かれないわ」
手慣れてるなぁと感心した表情をした。
「あ、ありがとうテテュラちゃん。じゃあ行ってくるね」
「……気をつけて」
二階の窓から飛び降りたリュッカは、すたっと静かに着地すると、一目散に走り去っていった。
テテュラは頬杖をついて、姿が見えなくなるまで見送ったのだった。




