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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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67 見せたことのない笑顔

 

「フェルサちゃん、どこまで行くの?」


 薄暗い寒気が漂う森の中、フェルサは迷いなく歩いていく。どこで休むのか決めているようだ。


「もう少しだから……」


 そうして着いたのは周りの木よりも弱冠太めの大木。座って寄りかかるには丁度良い感じである。


 フェルサは着くなりストンっと座ると、両隣をポンポンと軽く叩く。


「二人とも座りなよ」


 お誘いを受けた二人。三人が綺麗に並んだ。


「でも、偶然だったね。まさかフェルサちゃんに会えるなんて……」


「……偶然じゃないよ」


「え?」


「私、二人の匂いとあの臭い貴族嬢達の匂いが混ざってたから、様子を見に来たの」


 おそらくは香水の匂いだろうか、フェルサは嫌そうな顔で言う。


「そしたら案の定、二人ともめちゃくちゃ気疲れした感じだった。ちゃんと気付いてる? 二人とも顔色悪い」


 二人の表情はまるで、顔のパーツ全てに重りを乗せているかのように沈んでいる。表情筋が上がらないようだ。


 二人とも、ちゃんと理解はできているようで、無言で俯いてしまう。


「はぁ……アルビオもリュッカもあの馬鹿共に振り回され過ぎだよ。ちゃんと言うこと言わなきゃ……」


 フェルサの言葉には重々承知だ。結局、リュッカはアーミュの回し者みたいになってしまっていた。


 この授業は仲間(パーティー)との信頼関係を築きつつ、人間性を高めることが目的ともされているだろう。


 だが、今回はどうだろう。信頼関係を築くことができず、横暴な彼女に振り回されるだけ。


 リュッカは情けない気持ちになっていく。


 一方のアルビオもそうだ。


 アルビオのパーティーも前衛はアルビオのみ。アーミュの友達である彼女は、あざとくか弱いアピールをして戦闘の邪魔をする挙句、魔法科の二人に対しては小間使いのような感じである。


 アーミュのように怒鳴ったり、悪態をつく訳ではなかったが、それでも場の空気を濁していたのも違いない。


 本来であれば、勇者の末裔なんて大層な肩書きを持つアルビオが精査すべきところだが、彼もなんだかんだ流されるだけ。


 アルビオは自分が何故この学校に通っているのかすら悩ましく感じている。


 そんな沈んだ二人を挟んだフェルサは痺れを切らした。


「原因はわかってるけど、もう少し元気そうな顔しようか二人とも……」


「ご、ごめんなさい……」


 またしゅんとなる二人。悪循環である。フェルサはあの貴族嬢達と離して良かったと考える。この二人は流されるタイプだとある程度の想定はしていたのだ。


「リュッカはともかく、アルビオはちゃんと言えば、彼女達も離れてくれるでしょ?」


「それはそうなんだけど……」


「何? ちやほやされたいの?」


「そういう訳じゃ――」


「じゃあ何がしたいの?」


 流されるタイプの彼を問い詰めるような言い方をする。


 アルビオは側からみても優柔不断な態度が目立つ。フェルサが若干の苛立ちを見せるのも無理はない。


「……ねぇ、貴方は何がしたいの?」


 今度は核心をつくような言い方でアルビオの考えを聞き出す。


 アルビオもフェルサの言い方から、その意思には気付いたが、答えは出せないようで、


「ごめんなさい……」


 謝罪の言葉しか出てこなかった。アルビオ自身、困惑しての返事だった。


 アルビオは殿下の言う通りに生きてきたようなもの。勇者の末裔としてそれが正しいことなのだと。


 だがそこに自分の意思はない。だから彼女の質問にも答えが出せないのだ。


「あの……アルビオさん。私達で良ければ聞きますよ。普段言えないこととか、言うことだけでもスッキリするかもしれませんよ」


 自分のことでも今はいっぱいいっぱいだろうが、リュッカは優しく聞いてみる。


 するとゆっくりと口を開けて語り始める。


「……僕は自分が何をしたいのか、どうすればいいのか、何が正しいことなのか、何もわからないんだ」


 アルビオは話す。今までのことを。


 アルビオは恩恵の儀をきっかけに勇者の末裔として祭り上げられる。そのことを皮切りに王族との関係の改善、周りからの期待と嫉妬、自分の性格に合わない凄まじい才能、偉大な勇者との接点の多さからくる重圧、色んなところから情報や状況が流れ込んでくることに、受け止めきれないのだという。


 結果として、殿下に頼っていくうちに自分がわからなくなったと言う。


 零れ落ちるように、ゆっくりと語るアルビオだが、そこには大きな迷いと自分の中で作り上げてしまった理想の姿を照らし合わせての重圧。


 その声にはどこかまとわりつくような重みを感じた。


 だがフェルサはさらりと表情を変えずにこう言い放つ。


「そんなのアルビオが気にしなければいい」


「……」


 それはそうなんだろうと言いたげな視線。


 事実、フェルサの言うことは正論だ。自分の立場など気にしなければいいだけの話。


 だがアルビオの周りの状況はどうしてもまとわりつく。それを訴える。


「でも、それでも僕は何かしなくてはいけない! でも、僕には……」


「アルビオさん、一旦落ち着いて下さい」


 リュッカは優しく肩を叩き、促す。


 リュッカはこう考えた。アルビオは色んな情報を与えられ過ぎて、流されて、動くことができないのではないかと。だから……。


「アルビオさん、部屋のお片付けをしたことはありますか?」


「そりゃあ……うん」


「それと一緒です」


「えっ?」


「部屋に物が散乱していた時ってどうします?」


 リュッカは部屋の片付けを例にして、アルビオの状況を推察する。


「えっと……物を分けるかな?」


「はい。それと一緒です。先ずは落ち着いて、自分のことだけを考えてみませんか? 自分が何をしたいのかだけを……」


「それだけでいいの?」


「……アルビオさんは色んな可能性を持っているからこそ、皆さん色々言うんですよ。だから、先ずは落ち着いて、自分がやりたいことをはっきりさせましょう」


「自分のやりたい事……」


 目の色が少し変わった。心なしか表情も柔らかくなった印象を持つ。


「はっきりやりたい事が見つかれば、自ずと周りの意見なんて気にも留めなくなるのではないですか?そして、その考えがあれば、周りからの状況にも一つ一つ、丁寧に答えを出していけばいいんじゃないかな」


「……」


 アルビオは黙り込んでしまったが、その表情は先程までとは違う。どこか真剣な表情だ。


「それ、リュッカのセリフじゃない気がする。だったら貴族共のこと、気にかけちゃダメなんじゃない?」


「はは……そうだね。ごめんなさい、余計なお世話でしたか?」


 リュッカが謝るとアルビオは、はっとなりすぐに否定する。


「そんなことはないよ、まだ、はっきりとは見えないけど、何か掴めるかもしれない」


 アルビオは彼女達に見せたことのない表情を見せる。


「――ありがとう」


 心を許したような優しく柔らかい笑顔だった。

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