65 高慢な貴族
「何をやっているの!? さっさとそんな虫けら倒しなさい!!」
ザラメキアの森の一角で図々しく高慢な声が響く。その声の主は何時ぞやフェルサに噛み付いていたラサフルという貴族嬢。
彼女の名前はアーミュ・ラサフルという。彼女の家は貴族商人として成功を納めた家柄。
実際は色々黒い噂も飛んでいるらしいが、そこは権力で揉み消してるとかいないとか。
そんな彼女は、戦闘を見下ろせる場所でしっかりと避難している。他のメンバーはリュッカと魔法科男子二人。
司令塔のつもりなのだろうか、顰蹙混じりの文句しか垂れない。あくまでつもりだ。彼女の発言に意味がないことなど、リュッカ達は把握している。
彼女達にとっては耳障りな以外、何者でもない。
「ちょっとあの女、黙っててくれないかな」
「集中できないよ」
男子達は不機嫌そうに小さな声で小言を呟く。リュッカは口を紡ぎ、無言のまま戦う。
「ちょっと!! そこじゃありませんわ!!」
まるで賭博試合でも見ているかのよう、自分の思い通りにならないことに怒る。
そんな彼女に見守られながら、魔物との戦闘は終了した。
「まったく……あんな虫けら如きにこんなに手間取るだなんて、まだまだですわね。わたくしの指示通りにしていれば簡単に倒せていたものの……」
まるで適切な指示でも出していたかのような鼻につくような言い草。
実際は――、
「そこっ!! そこですわ!! ああ〜〜違います!! 違いますわぁ!!」
と叫んでいただけ。指示どころかただの騒音である。
そんな意味のないことどころか邪魔しかしてなかったくせに、さらに見下すような高慢な言い方をされれば男子二人は苛立ちの表情を隠せない。
リュッカは討伐した魔物から魔石を回収している。だが、その表情はこの重い空気に押しつぶされるように表情は暗い。
そんな表情と返事をしない彼らにこちらも苛立ちを見せる。
「何ですの、その顔。文句があるなら言ったらどうなんですの、平民!!」
高圧的な態度で見下し、身勝手なことを言うアーミュに悔しそうな表情を浮かべながらも、何も言えない男子達は……。
「別に……」
とだけ答えた。
実際、この学園は身分を関係なくと謳っている為、逆らえる立場ではあるのだが、彼女の家は下級貴族とはいえ、商人をやっている。下手に怒りを買って流通や平民労働者の扱いが酷くなっては堪らない。
こんな横暴で自己中な貴族だ、何をしでかすかわからない以上、下手に口出しせず、子供でもあやすようにご機嫌取りをするのが賢い選択と選んだのだ。
リュッカも下手に口出ししない。彼女も同じ考えだ。
だが、リュッカとしてはアーミュには是非前衛で戦ってほしいものだろう。
実際、後衛はリリアのように強くもなければ、指示も出ない。
リュッカは改めてリリアの判断力や対応力に感心する。自分にも周りの状況を見て対応できればなと自分の不甲斐なさを感じる。
フェルサのようなマイペースな振る舞い、かっこ良くいえば、自分の意志を貫く姿勢とそれについてくるかのような強さに自信をなくす。
そして何より彼女が尊敬するのはアイシアである。あの底抜けな明るさと人懐っこさ、何より人を集める資質なものを小さな頃から感じていたリュッカは、自分に足りないものを改めて感じる。
自分を酷く悲観しながらもこのパーティーで今何をすべきかを考えは浮かんでいる。
だがアーミュの横暴な態度に勇気が出ないのだ。
「そこの愚図娘、早く回収なさい。いつまで待たせる気?」
「……今終わりましたので」
リュッカは先程まで魔物の死体から魔石を回収していたせいか、血で汚れている。戦闘での激しい動きでの影響もあって土の汚れた後もある。
立ち上がってそんな彼女を見たアーミュは、まるで汚物でも見たかのように視線をわざとらしく逸らして悪態をつく。
「そんな汚い姿をわたくしに見せないで下さい!! 汚らわしい!!」
さすがにここまで一番頑張っているリュッカに身勝手な発言をすることに、怒りを覚えた魔法科の一人がリュッカを擁護する。
「ここまで頑張ってくれてるナチュタルさんにお前、何て言い方――」
「お前? 貴方、今お前と言いましたの!!」
短気な性格なのだろうか、平民にお前呼ばわりされたことに激怒する。
「貴方達、平民風情が貴族様に向かってお前とは何ですの!! 無礼な!!」
正に絵に書いたような身勝手で横暴、自己中な言い分に、その彼もその空気に呑まれ言い返す。
「無礼? 失礼なのはお前だろ!! さっきから黙って聞いてれば……」
「またお前と……」
言い合いはエスカレートする一方。もう一人の男子は戸惑う様子の中、リュッカは自己犠牲に入る。
「私は大丈夫ですから。ラサフルさんも申し訳ありませんでした」
リュッカは深々とアーミュに謝る。
その態度にリュッカの味方をしていた男子は苛立ちの視線をリュッカにも向ける。
一方でアーミュは嘲笑する。
「貴女はよくわかっていますわね。愚図でもマシな方ってことかしら……」
「次からは気をつけますので……」
「ええ、そうして頂戴。それよりわたくし疲れましたわ。どこか休憩できるところを探してくださる」
「わかりました……」
小間使いのような扱いに男子達は申し訳ない暗い表情になる。
リュッカもアイシア達が恋しくなるのであった。




