64 媚び売り貴族
「そっちはどうだった?」
「まあ順調」
フェルサは肉を頬張り答える。
午前の実戦訓練を終えて、今昼休み中。足元のコイツも頑張ってたしね。
ちらっと下を見ると、すごい勢いでがっつく姿があった。成長期だからなのか、ドラゴンだからか、食欲旺盛である。
「よーし、よーくお食べ……」
「大活躍だったもんね」
「そうなの! 聞いてリュッカ! あのね……」
身内贔屓をして自慢したいアイシアは生き生きとして目でリュッカを見るがその様子が変だ。
ぼうとしていて、どこか疲労が溜まっている様子を見せる。
「リュッカ、大丈夫?」
心配そうな声で尋ねるとはっとなり、心配かけまいと明るく振る舞う。
「ああっ! 大丈夫、大丈夫だよ」
「大丈夫に見えないけど……何かあったリュッカ?」
黙り込むリュッカ。何かはあったらしい。その様子を横目に見ていたフェルサが答える。
「ハズレを引いたんだよ」
「ハズレ?」
「……この学校には不適正と知りながら入ってきた生徒達がいたでしょ」
「媚び売り貴族達か……」
ハイドラスやアルビオに気に入られて、将来を確立しようと企てる奴らだ。
「――まさかっ!?」
「そう、私同様、前衛を一人でやらされてるんじゃないかな?」
「そんな……」
媚び売り貴族は実戦能力なんてほとんどないはず。前衛一人というのはリュッカも一応の経験がある。
だがそれは俺やアイシアといった友達がいて、リリアほどの実力があったからこそ成り立ったもの。
この実戦ではこの様子だとパーティーに知り合いの一人もいない状況で後衛も実戦は初めてだろう、ロバックを見れば想像も固くない。
それに加えて、本来なら一緒に戦ってくれるはずのもう一人の前衛が戦えない貴族とあってはリュッカの負担はデカい。
しかもその貴族がマルファロイみたいな高慢ちきな性格なら最悪だ。
「リュッカ、先生には言ったの?」
「ううん。だって先生が決めたことだし……」
先生側からすれば一生徒としてのパーティー編成だろう。
「それに後衛の人達がしっかりしてくれているから大丈夫だよ」
「リュッカ……」
無理をしている笑顔だ。正直こんな顔、見たくない。俺はがたっと乱暴に立ち上がる。
「ちょっと先生に言ってくる」
「待ってリリアちゃん!!」
俺の袖を引っ張って止める。
「これも訓練なんだよ。カルバス先生言ってたでしょ? どんな人と一緒になっても判断ができるようになれって……」
「そりゃ言ってたけど……」
実際俺も知らない人と組んでる訳だし。アイシアは別だが。
「だから、ね」
正直納得はいかないが、リュッカの意思を尊重しようと考え、席は戻る。
「……あのさ、フェルサちゃんも貴族さんと?」
「そう。全く役に立たないから、黙って見てろって威嚇したら黙った」
フェルサは心配ないだろう。その光景が目に浮かぶ。
だがリュッカがどんな状況なのか把握ができない。
「リュッカはその貴族に何かされてない? 大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、リリアちゃん」
「心配もするよ、リュッカ。私なんて二人は友達だったから大丈夫だったけど……」
「それにこの子もいるしね」
くりっとした目で主人であるアイシアを見つめる。
それにしてもアイシアは恵まれてる印象を覚える。運がいいのか、それとも別の意図があったのか。
「とにかく大丈夫なんだね!? リュッカ!」
ずいっとアイシアはリュッカに言い寄る。
「大丈夫だよ、シア」
「そう?」
「本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう、二人とも」
「大丈夫だよ、いざとなったら私がいるよ」
フェルサがいてくれれば心強いが、不安は残ったまま午後の実戦訓練が開始される。
***
「――くうぅっ!?」
ビッツは唸り声を上げながら、ラビットフットの足蹴りを受け止める。そして弾き返す。
だがラビットフットは地面に着地するとビッツを飛び越え、後衛である俺達の元へ。
「――しまった!? ロバックっ! オルヴェールさん!」
今回は数が多かった為、後衛は固まっていた。そこにラビットフットが突っ込んでくる。
「オルヴェールさん! 対抗手段を! ……オルヴェールさん?」
ロバックは俺の様子を見て、はっとなる。どこか浮かない顔をして集中していないことを悟った。
ロバックは瞬時に考える。
ビッツもカルディナも前衛としてラビットフットを食い止め倒している。
この一匹くらいなら何とかしなければと強く思った。だが、その対抗手段がロバックの手札にはない。
「――くっ! ごめん、オルヴェールさん!」
ならばと突っ込んでくるラビットフットに杖を立てて、俺の肩に手を回して一緒にしゃがんだ。
するとその立てた杖の先がラビットフットのお腹を思いっきり押す。
すると苦しそうな声を上げながら、そこに転がり込む。
俺は咄嗟のロバックの判断とラビットフットの声に我を取り戻し、戦闘に参加する。
「――シャドウ・ダンス!」
目の前にいるラビットフットの身体を黒い影が貫く。その様子を見て、ロバックは気が抜けたのか、尻込みをついた。
「ふう……」
「ご、ごめんなさい、ロバック」
「ううん、大丈夫だよ」
「どうしたの? リリアさん」
戦闘を終えたカルディナ達もこちらへと来る。
「オルヴェールさんらしくねぇよ。ザラメキアでの活躍が嘘みたいだぜ」
「そうね。何があったのか話してもらおうかしら。わたくし達は今日限りとはいえ、パーティーを組んでいる以上、知る権利があります。支障が出られては困りますから……」
「……実は――」
俺はリュッカの状況を説明した。
「――なるほど。身が入らない気持ちもわからないではないですわ」
「確かに僕だったら嫌だよ」
「俺も……」
どちらでの立場でもと同情を貰った。自分のことなのに迷惑をかけて申し訳ない気持ちだ。
「まあ確かにわたくしが見ている限りでも、その貴族達はここでの実戦など、とてもじゃないですが……」
「おいおい、カルディナさんは組んだことないのか!? とんだ厄病神だぜ? 出来もしないくせに人の戦闘にいちゃもんつけてきやがるし、マジで最悪だぜ」
ビッツは経験があるようで文句をつける。それを聞いた俺は尚更心配になる。
「ビッツさん……」
「あっ……! ご、ごめんね、オルヴェールさん。そんなつもりは……」
「わかってるよ……」
カルディナは小さく鼻を鳴らすと彼女から見たリュッカの印象を伝える。
「わたくしが見る限り、彼女は大丈夫です。実戦でも目覚しいとまでは言いませんが、対応力の優れた方だとわたくしは思いますわ」
「お、おう。俺も組んだことあるが、魔物の知識もあってか、すげー楽だったし……」
「ビッツさんもこう言ってますし、大丈夫ですわ。それとも貴女は彼女を信じられませんの?」
「そんな訳ない!!」
わかっていたはずだ。リュッカはしっかり者だってことくらい。でも優しすぎるが故に何かあるのではないかと思ってしまうのだ。
「だったら信じてあげましょう。それに彼女も自分のせいで貴女が怪我されては困るでしょ?」
正論だ。これで俺まで怪我をしては元も子もない。
「……ごめん、ありがとう」
俺はカルディナの言う通り、リュッカを信じよう。
そう思ったのだが、この時既に少しずつ不穏な空気が漂っているのをまだ誰も気付いてはいなかった。




