15 最近、流行ってるよねぇ
ひとしきり落ち込み終わると俺は本棚から本を漁っていた。そこには魔法学の基礎やら呪文集、数学や歴史などの勉学書がある。
ていうかこの世界には娯楽がないのか? 彼女の部屋を見るあたり見当たらない。カードやボードゲームとか絵本、小説みたいな物がまるで無い。
彼女が特殊なのか、はたまたこれがこの世界での普通なのか分からんが、とにかく彼女が勉強熱心だったのはわかる。
だってこのやや低い天井の部屋の高さほどある本棚には、ぎっしりと勉学に関する本が詰め込まれている。
背表紙を見るにそうだと確信が持てる。
俺の部屋はゲームやダチから借りた漫画とかばっかだったからなぁ。あ、そういえば漫画、まだ返してないや。
「まぁ、今更無理か……」
そんな事を考えながら、魔法の基礎が書かれているであろう本を五、六冊ほど見繕う。
「この世界で生きていく為には、魔法は必須だよな」
先程、母親の家事の様子を見るに魔法はかなり日常的に使われるようだ。テーブルを拭く際にふきんに魔法をかけて自動的に拭いたり、食器洗いをするその蛇口には宝石のような石が埋め込まれていて、手に触れると光り、水が出たのだ。
まさにファンタジー! ちゃんとした魔法を目にするのは初めてだったから、嬉しさのあまり表情筋が緩んでいたのが自分でも分かった。
相当嬉しそうな顔をしていたんだろうな。母親からはめっちゃ引かれた顔されたし。
「さてと、基礎中の基礎が書かれているのは……これ……かな?」
魔法についてと書かれている。濃い緑を基調としたシンプルなデザイン。早速、開いてみる。
どかっと胡座をかいてその足の上に本を置いた。
女の子が、ましてや美少女がする格好ではない。
「……とりあえず目次でも見るか。……小、中学生くらいの教本か?」
魔法の小難しい事が書かれているわけではなく、大雑把にこう魔法を使うんですよ〜みたいな目次が並ぶ。
「こんなの残して意味あるのか……?」
いるよね、昔の教科書を几帳面に残す人。まあこの場合は非常に助かるが。
リリアちゃんありがとう!
「これを読むのもいいが……」
一人になり、落ち着いた状況なので、ある事を試すために人差し指で宙を縦になぞる。
「メニュー」
最近の異世界ものはステータスやらレベルやらが付くことが多いらしい。俺のオタ友から聞いた。
「ステータス、表記、コマンド……」
もし、そんなものが出てくるならログアウトとかできるから安心できるが、うんともすんとも言わない。
「やっぱ現実か……」
半分安心半分残念な気持ちだ。
残念なのはやはり元の世界へ帰る方法。今のところ彼女が描いた魔法陣以外の方法は無い。
安心したのは数字でものが決まらず、世界観を破壊していないことだ。
ゲーム好きならむしろステータスとか出た方がいいんじゃね? とか言われたことがあるが、それとこれとは話が別なんだよ!
魔法はファンタジーの代表。つまりはそれに合わせた世界観がある。
ゲームをする理由ってやっぱり一種の現実逃避はある訳で、ゲームは使用上ついていないとやり辛いだけでない方がいい。
ゲームとファンタジーはイコールではないのだ。
最近の異世界モノは、主人公がステータスボードを出して――、
『さすが、異世界っ!! すげえーっ!!』
なんて言う頭のおかしいのが湧いているが、そもそも異世界にステータスボードが存在する方がおかしいっ!!
声を大にして言いたい!!
勿論、良し悪しがあるのはわかる。
まず、異世界での話からすれば、倒した敵を数字化して努力の結果を目にできるのはいい事だと思う。
自分のステータスを客観的に見ることから、どうすれば強くなれるのか、弱点はなんなのか分かりやすいなどあるだろう。
さらに言えば、異世界モノを書く作者的には数字化されている方が書きやすいというのもあるだろう。
だが、そもそもの話をすると、人生をゲームみたいにピロリーンとか頭の中でなって現実を過ごすというのは如何程かと思う。
しかも最後のメリットに関しては、異世界にいる俺は全く関係ない、第三者のお話。
「さて……」
色々と思うことはあれど、誰に言っているのかもわからない文句と確認を終えると、足の上にある教科書を読み始めた。




