57 嵐の前のなんとやら
「今日は野外実戦の日だね」
野外実戦とは騎士科と魔法科の合同実戦授業のことである。前衛と後衛での役割や緊張感を交えた実戦的な戦闘を行うことで、成長や課題を見ていくことだそう。
定期的に行われるそうだ。この学校に通って一か月、初めての合同実戦授業の日である。
「一緒にパーティー組もうね!」
「うん!」
俺達は元々旅の間にパーティーを組んでいたんだ。そこに実戦慣れしているフェルサも入れば余裕だろう。前衛、後衛共にばっちりだ。
「あっ、そうだ。最近はどうなの? 殿下とアルビオの媚びの売り合い。ちょっとは落ち着いてきたの?」
一か月の間、最初の頃は何かと関わってきたが、最近はこちらが落ち着いたせいか、あまり話していない。アルビオの相談役もしていない。
その事を尋ねると、フェルサは深いため息を吐く。
「ううん、むしろ酷くなってるよ殿下の方は。アルビオの方は落ち着いたみたいだけど……」
王族とパイプを持つのは悪いことじゃないからな。こんなに自分を売り込むチャンスは巡ってこないだろう。
「アルビオ君は落ち着いたんだ。良かったね」
「良かったのかどうかは知らないけど、でも落ち着いただけでちゃんといるけどね」
「あっ、そうなんだ……」
さっきからリュッカの様子がおかしい。
なんだか物思いにふけるように俯きがちに食事を黙々と取っている。先程までの会話も何処か声が沈んでいるようにも聞こえた。
「リュッカ、どうかしたの?」
「……へ? な、何でもないよ、シア」
「何でもなくないよ! リュッカ、嫌な事があったって顔してた」
「!!」
さすがは幼馴染とでもいうべきか、簡単に見抜くとは。俺も違和感くらいなら感じていたが、抱え込みがちなんだよね、リュッカは。
それをピンとたった耳をぴくぴくさせて聞いていたフェルサが答える。
「その媚び売り共が貴族風を吹かせてるってことだよ。殿下達に言い寄らないようにね」
「リュッカも何か言われたんだ……」
「私達の場合は殿下達と実際に話し込むこともあったからね。余計に……」
最近は少なくなったが、少なからず影響はあったってことか。
アイシアは心配をする一方で疑問も持った。
「こっちではそんな事ないよね?」
「まあね。むしろ殿下の目がないから余計にこちらはありそうな気がしたけど……」
「そっちは元々貴族は少ないし、それにリリアが派手に目立ってるから、実力に自信があった貴族達のプライドをへし折ったのが原因なんじゃない?」
「あ……」
考えてみれば納得の理由だ。
最上級魔法は勿論、インフェルノ・デーモンまで召喚、使役しているのだ。
貴族連中からすれば面白くないを通り越して、プライドはズタズタだろう。
実際、マルファロイも一緒にぼやいていた女貴族も今はあの時の太々しい態度から一転、真面目な印象はないが、大人しくなっていたのを思い出す。
「それにそっちはあくまで魔法科。教室が離れてる影響もあって嫌がらせもしにくいってことでしょ?」
あっちの貴族共からしても、マルファロイの事件からリリア・オルヴェールという存在は厄介ではあるはず。
だが、その厄介な存在は自分達ではどうにも出来ないほどの実力を身につけていることから、手は出せない。
そもそも学科が違うから出しづらいのなら、いっそのこと、触らぬ神に祟りなしのことわざ通り、触れないでいた方が賢明と判断したのだろう。
「なるほどね。それでとばっちりがリュッカに飛んでいったと?」
「そ、そんなことはないよ……」
遠慮がちに両手を振って否定する。
「フェルサちゃんのおかげで大したことはないよ。ホントだから……」
確かにハイドラスの話を聞いた感じ、フェルサはその貴族連中に実力を見せた。
それで喚くのをやめるとは思わないが、手は出しにくくなっているだろうとは考えられる。
「それならいいけど、もし何かあったらちゃんと言ってね、リュッカ」
「そうだよ、リュッカ! ……リュッカはすぐ自分の中に抱え込んじゃうから」
「うん……ありがと」
確かにそういう節は見受けられる。もっと友人として頼ってほしいと思うものだ。
「――とにかく今日は頑張るぞぉー!」
この授業がある事件の引き金になる事をこの時点では誰も気付いていなかった。




