48 勇者の意図
先ず、一つ目の疑問。日記を書き続けた理由。
まあ日記なんて毎日つけるのが普通だろうが、俺の推測上、勇者は元気で豪快であまり細かいことを気にしない性格と捉えている。三日坊主で飽きて投げ捨てそうと考える方が自然だ。
だがつけ続ける理由もわからないではない。日記だからという理由もあるが、勇者は異世界人だ、日本語で書かれている以上は間違いなく。
つまり自分の置かれた状況や生き様などを、見知らぬ異世界で残したいという気持ちから書いた可能性は非常に高い。
勇者と担ぎ上げられようが、一人の人間。どんな意図で転移したかは知らないが、故郷に残してしまった両親や友人、恋人もいるだろうか。本当の自分を知らない世界で、せめて生きた証をと考えると、中々切ないが、一番しっくりくる理由だろう。
二つ目の疑問。何故ひらがなか。
正直マジでわからん。暗号か何かとも考えたが、そんな感じはなかった。普通にひらがなで書いた日記だった。
文字ずれや変な書き方もされてない。本当にわからん。とりあえず後回しにしよう。
三つ目の疑問。何故日本語なのか。
この理由は推測できる。こちらの世界の人間に読ませない為である。
日記は読まれたくはないものだ。日記を隠すではなくわからない言葉、ましてや異世界の言語だ、わかる訳がない。
実際、今日だって研究者の人達は頭を抱えていた訳だし。
だが、これだと矛盾が生じる。一つ目、四つ目、五つ目の疑問がこれに当てはまる。
あれだけの量と見つけやすい場所だ、まるで読んで下さいと言っているようなもの。しかも一つ目の疑問の理由が本当ならこちらの世界の言葉を使うはず。
何でわざわざこちらの人達が読めない言葉を選んだのか、この疑問は振り出しに戻る。
四つ目の大量の日記を残す理由だが、単に書き続けたら、これだけ書いてたという適当な考えでも当たりそうな気はするし、全部ひらがななら漢字で書かない分、文章はどうしても長くなる。
まあこれだけでも十分な理由にはなるだろうが、どこか引っかかる。
五つ目の地下室での保管では日記を保護する為ということなら、まあ納得もいく。
ここまでの結論をつけると単に日記をつけて、保管場所が下手だったというだけ。
エロ本を隠すのが下手な奴って印象になる。
だが何かメッセージ性があるように思えてならない。理由としてはやはり、二つ目と三つ目の疑問。
何故こちらの世界の人間にわからない言語で書きつつもこれだけの量と、そして日記という自分という存在を表現できるものを残したのかだ。
考えられる可能性を模索する。
一番無難な可能性は、単に馬鹿だった。日記をつけようと、生きた記録を残そうと考えたのは良かったが、日記を誰かに見られることを想定しなかった?
だがこの理由には矛盾が生じる。意図的に書かれたひらがなだ。いくら馬鹿でも日常的に使う漢字くらいは書けたはず、こちらで英雄視されていたなら、そこまで馬鹿でもないはず。
二つ目としては、おそらく勇者は自分を異世界人だと明言はしてないはず、していればそんな伝承が伝わるはず。今日、勇者の家に行ったがそんな感じはなかった。
とすれば、自分が異世界から来たのだという事を残す為にあえて日本語で書いたという可能性。だが、この場合はあんなに大量の日記を書く必要はないように思える。
しかも、そのつもりなら向こうの文化を少しでもこちらに使えば伝わる話でもあるはず。実際、色々言われているようだ。
後は俺のような異世界人の為に書いたという可能性もあるが、いくら俺達の世界で異世界モノが流行っているとはいえ、そんな都合よく日本人の人が転移、転生するなんて話があるだろうか?
だが、上げた疑問のほとんどに辻褄が合うのはこれだ。
もし、異世界人が転移、転生で訪れた場合、頼るものがないのは非常に辛いことだろう。
そんな中で、勇者という肩書きの日記があると伝われば、その異世界人は元に戻る手段を探す為にと目をつけるだろう。
思えば自分もこれに当てはまる気がする。
そんな時、日本語で書かれていれば、親近感も湧き、この世界で生きる希望も出来るだろう。
――俺はこうして生きていたんだ……お前も大丈夫!!
みたいな無責任なメッセージに聞こえてくる。
ひらがなで書いたのにも、これなら説明がつく。よく俺達のお話ではとても都合がいいように大体、十代半ばから二十代で書かれることが多いが、実際リアルな話、子供が誤って転移、転生しないとも限らない。
そういう人達に向けた生きていたというメッセージ。
それならわざと幼稚な文章を書くことにも納得だ。
俺はひとしきり考えをまとめると、少し後ろに体重をかけて、枕をゆっくりと潰す。
勇者ケースケ・タナカは自分と同じ境遇者が出たとしても希望を持って生きてほしいというメッセージの現れではないだろうかというのが最終的な結論となった。
一番馬鹿馬鹿しい結論だとわかっている。あくまで推測の域をでないこともわかっている。
だが、もしそういう理由だったら……、
「何だよ……カッコいいじゃねえか」
おそらく、他の日記を見ればもう少し真実に近付ける気もするが焦る必要もない。
勇者はこうして山ほどメッセージを残したんだ、ゆっくりと見ていけばいいし、もし元の世界へ帰る手段が書かれていようと焦る必要はない。
俺はこの世界も悪くないと思ってる、向こうの世界同様。だからわざわざ急ぐ必要はない。
この勇者はちゃんとこの世界で生きていけたんだ。俺だって強く生きていけるはず。
女だけど。
不本意ながら勇者の日記に勇気付けられて頑張ろうと励まされる気分になるのだった。




