40 勇者の末裔の実力
「……ありがと」
クールな口調は変わらないが、何処か和らいだように聞こえた。
「あの足払いからあっさりと終わらせるなんて流石だね」
リュッカはザーディアスがあのヘッポコパーティにやっていたのを思い出し、連想した。綺麗に体勢を崩していたことを。
「そんなことないわ。貴女だってしっかりと相手を見ていたじゃない……」
テテュラは最初の方で既に終わっているリュッカの実戦授業を評価する。
「あ、ありがとう。まだまだだけどね」
「それは私も同じよ。頑張りましょ」
お互いを励まし合い、褒め合うことに嬉しくなったのか、先程までの不安は吹き飛び、声を弾ませて返事をする。
「うん!」
ざわっと周りがどよめく。リュッカは話に集中していたせいか聞き逃したが、アルビオが前へと出ていく。
ただ、その様子はおずおずとした自信のなさそうな態度で足取り重く、定位置へと向かう。
「アルビオ! 騎士隊に仕込まれた剣技を見せてやれ!」
周りの肌質のいい貴族嬢達は黄色い声を上げて声援を送り、殿下は応援という名のプレッシャーをかける。
「……おやめください、殿下」
「アルビオの奴……余計に気が重そうですよ」
リュッカは先程の視線を恐れて、殿下達へは近づかないようにしたが、フェルサは御構い無しだ。
「アルビオは騎士隊に仕込まれているの?」
普通に尋ねた。本来なら貴族嬢達に睨まれるところだが、アルビオに釘付け状態だ。
「ああ。アルビオは勇者の末裔だからな。それなりの技術は身につけさせなければならない。自己防衛も踏まえてな……」
国側からすれば、精霊と対話ができる貴重な存在であるアルビオ。色々と目をかけておきたいのが現状。
それにハイドラスからしても昔から知っている友人、色々と面倒をかけ、良き理解者になりたいとのこと。
そして、その相手は――、
「――カルディナ・ワヤリー」
「はい」
凛とした口調で現れたのは、ブロンドが混じった茶髪ポニテールが印象的な女性。腰には家紋だろうか入った剣を刺しており、歩き方もとても丁寧な歩き方から彼女も貴族と映る。
だが、媚びを売る他の貴族嬢とは明らかに雰囲気から違うことから、まともな貴族と捉えられる。
実際、周りの貴族嬢達もひそひそとささやくように陰口を叩く。
カルディナは純白の手袋を外して、手を差し出し、握手を求める。
「よろしくお願いします」
凛とした表情から少し表情を和らげ、親近感を与えるように挨拶をする。
アルビオは物怖じしながらも控えめな声で答え、握手に応じた。
「……よ、よろしく」
二人共定位置へと移動する。
その間、ハイドラスは不安を募らせる。周りの貴族嬢達も同様な反応をする。フェルサはその反応に疑問を持ち、尋ねる。
「どうかしたの? あの女、強いの?」
腰に刺している剣の家紋を見る限りは騎士家系の貴族であろうことはフェルサも予想はついた。だが、人間の騎士の強さなど、ましてや貴族の位なんて以ての外である。
ハイドラスは少し重い面持ちで返事をする。
「まあな。彼女の父が我が国の騎士隊長の一人でね。あの娘は結構、しごかれているらしい……」
ハーメルトには騎士隊はいくつか存在する。その騎士隊の役割に合わせ、隊を編成、隊長も幾人か据え置かれる。
彼女の父はその一人。騎士家系で育ったカルディナは強いという。
「いくらアルビオが騎士隊に剣術を教えてもらっているとはいえ、相手が悪い」
「ふーん……」
聞いておいて、特に興味を示す感じのない返事を返す。フェルサにとっては彼女のことなどどうでもいいのだ。
「では両者、準備はいいな」
二人は木刀を構えるも、その構え一つでも違いが出た。
アルビオは片手で木刀を持つ構え。カルディナは木刀を前に突き出し、突きの構え。
剣の戦い方は大きく分けて二つ。斬撃か突きかだ。ほとんどの人は斬撃だろうが、彼女の構えは明らかに斬撃の構えではない。
相手をジッと見て、アルビオの動きを観察するカルディナなな比べ、アルビオは不安そうな表情を隠すことができないでいる。
その表情を見て、カルディナはどう思ったろう。
「――始め!!」
合図と共に走りだすカルディナ。フェルサの翔歩のような技法は使わずに、しかし素早くアルビオとの距離を詰める。
カルディナの躊躇のない行動に動揺を隠しきれないアルビオは思わず後ずさりをする。
その行動を見たカルディナはキッと目を細め、攻撃範囲に入ると右手に持つ木刀で突き攻撃を放つ。
「――わあぁっ!!?」
アルビオは間一髪躱すも横を通り過ぎようとするカルディナの足に蹴られる。
それもそのはず、カルディナは通り過ぎたと同時に器用に右足で彼の右足を引っ掛けたのだ。
その場で倒れこむと先程のテテュラと同様の光景が目に移る。ひゅんと木刀を喉元に突きつける。
「そこまで!」
カルディナは期待外れとばかりにサッと木刀をしまい、彼を見下す。だが、すぐに視線を逸らし、不満とばかりにカルバスに提案をする。
「先生、これではわたくしの正当な評価を基準付けるのは難しいのではありませんか?」
「わからんでもないが、こちらとしては正当に評価しているつもりだ」
「それは存じております。わたくし自身が不安なのです」
とてもじゃないがあまり緊張感も心配事もなさそうな感じの彼女からは不思議な言葉が。
先生が正当に評価しているとはいえ、自分をもっとしっかりと見てほしいというのは当然の意見でもあろう。
なのでカルディナはある提案を求める。
「どうでしょう? わたくしとあの獣人殿、戦わせて頂けませんか?」
周囲は騒めく。だが、実力を見せるというのなら、それなりの相手と戦うのがわかりやすいだろう。
「もしかして、私、喧嘩売られてる」
フェルサが他人事のような口調で話す。
「貴女も暴れ足りないのでは?」
「別に……」
特に評価などを気にしないフェルサは心動かされることはない。だから、カルディナは挑発する。
「獣人と言ってもあの程度ですか? もう少しできるものかと思ったのですが……」
「陳腐な挑発……」
「すみません、貴女とは育ちが違います故、そういう言葉は持ち合わせておりませんで……」
「……っ」
フェルサは面白くなさそうな顔をする。あからさまな挑発にさすがに鼻についたよう。
「……わかった」
「待ちなさい! 誰が勝手に――」
止めようという男性教師に対し、カルバスは特別止める様子はない。
「わかった。好きにしろ」
「カルバス先生!?」
「下手に止める方が蟠りができるだろう」
「ありがとうございます、先生」
にこっとカルバスに向けて笑顔でお礼を言う。二人は所定の位置へと向かう。
「それでは――」
「ちょっと待って……」
フェルサは上の制服だけを脱いでタンクトップになる。
「――なっ!? フェルサちゃん!?」
男達の視線を集める。どよめく声の中に軽快な口笛も入る。貴族嬢達は、はしたないやさすがケダモノなど罵るが、カルディナは動じない。
「これでいいかな?」
「ええ……先生!!」
「はあ……では、始める」
カルバスの重い心境の中、フェルサの機嫌の悪くなる戦闘が始まる。




