36 地属性の魔術師
「それではできるものは前へ」
そう言うも中々前には出てこれない。それもそのはずだ。あの大穴を見て、さすがに自信を覗かせるやつはいないだろう。
こういう時こそ、あの豚男のような貴族が踏ん反り返って出てこればいいのに。こういう時の貴族は積極性皆無である。
「きゃあ……!」
すると一人の女の子が人混みの中から突き飛ばされるように出てきた。
「ちょっとユファ……」
「いいから行って来なさいって。こういうの得意でしょ」
何やら人混みの手前でこしょこしょと話している。そんな様子を見て評価表を見たマーディ。
「ミルア・ハーキーですね」
「――は、はい!」
身体をビクつかせて、くるっとマーディへと向き直る。
「……やってみなさい。全部修復しろとは言いません」
「は、はい……」
「あとオルヴェールはもう戻りなさい」
「はーい……」
俺は赤茶色のショートちゃんと入れ替わりで人混みの中のアイシアと合流する。
「めっちゃ怒られてたね」
「うん、たんこぶできたかも……」
何せあの当て板の角で叩かれたんだ。めちゃくちゃ痛かった。今もまだジンジンしてる。
すると、先程あの娘をけしかけた彼女が寄ってくる。うちのクラスの娘ではない。
「大丈夫? 爆裂娘ちゃん」
「ど、どうも」
とりあえずぺこっと軽く挨拶。アイシアは愛想よく挨拶。
「こんにちは。貴女は?」
「あ、ごめんごめん。あたしの名前はユニファーニって言うの。ユファって呼んで」
アイシアとはまた違うパターンの明るい女の子。つり目のサバっとした感じだが、姉御肌という感じではない。
「じゃあユファは何しにきたの?」
「ん? お礼でも言おうかなって」
「お礼?」
「そう、あの娘何だけど……」
首をくいっと、地属性の魔法陣を展開する彼女を指す。
「攻撃魔法は苦手でね。ああいう再生とか形成とかその類の魔法の方が得意だからさ、その機会をくれたことにね」
そして彼女の方を見ると先生達が大穴を覗きながら感心する声が聞こえる。
「でもさ、そういうのって技術校に行くもんじゃない?」
「そうなんだけどね、本人曰くハードルが高いって」
自分より技術がある人間が沢山いるって思ったらしい。聞いてたら、何処かリュッカみたいな感じの娘だな。
「勇者校もそうじゃないっても思ったけど……」
確かに……。
ある程度の評価を得たのか、先生が絶賛して彼女を返す。その彼女は安堵した表情をしながら戻ってきた。
「お疲れ〜」
「もうお疲れじゃないよ」
ぽわっとした可愛らしく柔らかい喋り方をする。
「って、何でこの人と一緒?」
くりっとした目で尋ねてきた。
「いや、お礼がしたいって言われてね」
「ああ! そっか。ありがとうございます」
「いや、こちらとしては驚かしてごめんなさいだよ」
強い魔法とはわかってたとはいえ、あれほど派手に出るとは予想外だった。
「えっと……私、ミルアって言います」
「私はリリア。こっちはアイシア」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
俺達は他の生徒が魔法を披露している間に話し込む。
「しかし、あれはすごかったねー。上級魔法じゃないよね、あれ」
「うん、最上級魔法だね」
「あの……もう教えてもらうことないんじゃない?」
「そんなことないよ。最上級魔法が使えてもまだ知らないことなんて沢山あるんだから……」
俺が使ったのは、あくまで攻撃魔法の最上級。まだ魔法については知らないことが多い。何せ異世界人ですから中身。
「でも、最上級魔法が使えるなら、王宮魔術師にもなれるかもね。将来安泰だね」
大変そうだが、将来的に結婚とかする気がない俺としては、お給料が高そうな王宮魔術師はいい就職先になりそうだ。
視野に入れておこう。
「それに貴族の騎士様と結婚なんて考えられれば玉の輿も狙えそう……」
そこは視野には入らない、絶対!!
「貴族狙いといえば、殿下もやっぱり狙われてるんだよね?」
入学式当日のあの朝の光景を見れば、容易に想像がつく。まるで、アイドルの出待ちのような光景。
「まあだからこっちの生徒が少なくて向こうが多いんでしょ?」
そういう話をフェルサ達も言ってたな。
「そうだね。肉体型じゃない女貴族の人も向こうへ行ったって聞いたけど……」
「それ、大丈夫なの?」
「さあ……」
要するにはアレだろ。身体もろくに動かさない箱入りお嬢様方が重い剣を振り回したりできるかって話だろう。
普通に考えれば無理だ。俺はこの町で剣を持ったからわかる。肉体型の魔力操作能力がないと正直厳しいし、ザーディアスが言っていた特訓すればなんて言っていたが、貴族令嬢がそんな短い期間にできるかなどほぼ不可能である。
「できなくて泣き言を言ってもそれは欲を見た本人の自業自得でしょ?」
「そうだね」
「じゃあ今頃は困り果ててるのかな? 確かリュッカが言うには向こうも実戦授業らしいし……」
「低級貴族の魂胆が見え見えだよね。勇者の末裔が本命で、失敗したら殿下の側室狙いでしょ? 馬鹿馬鹿しい……」
勇者の末裔が本命ってことはアルビオも狙われてるんだ。あいつも大変だな。周りには期待される、婚約も迫られる、命を狙われる、なんか踏んだり蹴ったりだ。
あんな風に人間不信っぽい感じに見えたのは、そういうのも背景にありそうだ。相談相手になってほしいと言われるのも納得かも。
「大変なんだな……」
「あれ? でもアルビオ君って平民じゃなかったっけ?」
「アレ? 前はさん付けじゃなかった?」
「君付けの方が親近感湧くかなって……」
だから、あまり積極的に距離を詰めちゃダメだって。もしかして狙ってる? いや、さっきの発言やアイシアの性格を考えれば、そんな狡猾な事は無理だろう。
「まあいいや。アルビオの場合は平民だけど、功績を残せるほどの才能、王家との繋がりがあるからみんな狙ってるんだよ」
「あっ! そっか。学食でも親しげだったしね」
その話を聞いて二人は驚く。
「えっ!? 殿下とお話したの!?」
「すご〜い」
どうやらこの二人は先の学食での件は知らない模様。
「――そこ!! 何を喋っているのですか!!」
二人の大きな声に反応したマーディは叱りつける。
「す、すみません……」
俺達四人はしゅんとして謝った。どこの世界でもこんな怒られ方はするもんだなぁ。




