35 ドラゴン・ブレイズ
俺は杖を構えて巨石を指す。アイシアと同じく赤い魔法陣を展開して呪文を唱える。
「――気高き焔の王よ、我が呼びかけに応えよ。誇り高く雄叫びをあげる、かの竜の息吹を我に貸し与えよ――」
最上級魔法というだけあって呪文の詠唱が長い。とりあえず思いつく限りの赤、炎、竜をイメージした言葉をつらつらと唱える。
正直、この世界の詠唱は長所と短所がはっきりわかる。
長所はある程度、言葉に違いがあっても同一の魔法が唱えられること。最初の呼びかけなんかもはっきり言って適当だ。讃えるような言い回しなら何でもって感じ。中に入る言葉も術のイメージにさえ添えば何でも良し。
この長所の利点は他にも、呪文の詠唱を覚えなくてもいいこと。魔法が強力になればなるほど、詠唱は長くなる。つまりは覚える量が増えるってことだが、この世界での詠唱はイメージに添えば良しというのは実にいい。
戦闘の際には対人戦限定だが、相手には悟られにくいということ。さすがに今唱えている規模の魔法なら勘づかれるが、中級魔法くらいまでなら、頭の中のイメージが伝わらない限りは術が読みづらいという利点は割と大きい。
次に短所だが、突発的に呪文の詠唱を唱えなくてはいけないこと。言葉は適当でもいいが、イメージに添わなければ意味が無い。つまり、魔力を集めるイメージに加えて、術のイメージ、さらには詠唱の言葉探しとやることは多い。
慣れてしまえばなんて言われればそれまでだが。
あとこれは俺限定の短所だが、まあわかるだろう――中二病臭いのだ!
魔法が当たり前にある世界だから、唱えて当たり前なんだけど、それでも向こうでの記憶がある以上は気持ち気恥ずかしい。
まあこれも慣れだ。
詠唱をする俺の周りは赤い小さな火の粉のような物が飛び交うだけでなく、周りが少し地鳴りのように揺れる感覚もある。
その様子を見たマーディは想像していた以上のことをしでかすつもりなのかと気付いたのか、止めに入る。
「――オルヴェール!! お待ちな――」
集中しているせいか、揺れる音のせいか聞く耳を持たない。
「――かの豪炎に焼かれ灰とかせ! ――ドラゴン・ブレイズ!!」
巨石を中心に大きく円が現れ、今まで聞いたことのない激しい炎の轟音と爆発音が混じりながら、その円の中から激しく炎が吹き出る。
まるで天に昇る竜の如く、高く大きな火柱が空に広がる雲さえも貫く。
演習場では驚きの悲鳴と共に、出現した火柱の衝撃で身体が吹き飛ばされそうだ。だが、呪文を唱えた術者は最低限の魔法の加護を受け、身を守られる。
先生達も必死で生徒を魔法障壁を展開して守る。
砂煙が舞う中、威力が落ちているのか、火柱が細くなって消えた。するとそこには、大きくぽっかりと空いた大穴が出現。この術の影響だろうか、巨石は見当たらない。
周りの生徒と先生達はポカーンとした顔をしている中、俺は一人ガッツポーズを取る。
最上級魔法が使えたんだ、そりゃ喜ぶ。
「よし!」
「――よしではありません!! この馬鹿者!!」
「――痛ぁっ!?」
頭に思いっきりガツンと叩かれた。痛みからして何かの角で叩いたよう。少し涙が漏れ出た目でその声の主を見ると、評価表の当て板を持つマーディの姿があった。
おそらくあの当て板の角で殴られたんだろう。俺は痛みが酷い頭を押さえながら、
「何するんですか!? 痛いじゃ――」
マーディに文句を言おうとするも、物凄い形相で見るマーディに蹴落とされ、物怖じしてしまう。
「当たり前です!! 痛くしているのですから当然でしょう!!」
顔はまるで修羅の面のよう。その顔に相応しい怒鳴り声で叱りつける。
「いくら自分が放てる最上の魔法を唱えよと言っても限度があるでしょう!! 見なさい!!」
ビッと指差す方には大穴が他の先生達が様子を見に行っているみたいだ。
その大穴は周りの淵には焼けたように赤く光る部分もいくつかあり、焦げた匂いも漂ってくる。
「貴女ねぇ! せっかく用意した巨石もあの様子では破壊されているでしょうし、この後の生徒のことも考えなさい!!」
「は、はい……」
「まあ、その辺にしてあげましょうよ……」
向こうから一人、長髪の若い男性がマーディを止めに入る。
「しかし、エリック先生……」
「彼女の才能を図る証明と思って諦めましょう。実に素晴らしい最上級魔法でしたね、オルヴェールさん」
ぽんぽんと優しく頭を叩いた。
「……その言い方だと、巨石は破壊されたのですね、やはり」
「ええ、そうですね。しかし、今年はこんなにも優秀な生徒が入学するとは……教える身としては少々可愛げがありませんね」
「おっしゃる通りです」
二人の先生は呆れた物言いで俺を間に入れて喋る。
「さて、それではどうしましょうか……」
他の先生達も寄ってきて、色んな案が持ち上がる。
カカシを立てる、先生達が魔法障壁を展開して受ける、地属性魔法で臨時の巨石を作るなどなど意見はさまざまである。
「とりあえずこれ、直しませんか?」
俺が開けた大穴を指した。わかりましたと一人、先生が大穴へと向かう。俺達が一番初めにあった若い女の先生だ。
「――お待ちなさい」
だが、それを止める声がする。マーディだ。何か考えが浮かんだようだ、生徒の方へと向きこう言った。
「この中の地属性の魔術師、この大穴を再生出来るものは名乗りをあげなさい」
この発言に生徒達は騒つく。一人の生徒が挙手をして質問する。
「あの……どうしてか訊いてもいいですか?」
「今回の授業はわかりやすく、攻撃魔法での実力検査といったあたりです。しかし、皆が皆、攻撃魔法を得意とするわけではありません。故に地属性の魔術師限定にはなってしまいますが……」
マーディはちらっと大穴を見る。
「これだけの大穴です、再生出来れば貴方方の評価を付けるには十分でしょう。この先も授業はあるわけですし、得意不得意もこの場で把握しておきましょう」
「つまり、私が大穴を開けたかいが地属性の――」
マーディはヒールの部分で俺の足を踏みつける。
「――痛いっ!!」
「貴女はお黙りなさい……」
「は、はい……」




