33 アルビオの今
「でも、勇者の末裔か……精霊さんともお話出来るんですよね?」
「あ、はい……」
アイシアは早速、アルビオの事を尋ねる。こういうところは見習うべきだろうマジで。でも、アイシアは少し危機感がないようにも思える。
「ちょっと、ぐいぐい行き過ぎ」
「えっ? 何で? だってこんなこと滅多にないし……」
「それはわかるけど……」
俺はさっきから気になる視線に親指で軽く指す。その先には、貴族令嬢だろうか、不機嫌そうに睨んでいる。
しかし当のアイシアは気付きもせずにとぼけた顔をする。
「とにかくもう少し落ち着いて話そう、ね」
「うん、わかった」
アルビオと話す際には他の貴族令嬢を気にする必要がある。嫉妬で何をされるかわかったもんじゃない。
安請け合いしなければ良かったか?
だが、アルビオの事もある程度知らなければ、相談もできん。
「アルビオはやっぱり騎士になる為にここに通っているの?」
「……いえ、違います。殿下が通われるので、一緒に……」
何とか聞こえる声で話す。引っ込み思案な性格なのだろうか。先程から塞ぎ込んだ体勢のままだし。
何というか勇者感はゼロだよな。
「殿下とは仲が良いのですか?」
先程の話を掻い摘むとそれだけではないようだが、リュッカはハイドラスに尋ねた。
「まあ私は良いと思っているよ」
「ぼ、僕もです、殿下。いつもお世話になりっぱなしで……」
「いや構わないさ。だが仲が良いのなら名前で呼んでほしいものだ」
皮肉混じりの発言に戸惑わざるを得ない様子のアルビオ。
「それだけでもないのだがな……」
「……やっぱり当てにはしていると?」
「……察しがいいな」
「話を聞けばわかります」
勇者はこの国において絶大な影響を与えた存在。その証拠に銅像や学校まで作られているのだ。
例え、勇者自身が平民でもこの国の王族が目をかけない訳がない。
「じゃあ殿下も期待で潰してる方なんだ……」
「おいおい潰してるわないだろう、フェルサ。これでも一個人としては彼自身の人生を全うしてほしいと願っている」
フォークを置くとコップに注いである水を少し飲むと少し深刻そうな雰囲気で話す。
「私は立場によって人生が決まるのは良くないと常々思っている。彼に限った話ではない」
何か悟ったような物言いだった。自分自身も王族という立場から人生のほとんどが決まってしまったようなものからだろうか。
「彼は勇者と同等の力を持つだけで、期待と疑心を与える……それが、自分自身の身も削る形となって現れた時もあったのだ……彼は暗殺されかけたこともあるのだ」
「――暗殺ですか!?」
「それは随分と物騒ですね」
その時は近くの人の多い建物に逃げ込んだとのこと。犯人も捕まったとのことだそう。
「それだけの存在なのだ、彼の肩書きは。だが、彼自身の人生を左右するものではない」
「だから、彼の味方になってあげたいんですね……」
「ああ、そうだよマルキス。だが、これは君にも言えることだ、オルヴェール」
「えっ!? 私?」
思わず目を丸くして驚く。今の話にどこか関係があったかを不思議そうに考えていると、少し笑われた。
「お前にそのような心配はなさそうだな。闇の魔術師ならばある程度はとも思ったが、そうでもないらしい……」
俺は困ったような表情で微笑した。
内心は違う。そもそも別人なのだ。俺自身はその重要性を知らないだけ。リリアは知っていたから自殺へと走った。
ザーディアスも言っていた、この国なら大丈夫だと。
殿下が言っているのなら、本来ならもう少し慎重に、そしてちゃんと知るべきことなのだろう。
「あの――」
ハイドラスに語りかけようとした時、アイシアは強くテーブルを叩いた。
「もうやめましょうよ! こんな暗い話!」
アイシアの性格上、ハイドラスの出す雰囲気には慣れないと訴える。
「殿下が話しておられるのですよ」
「いや、彼女の言う通りだ。ここは学食、生徒達が青春を送る場所の一つ。私のこの話はこの場では不粋だろうさ」
じゃあと話題を提供というかアイシアはお願いをしてみる。
「アルビオさんは今、どこから通ってるの?」
「実家ですよ、王都の」
「……てことは昔、勇者様も――」
「うん、住んでたらしいよ。その時の遺品も残ってるしね」
「良かったら放課後、お家へ行っていいですか?」
思わず飲んでいた水を吐き出す。
「げほっごほっ……」
「大丈夫? リリィ?」
「いや、大丈夫はこっちのセリフ!」
さっき積極的に行くなって言ったばかりなのに、いきなり自宅訪問なんて、周りの貴族達の顰蹙を買うだろが!
とはいえ、俺自身はめちゃくちゃ行きたい。何せ、もしかしたら元の世界へ帰れる手段があるかもしれない。
残っている遺品からどんな勇者だったのかも把握できるかもしれない。そこから異世界人として生きていく術を学べるかもしれない。
「はは、マルキスは大胆だな」
「そうですか? 勇者様の家に行けるなんてスゴイ機会じゃないです?」
「まあいいんじゃないか? アルビオ」
アルビオは少し悩んだ顔をするが、こくりと無言で頷いた。
「やった!! ありがとう! アルビオさん」
嬉しそうな声が学食内に響く。貴族令嬢の表情がもっと険しくなるのが気配でわかる。
「アイシア、もっとボリューム抑えて……」
「そんなに心配せずとも大丈夫だ。私達と行けばいい。あくまで私の誘いという形であれば、貴族令嬢達も早々ちょっかいをだすこともあるまい」
「いやぁ……」
火に油を注ぐだけな気もするが、殿下が抑えてくれると信じよう。とはいえ、勇者の家に行けるのはありがたい。
アルビオの話曰く、遺物があるなら俺と同じ世界から来たのか、戻る方法があるのか、色んな期待をしてしまう。




