32 殿下からのお願い
「さて、そちらの思惑に乗ってやったのだ。今度はこちらの話を聞いてもらおう」
同席しても構わないかと後ろのテーブルから料理を乗せたおぼんを手にする。
「あの、まさか本当に側室になれって話じゃ……」
実際の話、悪い話ではないのだろうが、中身が男の俺からすれば例え、殿下が相手だろうと嫌なものは嫌である。
上ずった声で尋ねると、ふっと優しく微笑む。
「実はそうなのだよ。オルヴェール……」
「――ええっ!?」
「冗談はやめてください、殿下」
さっきまでウィルクと喧嘩していたハーディスが止めに入る。
「えっ? 冗談」
「まったくお前という奴は……」
「はしゃぎすぎです、殿下」
ほっと胸を撫で下ろすとその様子を見たハイドラスは残念そうな表情で話す。
「普通、私のこのような話があれば飛びつくものではないか? その反応はさすがにショックだぞ」
「あ、あはは。私には荷が重いなぁと思っただけなんです。決して殿下が悪いわけでは……」
平民が貴族に嫁ぐ訳だから、まして王族だからね。ただ、女だとしても断るわ。絶対精神的に大変な日常を送ることになりそう。
「そろそろ本題に入りましょう、殿下。彼も待っていますし……」
「そうだな。私の話を進めるに至って、彼を紹介せねばならない」
そう言うと先程からチラチラと目につく見覚えのある黒髪がハイドラスの後ろをチラついていた。
「そこの二人は知っているだろうが、改めて……」
ハイドラスはすっと横にずれて、黒髪の少年を紹介する。
「紹介しよう、アルビオ・タナカだ」
「えっと、初めまして。アルビオ・タナカといいます。どうぞよろしく……」
昼食を乗せたオボンを手に、ぺこりとお辞儀をして挨拶するその少年の姿に懐かしさを覚えた。
見覚えのある黒髪に、顔は完全に純日本人の優しい顔立ち。体格も平均的な日本人体型。
率直に思った。日本人だ!
もうこの一言に尽きる。これ以外の言葉がまるで出てこない。元々の鬼塚もこの純粋な日本人体型ですら憧れたものだ。
何せ元は童顔チビである。日本人男性特有の短足チビではないものの、身長が小さいのはやはり、男にとっては致命的である。
そしてこの純日本人の名前がアルビオだ。日本風に呼ぶと田中アルビオ。
何処かの会社の名前かなとふと思ってしまった。人の名前で。
俺は思わず見入ってしまう。
「……?」
「どうした、オルヴェール」
「ああっ、いえ、何でも……」
不思議そうにされながらも、同席するよと俺達の隣に男子四人が座る。
「さてオルヴェール、話というのは君にだ」
側室の話なら彼を紹介することはないだろう。そして彼の名字はタナカ。まさか、こんなに早く会えるとは。
「どのようなご用件で?」
「そんなに難しい事ではないよ。彼の話相手になってほしいだけだ」
と言ってアルビオを指す。
「えっと……恋人紹介とかじゃないですよね?」
「ハハハハハハっ! まあそう聞こえてしまうかもしれないが違うぞ。オルヴェール、君は確か双属性だったな?」
「はい。調べたんでしたっけ?」
「ああ、君も知っての通り、彼は勇者の末裔と呼ばれ、それだけの力を有している」
バークから軽くは聞いたが、確かこの世界では珍しい精霊と契約してるとかなんとか。
「その才能があってか、色々なところから期待と厄介がられたりもするようでね……」
「期待はわかりますが、厄介とは?」
確か六精霊、全てと契約を行なっていて、全属性も使用可能の才能の塊だ。勇者の英雄譚からも似ていることから周りの期待は絶大なものだろう。
「厄介というのは、勇者が活躍していた当時は世界中が混迷の中にあった時代だったのだ……」
向こうでいう世界大戦みたいな感じかな?
「それの再来ではないかと貴族達が騒ぎ立てているのだ」
「なるほど。勇者とほぼ同じ力を有した彼の誕生が災厄だと……」
「……ああ」
ハイドラスは寂しげに言葉を零した。アルビオに至っては生まれただけなのに、災厄の子として扱う人間がいるのは、さぞ悲しいことだろう。
その彼も表情が暗い。おそらく殿下に守られながらも色々と思うところがあるのだろう。
「それで何で私が話相手なんです? この様子を見ると殿下がお話相手だったように見えますが?」
「さっきも言ったがお前は二属性持ちである。同じような境遇同士、私とは違う観点から話が出来るのではないかと考えたのだ」
「でも、六属性と二属性持ちはだいぶ違いますが……」
相談相手にならないのではと話すとハイドラスは少し驚いた表情を見せる。
「……お前、それは本気で言っているのか? そもそも複数の属性を持つ事自体が稀なのだ」
それは前にも少し聞いたがそんなになのか。
俺は納得いかないような不思議そうな感じで首を傾げる。
「お前もその才覚に色々と苦労したのではないのか?自分以外は全員、複数の属性持ちではなかったのだろう?」
確かにリリアの遺書から当時の事を想像してみても複数持ちはいなかったように感じる。
「なら、それなりに人間関係に悩んだりもしたのではないか?」
そういう妬みとかからだろうな。リリアは実際それに潰されて、最終的には最悪の選択をした訳だが。
「つまり、珍しくも似た境遇持ち同士の方がいいって事ですね?」
「そういう事だ。たまにでいい、話相手になってはくれないだろうか」
事情は大体わかった。つまりはこうだ。
アルビオは勇者と似た、恵まれた力を持って生まれたが、その力によって過度な期待と過度な言いがかりからプレッシャーをかけられている。似た境遇の俺に相談相手になってほしいとのことか。
「わかりました。まあ友達が出来たと思えば……」
「そう言ってくれるとありがたい。勿論、君達もだよ」
ハイドラスはアイシア達にもお願いする。
「わかりました! 勇者の末裔さんと友達になれる機会なんてないからね!」
「はい、色々とお辛いこともあったでしょうから、出来る範囲であれば……」
「ん……」
三人とも同意とのこと。アルビオも申し訳なさそうに礼を言う。
「……ありがとう」
リリアの件でも思ったが、結局こういうのは自分の心の持ちようだと思うわけで。
本人がこんなに根暗では自分の意思もはっきりとその連中らに伝わらないのではとも思った。




