28 神の言葉だそうです
周りにも響くほどの音を立てて、テーブルを叩く。その表情は一変、激怒の表情を浮かべる。
「――何だとっ!?」
俺はあくまで冷静な物言いで話す。はっきり言ってこうなる事が予想通り過ぎてむしろ呆れているほどだ。
本物のリリアならここでビビってコイツの言うことを聞くだろうが、俺はむしろこれを狙っていた。
「大変有り難いお話ではありますが、わたくしのような田舎娘が――」
丁重にお断りを入れる発言を遮るように、暴君が言葉と暴力を振るう。
「お前の意見など聞いていない!!」
「――痛っ!!」
乱暴にリリアの髪を引っ張って自分の顔の近くへ引き寄せる。
それを見たアイシアとリュッカは痛ましい表情を見せる。フェルサに至っては殺気立つ表情で威嚇するが、怒りで周りが見えていないこの豚男は気にも留めない。
私はフェルサに手を出さないよう、手で合図を送る。
「いいか? 僕様はお願いしている訳ではない……命令してるんだ!! 僕様の女になれと!!」
周りにも聞こえるような大声で叫ぶ。周りも萎縮しつつも騒つく。
だが関わりたくないのか遠巻きに皆様子を見ている。俺としては髪は痛いが逃げられるよりいい。
「そんな……わたくしの言い分も――」
「いいか? お前達平民は貴族である僕様の言うことを聞く義務があるんだよ!!」
人権無視とは随分とめちゃくちゃな言い分だ。何様だよ。
「お前にとってもいいことなんだよ。僕様のような選ばれた男に抱かれるんだからなぁ!!」
どれだけ自分に自信があるわけ?
この上から下まで醜い容姿のこの豚面男は。
俺はあくまで一方的にやられる被害者を貫き通す。フェルサが飛び出さない程度の悲劇のヒロインを演じる。
「や、やめて下さい……」
「いいか? 僕様の言葉はお前達にとって神の言葉も同然!! 従うのは当然なんだよ!!」
自分の思い通りにいかないと、感情的に叫び続ける。こういうタイプは感情の制御ができない。
「いいな? わかったら今夜俺の屋敷へ来い。可愛がってやる……」
舌舐めずりをして唾液の汚い音も鳴らす。思わず背筋がゾォーとする。
「嫌です!!」
髪を鷲掴みにされていながらも抵抗する声を上げる。多分そろそろ来てくれるはず……、
「この女――」
髪をさらに強く引っ張り、殴ろうとする。本当にどうしようもない奴だと思いながら、二、三発の覚悟を決めて目を閉じる。
「……」
さすがに痛いだろうと思ったが、何故か拳が来ない。そっと目を開けるとその殴りかかる手を止めている姿が見える。
来た! 殿下と思ったのだが、
「この豚……何をしている」
睨みを効かせ、怒りの表情が滲み出ているウィルクの姿があった。
「なっ!? 離せ! くそっ……」
いや、お前じゃないよ! 助けてくれるのは有り難いが計画が狂っちゃう!
ウィルクは俺の髪を鷲掴むピクードの手を振り払い、俺から突き放す。
「くそっなんなんだお前ぇ!! 僕様を誰だと思ってるんだ!!」
ウィルクに指差して物申すが、ウィルクは一切動じるどころか軽蔑した目線を送る。
「マルファロイ家のお邪魔虫だろ? お前……」
「なっ!? 何だと!!」
ピクードが摑みかかろうとする時、ピクードの後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「随分と穏やかではないな……」
その一言にピクードは硬直する。面白いほどピタリと止まる。動くたびに揺れる腹肉ですらピタリと止まった感じだ。
「あっ……」
「殿下……」
その声の主、ハイドラス・ハーメルト殿下の姿があった。




