26 男対策始めます
「ふえぇ〜……疲れたぁ」
学校内にある食堂で疲労感漂う声を上げるアイシアは背もたれにもたれかかる。
「そうだね……」
フェルサに関して最早、声と目に生気がない。ピンと立っていたはずの耳も垂れいる。ここからは見えないがおそらく尻尾も沈んでいることだろう。
かく言う俺も味気ない授業内容に拍子抜けである。淡々と教科書を読み説かれても困る。魔法学に関しても、リリアの実家にあった書物で予習していた内容が重なり、期待していた分が跳ね返された。
それを考えれば、向こうの先生はだいぶ生徒との距離を近くに感じる印象を受けた。決して冷たい感じではないのだが……。
もっとファンタジーらしい感じはなかったのかねぇ。魔法で文字を書くみたいな。
「はぁ〜……」
「はあ……」
「はぁ……」
それぞれ思い思いのため息が漏れでる。ため息一つでもバリエーションは実に豊かである。
そんな三人の様子を困った笑顔で見るリュッカがまず、声をかけたのは、
「シア、授業はついていけそう?」
幼馴染故、同じ教室でもないし、真っ先に声をかける対象ではあるだろう。フェルサに関しては同じ教室だし、聞かずともだろう。
「うう〜……」
そのアイシアは意味深な唸り声を上げる。すると次は俺に声をかけた。
「リリアちゃんはどう?」
「まあ、私は大丈夫だよ。ちょっと先生達が真面目過ぎるかなって思っただけ……」
そりゃあ向こうにも気難しそうな先生とかもいるけど、全体的に真面目なお堅いイメージを拭えない。
「えっ!? あれわかったの?」
「まあね……」
なんでため息ついたのと言わんばかりの驚きの声を上げる。
今日、午前中に行われたのは国語、数学、社会、魔法学の順である。
国語はリリアの知識もあってか、この国での言葉など理解に苦しむことはなかった。数学に関してはほぼ向こうと同じで、社会は覚えゲーである。魔法学は魔力についての授業だった。
強いて言うなら社会がマシだった。何せこの世界での社会風景や歴史は自然と興味が惹かれるもの。それでも他人事のように聞いてはいたのだが。
「私、冒険者に戻ろうかな……」
フェルサはアイシア以上に苦戦しているらしい。弱音を吐かなさそうな彼女からポツリと弱音がこぼれた。
「まだ、一日目だよ、頑張ろ」
「そうだよ、私が勉強見てあげるから……」
「ええっ!? リュッカぁ……私は?」
こんな風に女の子のランチタイムを楽しんでいると、俺達のところに向かって、偉そうに腹を突き出すように歩いてくる男が取り巻きを連れてやって来る。
ドカドカという足音も一切の品位を感じない。その足音を立てる男は周りの人など気にせずこちらへ着くと、これまた品のない顔をして、俺を見る。
目はへの字に曲がり、その瞳はまるで俺を舐め回すように品定めをする。鼻息は荒く、鼻の下まで伸びており、口元も緩み、下品な笑みを浮かべる。
俺はちらっと横目にそいつを確認すると無視して食事を進める。三人はその男がいるので少しばかり警戒する。
そんな俺の様子を見たこの下品な男はテーブルを叩くと大きな声で料理が並んでいるにもかかわらず唾を吐き捨てながら呼びかける。
「――おい! リリア・オルヴェール!!」
さすがに呼ばれて無視する訳にもいかず、明らかに下心見え見えの下品そうな男を見て、作り笑顔で答える。
「はい。何でしょう?」
俺の愛想の良さそうな反応を見て、何故かドヤ顔しながらご満悦な表情。
「お前、中々いい女だな。感謝するがいい! 俺の女にしてやる」
コイツは何を言ってるんだろうとか食事に唾を吐くなとか心の中で全力でツッコミながらも作り笑顔を続ける。
「あ、あの――」
アイシアが何か言おうとした時、血相を変えて怒鳴り散らす。
「下民は黙ってろ!!」
「――っ!!」
思わずアイシアどころか周りも萎縮している。下民と吐き捨てる辺りといい、教室での態度や取り巻きといい、コイツは貴族だろう。フェルサは元々機嫌が悪いのに、この傍若無人なゲス野郎を前に睨む。
その視線を感じてか悪態を吐く。
「おい、そこのケダモノ!! この僕様に向かってなんて目で見てるんだ!! ええっ!!」
「コイツ――」
フェルサが手を出しそうになるので、止めに入る。
「――フェルサ、落ち着いて。私が話をつけるから、ね?」
「……わかった」
めちゃくちゃ機嫌が悪い顔が治らないまま、とりあえず黙ってくれた。
「えっと、わたくしが貴方の女になれとの事ですが――」
さて、このクソ野郎には人柱になってもらおう。俺の安全な学園生活の為に。




