22 入学式
俺達が席へと座り、しばらく雑談していると引き戸が開く。その音に気付き、俺達を含む席を埋め尽くす生徒達はそちらへと視線をやる。
そこには上から下まで真っ黒の、正に魔女そのものの姿の化粧の濃いおばさんが左手に生徒名簿だろうか、片手に持って現れた。
教壇まで行く足取りは姿勢も整ってか、美しく見えた。顔は完全に大きな鍋の薬を混ぜる魔女そのものに見えるのに。
静かに名簿を教壇へと置く。
「はい。皆さんお早う御座います」
この一言だけでこの人の性格が手に取るようにわかるよう。凛としたテキパキした喋り方だ。厳格そうな印象を受ける。
「これから皆さんには入学式ということで闘技演習場へと向かいます。では、わたくしに付いてきて下さい」
そう言うとすぐに教室から出て行き、俺達を待っている様子。俺達は言われるがまま付いていくことに――。
付いていった先には、よくゲームなんかで出てくるような闘技場の建物があった。しかし、天井はあるようだ。
そしてその建物の大きな扉の前には沢山の生徒が並んでいる。リボンの色を見る限り、同じ入学生だろう。
「それでは皆さん、二列で並びなさい。右が男子、左が女子です」
どうやら入学式の入場準備のようだ。このおばさんの言う通りに並ぶ。俺はアイシアの後ろに並ぶ。
「入学式だね! なんかワクワクするよ」
「そうかな? 私はそれよりあのおばさんが怖いかも……」
俺はこそっとアイシアにあの人の悪口を言う。
「あの人が担任になるのかな?」
「多分ね……」
生徒名簿らしき物を持ってたんだし、こうして俺達の列の前に立っている以上はそうだろう。できれば優しい先生やフレンドリーな先生がよかった。
堅物そうな五十代くらいのおばさんはちょっとと思うことがあるわけで。
先生方は俺達をその場で待たせると生徒を集めたと確認を取ると、学年主任の先生だろうか、ワンレンウェーブの片目に切り傷のある細身の三十代くらいの男らしい顎髭さんがご挨拶。
「それでは新入生諸君、入学おめでとう! 俺はこの学年主任、騎士科Aクラスのカルバス・ドマイトスだ。これから君達の入学式が始まる。担任の先生方に従って入場してくれ」
「――はい!」
皆、一斉に返事をする。
俺の内心ではまさか一年後にまた入学式をするとは思わなかった。
あのおばさん先生が俺達の列へ来た。
「列をそのままにわたくしに付いてきて下さい」
――演習場の扉が開き、外に漏れ出すほどの拍手が聞こえる。俺達は迎え入れられるように中へと入っていく。
在校生のみならず、ご家族も来ているようだが、服装を見るに貴族のみのようだ。だが、王様の姿はない。殿下が通われるからてっきりいるものと思ったが、そういった身なりの人間は見当たらない。
そして、俺達が全員中へ入り、整列するとその後は向こうの世界と変わらない、粛々とした入学式が始まる――。
開会宣言、入学許可、学園長式辞、祝辞、在校生の歓迎挨拶と続く。そして新入生代表挨拶。
「――新入生代表挨拶、ハイドラス・ハーメルト」
「はい!」
大きな声だったが、品性を感じるピシッと整った返事だった。用意された壇上へと声の主……この国の王子が上がる。
その容姿は正に好青年。茶髪のショートの落ち着いた髪型に紫がかった瞳、顔立ちは王族と言うだけあってイケメンだ。身長も大きいようだ。男の時からチビだった俺には羨ましい限りだ。
ハイドラスは一礼すると、懐からカンペだろうか取り出して挨拶を始める。よくあるお決まりの前説を語り終わるとこの学校の歴史に触れる。
「――ここハーメルト勇者校は我が王族の先祖が勇者の心意気を真摯に受け止めて作られた伝統ある学校。先程学園長殿がおっしゃられたようにこの学校では、身分や種族に関係なく学び、切磋琢磨する場――」
先程、学園長先生が言うには色んな種族、主に獣人だが、通う関係上、この学園内では基本身分権力を振るのは禁止とされている。何せこの国で活躍した勇者はどの貴族よりも優れていたにもかかわらず、貴族地位を求めなかった。
その理由として言ったのは――、
「貴族だろうが平民だろうが人は人……だろ?」
――と言い残した記録があるらしい。何?この主人公感臭いセリフは。
その振る舞いと心意気に当時の王様は感銘を受けてとの事情らしい。
「そのような由緒正しき学校へ通い、人生の成長に繋げられることに感銘と共に感謝申し上げます。我々新入生一同はその気持ちを胸に抱き、在校生の皆様方、先生方に教えを請いながら学ばせて頂きたく存じます。これを新入生の代表挨拶とさせて頂きます。新入生代表、ハイドラス・ハーメルト……」
大きな拍手の音が会場内を木霊する。王族としての貫禄をヒシヒシと感じるような挨拶に思わず俺も讃えるような拍手を送る。
ハイドラスはこれまた綺麗な歩き方で壇上を後にする。そして入学式は無事に終わりを迎えるのであった。




