21 刺さる視線
――突然ですが、女になって色々思うことはある。まず、肩がこる。向こうにいた頃は首ならこっていた。理由はスマホ。どうしても視線を下ろして、そのままの体勢でいた為、よく首を回してコキコキと鳴らしたものだ。
だが、この世界には勿論ではあるが、スマホなどない。しかし、こるのだ、肩が。こちらも理由は簡単、胸である。
リリアは小柄だ。それなのに胸は大きいという、巨乳は言い過ぎだろうが、まあ大きい。こんな言い方はあれだが、胸にこんな重りを二つもつければそりゃ肩もこるというもの。
お風呂に入ると、うきのようにぷかりと浮かぶので楽だったことを覚えてしまった。
次は体温である。体感的にではあるが、肌寒く感じることがある。男の時ならこれくらいの気温なら寒く感じることはなかったのにと旅先でも感じていたことだ。
あとは食事量。男だった時も特に大食いではなかったものの、成長期だった時は結構食べたが、リリアになってから食が細くなった気がする。
勿論、個人差もあるだろう。
このように同じ人間と言っても性別が違うだけで何かと違いが出る。動物や昆虫なども性別によって違いがある。
だから、色んな意味では男と女を両方体験できるのはかなり貴重な経験と考えてはいるのだ。
俺達は貼り出されているクラス表を確認している。
「えっと……あった! あったよ! リリィと同じクラスだ!」
「あ……ホントだ」
「リュッカ達はどう?」
「私達も同じクラスだよ」
フェルサはこくりと軽く微笑み頷いた。どうやらリュッカとフェルサも同じクラスになれたよう。
友達と同じクラスになるならないでも結構、学校生活に影響してくるからな。とはいえ相変わらずクラスの人選配置の基準がわからん。
そんなことふと思ったことはないだろうか? でも、大体こんな疑問は解決しようがしまいが、実はどうでも良かったりすることが多い。
「じゃあ魔法科はこっちだから……」
「また後でね」
「うん。また後で」
俺とアイシアはリュッカ達とその場で別れた。
「こっちが魔法科だよね?」
正面玄関から左の通路を行った建物が魔法科、右が騎士科となる。ちなみに一年生は三階である。
まだ慣れない校舎の中を周りの景色を目で追いながら、コツコツと靴音を鳴らして歩く。
だが、そんな周りの景色以上に気になることがある。それは視線である。
通り越す男子生徒の視線が刺さるように感じるのだ。最初こそ、この容姿だし、男の気持ちもわからんではないと思いながらここまで来たが、思った以上にねちっこく感じる。
「……」
「どうしたの、リリィ?」
アイシアは気にならないのだろうか。一緒にいる以上、この熱い視線を感じない訳ではないだろうに。
落ち着かない様子の俺を見て聞いてくるが、質問返しをする。
「アイシアこそ気にならないの? さっきからじっと見てくる男子の視線とか……」
何も感じていないのか不思議そうな顔をしてさらっと答えた。
「別に……」
俺の自意識過剰だったのかと思うくらいのあっけからんとした一言。思わず脱力する。
「いや、まあいいよ……」
だが、やはり気のせいでも自意識過剰でもなく、事実なようで、教室近くの廊下で喋っていた男子達も俺が通り過ぎると話を一旦止めて視線を送るような眼差しを感じる。
それに対し、背筋に寒気が走った。よく男子怖いという女子がいるが、こう言った異性の視線が原因の一つではないだろうかと身を持って体感した。
知りたくなかった。男の異性に対する視線と目線からこんなにも気持ち悪さを感じるのは。
「ここだね」
「……そうだね」
ガラッと引き戸を開けると教壇が目の前にあり、左に視線をやると階段積みのように机が――所謂エンド・ステージ形式のよう――並ぶ。
大学の教室みたいだと感じた。これは前の人を盾にして居眠りとかするやつは出てこないなとも思った。
「席順とかあるのかな?」
一応、この世界では高等部と扱われるこの学校、大学みたいに自由ではないはずだろうと思っての一言。
するとアイシア、すぐ隣の席に座る男子達の一人に無邪気な声をかける。初対面にもかかわらず、相変わらず積極的だ。ていうか男女問わずかよ。
「ねぇ、席順ってあるの?」
「えっ!?」
不意に言われたせいかひどく動揺した声を上げる。アイシアは返答を待つが、この男子にはプレッシャーになっているようで、顔を真っ赤にして口ごもる。
「……」
それでもぼそっと返したが聞こえない。口を動かして返答をしているのを確認したアイシアはもう一度尋ねる。
「ごめん、聞こえなかったからもう一度――」
「アイシア、席は適当だって」
正直見ていられなかった俺は、窓際の席で喋っていた女子に聞いた。友達同士で喋っているようだから、なんとなく自由かなとはわかっていたが。
「そうなの? ありがとう! あっ……ごめんね、邪魔しちゃって……」
「い、いや……」
惚けた間抜けな顔をした彼を見ることもなく、俺のところへさっさと移動してきた。
罪作りとはこういう事なのだろうかと、あの紅潮して惚ける顔を見て察したという。




