18 魔力感知の使い方
暗い路地裏から光が差し込む表通りを出ると思わず、伸びをする。重苦しい空気もあったからどこか清々しくもあった。
「で? 田舎から来た勇者校の生徒って事は寮に向かうの? 行ける?」
フェルサとはまた違うトーンでの淡々とした喋り方。少し突き放すような喋り方というべきか。心配してくれる内容なのにちょっと怖い。
「うーん……できれば友人を探したい。荷物預かってるから、勝手に帰るのも……」
「なら、魔力感知してみたらどう?」
「えっ? 感知魔法のことだよね? 人探しに使えるの?」
「そりゃね。人間だって魔力が通っているのだから当然でしょ? その探している友人は側にいる機会が多かったの?」
そう聞かれるとアイシアもリュッカも結構側にいた覚えしかない。先輩達はそんなだけど。
「うん。一人に至っては寮、同室だし……」
「なら魔力感知してみればいいわ。自分の魔力に干渉して違った反応があるはずよ」
――彼女の説明曰く、魔力が通っている同士が一緒に居続けると、いわゆるマーキング効果が出るらしい。なので、感知魔法を使用すれば他の魔力を持つ人達とは違う魔力を感知、探しびとを見つけられるということだそう。
「へぇ〜……そんな使い方もできるんだ。よし! それなら早速――」
懐から携帯している杖を取り出すも、路地裏の女の子が指摘する。
「魔力感知に杖は必要ないでしょ」
「何で?」
「人探しの為の魔力感知なら杖無しでも大丈夫よ。それに常日頃から杖無しでこれを続ければ気配も読みやすくなるわ。何でもかんでも杖を使わなくてはならないってこともないのよ」
「そっか……」
言われてみればと感心、納得する。
確かに杖を使って意識集中した方が正確性は増すが気を取られ過ぎてしまう。魔術師の弱点とも言えよう。だからこそ、こういう正確性よりも速さを求められる場合は杖のような魔道具は使わない方が効率的と言うのだろう。魔力感知に限った話でもないだろうが。
彼女のアドバイスを元に杖を使ってやっていた感知魔法をやってみる。
意識を外に向けると、魔物を感知した時とは違う感覚が襲う。魔物の魔力と違って人の魔力は随分と穏やかな感じだ。
魔物の魔力は火が激しく燃えているような荒々しくも凶暴性を感じるものだった。仮にも世界の魔力の循環を行っているものとは思えない。それに対し、人の魔力はゆらゆらと燃焼している感じだ。
しかし、何か変化のある魔力を感じない。
「んー……ここには何か変な魔力は感じないよ」
「じゃあ別の場所へ移動しましょうか」
「付き合ってくれるの?」
「……このままにして帰る方が気が気じゃないわ」
仕方なさそうな表情をして答えた。出会った時より、表情が和らいだ気がする。
――魔力感知を行いながら王都の町を歩く。大分慣れてきた。
「この辺りなんでしょ? 友人とはぐれたのは……」
正確には自分からはぐれたわけだが……見覚えのある建物がちらほらと見える。
「そうなんだけど……あっ!」
魔力感知に何か引っかかった。魔力の色が違うのが見える。緑で揺らめく魔力の中にオレンジ色があった。
魔力感知を解き、その人影を確認すると……。
「リリィーっ!」
大きく手を振り、こちらに気付くように声を張る。
「アイシア!」
「良かったよーっ! リリィ!」
両手を繋いでぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現。
「合流できたみたいで良かったわ」
「ん? 誰?」
俺の後ろにいる路地裏の女の子を覗くように見て尋ねた。そういえば名前も聞いてなかった。
「ごめん、名前を聞いてなかった。私はリリア・オルヴェール。貴女は?」
「そういえば名乗ってなかったわね」
ふぁさっとフードを取って顔を見せた。
目についたのは、ボブの青紫色の髪。周りを道行く人達を見ても珍しい髪色からこの国の人間でないことがわかる。
キリッとした翠の目が印象的な肌白さんである。
「――テテュラよ。よろしく」
フードを拭ったせいか、軽く髪をかきあげて直す。こういう仕草はモデルさんみたいな顔立ちのせいかドキッとする。
「よろしくね、テテュラ」
「私はアイシア! リリィを連れてきてくれてありがとう」
俺と一緒にいたことから判断してのお礼。
「別にいいのよ。それじゃあ……」
「あ、待って――」
呼び止めようとするアイシアを肩をガシッと掴んで止める。おそらく何かしらのお礼をするつもりなんだろうが、先程の表情といい、すぐ様立ち去ろうとする辺りといい、まだ何か用事があるのだろうと判断しての行動。
「アイシア、何か付き合わせたみたいだから、呼び止めないであげよう」
彼女はそのまま王都の人混みの中へと消えていった。
「まったくリリィったら心配させて……」
「ごめんなさい……」
テテュラが去った後、珍しくアイシアからお説教を受ける。結構探したとのこと。
「とりあえず見つけたら、寮に先に戻ったのターナ先輩のとこに行くことになってるから帰ろ」
「リュッカ達は?」
「ターナ先輩のとこに行けば、念話魔法だったかな? 連絡つけるって」
その為の魔法陣を形成する為に先に戻ったそう。
「ごめんね、行きたかったんでしょ、あのお店」
少ししょぼくれた顔をして言ったが、アイシアはふるふると首を軽く振る。
「いいよ、リリィが無事ならさ。それにまた今度行けばいいよ!」
「……」
思わず固まってしまったが、逃げてしまったことへの罪悪感からまた困らせられないと、
「う、うん。そうだね!」
なんともぎこちなく、言葉を塊で吐き出したように返事をする。
女である以上、避けられない現実があることをむざむざと突きつけられるのだった。




