17 路地裏の女の子
「はあ……はあ……」
リリア自身はぶっちゃけ体力はあまりない。なのですぐにバテた俺は人混みのない路地裏で息を切らしながら塀に手を置き、息を整える。
「はあ〜〜……何やってるんだろ、俺」
誰もいないことをいいことに久しぶりに本来の一人称を口にする。先程逃げたことを反省する。
アイシアとリュッカのあの表情を見るあたり、オシャレを気にする女の子なんだ、俺が我慢すればいいだけの話だったのにと。
男に戻れるわけでもないのに、つまらないプライドで楽しみを奪うのは良くないと反省したが、また知恵熱でも起こして倒れて、また迷惑をかけるのではないかと言い訳も浮かべてみる。
「もし、まだ行く気だったら、ちゃんと付き合うか」
反省したは良かったが、
「……ここ、どこ?」
夢中で走った為、この路地裏がどこに繋がっているのかもわからない。
「うーん……とりあえず表通りに出るか」
そんなに遠くには行かなかったと思うのでさっきの店を目指すことにする。
しばらくして曲がり角を曲がると、そこには薄暗い中、何やら地面に片手をついて屈んでいる人影があった。
何かを探しているのかと思い、驚かさないように声をかける。
「……あの――」
ほんの一声かけた瞬間だった。
こちらを素早く見ると腰からナイフだろうか素早く取り出して体制を低くして構える。
黒のフード付きのマントが凄腕のアサシンのよう――まるで映画にでも出てきそうな感じだ。
その反応にマズイと瞬時に感じた俺は襲いかかってくる前に待ったをかける。
「ストップ! ストップ!」
その声と華奢な容姿の俺を見て判断したのか、動きをぴたりと止めると深くかぶったフードの中から見える綺麗な口から冷たい声で尋ねてくる。
「何?」
「いやあの、その……薄暗い中、探し物をするのは大変そうかなーと思って声をかけたんですが……」
その言葉を聞いて信用したのか、立ち上がりナイフを収めた。
「そう……大丈夫よ」
口数を少なく答えると俺とは反対方向へと去って行こうとする。
「あの! ちょっと待ってもらえますか!?」
焦ったように早口で去りゆく彼女を引き止める。
「まだ何か?」
友好的な物言いではないが、話は聞いてくれそうな様子だったので、ダメ元でお願いする。
「私まだ王都の地理に詳しくなくて。大通りのところまででいいですから、案内をお願いしてもいいですか?」
そう言って困った表情で苦笑いをすると、こちらに顔が見えるように頭を上げると呆れた表情で鼻を軽く鳴らすと先程よりも温度のある声で答えた。
「わかったわ。ついてきて……」
そういうと足早に先程向かおうとした場所を行く。俺は慌てて追いかけた。
「いや、その助かりました……」
彼女は無言だ、場の空気が重くのしかかってくるようだ。これぞ無言の圧力……特に女の子の無言ほど怖いものも中々ないよね……と感じながら、彼女の後ろを歩く。
お願いしたのは俺だし、初対面の人と会話のキャッチボールをしろというのもアレとは思うけど、返事くらいは返してほしい。
重苦しい空気の中、それでも諦めず会話を試みる。
「あの貴女は王都の方なんですか?」
「……」
「えっと……」
こちらをちらりと見て、小さくため息をつく。
「いいえ、私は別大陸の人間よ」
「えっ!? そうなんですか……」
ギルドで世界地図を見たが、この世界は大きく四大陸に分けられている。その内、一番治安が良く、住みやすい国というのがここらしい。
正直、さっきのなりからこの人、スパイか何かとも思ったが、さらりとそんな事を答える辺り、違うらしい。考え過ぎだったようだ。
移住してきたのかもしれない。そこはちょっと触れたらマズイ気もしたので、別のところから会話を弾ませることにする。
「でも、案内するということは長いんですか?」
「そうね。半年くらいはここで過ごしているかしら」
「へぇ〜……」
「……」
ヤバい、会話が止まった。この無言の圧力は堪らなくキツイ。アイシアのリア充力がほしい!
そんな事を思っていると今度はあちらから球を投げてきた。
「貴女は何でこんな路地裏に? 私が言うのも何だけど、この王都は治安がいいとはいえ、女の子が一人いる場所じゃないわ」
「えっと……無我夢中で走ったらここだった?」
「何故、疑問形?」
訊いたのはこちらなのにと返された。事実その通りなので返答の仕方が難しい。中々会話のキャッチボールが成り立たないので、自分の事を喋った方が会話しやすいと考えた。
案内をしてくれて心配もしてくれる辺りは、信用しても大丈夫だろう。というか秘密にすることなんて中身が男以外ないし。
「私はね、王都には学校に通うためにきたの。勇者校って言えばわかるかな?」
そういうとこちらを振り向き、先程からの冷静な表情から少し目を見開き、驚いた表情を見せる。
「……奇遇ね。私も通うのよ」
「えっ!? 本当!?」
「ええ……」
偶然の出会いに驚く二人。リリアの母親の知り合いに会った時も思ったが、世間は中々狭い。
「私は魔法科なんだけど、貴女はもしかして騎士科?」
「そうだけど、なんで?」
「さっきの動きを見れば嫌でもわかるよ」
「……ああ」
そんな他愛ない会話を続けていると光が照らす通りへとでるのだった。




