16 別の意味でヤバい
「リリィ。あんな勢いで逃げなくても良かったんじゃない?」
「そうは言うけどさ……」
そんなことをぐちぐちと言いながら、次はどこへ行くかを相談する。
「次は防具?」
「いや、防具はいいんじゃない? 制服がそもそも付与魔法かけてあるし……」
騎士科に限っては軽装の鎧の支給もあるそう。武器は用意されないが、安全を守るための防具はきちんと用意してくれるとのこと。
防具も視野に入れていたとのことらしいから、ラッキーだったようだ。
「じゃあ大体の準備は終わったのかな?」
「荷物ごめんね、リリアちゃん」
「ああ、いいよ別に。こういう時のこれだから……」
ぽんぽんと軽くポーチ型のマジックボックスを叩く。やはり買って良かったと思う。ラバで安く買ったが、欠陥品でもなかったようだ。
「じゃあそろそろ帰ろうか。フェルサの試験も気になるし……」
「あっ! そうだね」
「その前にこの近くなら、ちょっと行きたい場所があるんだけど、いい?」
帰ろうと勧めたがユーカが最後に行きたいところがあるそうで、わかったと了承して向かうことに。
「さ、着いたよ〜っ!」
着いたのは一つの一軒家のような何の変哲もないお店。ただ、気になるのは窓から中が見えないようになっている――マジックミラーだ。
まさか異世界でも見られるなんて。
「ユーカ先輩、ここは?」
尋ねると腕を組み、自慢げな表情で不敵な笑い方をする。
「ふふふ、後輩諸君。君らのオシャレ度は昨日見せてもらった……」
「は、はあ……」
「私達、何か見せましたっけ?」
昨日は旅先から着てきた服か寝巻きくらいだったと思うが、ここは洋服店だろうか。あってもおかしくはないが、マジックミラーで隠されているのはおかしい。
「勇者は言っていた……」
えっ? 勇者? ここでなんで勇者が出てくるの?
「――女性のオシャレは下着からだろうがと……」
は?
思わずあっけからんとする。この人は、いや勇者は何を言ってるんだろう。
「君達の下着は見せてもらった! そんな地味下着ではいけない。オシャレは下着からという訳でぇ〜、ババン!!」
「まさか、ここって……」
何故か往来で下着でテンションを上げるユーカ。やめてほしいと心の中でどれだけ願ったか。
「そう! ランジェリーショップだよっ!!」
「だよ〜」
「おおっ!!」
アイシアとリュッカは興味ありそうな反応を示すが、俺は落雷でも落ちたような衝撃を受けるとその場で石のように固まった。
「王都にあるって聞いてたけど、ここなんですね!!」
「私はその……似合わないと思うので……」
控えめに話すリュッカに指を振って否定する。
「ちっちっちっ……ここの品揃えを舐めてもらっちゃあ困るよ。何せ貴族は勿論、王族の下着までデザインしてるお店だよ」
「品揃えは豊富、絶対似合うのあるし、好みのも見つかるよ」
「そ、そうですか?」
もう入る気満々の二人に対し、俺はまた、お風呂と同じ状況に立たされている。
いやまあ、デパートとかで明らかにわかるように展示されているものやエロ画像とか漁ってたら、そりゃあ健全な男子である俺だって見たことあるよ。何だったら母親のを見たことないなんて人いないだろう。
しかしだ。このお店は明らかに男子禁制感がスゴイ。マジックミラーに、外観も敢えて地味目にしてるあたり、結構ガチな女物の下着のお店だろう。
きっと中はピンクとか黄色とか、とにかく淡い色合いに違いない。まして女の子同士で下着選びなんて生々しすぎるし、男子高校生にはハードルが高い。
下手したらお風呂より高い気がする。
いつのまにかこのお店が巨大な威圧感を放つモンスターに見えてきた。王都に来てからというもの、自分が女であることをむざむざと現実が横槍を入れて教えてくる。
「ほらリリィも行こ! リリィならきっとどんなのでも似合うよ」
「えっ? ちょっ――」
心の準備も出来ないままに腕を引っ張られたからか、咄嗟にアイシアの手を弾いた。
「――ご、ごめんなさぁーいっ! 無理ですぅーっ!!」
本日、二度目の脱兎。しかもこっちはガチもガチ。
「えっ!? ちょっとリリィ!!」
そう呼びかけるアイシアの言葉は届かず、リリアは人混みへと消えた。
「どうしよ。リリアちゃん追う?」
「そりゃあ追いますよ! 行きましょう」
「リリア、ウブだね〜」
そんな心配をしながら、彼女達はリリアを探すことになった。




