11 この感覚は久しぶり
「でも田舎出の新入生は大変だねぇ〜」
「そんな事ないですよ! 王都観光も兼ねて学校準備、進めますから」
力が抜けそうな、人ごとのように気怠げに話す声と真逆に天真爛漫に話す声にとなんとも賑やかである。
俺達は明日から学校へ通う為に必要な物の買い出しを行う。教科書や制服など学校からの支給品以外は自分で用意せねばならない。
いわゆる筆記用具とかあの辺り。こちらは異世界なので実技用に武器や防具の調達なんかもそうだ。さすがに学校から魔物とはいえ、殺す道具の支給はない。
責任感を与える意味では自分あるいは家族で用意するのはいい事だろうが、それでも武器は……と考えてしまう。
しかし、この世界は向こうとは違う。人を襲う存在がごろごろいる世界だ。物騒な常識もありえる話である。
この辺りの常識から大きく違いは感じるのだが、普段の生活を見るとそう違いがないのもそう思ってしまう原因かもしれない。
「そっかそっか。王都は治安もいいし、大いに観光してきたまえ!」
「先輩も来てくれるんですよね?」
「もち!」
この短い時間でここまでフレンドリーになるのも考えものであると思うのは自分だけだろうか。
「ていうか、そっちの二人も話そうよ」
「え?」
「は、はい」
正直、そこまで人見知りではないのだが、女の子に対して何を話せばいいのかわからない童貞野郎が中身な俺は目をまるっとして固まる。
リュッカは緊張気味にどもる。その様子を見たタールニアナはまあまあと積極的な人達を抑えて、ある提案を提示する。
「親睦を深める意味も込めて、この後勇者様直伝の裸の付き合いといこうではありませんか〜」
「ああっ! いいねぇ! 大浴場で疲れを癒しつつ、語り合おうではないか!」
「大浴場ですかっ!? やったぁ!! ほぼ初めてなんですよ、お風呂なんて……」
「そうだね……楽しみ……」
リュッカ達はリュッカのお店に来た冒険者の話伝いに作った擬似お風呂の話をしつつ会話が弾み、緊張気味だったリュッカですらテンションが上がってきている様子を見せる中、俺はどんどんと追い詰められた表情へと変わる。
オ、オフロ……シンボク……ハダカノツキアイ……。
まだリリアになりたての頃の動揺を思い出すように、思わず思考がロボットじみていく。
さすがにリリアの裸には慣れた。相変わらずの美しくも可憐な容姿の彼女だが、いつまで経っても恥ずかしがっているわけにもいかず、シャワーを浴びているうちに自然と見てしまう分には慣れた。
この異世界にきて一番恐ろしく思うのは、やはり慣れだ。
あんなに純粋に彼女の裸体を恥ずかしがっていた頃が懐かしい。まだ、一週間と少ししか経ってないのにそう感じる。
そう体感として感じてしまうのは、異世界だからだろう。そこを感じる前に、割と生きる為の常識を知ることにさいていた為だろう。
しかし、今は生活の拠点としての場所が確立され、落ち着いたこの状況、嫌でも男と女の異性としての意識を感じざるを得ない。
先程も言ったが、彼女の裸体には慣れた。しかし、だから他人の異性の裸は大丈夫という訳ではない。
童貞チキン野郎を舐めないで頂きたい!
女の子となんて話題があっても話すことすら怪しい俺に、裸の付き合いをしつつ、親睦なんてハードルが高すぎる。
ましてやせっかく純粋な気持ちで友達になってくれた二人を、まるで裏切るような形で生まれたままの姿を凝視できる状況は罪悪感が酷い。想像しただけでも胸の辺りが苦しい。
今すぐ逃げ出したいが、部屋にはシャワーは完備されていない為、お風呂には入りたいので大浴場には必須で向かわなくてはいけない。
ここは貴族も通うんだろ! だったらシャワーくらい完備しとけ! そもそも勇者も裸の付き合いをさせるつもりがあるなら、もっと風呂をしっかり浸透させておけとツッコミどころが満載である。
まるで死地にでも向かうかのような危機迫る表情を浮かべる俺を心配そうな声がかかる。
「リリィ……? どうかした? 大丈夫?」
「えっ?」
不意に声をかけられたので、ちょっと声が裏返った。だが、心配かけまいと咄嗟にぎこちない作り笑いを浮かべる。
「大丈夫、大丈夫」
「なんか苦手な食べ物でもあった?」
「好きな物を取ってるはずだから大丈夫なはずですけど……」
いつのまにか、みんなして俺を心配している。この空気を作ってしまったことを悔やみつつも、大丈夫だと気丈に振る舞う。
「ホントに大丈夫ですから……」
「そう? ならとりあえず晩御飯食べ終えて、準備をして大浴場へ向かうぞぉー!」
この空気をまた遮るのは悪いと思いつつも、やはりまだ、心の準備は追いつかないと思う俺は断りを入れてみる。
「わ、私はみんなが入った後に入りますから……」
基本の入浴時間が決められてはいるものの、後でもいいはず。とりあえず知り合いの裸を見るのはまだ避けたい。
それを聞いたユーカは大袈裟に残念そうな叫びを上げる。
「えええええーっ!? それじゃあ親睦会にならないって。みんなで入ろ」
「そうだよ、リリィ! 私も一緒に入りたいよ〜」
友達と一緒にって気持ちはわからんではないけど、罪悪感と背徳感が。
悩み、唸る俺に対し、ビシッと目の前で指差し、タールニアナは宣言。
「先輩命令」
「――なっ!?」
そんな横暴なと思ったが、それに更に乗っかる先輩。
「そうそう! 先輩命令先輩命令♩……ね?」
上下関係に弱いのは日本人の性だろうか、横暴と思いつつも流されるのだった。




