09 獣人の尻尾ってわかりやすい
「はいはーい、皆さんそろそろお夕飯の時間です。食堂まで来て下さいね」
頭にテルサの声が響き、身体がビクッと反応し、驚く。思わずキョロキョロと周りを見てしまう。
「今のって……」
「とりあえず、食堂へ行ってみよう」
食堂の場所はさっきテルサの荷物を置きに行こうとした部屋だ。俺達三人は一階にある食堂へ向かう。
だが、一階を降り玄関からこそっと覗き見る人影がある。見覚えのあるツンとした黒い耳だ。
「フェルサ!」
上から声をかけると耳がピクンと反応する。パッと素早くこちらを見て、寮内へと入ってきた。
「リリア、アイシア、リュッカ……」
俺達の名前を言うフェルサは無表情だが、尻尾はふりふりと嬉しそうだ。
「フェルサ、話はついたの?」
こくりと無言で頷く。そこにサニラも入ってきた。
「……とりあえずはね」
「サニラ。とりあえずって言うのは?」
「簡単な事よ。急に言われても困るからって明日、緊急試験を行うそうよ」
当然といえば当然だ。急に来て入学させてくれは横暴過ぎる。でも、明日には用意できる辺りは器量が深いのだろうか。
「試験内容は?」
「簡単な実戦テストみたいよ。推薦って形で入れるって話をつけたから。フェルサは実戦能力高いし……」
獣人の潜在能力がどんなものか把握はしていないものの、推薦枠にねじ込めるほどなら相当だろう。
「その話のつけ方だと、騎士科なんだね」
「獣人だしね」
さっきからフェルサではなく、サニラが答える。
当の本人はまるで他人の話を聞くかのように興味のなさそうな顔をしている。尻尾も何も興味がないようにゆっくりと辺りを見渡すような動きをする。
「でも、騎士科ならリュッカと同室になれるかも!」
「どういう意味?」
アイシアの嬉しそうな反応に疑問を抱くサニラに説明をする。
「――なるほどね、まあそうなれば私も安心かも」
フェルサはこの通り、基本感情をあまり表には出さないからと語る。まだ、出会ったばかりだが、納得はできる。アイシアと比べれば天と地ほどの差を感じる。
「はは、確かに。リュッカも出会ったばかりとはいえ、知らない人よりはいいかもね」
「うん、そうだね。フェルサちゃんとも仲良くなりたいし……」
玄関先で喋っていると、食堂の扉が開きテルサが様子を見に来た。
「もうご飯ができてますよ。冷めない内に食べて下さいね」
「あ、はーい」
俺達にそう呼びかけると次にサニラ達に声をかける。
「そちらのお二人は入寮者ですか?」
サニラも俺達と同じ勘違いをしたのか、屈んでテルサの目線に合わせる。
「お姉ちゃん達は違うの。ちょっとこっちのお姉ちゃん達に挨拶に来ただけ」
テルサは俺達にも見せた同じ反応で駄々をこねる。すると、フェルサはサニラをつんつんと突っついた。
「サニラ。この人、多分私達より年上……」
「えっ!?」
驚くサニラの正面には感動の涙をダバダバと滝のように流すテルサがいた。
「まさか……私が子供扱いされないなんて! わかってくれる人がいるなんてぇ〜っ!」
感動するテルサに相変わらずの無表情で現実を叩きつける。
「うん、匂いでわかる。ちょっと年取った匂い」
「――私! まだ、加齢臭なんて出ません!!」
獣人は見た目だけでなく、匂いなどでも個人を判別できることを学んだ瞬間だった。そして、寮長テルサの新しいいじり方が生まれた瞬間でもあった。
「じゃあ邪魔しちゃ悪いし、そろそろ行くね」
サニラはフェルサの手を引く。フェルサは身を任せるように釣られる。
「フェルサちゃん頑張れ!」
「ん……」
サニラに引っ張られながらも表情をそのままに空いた手を軽く振る。だが、尻尾を見ると嬉しそうに横振りしている。
初めて会った時は何だかんだと言ってはいたが、実際は楽しみにもしているみたいで、ちょっと安心した。
こう嬉しそうな反応が見えると、いい友達でいてあげたいと思ってしまう。
男の時はバカやって意気投合して友達になったみたいな感じだっただけに、こんな優しい気持ちで友達になってあげたいと思うなんて、思っても見なかった。
また一つ、いい事を学んだ瞬間だった。




