10 娘を溺愛する父親って普通ですか?
「ところで物置きで何をしていたんだ?」
やはりここは物置きだったか。古びた鏡台やタンス、使い古された箒などが置いてあるからな。後はこの古風な本。ファンタジーものなどで出てくる魔導書のようだ。
「ええっ!? えっと、その……」
俺は焦る表情を隠しきれずにオロオロと口ごもる。
言えない! 自殺しようとしてたなんて! しかも中身が違う事なんて、尚更言える訳もない。
その様子を見て父親はキョロキョロと物置きの中を見渡すように物色する。
ここは娘らしい事でも言っておくか。よくアニメや漫画では父親は娘の嫌われる事はしたくないというのが定番だ。それでいこう。
「父さ……じゃなかった」
父親はふと俺を少し驚いた表情で見る。
彼女はパパママ呼びだったな。それに合わせた方がいいよな。恥ずかしいけど仕方ない。
「パ、パパ。私のやる事をいちいち詮索するのはやめてくれる?」
慣れない女言葉やパパママ呼び、正直くすぐったい。父親が嫌われる事作戦の言い回し、やんわりと言ったつもりだが、きつかったかな? ちょっとわからん。
不慣れな言葉遣いにぎこちない笑顔を俺は見せる。だがその父親の反応は予想外の反応だった。
「お、おお……」
父親は再び目にいっぱいの涙を溜めて流す。
「リリアがそんな事言い出すだなんて……」
両手をぐっと握りしめ拳を作りガッツポーズ。
「パパ! 嬉しいぞおぉーー!!」
ええーーっ!? この父親なんなの。これが所謂親バカってやつか? あんなの俺からすれば都市伝説レベルの話だぞ。娘が嫌がる事するな作戦は失敗か!?
「それにそんなに大きな声で……ぐすっ、感動だっ!」
いやいや、そんなに大きな声を出した覚えは無いが、普通くらいだと思うぞ。この娘、どれだけ小さい声で喋ってたんだ。
「だがなリリア。パパは心配なんだ。思い詰めてリリアが飛び降り自殺を図ったり、毒を飲んだり、魔物の餌にされようとしたり――」
ぶつぶつと物騒な事を言っているが、娘に対する心配の仕方がおかしい。
その言い方だとこの娘は自殺未遂を繰り返してるって話に……あれ? そうなのか?
ふと父親を反応を見るに、そんな風に捉えられる。
「そんな事をするつもりならパパも一緒に心中――」
「バカな事言ってんじゃないの!!」
黒い何かが飛んできて父親の頭にクリティカルヒット! ゴォンと鈍い音が鳴った。
床に派手な鉄が落ちる音とともに転がる物体を見る。ちょっと俺の世界の物とは異なるがフライパンのような形状をしている。
飛んできた方向へ向き直すと、そこでは仁王立ちしている彼女を大人にしたバージョンみたいな美人がいるが、表情は鬼の形相そのものだった。
「あんたがそんなにリリアを構ったり、余計な事を言うからこんな娘に育ったんじゃないっ!!」
「いやあ……その――」
「ああ?」
「いえ、何でもありません」
しゅんと一瞬で縮こまった父親という光景は、中々情けない。
うわー……絵に分かる通りの尻に敷かれっぷりにパパ形無し。
ていうかこの娘の母親だよね? どう見ても。見た目は完全に遺伝子を受け継いでるって感じだが、性格が少々荒っぽい。
キッとその母親であろう人はこちらを睨む。
「えっと……」
「貴女もよ! リリア! いつまでもうじうじしてないで、しっかりしなさい! ……全くお父さんの似なくていいところまで似たんだから……」
エプロン姿の美人妻は大きく長い呆れたようなため息を漏らした。




