08 元の世界への帰還手段
とにかくこの指の傷が虐待のものではないとわかっただけでも良しとしよう。
あと美少女に転移したということ、それに魔法が使える事は俺にとっては結構嬉しいことでもあるし、良しとしよう。
ごっちゃになる気持ちを強引に凝縮し、前向きに検討する事にした。
そうしたら今考える事は、ここでの生活の事と女として生きる常識だ。中々頭が痛くなる内容だ。
今までは男として生きてきて、急に女として生活しろだ。男と女、同じ人間だが性別が違うだけで生活習慣は大分違うだろう。勿論、急に女らしく振る舞うのは無理だろうがそれなりには形にしないとダメだろう。
そう考えてしまう要因は彼女が美少女だからだ。彼女の遺書から分かる通り彼女は人見知りな性格、振る舞いをしているにも関わらずモテるのだ。
向こうの世界でも容姿が良くても引っ込み思案な性格なら興味を示されにくいだろうが、この娘は例外だった。いや、この世界の常識を俺の世界の常識と当てはめてはいけない。
つまりはいじめられないため、悪目立ちしないため――そしてここ重要、品のある振る舞いをすれば男は見惚れるだろうが、ここまでの美少女だ、高嶺の花と感じて逆に近づいて来ないと考えられる。
中身は男だ、できる事なら男とお付き合いなんて、結婚なんてもってのほかだ。
(よし、一生独身でいよう)
俺は心に、強く堅い誓いを立てた。
一応、元の世界へ帰る手段も考えてみようと、ちらっと魔法陣を見るが、多分無理だろうと判断できる。
この魔法陣をもう一度発動できれば、もしかしたら戻れるかもしれないけど、たらればで人生を、命を棒に振るなんてことはできない。
この魔法陣は十中八九、誤作動によって発動したもの、つまりは未完成なものだ。どう考えたって危険過ぎる。魂が何処かに飛んでいく未来しか視えない。
試すにしても、せめてこの世界の魔法知識と実力をつけた後になるだろう。だが、元に戻れる手段も手元には置いておきたい。
鏡台の引き出しの中を開ける。ほとんど空っぽだ。
「何か書くものがあればな……」
紙は彼女には悪いがこの遺書の裏にでもこの魔法陣を書かせてもらう。だが、ペンが無ければ書けない。
「くそっ、ここは物置きだ。書くものなんて……」
ふと指を見るがふるふると首を振り、我に帰る。
「ダメだ。彼女の血で書くなんて。何考えてんだ、俺のバカ!」
できる限りこの床の魔法陣を正確に書き写しておきたい。どうすれば――、
バンッ! ドタドタッ……、
上の方から激しい物音と足音がしたが、気にせず書けるものを探す。
「せめてインクみたいなものがあれば、この竹箒みたいなこれを少し引き抜いて――」
バタバタバタバタッ! バタバタバタバタッ!
さっきから上がうるさい。頭の上を踏みつけられるような足音に少しイラついてきた。
「人が考えごとしてるのに何を――」
その時、この物音から不安が過る。
そうだっ! 遺書を読む限り、一応彼女はいじめを受けていたんだ。ここが何処だかわからないからこそ、まずは身の安全の確保が優先事項じゃないか!
当たり前のことに今更気付く。それもそのはず、彼女の服装を見るに、かなりラフな格好だ。落ち着いた色合いの薄い水色のシャツに女の子らしさを感じる優しい桃色のミニスカート、後はこの容姿を隠す為なのか大きめの黒いローブを羽織っている。
これは普段着の可能性大と見ていい。つまり家であると予想がつくのだが、ここが何処だかまだ判明していない以上、家であると考えるのは安易だ。何せ自殺用の魔法陣を自宅でやるなどこれほどの親不孝があるか?
だが、そんな事を考えている間に早い足音が大きくなってくる。
ドタドタッ! ダンダンダンッ!
「やばっ!? 降りてくる!」
階段を降りる音は素早く近づいてくる。やはりここは地下の物置きだったのか。
そう考える刹那、扉が勢いよく開く。
――バンッ!
「はあ……はぁ……」
息切れ気味の無精髭の中年男性が現れる。俺は隠れる時間がなかったのかタンスの影に隠れようとしたが間に合わなかった。
誰だ、この人と俺は不安そうな顔をして身も震えていた。
もしかしたらこの娘の親かもしれないが、この世界の常識も知らず、放り出されているのだ。恐怖くらいする。
急に現れたこの男性は、目から大量の涙を流しながらスゴイ勢いで抱きついてきた。
「リリアぁーー!! ああぁああっ! 良かったあぁ!」
「――ちょっ! ――きゃあ!」
バチーンと思わず平手打ちをし、突発的に女言葉も少し出た。
俺、きゃあって……。




