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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
三年夏・甲子園 ――崩壊の章――
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79回:俺流炸裂

「優勝候補大本命、池山学院が負けたぁぁ――!」


 ニュースで何度も何度も、同じ実況が繰り返されている。その実況を聴いて悦に浸っているのは智仁ナインである。


「いやぁ、まさか勝っちまうとはなぁ」

「真柄様様だよ。芯太郎の打球が成田に当たった時は、もう終わったと思ったもん」


 その成田は病院で精密検査を受けている。芯太郎は自責の念があるのか、試合が終わると一目散に病院に向かった。


「肋骨折れてないといいけどなぁ」

「控え組は心の準備しとけよ~」


 優勝候補を倒した事で、どこか燃え尽きてしまった様な三年生が多かった。その中で、特待生の三人は人知れずバットを振り続ける。


「真柄一人で勝ちやがった……俺達はこの高校を勝たせるために呼ばれた4人だ」

「次は俺が勝たせる! ていうか今日も敬遠されなかったら俺が決めてた!」


 池山戦、後半は完全に空気と化していた朝比奈。1安打2敬遠の三出塁なので、十分活躍しているのだが文章には現れなかった。


「里見ィ! お前もだ! 次は俺達が勝たせるぞ!」

「う~ん……」

「何だ、心ここにあらずか?」


 その時里見は全く別の事を考えていた。真柄の考えが、三年目の付き合いにも関わらず全く分からなくなってしまったのだ。


「あいつ、シュートを二種類持ってるなんて知らなかった」

「たまたま曲がらなかっただけじゃあないんかい」

「いや、最後の打席……というか得点圏で鷹野に打たせないために温存してたんだ」

「あいつ、一人で野球やってんのか?」


 里見はうんうん唸りながら、それでも最後には真柄を擁護した。


「いや、あいつはただ……天才なだけだと思う」


 翌日、結局成田の骨は折れていなかった事が判明した。


                    ******


 大会スケジュールは順調に消化されていった。優勝候補の池山が消えた事以外は、大番狂わせなく強豪が勝ち上がる。

 残った優勝候補、愛知・一久実業と三重・敦也学園。エースを温存したまま初戦を勝ち抜き、二回戦はそれぞれ大麻・望田を投入して盤石の勝利。一方で、智仁高校の二回戦。


 相手は埼玉の慶三高校。春のベスト8。一回戦を勝ち抜いたとはいえまだまだ智仁には荷の重い相手・……のはずだったのだが。


「いったぁ、朝比奈ーッ!」


 名曲『ギガディーン』に乗った、4番朝比奈のスリーランで試合は決まった。真柄の5安打完封勝利でまたも智仁高校は勝利。


「俺だよ俺! 俺が決めました!」

「あー……うー……えーっと……まぁそんなとこです~」


 廊下でのヒーローインタビューで、ここぞとばかりに手柄をひけらかす朝比奈。アイシングをしながら適当に受け答えする真柄とは対照的であった。


「芯太郎、この後敦也の試合だけどどーする?」

「全員観戦が命令じゃなければ、俺は帰るよ」


 廊下でエナメルバッグを抱え、帰り支度を済ませている芯太郎。どうやら望田征士郎の姿を見るのを避けているらしい。

 しかし監督の壇ノ浦の命は絶対である。


「全員、次の第四試合は観戦するぞ。勝手に帰る奴は真柄だろうが斎村だろうが厳罰に処す! ……だ、そうだ」

「屋島コーチ、厳罰って?」

「さぁ、※アメリカンノック×100とかじゃないか」


 地獄という表現も生ぬるい厳罰だ。全員が従わざるを得ない。芯太郎だけは恍惚として帰ろうとするが、里見が力づくで引っ張って行った。


                     ******


「これは……」


 敦也学園と青森・米野高校。強豪同士の好カードであったはずだった。だがマウンドで仁王立ちの帝王・望田征士郎は、全く米野打線を寄せ付けない。

 7回までで15奪三振。打っては4打数3安打の猛打賞、5対0。ワンサイドゲームの様相を呈して来た試合だが、もっと気になる事があった。スコアボードに光るヒット数である。


「それを感じさせないほど淡々と投げてるから気づかなかった……七回までノーヒット……」

「望田、フォークを使わないでここまで来たっておかしいだろ」


 逆であった。米野打線は望田の唯一の弱点であるフォークのすっぽ抜けを狙っていた。流石にもう狙ってはいないが、早々に見破った敦也学園は、フォークを投げない事で死角を消した。


「達成するよ~、これは」

「真柄、起きてたのか」

「もうこっからフォーク解禁すれば余裕なんじゃないかな~」


 真柄の予言は良く当たる。この台詞を聞いて、智仁側はノーノー達成を賭けの対象にし始めた(プリンを賭けて)。だが、直ぐにノーコンテストとなった。


「敦也学園、選手の交替をお知らせします。ピッチャー、望田君に代わりまして……」

「は、はぁ!? 何で代える、ノーノー継続中だぞ!?」

「ああーッ、俺のプリンがぁ~」


 真柄が頭を抱える。流石にこれは予想していなかったらしい。


「記録より、体力の温存をとったというわけだな」

「そうそう。征ちゃんはそういう男だから」

「う、うわっ!?」


 芯太郎が顔面蒼白で固まっている。望田佐那が真後ろに立っていた。

 


※アメリカンノック……外野の端から端まで走らせる最凶の守備練習。

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