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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
三年夏・甲子園 ――崩壊の章――
76/129

74回:真柄の罠?

 もはや試合の注目は、先程61本目を放った鷹野が通算本塁打をどこまで伸ばすか? という所に移っていた。試合開始前は智仁高校のオーダー変更に敵味方が沸いていたのに、もはや過去の話だ。


 それでも真柄は、ツーシームを主軸に池山打線を討ち取り続けた。3回まで許したヒットは一本だけ。その一本を打った相手と、4回裏に相見える。


「4番サード、鷹野……君」


 二度目の対決である。今度も二死からの登場となった鷹野は、不満げな顔を見せる。


「まーたランナーおらんやないの……これのどこが『クリーンナップ』やねんな。最初から掃除されとるやんけ」

「予告ホームランはしないのか?」

「あんなん最初だけや。何回も上手くいく様な甘いスポーツなら、俺はやりたないな」


 この会話が伏線かどうか、里見は測りかねた。言葉通りに捉えるなら、今度はストライクゾーンを広く取って待つ……要するに軽打という事だが。

 里見は外のストレート(シュート回転)を要求した。今までの集められるだけ集めた鷹野のデータでは、流し打ちでの柵越えはほとんどない。外ならばホームランは防げるはず。


 投じられた一球目。里見は真柄の投げたボールの行方と同じくらい、鷹野の反応にも集中する。


「ストライク!」


 鷹野が一瞬踏み込んだのを里見は見逃さなかった。どうやら広く待ってはいるが、追い込まれるまでは長打しやすい真ん中よりのボールだけに手を出す腹づもりらしい。


――なら、打ち取れる。


 里見は、なんとホームランを打たれた球……インコースのシュートを再び要求した。このリードには二つの意味がある。


 その1。里見は第一打席のホームランは、鷹野がヤマを張った結果だと考えている。ボール球になるシュートに対し、体を思い切り開いて打ったのだから当然の思考である。よって、今真ん中付近を待っているなら今度こそ打球は詰まる。

 その2。ウィニングショットであるシュートをホームランされた真柄の自信回復。後半、いざという時にホームランがチラついて、キレがイマイチになるのを今の内に防いでおく。

 

 以上の理由から、里見がこのサインを出すのに躊躇はなかった。真柄もノータイムで頷き、ノーワインドアップから意図的にボールをシュート回転させた。

 手を離れた瞬間はストライクゾーンに来るストレートかと思う。しかし実態はインコース、体寄りに食い込んで来る高速シュート!


「甘い!」

 

 決して甘いコースではない、むしろ厳しすぎるほどに厳しいボールだった。にも関わらず鷹野は上手く腕を畳んで、三塁線フェアゾーンに引っ張った。

 三塁手・竹中の横をすり抜けて、またもレフト線長打コース。里見の想像の上を行くバッティングであった。


「ツーベースもろた!」


 が、更にその上を行くのが芯太郎の守備位置であった。


「な、何でそこにおるんや!?」


 打球はフェンスに到達しないどころか、レフト定位置までも行かず芯太郎に止められた。ボールコースのシュート。そのサインを内野から伝達された芯太郎が、レフト線に打球が来るとヤマを張っていたのだ。


 これでは二塁は陥れられない。


「ちっ、相変わらずの神憑りやな……せやけど真柄ァ、お前のシュート通用せぇへんって分かったろ?」

「聴こえな~い」

「昔みたいに、えげつないストレート投げてこんかい! 俺は本気のお前と勝負したいんじゃ!」

「聴こえな~いよ~」

「ちっ、歓声で声が届かへん」


 打たれたはずの真柄だったが、鷹野に見えない様にうっすらと笑みをこぼしたのを、里見ははっきり見ていた。ああいう笑いをする時は自分には分からない事が、真柄には分かっている状況である。

 真柄には、何か切り札があるらしかった。


                     ******


 だが如何に真柄に作戦があろうと、現状は一点負けているのである。そして外スラが驚異的な威力を放ち、池山学院エース・下間七回まで被安打3、四球4の快投を続けていた。


「バテる様子も見せないね……」

「途中で外を捨てて、四球を誘う作戦もやったがなぁ。※スコアリングポジションに進むと外スラは投げなくなる。そこが狙い目だったんだが、打ち損じたな」


 得点圏にランナーが進んでプレッシャーがかかるのは何も投手だけではない。自軍の打者にもである。

 バッティングは所詮、3割しか打てない水物であるのにチャンスで打てなければ戦犯。理不尽なプレッシャーに負け、本来のスイングが出来ずに凡退していく選手は多い。舞台が甲子園となるなら尚更、初出場の智仁ナインには荷がきつかった。


 こうなるとやる事は一つである。


「ランナー三塁で芯太郎に回す!」

「バカの一つ覚えみたいで癪だけど、それしかねぇな」

「いっちょやるか。成田、頼むぞ!」

「分かった。何とかしてみる」


 ここで点が入らなければ、後が無くなる智仁高校の八回表。打順は二番・成田から。何とか五番の芯太郎までに、ランナー三塁の状況を作らなければならない。


「勝手に話進めないでよ……俺、必ず打てる保証なんてないんだけど」

「お前は黙って座ってろ。俺達が必ず打たせる!」

「はぁ……何でウチは皆こうなるんだろ」


 いい迷惑だと言いたげに溜め息をつく芯太郎。だがそこには、智仁ナインの想像を超えたドラマが待っていた。


※スコアリングポジション……ランナーがワンヒットで点が入る二塁か、または三塁にいる状況。得点圏。

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