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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
三年夏・甲子園 ――崩壊の章――
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73回:う~ん作戦にはまったか

「4番、ショート、朝比奈……君」


 甲子園に響き渡る『ギガディーン』。ブラスバンドの努力のおかげで、朝比奈は誇らしく打席の土を踏みしめる。バットをベースの五画に当てるルーティーンも忘れない。審判がイライラして来たところで、ようやくプレイがかかる。


 遂に明らかになる新打線の破壊力。だが蓋を開けてみれば呆気ない、考えてみれば当然の事実が待っていた。


「は……?」

「おいおいこれって」

「いや、でもそうなるよな……」


 捕手は下間が動作に入るのを確認すると、一塁側へステップを踏んだ。投球タイミングに合わせて四球、機械的なダンスを捕手が踊れば、敬遠の完成である。


「おいおい! ここは俺の見せ場だぞ!?」

「知るか。二死で迎えた3割8分の四番と、0割5分の五番。あんただったらどっちと勝負するよ?」

「うぐっ」


 朝比奈は芯太郎に向かってバットを放り投げると、顔を真っ赤にして一塁へ走っていく。そして智仁側の誰もが予想したであろう、芯太郎への初球の結果。


 高々と上がったセカンドフライに落球を期待するには、この池山学院の守備は鉄壁すぎた。別の意味で壊滅的な破壊力を見せ、智仁高校はスリーアウトチェンジ。


「里見~。何で三盗しないのさ~」

「俺の足で三盗は無理だよ。高坂、朝比奈、真柄、芯太郎。この四人以外は三盗は試みないって、ミーティングで決めただろ」

「でも三塁まで行かないと芯太郎打てないじゃん。イチバチでやってみりゃいいのに」

「セカンドが落とす方を期待したんだよ。でも次からはやってみるか」


 里見の言う通り、三塁にいたのが朝比奈の方であったら三盗に可能性があった。だが今日の打順から言って朝比奈が芯太郎の打席で二塁にいるには、自力で二塁まで行かなければならない。

 要するに、結論は一つである。


――打順ミスった――ッ!!


 今日の打順の不味さに気づいた智仁ナインの顔に焦りが見られる。高坂は足もあるし出塁率も高いが、芯太郎の打席前にチェンジになる可能性の方が高い。成田はバントは上手いが、出塁率は悪い。なので里見朝比奈でランナー三塁の形を作りたいのだが、里見には足がない……。

 気づいた時には、もう遅い。やはり思いつきで打順を変えるべきではないのだ。


「おい、下間」

「なんやホーク。こっちの作戦勝ちやないか」

「いや、さっきのフライ。えらい高く上がらんかったか」

「ああ、せやな。ドームやったら天井当たってたかもしれへんな、はは」

「……」


 鷹野だけが、芯太郎に疑問を持っていた。


                      ******


 救いなのは、池山打線が真柄のツーシームに合っていなかったという事だった。


「ショート!」


 三塁ベース後方に、力のない打球が飛ぶ。際どい当たりだったが、朝比奈が上手く回り込んで捕球する。三者凡退。真柄の立ち上がりは良好と言えた。


「ナイス、朝比奈」

「えっ?」


 捕球直後なのに、芯太郎が真後ろから声をかけて来たので朝比奈は驚いた。3番打者相手だから、レフトは深めの守備位置にいるはずなのに、芯太郎はショートフライを自分で捕る勢いでここまでダッシュして来たのだろうか?


「やっぱ、守備だけで言えば半端じゃねえな……さぁ、点取るぞ!」


 しかしセンバツ準優勝投手・下間の壁は高い。真柄から始まったこの回も、10球で敢え無く三者凡退。溜息をつきながら守備に移る。


「打てないなりに、球数だけでも投げさせようぜ……真柄が休めない」


 愚痴を言いながら走っていく朝比奈の眼に、裏の先頭打者・鷹野の姿が映る。鷹野の眼は、ずっとレフトの芯太郎に向けられていた。


「あんの野郎……!」


 自分が無視されていると感じた朝比奈は、再び闘志を沸きあがらせられた。実際、打者はショートもレフトも普通は意識しないのだが……。


                     ******


「池山学院の攻撃は、4番サード、鷹野……君」


 鷹野の目線が、ようやく真柄に移る……と思いきや、バットの先端をレフトの芯太郎へ向けて指すと、そこから角度をつけた。予告ホームランである。


「ふざけてるのか? 今時プロでもやらんぞ」

「俺は大真面目や。あの真柄から、あの斎村の頭を越えるホームランを打つ。組み合わせが決まった時から思い描いてたシナリオなんやで」


 やれやれ、と呆れ顔の里見が一球目のサインを出す。インコース、ボールになるシュート。鷹野はランナー無しの状況なら間違いなく一発を狙うだろう。いつもの様にレフトに打たせれば、スタンドに入らなければ芯太郎が何とか拾ってくれる。安心と信頼の内角シュートである。


――ストライクには入れるなよ。こいつなら余裕で持っていくからな。


 真柄の投じた第一球は、里見の注文通りのコースにシュートしていく。それを鷹野は里見の想像通りに打ちに行く。ボールのコースへシュートして行く分、差し込まれてレフトフライ……。のはずだったが。


「嘘だろ……あれを!?」


 思い切り体を開いた鷹野は、フルスイングでレフトポール際まで打球を運ぶ。芯太郎が打球から早々に目を切って、背走でこれを追う。


「無駄やで斎村! 如何にお前でも、その打球は捕れん!」


 フェンスに昇りかけたところで、芯太郎は諦めた。ポール際だがしっかりと巻いた、先制ソロホームランが突き刺さった。


「どや朝比奈君。これが君と俺の格の違いや」

「敬遠しといて何言ってやがる。次は俺がやり返してやるよ」

「ふっ、楽しみにしとくわ」


 二塁を回ったところで朝比奈に軽口を叩いた後、ホームに戻ってくると里見にも挑発をしかける。


「いつも通りの攻めで、この俺は抑えられへんよ?」

「言ってろ。出会い頭かもしれんだろ」

「真柄の奴、えらい迫力なくなったやんか。アンタがああさせたんか?」

「何ッ!?」


 意味深な言葉が、里見の胸に突き刺さった。

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