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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
三年夏 ――殊勲の章――
59/129

57回:奥羽の人再び

 一日空いて、決勝の朝がやって来た。

 朝比奈は仏頂面は変わらないまでも、流石に主将である。引きつった顔でレギュラー1人1人に声をかけている。


「二年連続、高津と決勝か」

「準決勝、飯田高校を4―0で破って来てる。しかも最上は休ませやがった」

「お互い温存された真柄さんと最上の投げ合いかぁ」


 バスに乗っている最中に、応援団の一年生達は投手戦を予想し盛り上がっていた。

 中側に座っている真柄は、壇ノ浦に見えない様に格闘ゲームをしている。


「おい真柄」

「なーに。今忙しい」


 後ろに座っている朝比奈が血管を浮かせながら話し掛ける。


「あれだけ大口叩いたんだ。完封とまでは言わないが完投するんだろうな?」

「いいとも~」

「最後だぞ! 分かってんのかお前」

「朝比奈! シーッ」


 身を乗り出した朝比奈を、成田が引っ張って座席に戻す。座り込んだ朝比奈の真後ろで、今度は寝息が聴こえてくる。

 芯太郎である。


「守備意外ではガッチガチになりやがる癖に、試合前はこれだからな」

「仕方ないよ。芯太郎は規格外なんだから。それより朝刊のローカル欄見たか?」

「うんにゃ。決勝のみどころぐらいだろ?」


 ローカル欄などに興味はない、と言いたげな朝比奈に対してどこから取り出したのか、件の朝刊を出して見せる成田。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


準決勝―――― 智仁 6-5 土橋 ――――――――


解説:


古豪土橋と新興勢力・智仁高が激突。先発・竹中が打ち込まれ、5回を終わり3点リードを奪われた智仁だったが、中盤の守備固めを機に流れが一転、以降を無失点で切り抜けた。攻撃では土橋高エース・雑賀のチェンジアップを狙った1番高坂、3番朝比奈、4番里見が全員スリーベースを放つ猛攻で三点差を逆転。二年連続の決勝進出を果たした。


殊勲打を放った主将・朝比奈選手の談話


「継投で楽に逃げ切るはずの試合だったが、冷や汗をかきました。

(二年連続の決勝だが?)今年こそは自分のバットで胸を張って甲子園に行きたいです。

(去年は自身の失策で敗退したが?)はは、やめて下さいよ。月夜の晩ばかりではないですよ?」


準決勝―――― 高津 4-0 飯田 ――――――――


解説:


二番手の氏家うじいえが力投を見せ、選手層の厚い高津学園の圧勝に終わった。飯田は最終回満塁まで駒を進める反撃を見せたが、三番手の鮭延さけのべが急遽マウンドに登ると、140キロのストレートで併殺に打ち取りゲームセット。今年も盤石の強さを見せる高津が、エース最上を温存したまま決勝進出。


昨夏に続くエース・最上選手の談話


「余裕ですよ。もう負ける気しなかったです。

(次勝てば二年連続の甲子園だが?)去年も行った気はしていない。あいつだけは許さない。

(あいつとは?)斎村ですよ! 明日の相手!

(次の先発は好投手真柄だが)真柄とかどーでもいいわ!

おい聴こえてるか斎村、お前去年俺がどれだけ恐かったか分かってねーだろ! あのショック引き摺って甲子園でも打たれたじゃねーか、お前のせいだぞ!

斎村明日覚えてろよお前斎村、絶対ブチ○してやるからな!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何だよこれ。ふざけやがって!」

「どうやら最上のやつ、芯太郎にライバル心剥き出しらしいな」


 朝比奈が言っているのは上段の方の話なのだが、成田は下段の話を続ける。


「そりゃ三点差で余裕の勝利だったはずが、満塁ホームランで一時逆転されたんだからな。脱糞うんこもらしたって誰も文句言えない状況だよ」

「この記事読んでたら、今日は芯太郎と最上の対決が見どころだって皆思うかもな」


 この新聞のローカル欄が、打撃センス壊滅の芯太郎をスラッガー扱いにしてしまったのだ。だが、そんなプレッシャーがかかりそうな状況で本人は……。


「ふごー、ふごー」

「そのスラッガー君は後ろで寝てるし、その最上と投げ合うエースは格ゲーしてる。本当、信じられないチームだよな俺ら」


 バスが決戦の地、草薙総合運動場に到着しようとしていた。


                     ******


「おい、どういう事だ」


 里見が異変に気づいたのは、シートノックを終えてブルペンに入り、真柄の三球目を受けた時点だった。


「なぜストレートを投げない」

「投げてるよ~」

「冗談いうな。全部シュートじゃないか」


 真柄はそっぽを向いて口笛を吹いている。こういう時の彼は、何かを誤魔化している。付き合いの長い里見は知っていた。


「お前……まさか握力が?」

「えへへ~」

「信じられねぇ……どうすんだよこれ。どうやってもたせりゃいいんだよ9回」


 どうやら今までの投げ過ぎが祟り、二日休んだにも関わらず握力が回復せずに決勝を迎えてしまったらしい。通りでいつにも増してシュート回転が酷い筈だと、里見は天を仰ぐ。


「こうなったら最初からシュート中心だな。あとはスライダーのコントロールと、芯太郎次第だ」

「いやーまいったね~」

「こっちのセリフだ馬鹿!」


 里見が真柄を小突く。これでも激励のつもりである。


「真柄、里見! 整列、気合い入れてくぞ!」


 何も知らない朝比奈は既に気合十分。もしこれで真柄が滅多打ちにされたら、と思うと里見は既に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。にも関わらず、当の真柄はどこ吹く風である。


 波乱の県大会決勝。この試合は、誰も予想しなかった展開を迎える事となる。


 

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