表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
一年秋 ――前進の章――
32/129

30回:急に打球が来た

 真柄と望田の投げ合いは9回まで膠着状態のままであった。3対0。3点ビハインドの中、智仁高校は9回裏の攻撃に挑む。


 流石の望田も疲れが見えてきたのか、ツーアウトを捕ってから4番・片岡にフォアボール。5番里見はショートゴロだったが、


「すまん、望田」

「イレギュラーです。気にしないでください」


 ショートのファンブルで出塁する。そして6番岡島にもフォアボールを出してしまう。

 そして。草薙球場が、観客が、今日最後にして一番の山場に燃えている。望田が打たれたヒットはたったの三本。その三本を全て、同一人物が放っている。


「七番、レフト、斎村……君」


 『アール・クン・バンチェロ』のリズムに乗って、芯太郎が打席に入る。追い詰めているのが芯太郎、追い詰められているのが望田……のはずなのだが、両者の表情はまるで逆であった。


「いくよ、シン」


 今度は吹奏楽部の気合いが勝ったか、望田の声は芯太郎に届かない。会話を諦めた望田はランナー無視のワインドアップから、第一球。


 ズシリと決まる、142キロのストレート。流石に球速は落ちてきているが、ここ一番の球は140キロを超えてくる。芯太郎は微動だにしない。


「顔が蒼いな。そのバンダナと同じ色だ」

「……」


 聴こえてはいないが、何を言っているのかは大体察した。


「サード、来ますよ」


 引っ張りを警戒して、サードは守備位置を後ろに下げる。前の三打席は、いずれも左方向(サード、レフト側)なので当然の対応である。


 続けて第二球。ここで予想だにしない行動を芯太郎が見せる。


「あっ」


 リリースの直前、体を正対させた芯太郎を見て、望田は狙いに気づく。そして気づいた瞬間、彼の指先に否応なく力が入った。


「っらぁぁぁ!」


 今までにない『ノビ』。初速と終息の差が少ないストレートが、芯太郎のセーフティバントを阻んだ。

 硬球がバックネットに突き刺さる。バットを弾き飛ばす勢いの速球は、電光掲示板に145キロを記録した。


「『呪い』から逃げようったってそうはいかない。次もバントしてみなよ? その瞬間、試合終わるから」

「くっ」


 芯太郎は、バットをどうしても振りたくなかった。状況が、過去の1ページと酷似していたから。

 これから起こる事が、何となく分かってしまうから。


「斎村、何をしてる!」


 どうやら芯太郎のセーフティに激怒したらしい壇ノ浦監督が怒鳴る。ブラスバンドの音すら突き破って届く、重低音を聴いて芯太郎は我に返る。


 その様を見て、朝比奈はどこか引っかかった。


――セーフティだって立派な戦法だ。なんで監督はこんなに怒る?


「分かっているな?」

「……はい」


 芯太郎は再び、バットを一塁方向へ向ける。壇ノ浦の一睨みで、セーフティは取り止めたらしい。前進守備を敷きかけていた内野陣が、一歩二歩と後ろへ下がる。


「こっちも体力がもたんからな。遊び球はつかわないよ。打てるものなら」


 振りかぶって投げおろされる第三球。誰もがストレートを予想するこの場面で。 


「打ってみやがれ!」


 望田は思い切り「落とした」。


 ランナーが三塁にいる場面。ここでのフォークは、守備側にとっても攻撃側にとっても最凶のボールである。一番手を出しやすいど真ん中から落ちてくる。キャッチャーが止める事さえできれば、打てるはずのない球。それほどまでに高リスクな、ワンバウンドのフォークボール……。

 だが、そのボールの影を芯太郎のバットが包み込む。


 芯太郎は精一杯の忠告を、誰にともなく叫んだ。


「避けて!」

「なっ!?」


 その打球は、吸い込まれる様にランナーと衝突した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ