表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
一年秋 ――前進の章――
20/129

18回:鳩の悲劇

 ある日の昼休み、芯太郎は舞子に呼び出された。


「何? マネージャー」

「あのね、通……朝比奈君と仲直りしてくれないかなって」

「はぁ……」


 もうこれが何人目で、何度目になるのかも分からない。

 別に朝比奈と芯太郎は仲違いなどしていない。席替えで遠くなったから、話さなくなっただけである。

 ただ、部活中にも喋っていないのは確かだが……。


「どいつもこいつも……」

「え?」

「それを俺に言ってもどうにもならないってば!」


 そう、芯太郎は何もしていない。ただスタメンで起用されて、納得のいかない朝比奈達が勝手にキツく当たるようになった。それだけなのだ。

 和解の方法があるとしたら、芯太郎が野球部を辞めるしかない。


「でも俺も辞められないんだ! そういう契約なんだよ!」

「契約?」

「ああもう、いいよ! そんなにどうにかしたいなら、自分で何とかしてくれ!」


 芯太郎は駆け足で教室へと帰って行く。英語の教科書の訳が終わっていないのに、無駄な時間を使ってしまった。


「おい」

「今度は何? ……なんだ朝比奈か」


 急いでいるのに、今度は朝比奈に呼び止められた。


「お前今、舞子と何話してた?」

「本人から聞きなよ。じゃあ」

「待て!」

「何! 急いでるのに」


 席が遠くなったためか、芯太郎も以前より言い返す様になった。朝比奈が言いがかりをつけて来れば、容赦なく反論する。


「何話してたか言えよ。気になる」

「何でもないってば」

「言えないようなことか?」


 芯太郎は深い溜め息をつきながら、観念して本当の事を話す。


「朝比奈と仲直りして欲しいって言われただけだよ。信じられないだろうけどこれだけさ」

「それなら俺に言えばいい。嘘をつくな」

「ああもう……」


 あの馬鹿女のせいでややこしい事になってしまった、と芯太郎は心底思う。芯太郎は「そういう事」は案外分かる。朝比奈が舞子に好意を持っている事ぐらいは。


「もういいでしょ、まだ英文訳してないんだ」

「待てコラ!」

「離してくれ! 俺は一般入学なんだから、大目に見て貰えないんだよ」


 腕を掴まれ、振りほどこうと全身を躍動させた結果、朝比奈はバランスを崩した。


「うおっ!?」

「あっ」


 踊場で揉めていた事が災いした。朝比奈は階段を転げ落ちてしまった。側にいた生徒が駆け寄って来る。


「大丈夫? 朝比奈君」

「うわ、血出てるよ血」


 芯太郎も朝比奈に駆け寄る。


「不味いよ斎村君。保健室へ運ぼう」

「分かってる。手伝ってくれる? あと、25組に行って片倉さんを呼んで来て欲しい」


 保健室で止血作業をしてもらうためである。芯太郎の行動が功を奏し、頭を打った朝比奈も大事には至らずに済んだ。


              ******


「酷いよ斎村君!どうして突き落としたりなんか!」

「不可抗力なんだってば」

「仲直りするどころか、怪我させて野球を辞めさせようとしたんじゃないの!?」

「はぁ……」


 舞子が耳元でがなり続ける。芯太郎は黙って聞き流すことにした。

 舞子が出て行った後、ベッドで横になっている朝比奈に話しかける芯太郎。


「ほらね。そんな事ないって」


 返事は無い。


「心配しなくても、マネージャーは君しか見てないよ。俺は禿だし、真柄は宇宙人だ」


 返事は無い。左右に体が揺れた気がした。


「俺は呪われているんだ。『そういう事』は絶対、起きないよ」


 芯太郎は意味深な事を喋りながら保健室を後にする。


「……」


 誰の気配も無くなった事を確認した朝比奈は、ムクリと起き上がり、ベッドの枕を思い切りカーテンに投げつけた。


「何やってんだ、俺」


 明らかに野球に集中できていない。既に試合で活躍している真柄や芯太郎が、舞子の眼にどう映っているのか、そればかり気になってしまって……。

 ついに芯太郎にまで迷惑をかけてしまった。


「……するか、告白」


 30分遅れで授業に合流した芯太郎は、駆けつけ一番で英文訳を当てられた。やっつけで苦戦を強いられた芯太郎は、半べそをかきながら訳す。


「えーと、そのボールが放たれた瞬間、グラウンドに美しい白い羽が舞い散った……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ