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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
三年夏・甲子園 ――崩壊の章――
117/129

115回:FollowThrough

「ストライク、バッターアウト!」


 望田征士郎は二打席目も見た。真柄も見に徹されたせいか制球が若干乱れ、見逃し三振を奪うまでに5球を要してしまう。ここまでの真柄は5失点ながら15奪三振。一見快投を続けているように見えるが、肘の痛みが徐々にリリースに影響を与えている。

 痛みを覚え込ませる事によってなんとか140キロを生み出すリリースは出来ている。だが、9回以上は持たない事は明白であった。


「この回だ……ここで追いつくぞ、里見!」


 マスコットバットを振る朝比奈にも気合いが入る。何しろここまで第一打席以外は全て敬遠でフラストレーションが溜まっている。今度は第二打者、つまり自分でチャンスメイクをする役目。何が起こっても敬遠はない。


「出ろよ! お前が出れば逆転、最低でも同点にしてやる!」


 ここまで二打席立ちながらも、一度も征士郎のボールをまともに見てはいない朝比奈。それでも、根拠はなくても何とかする! 何とかなる! と言う負けん気が彼の魅力であった。


――ただの馬鹿とも言うけどな。


 ただ、ここでの観客の注目は征士郎がタイ記録……真柄の無しえなかった10連続奪三振を達成するかどうかという点にあった。前回の芯太郎の打席から、アウトを三振で取り続けている。つまりこの回の里見、朝比奈、芯太郎を全て三振にとればタイ記録達成なのだ。


 ここまで征士郎は持ち球を全て使って三振を奪いにきている。カウント稼ぎのツーシームは別として、大きく曲がるカーブ、伝家の宝刀フォーク、そしてマグナスエフェクトを乗せたストレート。この三種は読みさえ外せば全部がウイニングショットとなり得る脅威。


 里見は狙いをストレートに絞る。だが愛洲のリードは、追い込まれるまでそのストレートを見せない。徹底して読みを外しにかかっていた。


――当てさえすれば、こっちは金属バットだ。広いミートポイントでヒットまで持っていける!


 カウント1-2から、遂に望田はど真ん中にストレートを放った。これに里見は待ってましたとばかりのフルスイング。

 だが、そのスイングを始めてから回転が死んでいる事に気づく。もうバットは止まらない。球速に騙された里見の負けであった。


「ストライクバッターアウ!」

「ふ、フォークだ! あのスピードで落ちるとかえげつねー!?」


 140キロ近くまでスピードの乗ったフォーク。誰だってストレートと見紛う。これで8者連続三振。10連続まであと二人と迫って、鼻息の荒い朝比奈との勝負を迎える。

 だが愛洲は三度立ち上がった。


「え、あれ!?」

「待てよ、奪三振記録は……?」

「おいおい、真柄といい記録無視するなよ」


 観客も戸惑いを隠せない。そうまでして征士郎は芯太郎にダメージを負わせたいのか。


「ちょっと待てちょっと待て」

「野球には一振りで一点入れる方法があるんでね。君がそれをやってのける確率の方が、後ろの打者が征士郎から連打する確率よりちょっと高い。そう僕達は判断したのさ」


 こうなると朝比奈もバットを置いて打席に入りたい心情にかられたが、高校野球でそれはできない。大人しく四球を見送ってありがたく出塁の権利を貰うしかないのだ。


「じゃあね朝比奈君」


 そして芯太郎と征士郎、三打席目の勝負である。前打席は芯太郎の待っているストレートで三振を奪った。この打席の料理の仕方も、三振と決めている。

 芯太郎も神主打法を止めず、バットを短く持ちすらしない。打つための工夫をして来ないと言う事に、観客も諦めを感じ取った。


「打つよ、芯太郎は」


 その中で真柄だけは、まだ芯太郎を諦めていない。


「さっきの打席、今までと違う事があった」

「何?」

「三振した事。フォロースルーまで、しっかり振っていた事さ」


 意味が分からない智仁ナインは、今までの芯太郎のバッティングを思い返す。


「あれ、もしかして……」

「芯太郎って、ほとんど三振した事ない?」


 真柄はスポーツ飲料水を慎重に口に含ませながら頷いている。


「今迄の当てるだけの打撃から、しっかり振り切った『呪い』の時のフォロースルーになってたんだよ」

「つまり」

「ミートさえすれば……」


 毎日寮の屋上で、二人で練習をしていた真柄には分かる。

 真柄はいつか本当のリリースを取り戻すため。そして芯太郎は本人は嫌がっていたが、いつか自分の力で打てるようになるために真柄がつき合わせていた。


「せやったな。バッティング練習や試合では使ったことないあのスイング、ようやく使い始めた」

「もともと当てる事は上手いんだ。この打席でコツを掴めれば面白い、だろ?」


 高坂が真柄に同意する。7回の山場、注目の打席が幕を開けようとしていた。

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