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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
三年夏・甲子園 ――崩壊の章――
101/129

99回: 自分の運を乗り越える

 決勝の朝。智仁高校スタメンの面々は、朝刊の試合結果に自分の名前を探す。

 が、それより先に飛び込んでくるのは一面記事である。


―――――――――――――――――

「高校野球史上初!? 左中間完全封鎖なるか」


「【望田征士郎】センバツ優勝投手 VS 左中間の悪魔 【斎村芯太郎】」


「これぞドラマ! 夏の甲子園決勝で幼馴染が火花を散らす」


「バンダナ王子の秘密に迫る! 伊勢神宮が生んだ天才達」

―――――――――――――――――


「すげーな、朝刊。一面は望田と芯太郎の事しか書いてねーじゃん」

「大麻が余計な事してカリーの日本晴を誘ったからな、一躍人気選手だ。良かったな芯太郎、今日も注目の的だぞ」

「それより何だよバンダナ王子って」


 皆に揶揄われる芯太郎だが、不思議と今日は負のオーラが少ない。どこかしら、顔もツヤツヤしている様に見える。


「……何かいい事あったのか、芯太郎?」

「え? 別に普通だよ」

「お前が普通なのは普通じゃない時だろ」


 平穏無事を望む彼にとって一面記事は不快なはず。それを補ってあまりある様な出来事があったのだろうか。


「ま、気持ちが昂ってるのは芯太郎だけじゃないけどな」

「おお、最後の晴れ舞台、派手に散ってやるぜ」

「散ってどうすんだよ伊集院」


 出発の時間が来た。集合した智仁のムードは良好だった。が、ただ一人見当たらない人物がいる。


「真柄は?」

「まさかまだ寝てんのか? あの不思議ちゃんは。舞子、呼んで来てくれ」


 舞子が呼びに行くと、真柄は本当に部屋で寝ていた。試合開始3時間前には起床してコンディションを高めるのが基本なのに、この男にその理屈は通用しないらしい。


「お前は5回までなんだから、爆睡なんてしなくても体力的に持つだろう。早く起きてコンディション整えときゃいいのに」

「ギリギリまで寝ときたかったんだもん」


 まるで『9回まで投げるつもりでもあるかの様な』のんびりさ加減に、里見の気が引き締まる。こいつは、絶対に5回までで降ろす! という決意が沸いた。

 その才能を誰よりも知っているからこそ。真柄の未来を、里見は守らなければならないのだ。


                  ******


「久しぶりだね、朝比奈君」

「望田、最後の相手がお前とはな」


 試合開始前。甲子園最後となる、朝比奈のジャンケン勝負が始まる。ここまでの戦績は1勝3敗。一久実業に勝った1勝のみ。

 ジャンケンで負けるという物は、その一日に陰を落とすもの。朝比奈はここで勝って、勢いをつけて第一打席に入りたかった。


「いくぞ! 最初はグー、ジャンケンポン!」


 望田の大きな手をちょん切った。人目を気にせず体を逸らせ、ガッツポーズで喜びを表現する朝比奈。


「そんなに嬉しかったの?」

「ああ、試合も俺達が貰うぜ」

「勝たせてあげたついでに、お願い何だけどさ。芯太郎に会わせてよ」


 浮かれた朝比奈はついついOKしてしまった。望田が智仁ナインの集まっている廊下に現れると、真っ直ぐに芯太郎の元へ。事情を知っている部員たちは、『これは一悶着あるぞ』と身構えた。が。


「征士郎!」

「シン、調子良さそうだな。今日はいい試合をしよう」

「うん、うん! いい試合にしよう!」 


 不気味な爽やかさを見せる芯太郎。キグルミじゃないかと思わせるその明るさが、逆に智仁ナインを心配させる。


「舞子、おかしくないか。望田の奴、芯太郎をあんなに嫌悪していたのにあれだ」

「あー、確かに。三重で会った時は呪い殺しそうな感じだったのにね」


 勝利の余韻から覚めた朝比奈は、今日の芯太郎はいつも通りの動きができないかもしれないと感じた。

 そして今更ながらメンバー表に眼を落とす。


「……なにぃ!?」


 自チームのメンバーシート(写し)と並べてみる。


―――――――――――――――――――――――――

先攻・敦也学園


1(中)沖田

2(左)宮本

3(三)義輝

4(遊)上泉

5(一)兵庫

6(二)大石

7(捕)愛洲

8(右)夢想

9(投)鐘巻


後攻・智仁高校


1(中)高坂

2(捕)里見

3(遊)朝比奈

4(左)斎村

5(一)伊集院

6(右)成田

7(二)佐々木

8(三)相馬

9(投)真柄

――――――――――――――――――――――――――――


「さすが、剣豪打線と呼ばれるだけあって格好いい苗字ばっかりだね」

「そんな事はどうでもいいんだよ。望田が先発じゃないぞ」

「あ、マジだ。そういや、準決でも先発だったな……」


 朝比奈が頬を緩ませる。棚から牡丹餅が降って来た! そう考えている顔だ。

 望田が相手なら一点勝負。だが別の先発なら話は別なのだ。ハイスコア勝負を挑める。


「これはチャンスだ。舞子、鐘巻の予選の防御率は?」

「9イニングスで4失点。ジャスト4.00だよ」

「悪い投手じゃないが、望田と比べれば格段に落ちる投手だ。恐らく3回までに望田は投入される。いいかお前ら、初回と二回が勝負だ」


 点の取り合いを挑もうとしている朝比奈。監督の壇ノ浦は黙って見ている。同意したと捉えていいのかどうかは微妙だが、ともかく朝比奈は演説を続ける。


「二回で五得点。俺達ならいけるはずだ。上位四人だけじゃない。相馬(二年)も、初スタメンだからって遠慮すんな。思い切り振っていけ」

「は、はい」

「望田が出てくる前に五点差をつけ、後は投手リレーで逃げ切る。奴らのオーダーを致命的な間違いだと教えてやれ!」

「おおっ!」

「よし、行くぞ!」


 頼もしい主将を先頭に、智仁ナインは今大会五度目のベンチ入り。ベンチに入るや否や、真柄は日陰に引っ込んでしまった。


「おー暑いー……いよいよ、かぁ……」


 壁に向かって話す真柄。肘の痛みが、顔に出て来ていた。

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