第97話:しゅっぺいしますのよ!
と言うわけで翌朝。
ポートラッシュの町の広場に看板を立てに行きます。
『義勇兵募集!
ベルファストを魔族から奪還する、やりがいのあるお仕事です!
戦闘行動は翠獅子騎士団及びアレクサンドラ・F・ポートラッシュが行うので未経験者も安心!
仕事内容:輜重の輸送及び調理
応募資格:未婚の成人女性にして身体強壮の者
募集期間:本日中
出兵:明朝より1週間程度を予定
また奪還作戦成功の暁にはささやかながら慰労会を企画しており、義勇兵の皆様にはその招待状をお送りさせて頂きます』
看板を見て男女問わず歓声が上がります。
「アレクサンドラ様!ついにベルファスト奪還ですか?」「お嬢が帰ってくるなりやる気だぞ!」「翠獅子騎士団が全員独身って本当ですか!」
わたくしは頷きます。
「マジですのよ!」
女の子達が急いで家に戻ります。友達にも声をかけたのか親に知らせに行ったのか。
ついてきたクリスが言います。
「この募集内容で士気が高まるのポートラッシュだけよね」
そうかしら?
「お嬢様!男達は、男手の募集はないんですか!」
看板を見た男性が声を上げます。その服装、衛兵ですわね。
んふふ、予定通りですのよ。
「それはそうですの。
あなたたちポートラッシュ領軍で軍務についてるじゃありませんか。義勇兵として引き抜く訳にはいきませんわ」
「そんな!ポートラッシュ住民の悲願、ベルファスト奪還に参加できないなんて!」
人が増えてきましたわ。
「仕方ないでしょう。お父様に願い出なさいまし。わたくし、あなたたちへの軍権を有していませんもの」
「くっ、辺境伯はどちらに?」
「お家にいますのよ」
話を聞いていた男性達がわたくしの家の方へと駆けていきます。
さて、遠目にこちらを見ている女性たちに話をしてからゆっくり戻りましょうかね。
そしてお昼時ですの。
「アリー、兵士達が山ほど陳情に来たんだが……これを狙ったな?」
食事の際、妙に憔悴したご様子のお父様がこちらに話し掛けてきますの。
わたくしはパンを食べる手を止めて答えます。
「予想はしてましたが狙ってはいませんの。寡兵だろうと、仮にわたくしと義兄様とクロだけでも……ベルファストに行くつもりでしたから」
お父様は深くため息をつく。
「なぜ今のタイミングでベルファストを攻略しようとする?学校卒業後でもいいだろうに」
「騎士レオナルドの魂は失われてはいない。誓約を破り取り戻す術があるとしたら?その一端があそこにあるとしたらどうですの?」
「……本当か」
わたくしは義兄様の精神に潜って知り得たことを語りました。
「……という訳で後で天空の神にぶちかましに行きますので、それに比べればベルファスト奪還など些事に過ぎませんの」
「あー……色々言いたいことはある。そりゃあもう山ほどあるが時間がない。
アリーがわたしに、ポートラッシュ領軍に期待する動きはなんだ?」
「絶対の条件として北部沿岸域の町を逆に攻め落とされては困るので、そこの守りは疎かにはしないで頂きたいですの」
「当然だな」
「その上で期待することとしては……ベルファストにむけて街道沿いに直進しますので、側面の安全確保。東は町がありますので西側ですかね。特に輜重に魔物が大量に寄ることは避けたいですの。
それと、攻め落とすのは自信がありますが、そこを確保し続けることは翠獅子騎士団ではできませんの。ベルファスト奪還後の町の機能の復活や確保し続けることに関してはお願いするつもりでした」
お父様はしばらく考えられます。
「攻め落とすまでに何日間を考えている?」
「最長で10日間ですわ」
「……アリーが言ったので無ければ、頭がおかしいと一蹴するところだな」
そうでしょうね!80km進軍して町を落とすのひっくるめて10日とかなかなか言わないですわよね。
「いや、無理だな。どうやっても輜重が用意できんだろう。……待てアリー、何かネタを隠してるな?」
にやりと笑います。
「お父様、昨日こちらについてから、わたくしの使い魔、クロを見かけましたか?」
「いや?」
「バリーキャッスルに残しているのです。海の安全を確保するために」
「なぜ海を考える?」
「お父様から届けられた竜鱗はサウスフォードで校長先生が予算を出してご購入いただきました。また、ライブラ王家からはとりあえず過去3年分のわたくしと騎士団の予算をいただきましたので、資金が潤沢にありますの」
「ふむ」
「騎士団員がスコットランドで大量の食料と荷馬車用の木材、テントなど購入してそれをピストン輸送していますわ。
よろしければお売りしますのよ?」
「まてアリー、それは君の騎士団分ではないのか?」
「せっかくなので多めに買ってますの。食糧で言えば三万食分くらいですわ」
お父様ががっくりと肩を落とし、後ろに控えるエドガーにこぼしました。
「助けてくれエドガー、娘が用意周到だ」
「良いことにございます」
…………………━━
わたしは波打ち際に身を置き、海に知覚を伸ばす。
一艘の船がヨモトゥヒラサクなる神の結界を超えてこちらに進んでいる。先日アレクサ達と乗っていた船だ。今は食べ物を積んでこちらへ向かっているとか。
『海流操作』
進行方向に海流をつくり、船の速度を上げる。
しかしなるほど、魔界か。わたしの知る海の生き物とは違う生命体が多数存在するものだ。
今、船に近付かんとする邪悪な気配の蛸だか烏賊だか良く分からない生き物に意識を伸ばし、そのあたりの海に働きかける。
『〈海牢〉……〈念動〉』
海を固めて持ち上げる。中で蛸だか烏賊だかが暴れるが、海を固定しているので抵抗はできぬ。
大物だし、見たらアレクサは楽しんでくれるだろうか。
そのまま港へと運ぶ。
「ちょっと!クロ殿!?」
周りにいる兵士達がざわめく。
昨日からこのような作業を繰り返しており、わたしが海洋の魔物を水揚げし、彼らに倒して貰うのである。
わたしは海の中に集中できるし、彼らは陸で戦えるので戦いやすい。良き分業と言えよう。
「あれはデカいです!しゃれにならない!」「クラーケンじゃないですか!やめて!」「近海の魔物のボスですよ!」
兵士達が騒がしい。なるほど確かに大きいが……。
『……[下位神格の召喚:テヅルモヅルの神]』
わたしの背後に巨大な赤い触手の塊が召喚される。
「魔物が召喚された!?」
『魔物とは神に向けて失敬な。わたしの部下だよ』
空中に浮いていた〈海牢〉を浜に落とす。地面が揺れる。
水揚げされた胴体だけで10mを超える巨大な蛸だか烏賊だか。白っぽいし、触手が10本だから烏賊だな。そこにテヅルモヅルの触手が絡んでいく。5本の触手が無数に枝分かれし、赤の触手が白の触手を覆っていく。
まあなんだ。軟体生物が触手の数で棘皮動物に勝とうとは思わぬ事だな。
『ほら、兵士達。今わたしたちがおさえているうちに、やつの目でもその槍で刺すが良い』




