第一話
本編 第一話になります
私たちが生きている世界は、決まったサイクルでできている。朝が来て、朝食を食べ、出勤し、働き、夜になれば帰宅し、夕食を食べて、シャワー浴びて寝る というサイクル。そして、私もまた、そのような生き方をしている一人。
「もう、朝かよ。時間が過ぎるのが、早いな」
(たしか昨日は職場の同僚と飲んでいたから遅くに帰宅して、そのまま寝てしまったんだ)
もう少し寝たいが、二度寝したら遅刻してしまう。シャワーを浴びて、身支度を済ませ、すぐに家を出る。えっ、朝食は食べないの と疑問に思ってしまうが、私は電車で通勤している上にギリギリまで寝ている関係で朝食を食べる時間はない。だからと言って、食べないわけではない。移動途中カフェで、今日一日のスケジュールを確認しながら朝食を済ませる。
おしゃれな生活をしているが、私は両親から厳しく育てられた。箸の持ち方から、挨拶の仕方、歩き方など細かいところまで叩き込まれた。勿論のこと成績にも厳しく、一点の減点でも気にするものだから、学生の頃は窮屈な思いをしてきた。それから、良い企業に就職し、一人暮らしを始め、実家にはお盆と正月くらいしか帰らないし、連絡も必要最低限しかしない。過去には生きているか疑われたこともあった。
今の生活は厳しい家庭で育った私にとって憧れの生活でもある。朝の満員電車に耐えながら、出社することには馴れている。朝の職場は年下の人が早く出社する。積極性といい、頑張るのは程々が良いが、みんな疲弊している。無理をしては元も子もない。上の人には現場を見てほしい。それをいつも、あの人に対して思う。そして、その人が来た。
「篠原君、例の件は進んでいるかな」
現在、とあるプロジェクトのリーダーを務めているが、これが思うように進んでいない。上司と部下の両方を相手しないといけないから大変だ。上司は、このプロジェクトを成功させたいと熱心だが、あれこれ口を挟むから、当初の内容が二転三転する。いや、臨機応変に対応するのは良いことだよ。でもね、あれこれ変わるのは迷惑なことだから、止めてほしいものだし、あなたがリーダーをした方が良いよ と いつも思う。メンバーはたくさんいるから、一人あたりの負担は少ない。でも、積極体な人もいれば、消極的な人もいる。前者には いつも感謝しているが、後者には苦労している。場合によっては怒らないといけないからだ。怒れば、私が疲れるし、かといって怒らなければ、私が上司に怒られる。
(本当に辛い)
「順調に進んでいますが、計画を再検討する必要があると思います。このままですと、既存との競争で負けてしまう恐れが高いと考えられ、もう少し市場調査を行う必要だと考えております」
「その方法を採ると、スケジュールがずれてしまうよね。さすがにそれは嫌だね」
(私だって嫌だよ)
「確かに当初のスケジュールには遅れが生じます。しかし、このプロジェクトを成功させたい気持ちは私やメンバーにもあります。このために費やした予算や時間を無駄にしないためにも、再検討する必要があると私は考えております」
「とりあえず、予定通りに進めること!頼むよ!」
そう言い残して、上司は去っていった。いつも、こんな感じに苦労している。小さいことまでとは言わないが一つ一つ慎重に進めないと、痛い思いをするぞ と毎度思う。
(だから、周りから不満を持たれるんだよ)
その後、午後の打ち合わせに備えて、資料に目を通し、打ち合わせに臨んだ。チーム内での進捗度の確認と計画の再検討について話し合った。そして、本題である販売戦略や計画まで どうすべきか話し合ったが、私も含め、みんな頭を抱えた。
それからは来週の業務に備えて、二時間ほど残業し、資料作成とスケジュールの確認をして退社した。そして、適当に腹ごしらえをして、一番の楽しみである、いつも行くバーに行く。そこは、隠れ家みたく、ひっそりした店で、いつも来ているのは女性の常連だけで、男性や新規の人は たまにしか見ない。木製の扉を引くと、そこはお洒落な店内が見える。すでに席はほとんど埋まっていた。先客は店員と話ながら、飲んでいる。
「いらっしゃい。美幸、また来たね」
「香澄さん、こんばんわ。今日も、たくさん人がいるね」
「いつも、賑やかで嬉しいわ。飲み物は何にする?」
「いつもの でお願いします」
「ベリーニね」
香澄さんは、すぐにドリンクを作り、私の前に出した。
「はい、どうぞ。あなたは、いつも そればかり飲むわね。」
(これには思い入れがある)
「貴方があの子に初めて注文したものが、これだったわね。そういえば、あの子は今 お使いに行っているわ。たぶん、そろそろ戻ってくるはずだわ」
香澄さんが、あの子の話をしていると、扉が開いた
「ただいま戻りました」
その子は、小さな声で店に入り、テーブルに袋を置いた。私の存在に気づき、軽くお辞儀をした。
「あっ、美幸さん。来てくれたんですね。ありがとうございます」
「お疲れ様、里恵」
私と話している子が『里恵』だ。香澄さんの姪で、バーに働いている。そう、私はこの子が好きなのだ
「ええっ。あっ、それは」
里恵は私が飲んでいた飲み物に気づいた。里恵も私が里恵に初めて頼んだ飲み物がベリーニであることを。
「うん、じゃあ次は里恵の作ったベリーニを頂こうかしら」
「美幸さんのために腕によりをかけます♪」
そして、里恵は着替えるために店の奥に行った
「それにしては香澄さん、頼みすぎじゃない。あんな可愛い子に、たくさん頼むなんて、香澄さんは酷いな」
常連客の一人が香澄さんに言った
「あらっ、酷いと言われるなんて心外だわ。そんなことを言う客には料金百倍の刑だわ」
「それは勘弁してください」
常連客は香澄さんに謝った
「ふふっ、冗談よ。」
そういって、香澄さんは他の女性客と話し始めたと同時に里恵が着替えから戻ってきた
「お待たせしました、美幸さん」
戻ってきた里恵はすぐにベリーニを作り、空になったグラスと入れ替えて新たに作ったベリーニの入ったグラスを置いた
「・・・」
「・・・」
二人っきりなものだから、何を話したらいいか分からない。沈黙を破ったのは理恵だった
(どう話を切り出したらいいか)
「美幸さんと出会ってから、半年も経ちましたね」
話を切り出したのは、里恵だった
「もう、半年も経ったのね。初めて あなたに会った時は、今でも覚えているわ。香澄さんの側にいて、何も話さないでいたわね」
「あの頃の私は働き初めて間もなく、人と接する事が怖いと思ってた時期でした。」
「初めて話しかけた時は無愛想な反応だったものだから、ムカついたけど、貴方の顔を見ると妙に放っておけなかったわ。寂しそうだったから、店に来ては声を掛けてたわね」
「はい、今は あの頃と違います。美幸さん や このお店に来てくれるみなさんは、私に優しく話しかけてくれました。そして、香澄さんも 私に優しく接してくれます。最近は自分はこんなにも幸せだなと思うようになりました。美幸さん、香澄さん、そしてこのお店に来てくれるみなさん ありがとうございました」
理恵は嬉しそうに涙目で、お店にいる人へ感謝の言葉を言った
「どういたしまして」
「理恵ちゃんのためなら、風の中、嵐の中、雪の中、いつでも来てあげるわ♪」
「あなた、なに言ってるのよ」
店内はより一層盛り上がった。私も理恵と同じように、理恵や香澄さん、そして店に来る人達のおかげで元気にいられる。
「そうだ。確か、理恵。貴方、来週の金曜日は理恵の誕生日だったね。」
「はい、香澄さんのおっしゃる通り。来週の金曜日は私の誕生日ですが」
「そうだ、このお店で誕生日パーティーでもやりませんか」
常連の一人が誕生日パーティーを提案した
「いいね」
「よっしゃー。理恵ちゃんのためにとっておきのプレゼントを持ってくるわ」
「来週のスケジュールは。ええっ、書類の提出期限じゃん。こうなったら、明日から豪速球で仕上げるわ♪」
店内にいる全員がやる気満々でいる
「じゃあ、決まりだね。来週の金曜日は理恵の誕生日パーティーね。開始は二〇時から。遅れた人は今後一切 店には出禁ね。」
「香澄さん、酷い。理恵ちゃんに会えないなんて、これから どう生きたらいいの」
香澄さんもやる気満々でいる。私も負けられない
「良かったね、理恵」
「はい、美幸さん」
そんなこんなで楽しい時間も あっという間に過ぎ、閉店の時間になった
「じゃあね、理恵。来週の金曜日には理恵の喜びそうな、プレゼント持ってくるわ」
「はい、今日も来ていただき、ありがとうございます。楽しみにしてます」
理恵へ手を振り、店内を出た。スマホを見ると時間は午前1時だった。時間というものは厳しいものだ。楽しい時間を味わった人を無理矢理 現実へと連れ戻すから。
(それにしては、私にとって来週の金曜日は大切な日だが、酔っているせいか、思い出せない)
「さて、明日も仕事あるし、早く帰って寝よう。」
まだ夏の暑さがある夜道を歩き、自宅に帰った
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