20 話のネタ
約四年振りに再会した純菜と蒼正は、順番に涙する再会となったが、泣き止んでからはこれまでのお互いの話に明け暮れる。それは一日では終わらずに、悲惨なイジメや境遇なんかも毎日のように夢の中で話をしていた。
そんなある日、純菜の家に来客があった。この日は晴美が家に居たから対応に出ると、困惑した顔で純菜の部屋をノックした。
「どうしたの?」
「刑事さんが純菜に会いに来てるんだけど……」
「刑事さん? なんで私なんかに??」
「ちょっと顔を見て話をしたいとか言ってたけど、純菜は何も悪い事して無いよね?」
「うん……なんだろ?」
晴美も純菜の顔を見る限り警察の厄介になるような事はしていないと確信しているし、純菜も何も疚しい事をしていないので玄関に向かう。
ただ、外で話すとご近所さんに何を言われるか分から無いからと、双方納得して若手刑事の山下と、ベテラン刑事の石坂を玄関まで招き入れて話をする。
「十一日の深夜零時から一時頃なんですが、純菜さんは家におられましたか?」
「はい……」
「何をしていました?」
「寝てましたけど……」
「そうですよね。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
山下達は簡単な質問だけで納得して帰ろうとするので晴美が呼び止めた。
「あの、それだけですか? せめて何があったかだけでも教えてくれません??」
「大した事ではありませんので……まぁ警察という立場上、形式的に関係者全員に同じ質問をしているだけですのでお気になさらず。純菜さんにもこれ以上お話を聞く事はありませんので、お母さんも心配しなくて大丈夫ですよ」
「「はあ……」」
刑事二人は笑顔で会釈して帰って行くので、なんだか煙に巻かれたような気持ちの堀口親子であった。
刑事二人はエレベーターに乗った所で、山下が複雑な顔で口を開く。
「こんな捜査必要なんですかね?」
「さっき自分でも言っただろ。形式的な物だ。被害者の親戚が市議会議員じゃ無かったら、動く訳無いだろ」
「うわ……クレーマー対策ですか……」
「これも仕事だ。後はその辺の映像だけ回収したら、次行くぞ」
「はぁ~。なんの為の警察なんですかね~」
やる気の起き無い事件に石坂は肩を竦め、山下は納得いか無いとダラダラ付いて行くのであった。
その日の夜。夢の中で集合した蒼正と純菜は、ファミレスを創造して若者らしく喋っていた。
「へ~。そんな事あったんだ~」
「なんか喜んでない? すっごくドキドキしたんだからね」
その内容は、純菜の下へやって来た刑事のこと。そんなレアな体験をしたのかと、蒼正は少し羨ましくなっている。
「まぁまぁ。でも、ホントになんの事件だろうね」
「高校生の私に聞きに来たって事は、学校で何かあったのかな~?」
「かも知れ無いね。イジメの告発があったとか?」
「被害者に聞きに来たってこと? それだと就寝時間の確認だけで終わら無いと思うな~」
「だよね。もっと情報があればな~」
情報が少な過ぎるのでは、予想しか出来無い。この話はすぐにネタが尽きたけど、蒼正は心配な事がある。
「家に警察が来ただなんてバレたら恰好のネタになっちゃいそうだけど、大丈夫?」
「あ……そうよね。また色々言われそう……もう~。なんでうちに来るのよ~」
「他の生徒の所にも行ってる事を祈ってるよ」
せっかく楽しく喋っていたのに怖い事を思い出した二人は、この後はお互いがやってるイジメ対策を出し合って時間が過ぎて行くのであった。
翌日の純菜は学校に行きたく無くなっていたが、警察の件が気になるから頑張って登校した。そうして聞き耳を立てていたら、クラスメイトが警察の話をしていたので体が強張る。
ただ、何人も事情聴取を受けているのか、警察が来たと言った生徒が犯人扱いされて楽しそうに喋っていたから、純菜にまで飛び火しなかった。
夜になると、純菜はまた夢の中のファミレスで蒼正と会っていた。
「それは良かったね」
「うん。ドキドキしたけどね」
「でも、結局はみんな同じような質問されただけで、情報持って無かったのか~」
「本当に大した事件じゃ無いのかも? ちなみに私の予想ではね~……」
「なになに?」
「イジメグループのリーダーを最近見て無いの。その子が何かやったのかもね」
「それは朗報だね。警察に捕まってるなら、尚良しだ」
イジメっ子なら、不幸になっていようがお構い無し。なんだったら極刑になって帰って来るなとか、笑いながら喋ってしまう。
そんな感じで愚痴に花を咲かせていた二人だが、どちらも心が荒んでいるなと、ちょっとは反省していた。
「そういえば最近、喋ってばっかで何もやって無かったな~」
少し間が空くと、蒼正は背を伸ばしながら腕を頭の後ろで組んだ。
「そういえばそうね。喋ってるだけで楽しいし。吉見君は男子だからそうでも無いか」
「僕も楽しいよ。ま、そろそろ話のネタが無くなりそうだけどね」
「確かに……警察が来て無かったら、話す事無かったかも?」
「たまにはなんかしよっか? あ、スポ〇チャだっけ? 行った事が無いから行ってみたいかも??」
「それって……」
蒼正のアイデアに、純菜の顔は少し赤くなった。
「ん?」
「デートのお誘い??」
「……あっ!? 違う違う! みんな楽しそうにしてるから!!」
「そんなに必死に否定しなくてもいいのに……」
残念な蒼正。イジメられっ子で女子なんかと遊んだ事も無いので、純菜の機嫌を害する発言しか出来無いのであった。




